●リプレイ本文
●Eins「子供の領分」
ノルマンから最近ロシアにやって来たカノン・レイウイング(ea6284)は、少年冒険隊という固有名詞を持つ隊を探して市街を歩いていた。
詩人である彼女は、歌の素材として冒険譚を聞くのが目的らしいが、あの坊やたちからそのような話が聞けるのだろか?
少し肌寒いキエフの風を受け、なびく髪に手をやったカノンは、歩き疲れたのか街の広場で一休み。
そんな彼女の前に現れたのは、黒を基調とした服装の背丈の大きな女性とふわふわ帽子をかぶった小さな女の子の二人連れである。
「ケイト、ふわふわ。ふわふわ」
「う、うむ。ニーナが喜んでくれて、自分も嬉しいぞ」
はしゃぐ女の子と、それをあやす大きな女。和やかな空気がその場に流れている。
どうやらこの二人、壁が大好きケイト・フォーミル(eb0516)と冒険隊、隊員番号三番、ニーナ・ニームのようだ。彼女達がその広場を訪れたのは偶然らしい。
たいてい偶然というものは、出来すぎた神の配慮だが、カノンにとってそれは幸運ともいえる。
(もしかして、あれが噂に聞く暴れん坊ニーナとその保護者かしら)
そんな名前がどこでついたのかは知らないが、暴れん坊ニーナを見つけたカノンは、ここぞとばかり、その二人に近寄っていくのだった。
さて、冒険隊、隊員番号一番赤毛のアレクは、キエフにやって来てからまともに剣術の勉強しているようだ。
そこにやってきた仮面を被った真紅のドレスの女? 先ほどまでは普通の格好だった気もするが、ちょっとした、いたずら心という奴だろうか、彼女はそれをかぶってアレクに声をかける。
「久しぶりですね、アレク君。少しは剣技上達しましたか」
最近、道化の仮面をかぶるのが、自分の中で合言葉なクロエ・アズナヴール(eb9405)がアレクの前にその姿で現れた。
「!? だ、だれ」
「私ですよ、私」
と言われて、仮面をかぶっているので誰が誰なのかは分からない。そこでクロエは仮面を外した
「あ、クロエさん!」
「久しぶり、しばらく見ないうちに良い顔になりました」」
ということで再会を祝った後。二人は剣術修行を始めるらしい。
「我輩に話とは、なんだ」
そのファンキー爺はニーナ祖父、名前は不明。祖父は相変わらず目に痛い原色ファッションに身を包んでいる。彼の前にいるのはラドルフスキー・ラッセン(ec1182)。最近二枚目半あたりが役どころになりつつある男。本人はそれをどう思っているかは知らないが、とりあえず今回は祖父に話をしにきているようだ。
「ニーナの好きな物を教えて欲しい」
・・・・そういう質問は予定外だが、まあビートなノリで。
「熊のぬいぐるみだ」
「そうか、ついでにこれこういう話を・・・・依頼に」
なんだか少しシリアスな二人である。
ってなことで、そのあたりは飛ばして、次はニーナとお勉強会をしたときの場面をどうぞ。
「ラドラド、そんな教え方では教師にはなれないデス」
「それはニーナが真面目にやらないからだろう」
いきなり駄目出しをされたラドルフスキー。
「そんなことないモン。やってるモン」
といつつつ、先ほどから適当にお絵描きをしているのは誰でしょう。
「絵は後回しにして、ほら、ここをこう」
「やだー、やだー、やだー」
なんとかしてあげてください、保護者さん。
「ニ、ニーナ、遊びに行くぞ」
こうして、誘いにやってきたケイトは駄々っ子のニーナを引き連れて散歩に出かけるのでした。
それを見たラドルフスキーは溜息をついたそうだ。
冒険隊、隊員番号二番ジル・ベルティーニは、今日も元気に秘密メモを書いているようだ。
「最近は、☆一つが普通だなー。もっと驚異的な人はいないわけ、冒険者街の支配者を越える」
この子は、いったい何を目的に冒険しているのかは不明だが、とりあえずそれは良い。
「ジル、何をしている」
キール・マーガッヅ(eb5663)の登場に、ジルは慌てた。この秘密メモをキールに見せるわけには・・・・。
「キ、キールさん。め、珍しいね。昼間から散歩なんて」
「いや、普通だが」
キールの登場に気が動転したジルは、的外れな話をしつつも彼に連れられ酒場に行くことになったようだ。
【In 水竜亭】
キエフの表通りから少し離れた場所、それほど人通りがないところに水竜を彫りこんだ木製の小さな看板がちょこんと顔をだしている。お昼は食堂、夜は酒場。
そんなよくあるお店の名前は「水竜亭」というようだ。
店にいるのは、給仕であるパラの少年リュートと、自称看板娘のシフール、ポチョン、変な言語を操るマスターが主な構成員である。
チリン、チリン。
「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ、ご、ご注文は」
「よく来ました、まあ座りなさい」
最近は、それなりに名が知れたここ水竜亭。出迎えたリュートとは別に、新たなウェイトレス? 現れたようだ。
「セシリー、クロエ。ちゃんとヤルダポ」
ポチョンのお手製フォークに突かれているのは、セシリア・ティレット(eb4721)とクロエである。セシリーは清純乙女路線を貫く清楚な感じ、クロエはどこか影がある大人の女。その二人がウェイトレスである、どちらも捨てがたい。
何にせよ白いエプロンの似合う女は素敵だ。
この二人がなぜ水竜亭で仕事をしているのかを語りだすと長くなるので、とりあえず日々の糧を稼いでいるということにしよう。
そこへやってきたのは、冒険隊とその仲間たちのようだ。
「まったく、アレクのお子様といちゃつくなんて、セシリーさんも見る眼が無いね」
先ほどまで、アレクにテーブルマナーを手取り足取りで教えていたセシリー。
「はい、ここはこうしましょうね」
「セシリーお姉ちゃん、そんなにしなくてもボク一人で・・・・」
「え、でも。ちゃんと食事の作法ができないと」
など、想像するだけで独り身には腹が立つ場面の連続を見ていたジルは、意味もなくテーブルに杯を叩きつけた後、悔しさと虚しさがないまぜになった気分で捨て台詞を吐く。彼は、あまり彼女のような路線に興味がない気もするが・・・・それを聞いたキールは、
「ジル、男の嫉妬は醜いぞ」
「キールさん、そういう余裕がきっとクールに見える秘訣なんだね」
意味不明な師弟愛が混ざった視線を交わす二人、とりあえずキールは差し出された飲み物に口をつけた。
さて、ここで諸事情により一端、水竜亭を中断して。
●Zwei「月影の乙女」
キエフの郊外にある教会に一人の少女がいる。
様々な事情により言葉を失った彼女、その少女の元を訪れた女がいた。
ロザリー・ベルモンド(ec1019)はキールとの打ち合わせを終えたその足で、この教会を訪れたようだ。
(確かクロエさんも後でいらっしゃる予定ですわね)
ロザリーはそんなことを思いつつも、その少女ナタリーの部屋の扉を叩いた。
「ナタリーさん、ロザリーです」
長い沈黙の後、ゆっくりと開かれる扉の向こうから顔を出した少女は心なしか嬉しそうな表情だ。ナタリーは部屋に入るようにロザリーを招く。
その後、二人は特に何もせずに静かな時間を共有した。
ナタリーが編んだ冬用の手袋、すでに冬は終っていたが、それを見たロザリーはお嬢様育ちのせいか純粋に喜んだ。
陽も暮れ、そろそろ夜がやって来る頃。寝息をたて始めたナタリーの姿を見つつ
「私は不自由無いお嬢様育ちでしたので、ナタリーさんの苦しみを理解することは多分できないでしょう」
誰に言うでもなく、ロザリーは独白を続けた。
「けれど、どんな事があってもナタリーさんの味方であり続けたいと思っていますわ。貴女の事は絶対に守りますから、絶対に裏切りませんから。だから、安心してくださいませ」
その言葉をナタリーが聞いていたかどうかは、彼女しか知らない。
夜。
道を歩く者が一人、自ら道化の仮面を被り生きる彼女はその場所を目指す。
月に照らし出された教会の前に立ち、眠りにつく乙女の元を訪れた女は、ゆっくりと会釈したあと静かに言う。
「それでは、君が眠りにつくまで昔話の続きをしましょう」
クロエが語りだしたのは、哀しくも古き話。
「仮面を被った彼は、旅に出ました。笑えるその日を願って。何時笑えるとも分からないのに。 そうしてどれくらい旅をしたでしょうか。彼は出会いました、自分にそっくりな女の子に。彼は思いました。彼女を笑わせることができれば、自分もそうなれるのではないか。だから彼は、彼女の傍で色々な事を始めたのです」
ナタリーはその話を聞きながら、また眠りにつくだろう。
クロエにとって、いわばそれは過去の形の一つなのかもしれない。だからこそ・・・・
「いつか、彼女は笑える日は、くるのでしょうか?」
その答えは、安らかな寝息で返された。
●Drei「影の輪舞」
ここでは、主にキールとラドフスキーが情報収集をした結果をまとめる。
「キール」
ギルドでは、使者と鎧についての関連性はっきりはしなかった。
風の旅団の襲撃は、村長に対してある筋からもたらされた。一辺境の村を傭兵団が襲うことに対して疑念も生じたが、今までの村で起きた事件などの経緯からしても、それを完全に疑うことは不可能だった。
警備の軍と使者はどちらヴォルニ領よりやってきた、朱色の騎士団はヴォルニ正規軍の一つらしい。
ヴォルニ領主に兄弟と子供がいる、だが詳しいことはあまり聞いたことはない。例のロザリオの子供はハーフエルフで女の子であった、引き取られた先は不明である。
領主の名前は、アレクサンドル・ヴォルニ。種族はハーフエルフ、男、年齢は30〜40ほど。領主の居ない間は腹心の部下である男が本領を管理しているらしい。
今回の調査は、村までが限界であったため、それ以上は不明である。
補足 幻影の洞窟のある村はヴォルニ領地内である。悪魔の門の村と比較的近所。
「ラドフスキー」
彼は、中年ギルド員に賄賂? を贈った。が、たいしたことは聞けなかったらしい。
目的は幻影の洞窟についての魔力に関してのようだ。この洞窟の内部は特定の月魔法やある種の魔術的効果を、なんらかの触媒を利用することによって再現するようだ。その原理が何であるかは不明であるが、たいていその現象が起きるのはこの洞窟内部に特定される。
この場所に、何かしらの魔力的要素があるのは確かであるが、それは単に増幅するきっかけであって、この洞窟の内部外で永続的に利用できる。例えば何らかのアイテムなどに付与して移動させ利用できるわけではないようだ。
言い換えると、何かが封印されていた場所。と、言えるのかもしれない。
「結局、分かったようで、分からないような」
ラドルフスキーは、そうこぼした。
●Vier「纏まりの無い協奏曲」
ピンポンパンポーン。
良い子の皆にまるごとハウスからお知らせがあります。
「よーし、今日は水竜亭にいっちゃうぞー」
「部長、何かご都合主義ね」
「のんのん、まるごと勇者完成直前を祝うためだよ、書記長」
今回は標準的まるごとホエールと、くまさんに身を包んだ二人。勇者を作っているタロウも連れて、彼らもこうして水竜亭へと向かった。
【続 In 水竜亭】
カノンは、少年冒険隊からこれまでのMr・AFと繰り広げられた死闘などを聞いて、詩人としての活動に役立てるつもりだ、一通り話を聞いた彼女は、
「みんな大変でしたね」
「カノンさんも、立派な歌を作ってくださいね、ボクも待ってます」
「勇者アレクの冒険譚をいつか語らせて頂きましょう」
「ゆ、ゆうしゃなんてボク照れるな」
そんな感じで、アレクとカノンがしみじみと感動の過去について話をしている背後で、ドタバタしている人達がいる。
「こら、ニーナちゃん。お酒はまだ早い!」
「ニーナはもう30年生きてるデス、セシリーより年上」
確かに、よく考えると・・・・まあ気にしてはいけない、外見は10歳だ。
「ニ、ニーナ、お酒は大人になってからだぞ」
そういうケイトもそろそろ伴侶を見つけないと、行き遅れランキングに乗ってしまう気もする。
チリン・チリン
「いらしゃ・・・・」
リュートの言葉が止まる、そうやって来たのは
「まるごとの未来をかけたまるごと勇者! その完成直前ぱーてぃーへようこそ」
「部長、私たちだけ思いっきり空気違うわよ」
ヤツラがやって来た。
「あ、あれがまるごと」
なぜか彼らを見つめるセシリー。まるごとの魔力に取り付かれてはいけない、普通の世界に戻れなくなくなってしまう。そしてカノンもこれから訪ねる気だった、まるごとハウスの住人がやって来たの見て、ネタ・・・・もとい、歌のために取材するつもりのようだ。
チリン・チリン
「遅れました。当家の料理に匹敵するか味わってみますわ・・・・あら、クロエさん、お似合いですわよ」
ロザリーがやって来たらしい。
そのウェイトレス姿のクロエが、アレクとジルの元に料理を持ってきた時に耳打ちして
「強くなりなさい。大丈夫、大切な人たちは傍にいてくれるから。守れるように。失くさぬように。君たちは強くなりなさい」
それを聞いて、アレクはクロエに視線をやったが、すでに彼女の後姿だけが見えただけだ。
「一番部長、まるごと哀歌を歌います」
そんな部長の掛け声から始まった歌の会、その最後を飾るのは、やはり吟遊詩人である彼女。
「カノン・レイウイング、ドニエプルに捧げる曲を・・・・」
そして、彼女は歌い始める。
『碧き清き流れドニエプルに映る美しき森よ
寒さ厳しき冬を乗り越え、春の息吹と鼓動を伝えし美しき森よ
木漏れ日の中で温かく森の都を包み込む春の風よ
その優しき流れは全て人々に小さな幸福と優しき歌を届ける事でしょう〜♪』
カノンの柔らかな歌声が水竜亭に響く。
ケイトはニーナを抱きながらそれを聞いていた。その胸の中でニーナはうとうとし始め、いつしか眠りについた。
その頃
水竜亭を目指して歩いていたラドルフスキーは、所用で席を外していた無口なキールと合流していた。
どちらも軽快な感じの男たちで無い、沈黙だけが両者の間に重苦しく流れている。
その場の空気を軽くするため、ラドルフスキーは、
「なあ、あんたは、どんな女が好みなんだ」
いきなりな質問も気もする。キールは、にこりともせず返す。
「好き嫌いでは、計れない」
「でも、好みってやつはあるだろう?」
「俺は別にいい、君はどうなんだ」
ラドルフスキーは、色々と考えていたが
「分からないな」
その会話が終った時、ちょうど水竜亭の看板が見えた。中からは、明るくはしゃぐ声が聞こえている。
チリン・チリン
「いらっしゃいませー、お二人ですか?」
パラの少年が出迎えのために走って来る姿と明るい店内が、彼らを迎えるのだった。
了