Башня(神の塔)

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月05日〜03月15日

リプレイ公開日:2007年03月13日

●オープニング

●書物
 
 滅びた祭壇 神の塔 
 地に砂塵、上に蟷螂、地獄の底
 霧の中で踊りながら死人は太刀持ちそれを待つ
 道は上下二つ 選ぶ選ばぬその先に
 悪魔封じる神器が待つ

 その女は手にした資料を読みつつ思った。
 悪魔の次は神ね、いわゆる対比で比喩のオンパレードってやつだな。 
 この記述からするとどこかに塔があって、例の遺跡に関係したアイテムでもあるんだろう。当然何かが守ってるのがお約束ってやつだろうけど。しかし地下迷宮の次は塔とは、ご都合主義満載の浪漫クエストだな、ま、ここは早速お願いお父様で探索隊結成、うん、うん。
 リュミエールという名のその女学者は資料を閉じると、追加費用をねだるためにパトロンの下へ向かうのだった。


●とある村

 リュミエールは、早々にある開拓村に来ているようだ。ギルドへの依頼はすでにすましたらしく、後は受けた冒険者が居よう居まいが、ここで当分遺跡調査をするつもりらしい。
 彼女は以前調査に訪れた関係で縁があるということで居座っている村長の家で、客人とは思えない大きな態度のまま、資料調査をしている。  
 そんな彼女の元にちっちゃな女の子が用で訪れたようだ。
「こんにちはーデス」
「ん、ちびっ子Aか。おやつはないぞ、さっさと帰れ」
「おやつ・・・・ないんデスか」
「無い。それよりも頼んでおいた物は」
「ぶー、はいどうぞ」
 ふくれつつも何かを置いて、その女の子は帰っていった。
「ふむふむ、ここよりもさらに奥なのか、熊はまだ冬眠してるだろうし、大丈夫だろう」
 そのマップらしきもの目を引くのは変な印。印は多分例の塔の位置だと推測される。
「どっちにしろ行くのは俺じゃないしな。頑張れ冒険者!」
 彼女は他人事のように言うと、黙々と資料に集中し始めるのだった。
 

 塔の調査
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●目的

 本の記述にあった塔の探索を行います、塔自体は三階建て程度のようです。
 ただし現地に行かないと事実・詳細はわかりません。 
 冒険は、とある村に到着したところから始まることになります。

●場所

 とある村までは、徒歩で一日半程度、そこからさらに2日程度の進んだ周辺にその塔はあるようです。
 塔の内部は、資料によると上と地下へ二つの階段が存在しているもよう。
 回廊やフロア自体は、それほど広くはないようなので、人数によっては分割して探索したほうが
 良いかもしれません。

●用意したほうが良いもの

 塔の探索ですので、それに応じたものを用意しましょう。
 村から塔までは何もない雪原やら荒野です。テント・食料・灯りは補充できないため必携かも。
 塔の場所が確定していないので、道に迷うと軽装では命の危険があります。
 出発する前にちゃんと準備はしましょうね。

●関連事項

 悪魔の門関連ですが、独立しているので特に知らなくても問題ないです。
 ただ、知っていたほうが背景が分かるので面白いとは思います。
 
 
●その他

 塔内部はそれほど複雑なつくりでは無いようですので、迷うことはないと思います。
 そういえば、少し前に村を訪れた旅人が一人いたようです、今はもう村にいないようですが・・・・。
 
 ※登場人物

 ■リュミエール・テッセン

 眼帯とポニーテールがトレードマークの女学者さん。
 研究以外のことは全てガサツにこなす、ずれたレデーです。
 彼女は、とある村に居残りのようです。言語分野については最強さんなので、分からない壁画や文字などを記述して帰ってくると分析してくれます。
 
 ■少年冒険隊

 とある村に住むポップでキュートな仲間たち。興味がある方は少年&♪がつく報告書を見てみると
 だいたい様子は把握できます。ただし、今回は日程上、顔見せの挨拶程度となります。
 リュミエールに聞きたいことがある時は、アレクに聞いてください、答えてくれるかは別として
 聞きに行ってくれると思います、多分。

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●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●サポート参加者

巴堂 円陣(ea8043)/ オリガ・アルトゥール(eb5706)/ クロエ・アズナヴール(eb9405

●リプレイ本文

●出発前
 
 それは春が来る前、冬将軍の精一杯の抵抗を感じさせる湿った雪が降る日だった。
 冒険者たちの到着を聞いたリュミエール・テッセンは、陽気を通り越して稚気に近い明るさで彼らを迎えた。この村の近郊にある遺跡「悪魔の門」について調査をしている彼女にとって今回の塔調査は、自分なりの仮説の理由付けと検証のために行うといっても過言ではない。
 現在、彼女の興味対象である悪魔の門を含む遺跡群は、キエフより西へ進んだある地方を中心に点在している。その地方については、そのうちに詳しく語ることもあるかもしれないが、今は村についた冒険者たちの足跡をたどってみよう。

 ジュラ・オ・コネル(eb5763)は、まるごとまんげつを着こなしている。日常生活もその姿で暮らしているのか、不安というより疑問である。今回、何を思ったかジュラはリュミエールよろしく眼帯をつけている。キエフのファッションリーダーを自認? する彼女にとって、春に向けた新ファッションなのかもしれない。
「お、その眼帯いいね、うん、いいよ」
 眼帯仲間ができたので妙に嬉しそうなリュミエールに、ジュラはいくつか質問をした
「そうだな、遺跡が封印だとするのなら。解いたやつがいてもいいよな」
 リュミエールが頷いたそこへ、ジュラが真剣な顔で聞いた質問は
「胸はどうやったら大きくなる?」
 まともな質問のあとに、いきなりその不意打ちを喰らった彼女は
「た、平ら? 問題ないでしょ・・・・ちっちゃくても」
 呆れるリュミエール、とりあえず助けを求めて周りの仲間を見るが、なぜかみんな視線をそらす。彼女は丸い変な物体を目の前にして、溜息をつくのだった。
 なお、ジルという少年のノートにはこう記されている。
「板、ニーナと同等」
 誰のことかは知らない。
 その様子をなんとなく落ち着かない気持ちで眺めているのは皇茗花(eb5604)。まるごとに憧れる乙女? 密かに、販売されているエチゴヤ陰謀袋を入手してはみるが、中身にお目当てのものが入っていないので、落胆していた。
 よって、ちょっと羨ましい気分で、まんまる女を見ているようだが、普通の人生を送りたいのならば、冒険中はアレを着て歩くのやめたほうが良い。何でも超えてはいけない一線というものがある。
「そうだよ茗花さん。まるごとを着て冒険したいなんて簡単に思っちゃだめだよ」
 誰の気持ちを代弁したのかは知らないが、イルコフスキー・ネフコス(eb8684)は茗花に向かってそう諭した。
「そ、そうだろうか」
 というよりも、悩むことなのだろうか? 
 そんなやりとりの中、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)ことシシルはただいま自分の中でフィーバーしているカップル。エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)&ロイ・ファクト(eb5887)の間にぎくしゃくした雰囲気を感じとっていた。
 色々あって、そうなったようだが、何はともあれロイの鈍感さを改善する必要がある。
 そう、シシルは分析している。しかしそこにシャリオラ・ハイアット(eb5076)という嫉妬の女神の画策、それがあることも忘れてはいけない。
 件の二人、ロイとエリヴィラは、珍しく黙々と背を向け無言で作業をしている。触れにくい微妙な空気が漂う中でも、シャリオラは嬉しそうに見える。彼女は恋愛にトラウマでもあるのだろうか、少し疑ってしまう。
 その寸劇を、アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)はいつものように冷静な眼差しで見ている、ついでにキルト・マーガッヅ(eb1118)もなんとなくぼんやり見ている。内心どこで口を挟もう、そう二人とも思ってはいたようだが、アーデルハイトは自分の立ち位置を肌で理解、キルトはマーガッヅ家の行く末について考え事をしていた結果、機を逃した。
 さて、塔へ行く前にラブコメを見たいと一瞬思った。けれど、冒険の本質は探索である。ここで時間をたくさん取っていると真夜中になってしまう。
 それを理解しているレイブン・シュルト(eb5584)は、一人出発の準備を始めるのであった。

 最後に村で得た情報をまとめておこう。

 ○村人の証言 

「塔、なにそれ? だいたいここらは辺境で奥は暗黒の森ってやつだぜ、もっと奥にいくなんて一般人には無理だよ、たまに蛮族もいるしさ」

「旅人? あの優しいそうなおっさん、つうかじーさんのことか? どうみてもあれは僧侶じゃないの。布教でもなきゃ、どこに行くんだろな」

「最近、黒い僧侶見ないですね。やってることは変態だけど憎めない人でした。惜しい人を亡くしましたね・・・・え、まだ生きてるんですか? しぶとい」

 ○眼帯の証言

「そ、それはー!!!!! くれ、くれ」
「は、はい差し上げますから、今回の仕事も頑張ってくださいね」

 エリヴィラのかすていらは奪われた、そして代わりに何かの粉をもらった。リュミエールの好意度とエリヴィラの名声が上がった。

●塔
 
 地図を頼りに塔を探す面々。
 その途中、キルトが明後日の方向に塔が見えると言い出して迷子になりそうになる。ロイとエリヴィラに気を利かせたシシルの配慮をシャリオラがぶち壊す。イルコフスキーが雪に埋もれそうになり、レイブンと茗花で助け出す。それを手伝おうとしたジュラは、雪の中を転がって行くなど色々なアクシデントがあった。
 それらを乗り越え、彼らはどうやら目的地に着いたようだ。
「あれね」
 独白する、アーデルハイトの視線の先にあったのは。
 ところどころひび割れた壁がむき出しになった、土くれのような塔。
 かくして塔にたどり着いた。ひとまず扉も何も穴のような入り口から内部に侵入した彼らは、付近の天露が防げる場所にペットを待機させる。
 塔の内部は、標準的ジャイアント二人半程度の高さであり、高いといえば高いそれが三階層ほどあるように調べたキルトの目には見えた。窓というよりも、風穴のようなものがあるだけで、ここに人が住んでいた形跡は感じられない。周囲と内部の調査を終えたキルトが報告し探索が始まった。

●上

 【ロイ、ジュラ、キルト、イルコフスキー、シャリオラ】
  
 上階段を登ったメンバー、ちょっと癖があるのが揃った気もする

「かくして、闇のカップルブレーカー・クリエイトアン・・・・ハッピーによって離れ離れの二人。鈍感な彼の態度にちょっと寂しい彼女、運命やいかに」
 ジュラの独白は周りにバレバレである。その言葉にロイは一瞬何かを訴えるかのような視線を向けたが
「偶然って恐ろしいですね。恐ろしい」
 シャリオラの力強い言葉を聞いて、諦めたようだ。
「あんまり、そういうことばかり言ってると神様に嫌われるかもしれないよ」
 イルイルは白クレリックらしく真面目だ。たまには少し壊れても良い気も・・・・しかしイメージというものがあるのだろう。
「塔の内部、ジュラの言葉に反応するロイ、シャリオラは憎らしい表情で言い放つ。イルコフスキーは諭すが」
 そこまで精密記録しなくても良い気がする。キルトは記録という言葉に独自の理解をもったのだろう。
 ここで、この言葉を思い出してもらおう。
 
『上に蟷螂、地獄の底
 霧の中で踊りながら死人は太刀持ちそれを待つ 』

 そして目前には動く何か。
 そこに待っていたのかは・・・・。

●下

 【シシル、レイブン、茗花、アーデルハイト、エリヴィラ】

 上とは対照的に、比較的普通の人たちが集まった下担当。

 シシルは持参したスクロール群を何度も探ってみたのだが
(ない、ない、ない、なーい。ワードはワードでもグリーンワードはあるのに、エアーはなーい)
 どうやら、どじっ子シシルたんのようだ。
 エリヴィラは内心、色々な心配をしているようだが、きっとロイは踏み台にされる程度なのであまり心配することはないだろう。
「黴くさいですね」
 灯りに照らし出された地下への階段を進む面々、シシルの言葉に皆頷く。
「けれどなぜ、霧の中、太刀で踊るのだろう」
 茗花がそれらしい疑問について触れるが
「そうね、踊りたいからじゃない」
 アーデルハイトは反論のしようがないことを言う。
「踊る悪魔なんて、いたら面白そうだね」
 ちょっと楽しそうなエリヴィラ、いったいどんな悪魔を想像したのだろうか。
「まあ、ここで考えていてもな、会えば分かるさ」
 レイヴンの言う事も、もっともである。
 地下を進む彼ら、肌寒いような悪寒のような気配を感じるのだった。

●箱

 落ちてきた刃、その罠を回避したジュラの先にいたそれは抜いた剣よりも早く霧の息を吹いた。視界を閉ざされた上階の戦士たちに、襲いかかるのは死した太刀もつ者。
 敵味方を判別することもできず、ロイは抜いた剣を持ったまま周囲を探る。
 この状況で頼れるのは、己の研ぎ澄まされた感覚。
(来る)
 ロイは気配を感じ、相手の勢いを利用すると、すかさず剣を振るいカウンターを狙った 何も見えない状況に、結界を張ったイルコフスキーは、キルト、シャリオラと共に息の主である下級デビルを退治することに決めた。邪悪を払うのが自らの務め、放つ光。
 神の名をもつ塔に神の裁きと風の音が轟く、霧の中で魔法と剣の音だけが響いていた。

 地階に現れたのは、骨の戦士の群れだ。
 水の術士であるシシルの手から凍てつく嵐が巻き起こる、その洗礼の後に剣を握ったエリヴィラ、アーデルハイト、レイヴンが突撃する。
 茗花は、シシルを守るように結界を張ると前衛に向かったグッドラックの援助を与えた。
 女は、体を傾け両手に力を込める。数は多いがきっと大丈夫。エリヴィラはそう思うと握った剣を向け強力な一撃を繰り出す。
 この程度の敵ならば、アーデルハイトにとって避けるのはも造作もないこと、回避しつつ切りつける彼女、そこへさらにレイヴンの一撃、しばらくすると地の釜に動くものはいなくなった。


 上階の戦闘は長引いたがそれほどの被害もなく終了した。霧が引き、人心地ついた彼らの後にその男は立っていた。
「これも神の思し召しというものでしょうか?」
 人の良さそうな男、年の頃は初老ほどだろうか、生やした長い髭も白い。その声に振り返ったジュラは思わず話しかけていた
「もしかして? 村の旅人さん。晴れていて良かったですよね」
「そうですね。吹雪だったらどうしようか悩んでいました」
 この二人ほど緊張感というのが似合わない人たちも珍しい、色々な意味で・・・・。
 イルコフスキーは、手持ちの悪魔学概論で今倒した下級悪魔クルードについて調べていたのだが、その男を見て直感で自分と同じ白の宗派に属す者だと感じていた。
「もしかして、おいらと同じセーラ様を」
「おや、ちいさなお方。あなたも白の僧侶ですね。こんなところで同胞にお会いできるとは神の導きでしょう」
 そういうと男は、笑顔を浮かべた。

 その頃、地階のメンバーはあるアイテムを発見していた。
「これは?」 
 レイヴンの指し示したのは、捧げられた箱のような物である。
「箱ね」
「アーデルハイトさん、それはあたしでも分かるよ」
 アーデルハイトの答えにエリヴィラは苦笑した。
「これは多分、邪悪なものを封じる箱じゃないでしょうか?」
 シシルの指摘するとおり、この箱からは何かしら聖なる感覚を覚える。神々しさというものだろうか、 
「で、どうする。それほど大きな箱でもないし持って帰ることはできるが」
 茗花の言葉を聞いてシシルは少し考えていたが
「持っていこうよ、箱を開けるのは私たちではなくて、依頼主さんの仕事だし」
「エ、エリたん!」
 シシルが止める間もなく、エリヴィラは悪戯っ子のような微笑みのままに、箱に手をかけるのだった。

●帰還

 男はメティオスと名乗った。
「目的は皆さんと同じく調査ですよ。依頼主は違いますが」
 一人でこんなところまで来るとは危険だ、それに対して彼は言った
「いえ、私は斥候のようなものですよ。後は待ち合わせという奴です。皆さんは目的を果たしたようですね、良かった。私はとりあえず仲間を待つことにしましょう」
 そう言うと安全になった部屋にテントを張りだした。
 彼の見送りを受けたパーティーは入口付近で一度合流する。シシルが持ち帰った箱を見たイルコフスキーは、
「これ聖遺物箱じゃないかな? おいら教会で似たようなのを見たことがあるよ」
「というか持って来たんですか、短慮というか。まあ、動かしたものは仕方ないとして聖遺物箱ですか、デビル除けにはこれほど的確なものも無いですし、持ち歩いても危険もないかもしれませんね」
 シャリオラの言うように、聖遺物箱は並のデビルでは開けるどころか触れることでさえ苦痛に感じるものだ。
「箱ですわね。中身は何のなのか気になりますわ」
 キルトが思わず開けようとしたところ
「だめ、何が入ってるかわかんないんだよ。呪われたら大変だし」
「そうだ、エリヴィラの言うとおりかもしれない」
 ロイとエリヴィラの意見があった。なんだか嬉しそうな二人、色々あっても仲が良いことは周りの空気を和ませる。皆ほんわかと初々しい二人を見ている、約一名を除いて。
 ロイのそっけない態度に一生懸命話しかけるエリヴィラ、ふとシシルは首に巻いたストールに手をやり、ちょっとドジだけど明るい彼をシシルは思い出した。
「待ってくださーい」
 遠ざかる二人を追って、シシルも駆け出して行く。
 その後ろに吹きざらし塔が何も言わず立っている。一人遅れて外に出たキルトは風を感じながら、じっと塔を見つめていた。いずれ、この塔も崩れて誰の記憶にも残らず消えていくのかもしれない。放浪を繰り返す自分の居場所も今も変わりなく残っているのだろう。彼女は、なぜか寂しい気分になった。
「寒くなるぞ、行こう」
「ですわね」
 遅れた彼女を迎えに来たレイヴンに答えると、キルトは歩みだすのだった。

●追伸

 例の箱は無事リュミエールの下に届いたようだ。彼女がその中身を調べたかどうかは今のところ、定かではない。
 ただ、冒険者が持ち帰った資料を見つつ
「ちぇ、俺の仮説はこれだけじゃ証明できないぜ、だいたい一番大事な箱が開かないじゃん。鍵か、鍵が欲しいのか、それとも俺が邪悪なのか? もう壊しちゃうぞー」
 そうこぼしていたのを、訪れた赤毛の少年が聞いたそうである。



 了