●リプレイ本文
●個々の情景
村集ったものたちの姿。ひとまずそれを見ていくことにしよう。
●キール・マーガッヅ(eb5663)&サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)
後悔をするくらいなら前に進む。過去は俺にとって過ぎ去ったものでしかない。
キールは、今まで村で起きた事件の中で特に気に掛かっていた出来事などを調べているようだ。
「ネズミね、あの騒動か? あいつらはいつもあんな感じだし、変わったことは特にないと思うが」
村人はキールの問いに、考え込んでいたが。
「ああ、そうそう。あの時期、村に領主の使者が来てたぜ。領主は変わり者だから、もしかして興味をもったかもしれない」
「領主、どんな奴だ」
「さあ、顔を出さないからね。あまり良い噂は聞かない。キエフに入り浸りで領地も放置してるしな」
「詳しく」
「まあ、あんたたちには奴等が世話になってるしな。少しくらいならいいだろう。これは噂でしかないけれど、領主の本領にある館にいる使用人は一年に一度全員変わるらしい」
「それのどこがおかしい?」
特に不審な点は無いような気もする。村人の言葉にキールは聞き返した
「確かに変わるだけならね。噂だから本当なのかは分からんよ、前任の使用人の消息は全て不明だ。これなら分かるだろう」
「・・・・公にならないのか」
「無理だろうな、消えるのは奴隷らしい。あえて突っ込んで自分も同じ道をたどりたい奴は少ないだろう」
「そうか、ありがとう」
それ以上の進展はなく、キールは村人に礼をしその場を立ち去った。その帰り道、キールは一人の女と出会う。
「お久しぶりね、私の事覚えていらっしゃるかしら? 」
キールの前に立つ女は、紫の瞳をした女だ。彼は女を見てどこかで見たことがあると思った。いや、何度かこの村に同行した気もする。確か・・・・。
「サイーラ君か、何のようだ」
「あら、久しぶりなのに冷たいのね」
「急いでいる、用が無いなら」
去って行こうとするキールに掛けられた言葉は
「いい女を前にして、逃げるなんてもったいないわよ」
どうやら、サイーラはあまり素直な性格ではないようだ。多少好意を抱きつつ出た言葉がこれらしい。
「興味無い。女は簡単に信じられない」
「じゃあ、どうすれば信じてくれるのかしら」
少し不満そうな彼女にキールは
「時間と行動」
そう言うと振り向きもせず、立ち去った。その姿を見つつ、サイーラは自分のひねた性格を呪うのであった。
●リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)
なぜなに先生ことリディアは、行き遅れに対する焦りの反省会ではなく。前回起きた出来事について、ジルとアレクと会話しているようだ。
「二人とも、自分の気持ちを正直に話してみましょう」
そう言ったリディアにたいして
「ジルは、てかげんしないので、殴られて痛かった」
「・・・・アレク、先生はそう言うことを聞いてるんじゃないと思うぜ」
内心アレクは天然ボケか、大バカかもしれないジルは思った。
二人の返事を聞くと、リディアは微笑む。
「生物全ては、生きる為に何かを虐げる。それは有る意味でこの世の心理なのかもしれません」
「けど、悪いことをしてないのに、なんで」
納得しないアレクにリディアは続ける。
「二人とも、何かの命を奪って生きていませんか? 動物が生きる為に弱い動物を糧とする様に、私達は生きる為にあらゆるモノを糧とするのです」
「そうそう、綺麗事ばかりじゃどうにもならないんだぜ、アレク」
そんなジルにアレクは、
「ふーん。じゃあさ、仕方なかったらキールさんが殺されてもいいんだよねー」
「なんで、そうなるんだ」
「なんとなく」
「この世界には人の数ほど答が存在するのです、アレク君もジル君もまだ若いのです。焦る事はありません、この先大きくなれば色んな場所へと足を運ぶ事となるでしょう。そこで自分の目で耳でありのままの世界を見て、悩みに悩みぬき答を出せる様になってください」
「せんせーは? なんでも知ってるの」
それを聞いたリディアは
「私ですか? 私もまだ自分の答えを探す旅の途中ですよ」
と、答えるのだった。
その後、彼女はアレクとジルの勉強を見ることにしたようだが。
「あ、逃げようとか考えても無駄です、レギーナに見張らせてますから」
確かにレギーナがブレスセンサー・オン状態で待機している。
さらに
「逃げたらファイヤーボムです」
リディアは笑顔だ、しかし目は・・・・。先生はやる気らしい。こうしてリディア先生の指導の下、お勉強会が開かれた。
「みんなー遊びにいくデスよ」
ニーナが呼びにいった時、アレクたちの疲労は見て分かるくらいだったという。いったいどういう教え方をしたのだろう。
●ミュウ・リアスティ(ea3016)
「同士ミュウ」
「同士汁」
「何か呼び方がちょっと変なんですけど、★二つさん」
ジルの前には、三つ編みでほんわかした雰囲気の成人とは思えないほど若い、そう言うと聞こえはいいが、子供っぽい感じのミュウが立っている。
「ジル君、君も懲りないね」
「漢たるもの、己の嗜好を極めるためには、あえて死地に赴く勇気が必要」
言っていることは硬派だが、やっていることがあれではどう評価すればいいのかは分からない。ミュウは少し呆れつつも、ジルが大事そうに持っている例のメモに手を伸ばす。
「ほらほら、おねーさんにそのメモを見せなさい」
「だ、だめ。これは俺の努力と浪漫の結晶なの」
なんだか知らないが、妙に動揺しているジル。いったい今日のメモの内容は何なのだろう?
「えい」
ミュウは手のひらをグーにすると、ジルの額に下ろした。
「いてー・・・・あいかわらず容赦ねー。暴力女は嫁にいけないっすよ」
「こんなに可愛いお嫁さん候補を前にして、それは侮辱だよ。侮辱」
膨れっ面のミュウ、結構可愛い。中年ギルド員あたりなら確実にヒットだろう。
「自分でカワイイとか言うわけですか、そうですか」
「そんなことよりメモ」
「い・や・だ」
その後二人は、死闘の追いかけっこを繰り広げたようだ。
「はぁはぁはぁ、わたさねー俺の命にかけても」
「ふぅふぅふぅ、強情な男はもてないよ」
次の瞬間、閃光のごとくミュウの手が迫る。それを回避するべくジルが身を捻った時。
「しまった!?」
メモが落ちた・・・・・・。
「獲った」
ミュウがメモに手をかけようとした時
「あれ、二人とも何やってるの? これから遠足だよ。ってこれなんだろ」
赤毛のアレク君がちょうど通りかかり、メモの中身を見た。
「・・・・・・」
赤面して硬直しているらしい。
「フ、お子様には早かったか」
「フ・・・・って。元はと言えば君の責任でしょう、なんとかしなさい」
こうして、ジルにグーがまた飛んだという。
ちなみに今日の天気は晴れ。
●マクシーム・ボスホロフ(eb7876)
家事と鳥好きレンジャー下町ことマクシームは、一人例の森へやって来た。彼は切り開かれていく森、その開拓風景を眺め感慨深げに自分の思いに浸っているようだ。
ここの村人は生活の為に森を焼いた。そして俺達猟師は生活のために森の生き物の命を奪う。 この二つになんら違いは無い。 ・・・・今のところはな。 俺達は森無しでは生きられないことを知っているがこいつらはどうだ? 豊かになるためにさらに森を焼くのではないのか。 その時も森は人の存在を許してくれるのだろうか、 強烈なしっぺ返しが待っているような気がしてならない
そう思った後、片隅に立つ石碑へマクシームは足を運ぶ。急ごしらえで決して立派な出来とは言えない石碑は開拓の森を見守るように静かに立っている。
それを見た彼は、また自分の思いに沈む。
これが、唯一残った物か。俺らしくも無い、これも感傷ってやつかもしれんな。
「あーーー壁の花オヂサンデス」
シリアスなムードを破ったのは少女の声、ちょうど通りがかった、遠足御一行であった
「あらマクシームさん。これからみんなで裏山に遊びに行くんですよ、一緒にどうですか?」
「私のような年上が行っても面白くないだろう」
セシリーの誘いに、マクシームは一端断るが、実は行く気満々である。
「そんなことは無いですよ、人数が多いほうが楽しいです」
「そうか、ではお言葉に甘えるとしよう」
「うわぁい、オヂサン、オヂサン」
ニーナは遠慮という物を知らない性格である。三十路過ぎというのは微妙なお年頃なのだ、オヂサン・オヂサン連呼するなお兄様と呼べ。
と、彼は思ってはいないが、ちょっとだけ微妙な気分でもある。なぜならば、目の前の少女も実際、同い年くらいの年齢であることを知っているから・・・・。
●セシリア・ティレット(eb4721)
丘の上から見るその風景は、どこか彼女の故郷を思い浮かばせ懐かしさを感じた。
「セシリーお姉ちゃん?」
「なんでも無いです、アレクさん」
遠足に来た途中、セシリーに手を引かれてアレクはこの丘にやって来た。
「ね、デートって何するの?」
アレクはそう言った。何か大胆な発言だか、他意はない。元々セシリーが、
「アレクさん、少しデートしませんか・・・・」
そう誘ったと言うこともあるのだが。
アレクはセシリーにそれほど異性を感じてはいないのかもしれない、セシリーは大人の女性の色気というよりは、清楚な感じのするのも関係している気もする。
「そうですね、手を繋いでみましょうか」
「うん分かった、手を繋ぐと温かいよね」
彼女とアレクはそれほど身長差があるわけでは無い、肩を並べて歩くと仲の良い姉弟のようにも見える。
「それでさ、ジルはひどいんだよ手加減しないだもん」
アレクはジルと喧嘩をした時のことを話している。
「けれどジルさんはきっとアレクさんのことを思って」
「ボクも分かってるよ・・・・でも」
「でも?」
「ううん、なんでもない。それより、ほら。そろそろお花咲く頃だね」
アレクが指差したのは、咲きかかってる何かの花のようだった。
「もう春なんですね」
「このあたりも、春になるときれいなんだよ。今度はそのころに遊びに来てほしいな」
アレクがセシリーにそう言った時だった
ゴロゴロゴロゴロゴロゴゴロ。
「な、なんです」
驚くセシリー、確かこの音は
「まるごとまーんげーつーーーーーーー!!!!!!」
叫びととも転がっていく何か、とりあえずまんげつという物体のようだ。
「すごい! お姉ちゃん何あれ?」
「な、なんでしょう。見てはいけないものを見てしまったような気もします」
ということで、乱入者の出現によりデートは終った。
多分、あと三年もすると、この二人も釣り合いがとれそうな気もするような。
そういえば、ニーナ祖父によると、そうエロイムエッサイムは効くらしい、信じればなんでも叶う。多分・・・・。
●ジュラ・オ・コネル(eb5763)
ジュラこと、フルムーン仮面まるごとは縦横無尽に転がっている。
「はははー着ぐるみで歩くってのは誰のことだい、僕はそんなことしない。 僕は、僕は・・・・僕は・・・・・・着ぐるみで・・・・・・こ、転がるのだッ! 」
勢いよく回っております。しかしジュラ・・・・そろそろ冬は終るぜ。
「ええいっ、見よ、これが神の塔の特訓でみにつけた必殺技。『ゆくーぞアタッークまんげつ回転♪』だッ! 」
いつもよりフル回転でお送りします。ちなみに背景として採用しよう思いましたが、諸事情により各方面からブーイングが来たら大変そうなので、このリュミエールハウスと限定された場所でのみでお回りください。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
「おー眼帯仲間。ってなんで回ってるの??」
何かの物音に気づき研究室から出てきたリュミエールは、回転しすぎて息も絶え絶えなジュラと出会った。
「これが僕のアイデンティティ。僕のルール。何人たりともそれを非難する権利はない」
「誰も非難はしないけど、動きづらいし熱いだろ普通に」
確かに、いつも回転移動だと大変な気もする。坂道とかどうするつもりなのだろう。
「それよりも、悩みがあるので占ってください」
「別にいいけどさ、その格好を見てると悩みなんてなさそうに見えるけどな。まあ、入りなよ」
リュミエールの部屋に通された、丸い物体。
「それで悩みってなんだい?」
「胸のことではなく。えーと、僕は友達が悩んだり困っているときになにができるのでしょうか」
ジュラはリュミエールへ真剣な眼差しを向ける。それを見たリュミエールは沈黙し、そして・・・・
「ぶ、ぶははは。や、やめてくれ。その格好でシリアスだと何か笑える」
「笑ってないで、占って。いや、転がっているだけじゃダメなんじゃないかと思ったりなんかするんです。これでも」
「新しいスタイルの模索ってやつかい? それとも真剣に冒険をする気とか」
「まるごとも春になると着てあるけないし」
「とりあえず、やってみる」
カードの群れから、リュミエールが引いたのは
「星か。希望、積み重ね、光。そのまま積み重ねていけば新しい道も開けるってことかもな」
リュミエールの答えを聞いて、さてジュラはどう思ったのだろうか。
●シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)
相方のラクに愛情を持って見送られたシシルは、リュミエールと資料の整理をしていた。
「ようは愚者御一行様が、そこにあった罠やら敵を排除してくれたおかげで楽に進めたのかい?」
今は、どうやら悪魔の門地下二階についてリュミエールとシシルは話しているようだ。
「かもしれないですね」
「ということは、次回は他の扉を通るのは得策ではないかもな。あえて危険を犯す必要は無い」
「けれど、他の扉も関係があるかもしれません」
「まあ、これを見てみなよ」
リュミエールは一枚の羊皮紙をシシルに手渡した、それを見て驚くシシル。
「これは!」
「呼び出しさ、どっちにしろ選択している時間は無いってことだ。次の探検は・・・・命掛けかもな」
「ただ私思うのですけど、彼らが悪魔の復活させるのが目的では無いのなら、あえて手を結んで、悪魔を一緒に退治するのも一つの手じゃないかなと」
シシルの発言にリュミエールは
「交渉する価値はある。ということか、そうだな。それを選択肢にいれるのも良いかもしれない」
「それよりも、あそこには何が封印されているのですか? 情報が無ければ対処のしようがないです」
「幻影・愚者・道化師・眠り、この符合から導き出されるデビルは、これだろう」
リュミエールの差し出した本に書いてあるのは
「ニバス? もっと強力な悪魔かと思いました」
「侮らないほうが良い思うぜ、悪魔は悪魔だ。永遠の眠りに連れて行かれるかもしれない。問題はこいつの居場所が分からないことだ」
「封印されている場所は同じではないのですか?」
その問いにリュミエールはかぶりを振った
「どうやら違うらしい・・・・厄介だな」
「ということは、仮に愚者の騎士を退けても、悪魔が活動する可能性もあるのでしょうか」
「ああ、武具自体は鍵でしかないからね。奴がそれを手に入れた時点で多分・・・・活動を始める」
そう言うと、リュミエールは嘆息した。
●イルコフスキー・ネフコス(eb8684)
「リュミエールさん」
陽射しを背にしたその女は、掛けられた声に振り返ると小さな彼に挨拶した。
「確かイルイルだっけ?」
「そうだよ、こういう風にお話するの、はじめてかな」
イルコフスキーは微笑み、そう返す。
「俺に何の用だい。まあ、立ち話もなんだ研究室に来るといい。お茶くらいなら用意するぞ」
招待されたイルコフスキーは、少しの間リュミエールし話をする。ほとんど他愛の無い話だったが、
「リュミエールさんは、なんでこういう学問を始めようと思ったの?」
その問いに彼女は、
「理由ね。まあ、つまらないことだ。イルイルはどうやらクレリックのようだな」
「うん、おいらはセーラさまにつかえる身だよ」
「なら、一つ聞いてもいいかな。忘れてしまったほうが幸せになれる事をずっと抱えていくのも、やっぱり愛なのかい?」
向けられたリュミエールの視線にイルコフスキーはどう答えればいいのか迷った。彼は確かに愛を広める者ではある。だが、彼自身愛というものについて明確な形があるものだとは諭せるかは疑問だ。愛は愛として確かに存在するもの。
その神の愛は全てを癒すだろう。けれど、リュミエールが求めているのはその愛による癒しではなく、自らの罪への贖罪にも見える。
そう、イルコフスキーは判断した。
「リュミエールさんが、それを忘れたいのなら忘れてしまったほうが良いけれど。でも、憶えていたいから、今でも悩んでいるんじゃないかな。おいらはそう思うな」
「そうか・・・・ありがとう」
イルコフスキーの言葉を聞き、リュミエールは手にしたカップの残りを一気に飲み干し礼を言った。
●サイーラ&リン・シュトラウス(eb7760)
魔女の森へ進む道。
「それで、久しぶりに会ったのに、ひどいの」
サイーラは、不満を一緒に歩くリンにぶつけているようだ。何かあったのだろうか?
「サイーラさんは、魔女ですから。やっぱり魔女は魔女なりの方法で攻略するのとかどうでしょうか?」
リンの提案にサイーラは、
「惚れ薬とか? そんなことより、そうよ。私には魔法が」
自分の魅力でなんとかしろ。そんな声がどこからか聞こえてきそうだが、それは置いておいて、リンは答える。
「・・・・その場だけなら、確かにチャームは効果的だと思いますけれど、魔法が切れたらそれで終わりのような、掛けられたことを本人だって分かりますし」
「そうよね。まったく無口な男はどうすれば落ちるのかしら、このさい魔女に聞いてみないと」
当初の目的とかなりズレているような気がするが、とりあえず二人は魔女の森の入口にやってきた。
そして見るからに禍々しく趣味が悪い上、時期外れのリースを木に掛ける。
「そういえば、ここの魔女って気まぐれなのよね。今日は迎えは来るかしら」
「んー、私はきっとサイーラさんと同じで、森の魔女さんも強がりさんなだけだと思います」
「な、なに。私のどこが強がりなわけ」
その言葉に動揺しているあたり、そうなのかもしれない。
「素直が一番ですよ」
「それができたら、こんな風にはならないわよ」
サイーラは、少し照れたようだ。意外とそういう感じも捨てがたい。普段素直ではない者が見せる素直さは美点である。
それはいいとして、しばらくすると大きな狼がやって来て二人の様子を伺った。その姿を見たサイーラは、一度それに乗ったことがあることを思い出した。
「あいかわらず、大きくて怖いわね」
「そうですか、よしよしおいでー」
リンは、狼を招く。それに応じもせず、着いてくるように、指示するかのように首を振ると、たてがみが美しい黒い狼は森の奥に歩き出した。
「可愛くないわ」
「狼は誇り高い生物ですからね」
こうして二人は魔女の館へ向かった。
「なんだい、またあんたか。それで命の恩人は見つかったのかい?」
お茶を運んできたオーガに戻るように命じると、魔女はサイーラに向けてそういった。
「いいえ、まだです。今日はあのネックレスについて何か思い出したことは無いか聞きにきました」
多少緊張しているのか語調がいつもと違うサイーラ。リンはそれを可愛いと思いつつも魔女に挨拶をした。
「はじめまして、吟遊詩人のリン・シュトラウスです。アレク君から魔女さんのお話は聞いたことがあります」
「坊やの友達ね。元気かいあの子は?」
「元気といえば、元気ですけれど」
リンは、森で起こった出来事をかいつまんで魔女に話した。
「私の知らない間にそんなことが起こっていたの? 驚いたわ」
サイーラは純粋に驚いている。リンの話を聞いた魔女は視線をカップに向けたあと
「動き出した車輪を止めるすべは、簡単では無いということさ」
そう、どこか諦めたかのよう呟く。
「私は詩人です。たとえ悲劇だとしても、起きたことを語り継ぎ、伝えるのが役目それが、精霊の友たる詩人の務めだと思うから。精霊の意思を受け継ぎたい」
サイーラは自分も詩人だったような気もしつつ、真摯なリンの姿に少し感動した。
魔女は一度だけ頷くと
「それがあんたの意思なら、何があっても謳い続けることだ。過去を過去のままにしないようにね」
リンは魔女に問おうか迷った。
彼女が見るに魔女がアレクを援助しているような気がする。しかしあえて彼女は言うのをやめた。それを問うことで何が得られるというのだろう、彼女の前に佇む女性は美しい。だがその美しさは影を伴ったもの、いつか彼女が自ら過去を話すのを待ったほうが良い気がする。自分は詩人、唄で引き出そう。
「さて、魔女仲間のお嬢ちゃんは、ネックレスについて聞きたいのだろう」
魔女はサイーラの方を向くとそう言うのだった。
●お茶会
春の全体お茶会パーティーに招かれた面々。大人の都合により、抜粋を紹介しよう。
今回珍しくキールと話す機会が少なかったジルはなんとかキールに近づこうと思ったが、サイーラがキールに接触しようとしてなかなか話す機会がなかった。
エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は、パーティーの準備をしつつもロイ・ファクト(eb5887)ばかり見ていた。それを見たシシルは、ことあるごとにからかう。シシルはシシルでキエフに残してきたお絵描き人のことを思い浮かべてはいたが、ちょうど通りかがったジルに好みのことを聞くと
「☆☆二つくらいが一番いいかな」
ということは、ニーナやミュウは守備範囲外ということなのだろうか?
裏方に回ったマクシームは妙に張り切って料理を作っていたという。調理場が似合う彼、やはりザ・下町。
ミュウはもってきたぬいぐるみでニーナと一緒に遊んだあと、料理を食べ始めた。ちょっと食べすぎかなとおもいつつ、明日は畑仕事をしようと心に決めたのでさらに口に運ぶ。
そして、ついにジュラが自らの過去をはじめて明かした。彼女の両親はすでに亡くなっていたらしい。あの明るさも実は内面を隠す道化なのかもしれない。
「皆さん、はじめましてセシリーです」
悪魔の門メンバーに挨拶したセシリー、眼帯お姉さんがそれを聞いて。
「おうおう、俺の配下にはいない清純路線だな、うん、うん、いい」
確かに悪魔の門メンバーは女性が妙に多かったが、生粋の乙女路線な人は少ないような。
エリヴィラが比較的まともな気はするが、男の趣味がちょっと・・・・ね。僧兵さんはまるごとに染まってしまった気もするし。
「エリたん、粉、粉」
シシルが例の粉のありかを聞いた。
「駄目だよ、そんなものに頼っちゃ」
確か彼女も使った気もするが・・・・・・。
「ロイさん」
「アレクか」
アレクは合間を見て、ロイの下にやって来てこれまであったことを話した。ロイは言葉は少ないが、それにきちんと応対したらしい。
「行き遅れじゃありません! 私はまだまだ旬です!!」
誰に抗議をしたのかは分からないが、リディアが急にそんなことを叫んだ。先生駄目ですよ、自分で行き遅れって宣言してるみたいなものだ。と内心数人が思ったが、あえて流した。
リンとサイーラは少年について熱く語ったらしいが、サイーラはキールにちらちらと視線を送っている。しかし、キールはジルに合わせて出てきただけらしく、面白くもなさそうに、出された料理を食べているだけだ。
「私の料理が食べられないのか!」
今度はマクシームが激昂した、村人Aがマクシーム作の料理に手につけた後すぐに捨てたからのようだ。
「マクシームさんって意外と熱い人なのかな」
リンが妙に納得したが、アレクがやって来たので、
「アレク君、元気ですか」
挨拶した。隣のサイーラもやって来て、
「アレク君、ひさしぶりー覚えてる、一緒のお布団で眠ったわよね」
「・・・・・・サイーラさん、実践派ですね」
アレクは昔の添い寝を思い出して恥ずかしそうだった。
「さあ、僕の回転アタックをみてー」
ジュラは先ほどまでのシリアスさを捨て、またもやフルムーン仮面として活動している。
「キールさん、やっと会えた」
「ジルか」
「うん、キールさん。ねえ、あれで良かったのか」
「色々あるが、理解はお前達なりでいい、急ぐ事ではない。大事なのは、理解したその時分がどう行動するか・・・・理解した相手にどう接するかだ」
「そうだよね・・・・」
ちょっとしんみりしつつ、ジルはキールと歓談している。サイーラが多少それを羨ましそうに見ていたが、気のせいだろう。
「さて、そろそろおいら出番かな。ほら、ロイさんとエリヴィラさん、結婚式を」
多分イルコフスキー流のジョークというやつだと思うのだが、状況が状況ゆえ笑えない。というより、このまま勢いでくっついてしまえと半数程度の人間は思ったが、エリヴィラは逃げてしまった。
「イルイルだめデスよー」
「え、おいら半分本気だったのに」
「イルイル、結婚は好きな人同士がするものでしょ、ロイさんは、エリヴィラお姉ちゃんの事をホントはどう思ってるか分からないよ」
こういう時のアレクは妙に鋭い気もする。
「そうかなあ、ロイさんも・・・・だと思うんだけどな」
イルコフスキーはそう言うと、逃げていったエリヴィラの後姿を見送った。
−石碑−
パーティーが終った後、イルコフスキーは森の石碑を訪れていた。そこへまた一人。
「あ、イルイルさん」
「あれ、リンさん」
イルコフスキーは、イルイルがすでにみんなの愛称らしい。
「私はここに誓いの樹を植えようと思って来ました」
「おいらは魂を沈めようと思って・・・・目的は同じだね」
暫く二人が石碑を見つめていると
「なんだ先客がいるのかい」
何かを持ってマクシームがやって来た。二人を見て彼は恥ずかしそうに
「いや、私の作ったパイ。少年達にあげた残りだが、それを土に戻そうかなと、それでどうなるわけでもないが」
三人はそれぞれの自らの成すべき事をし、この森に住んでいた精霊を送る。リンの歌声にイルコフスキーの祈り声のハーモニーは、哀しげだがとても澄んだ響きを周囲に撒いた。マクシームはそれを聞いて、自分の生まれ故郷を思い出すのだった。
●恋人達のロンド
彼を待つ間。彼女は、まだ迷っていた。
今まで一緒に過ごした時間を短くはない。何気ない一言に喜び、涙し、その記憶を胸に抱き眠れぬ朝を迎えたこともある。
その日々は、今も変わりない。どこまでもこの時間は続いてゆくはずだ。ずっとこのままならば・・・・きっとそれも嘘ではない、けれど偽りでもある。
開いた距離がこのまま縮まらないくらいなら、壊れてしまっても良いとも思う。
でも、怖い、怖いから、このままでも・・・・いい。彷徨う気持ちをどこにやって良いのか、彼女は考えた。考えたところで、それがどうなるわけでもないのを知っている。いつものように笑って逃げてしまえばいいのだろうか、分からない。
時は来た。
繰り返す曲調の一つの終わり。踊る二人の行き先にある結末は・・・・。
呼び出されたロイは、いつもと態度が違うエリヴィラを見て、怪訝そうな表情を浮かべる。
「どうした、何かあったのか」
「あ、あのね」
エリヴィラは、口ごもった。それを見たロイは先日問われた質問を思い出し、何気なく言った。
「そういえば、お前が俺にしてもらいたいと思うことはあるか? 俺に望むことはあるか? もしお前が望むことがあるのなら、俺はそれを可能な限り叶えよう」
それを決めて覚悟を決めたエリヴィラは言った。
「あたしは、ずっとロイさんだけ見てた。何時からかなんて覚えてないくらい。傍にいれて、嬉しかった・・・・ロイさんが傷つくだけで悲しかった。他に、何も考えられなくなったよ。あたしがロイさんに望むことは・・・・唯一つだけ」
エリヴィラは一度息を止めて続ける
「ずっと傍にいてほしい。どんな時でも、ずっと、ずっと・・・・ただ、それだけがあたしの願い。あたし、もっと強くなってみせるから・・・・絶対にもう負けないから・・・・だから、こんな我侭、聞いてもらえますか? 絶対に傍を離れたくない・・・・ただ、ロイさんだけを愛してる・・・・」
エリヴィラは俯いた、待つ時間は長い。
もしかして駄目だったのだろうか? 胸の鼓動が打ち鳴る、もう耐えられそうにもない、逃げてしまおう。彼女がそう思った時、沈黙が破られた。
「それがお前の望みならば、ずっと傍にいろ」
いつもと変わらない調子のロイの言葉。それを聞いたエリヴィラは顔を上げ彼をみつめた。
するとロイの指がぎこちなくエリヴィラの頬に触れた。とめどなく流れ出る温もりをそっと拭き取ると、戸惑ったようにロイは言った。
「この程度で泣くな、お前は強くなるのだろう」
「うん・・・・あ・・た・・し・・・・もっと、強くなるね・・だから」
ロイに力一杯抱きついたエリヴィラ、彼もまた彼女を精一杯抱きしめる。
きっと永遠が無くても良い。それだけでも真実だから、ただ温もりが消えてしまわないように。見つけたものを失うくらいなら、今だけでもこのひとときだけでも・・・・。
「あったかいね・・・・でも、ね、もっと・・・・強く」
エリヴィラは自らのうちに空白があることを感じていた。それは記憶という欠片が揃っていない空虚感なのかも知れない。母の愛だけで埋められるものなら、それはきっと埋まるはずだろう。だが、彼女に父の思い出はない。
それをロイに重ね合わせたのかもしれない。ならば、それが本当に恋といえるのか、どうかは分からない。だが、その想いに変わりは無いだろう。
「・・・・大好き・・大好きだよ」
ただ、ロイは何も言わずに、彼女の髪をいとおしそうに撫でた。
踊る曲調、回る輪舞。手と手を繋ぎ、今こそ回れ。
そう、どこまでも・・・・・・。
了