剣劇の女王

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月18日〜05月23日

リプレイ公開日:2007年05月25日

●オープニング

 春の訪れに気持ちが和らぐ街角。
 小さな舞台の上で繰り広げられる歌の響きは、観客たちの疎らな声援によって迎えられた。キエフにやってきたその小さな旅の一座は、まだまだ無名。名も知れぬ彼らは、路上で日々の糧を稼ぐ程度のようだ。

「今日もパンだけか」
 二人しかいない一座に座長も何もあったものでも無いが、ひとまず座長と自称している男が落胆しつつ言った。
 とぼけた雰囲気のする彼は、トロイカと名乗っている。
「そろそろ、肉が食べたいね」
 座の歌姫であるエフィ嬢が続けて言った。彼女は歌姫なのに、裏方のほうが得意という変り種。他に歌える人もいないので、仕方なく歌っているようだ。 
 そんな二人は今日もまた、いつものように解決策のない議論が二人の間で交わしているようだ。
「この底辺から脱出するための案を出すんだ、エフィ」
「うーん・・・・やっぱり芸術って才能なのよね。努力でどうにかなるなんて、素人の浅はかさってやつなわけで、芸術家と職人ってのは違う気がする」
「相変わらず手厳しさ満点だな。それは、俺に才能が無いといっているように聞こえるが」
 エフィは大きく頷いた。
「ひ、ひどい」
「大人しく農家やってれば良かったのに」
 トロイカは、どうやら元は農家の出らしい。
「そういえば、座長知ってる? 今キエフで春を祝うパーティーが催されるらしい」
「え、そうなのか」
 エフィ嬢の言うとおり、どうやら国王主催のパーティーが開催されるらしい。
「それに合わせて、素人演劇祭が行われるらしいんだって」
「素人って俺は一応・・・・玄人」
 なぜか、彼の語尾が自信なさげに消え入るのはなぜだろう。
「細かい事は気にしないの、それに賞金もでるんだって」
「賞金!」
 プライドだけでは腹は一杯にはならない、ひもじさに負けた彼。
 こうして、エフィ嬢の発言によりトロイカは素人演劇祭に出場することに決めた。
「人数足りないし、こういう時こそギルドを頼って出場よ」
「劇に関係した歌を歌ってもらって、賞金を頂くぞー」
 かくして旅の一座『名前はまだ無い』から、素人演劇祭用の歌劇作成に関する依頼が、格安でギルドに持ち込まれることになった。

●今回の参加者

 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5737 レティルシェ・フェイスレス(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5981 フィーリア・ベルゼビュート(14歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6993 サイーラ・イズ・ラハル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9726 ウィルシス・ブラックウェル(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 神剣 咲舞(eb1566)/ 小鳥遊 郭之丞(eb9508)/ マティア・ブラックウェル(ec0866

●リプレイ本文

●準備

「はい、そっち、劇は道具も大事だからね」
 座長のトロイカの指示の下、ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)が小道具を作成していた。ただ、兄が来ると聞いて緊張しているらしい。
 そんな中、裏方さんたちは、
「剣の使い方はこう」
 郭之丞が殺陣の指導中。
「おっと危ねえ、破くとこだった」
 ゴールドは衣装を作成している、見た目のわりに器用だ。
 レティルシェ・フェイスレス(eb5737)は、物語のあらすじチェックをエフィ嬢としている。
「やっぱり、ニ幕は、こう何か女王を引き立たせる何かが必要よね」
 エフィの言葉に
「では、私は女王に寄添う少女として・・・・・・」
 レティルシェは返した。
「よし、それじゃあ稽古よ」
 エフィとレティルシェは稽古を始めたようだ。
「皆さん、一休みですの」
「茶菓子もありますよ」
 フィーリア・ベルゼビュート(eb5981)は左右違う色の瞳を向ける。咲舞と共に差し入れのお茶を持ってきたようだ。
「じゃ休むとするか」
 トロイカはそう言うと光る汗を拭いた。

 その頃

 素人演劇祭の会場周辺では、ゴーレムを操る道化師姿の乱雪華(eb5818)が客寄せをしていた。
「ただいま、演劇祭開催中です。お友達を引き連れて、ぜひいらしてください」
 ゴーレムの物珍しさもあり、客足も少しずつ集まり始めた。
 さらに、リン・シュトラウス(eb7760)の手紙を見て、愉快な仲間達も集まったらしい。
「リンさん、みんな連れて見に来ました!」
「ありがとう! アレク君」
 彼女のお友達の赤毛の少年を筆頭に、その他色々な人々もやって来たようだ。 
 こうして、開幕する演劇祭。
 マリーナフカ一座としての初演が今始まる。

●一幕

 配役

 剣の女王  「乱雪華」
 亡国の狂王 「サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)」
 吟遊詩人  「フィーリア」
 妖精    「トロイカ」
 
 伴奏&コーラス 
「ウィルシス・ブラックウェル、カノン・レイウイング(ea6284)、リン・シュトラウス、フィニィ・フォルテン(ea9114)」

『女王の放逐』

 黄昏に落ちる世に一人、竪琴の奏でより界を見る。
 最果てより出でる話紡ぐ詩人は小さな旅人。語り部は記憶と苦しみを場に落とす、それは新たなる時代、嘲笑と羨望混ざり合う歴史。

「これより語られるは、儚き系譜。剣と女の物語」

 妖精はおどけ周りを踊り、詩人は物語を続けるだろう。

「王の為に尽くした剣の姫は王に乞われて妃となった。王が望んだのは彼女が築き上げた栄光のみ、白銀の剣の城に王は高らかに笑う。祭られし剣の姫は幽閉され、光を奪われ、綻び錆び付く己に気付くだろう。王はくすんだ剣に興味をなくし、彼女を亡き者にして追い出し、彼女の栄光を手にしたまま、王は狂い笑い登場する」

 詩人は黙り、幕外より王は現れた。笑い終えた王は、女王に向かって優しくそして残酷に倣岸に言い放つ。

「全てが並んだこの国揃わぬ物はない
 唯一つあるとすれば幸福という名の幻影
 契り見返りに愛などいらぬ 求めるはそなたの眩い剣と栄光 
 『永遠に結ばれたい』
 と、甘い科白くれたそなただから
 身包みはいでとうに国の外逝き 全てが並んだこの国揃わぬ物はない
 唯一つあるとすれば純愛という名の飯事」

 肩を落とした女王はうなだれ、王に返した。

「貴方の手をとったその笑顔の向こうで
 眩い光に彩られた剣綻び錆びてゆく
 同じ笑顔で貴方は破滅を突きつける 絶望が未来を飲み込む
 私は世界にこんなにも憎まれていた
 過去は戻らないと責めたてる様に冷たい言葉が雨となる
 暗い道を走る 夢であるように この悪夢から抜け出せるように
 そして私は全てを奪われる」 

 倒れた女王は幕外へ、詩人は密やかに告げる。
 
「剣を落とした女王。その愛は無残にも打ち砕かれた、もはやこの場に彼女の居場所は無い。悲しみは夜空舞う星屑のごとき欠片、避けられぬ痛みだけを残す」

 そして詩人は幕の終わりを歌うだろう。

「木漏れ日に照らされて 森は霧深く
 行くあてさえ知らずに 梢のそよぎに彷徨う
 苔むしたせせらぎに 蜻蛉は舞い踊る
 煌く青い羽は 儚い命の色

 星光に誘われて 闇は帳を降ろし
 枝葉の天蓋に 星空は輝きだす

 駆け抜ける風に 心を例えて
 時の移ろいに 想いはあふれ
 滲んだ月は 果てない涙の色の果て
 幾度なく繰り返される悲劇の在りか」

 勇壮でありながら、悲しみを含んだ演奏が閉じる幕と共に奏でられた。 

●幕間

 準備の間。
 フィニィを歌手として、カノンが演奏を担当し、一曲披露した。
 フィニィは新曲「ちまっとLOVE」を公開したらしい。彼女が舞台に立つとフィニィ親衛隊がどこからともなくやって来て会場の人口が一瞬増えた。
「フィニちゃーん!!」
「皆さん知っていますか? 声というのは人が生まれながらに持っている楽器なのですよ、だから・・・・・・聞いてください」
「ラヴリー! キュート!」
 軽快な伴奏をバックにフィニィが歌い始めた。
 内容などについて詳しいことは本人に聞いてもらおう。多分ポップなラヴバラードのような気もするが、そのあたりは本人しか知らない。
「歌は皆さんの心を温かくする優しく素敵な小さな魔法です。この後も楽しんでいってくださいね」
(彼女も捨てがたいな)
 フィニィの後に紹介されたカノンの登場に、親衛隊が眼をつけた、なんとなく危険だ。
 ともかくフィニィとカノンが歌い終えると同時に、親衛隊も観客になったようだ。
 
 さて、楽屋裏では

「ウカちゃ〜ん! 出番頑張るのよ〜☆」
 ウカの兄であるマティアは、最前列を取ったらしく、ウカを応援しに来た。
「兄さん・・・・」
 ウカは恥ずかしそうである。それを見たリンは
(ふふ、もっと素晴らしいことが待ってたりして、ウカさん)
 リンは何を企んでいるのだろうか。フィーリアと先ほどから何事か話しているようだ。
「そういえばサイーラさん、メイク、メイク」
 リンが何か気づいたように、サイーラに声を掛けた
「あら、メイクなら私も出来るわよ」
 それを聞いたリンは
「そ・れ・じゃ! ウカさーん」
「な、なんですかリンさん」
 リンはウカをターゲットに絞ったらしい。
「あら、ウカちゃん。似合うわ〜もう惚れ惚れ、私が食べちゃいたいくらい」
 微妙に危険な科白を聞きつつも、どうやら元々女顔のウカに化粧を施したようだ。いったいどうするつもりなのだろう? 
 
 そろそろニ幕の時間である。

●ニ幕

 配役

 剣の女王  「乱雪華」
 亡国の狂王 「サイーラ」
 吟遊詩人  「フィーリア」
 寄添う少女 「レティルシェ」
 
 伴奏&コーラス 「一幕と同様」

 『旅路』

 奥から歩んだ詩人は悲嘆に充ちた想いを顔に乗せ、観客に告げる。
 それは女王の進む道、女王の至る場所。

「彼女は国を追われ、死者として名を奪われ、光も全ても失った。姫とは知らぬ者達は姫の哀れな姿をあざ笑う。その中一つ花、少女だけが手を差し伸べ共に沿う。闇と光が混じる中、己が何故剣を手にしたのかを思い出す。
 弱き者の為に手にした剣愛しい者の為に手にした剣、打ち捨てられし剣を用い新たな光を心に宿した」

 剣を失った国。
 我執に囚われた王は、悦びの歌を肩震わせ唄う、哄笑の渦に呑まれ。

「さあ踊れ愚かなる民よ 私のために倒れ朽ち果てる者 希望失い泣き叫ぶ者
 愉快な見世物を 玉座で嘲笑う我が心満たし潤すは痛ましき叫び
 さあ踊れ愚かなる民よ 私のために」
 
 高らかに狂い笑う。

 場面変わり、詩人の場。

「国は荒れ、民は剣の主の帰還を願う。その頃女王は、己が剣の矛先を探し旅をしていた」
 いまではボロを着た彼女、だがその気品と意思は捨ててはいない」
 
「世界を未来を守るために 私は剣を手に立ち上がる
 降りしきる雨の中 誓い新たにする
 曇り空の世界に 光差し込むまで 涙は見せないと 
 翳る日差しに 未来が揺らいでも 私の剣は見失わない
 もう誰の涙も零れないように 私は剣を手に立ち上がる
 どうか私の誓いよ 果たされますように」

 剣を抜き天を指す女王、その傍らで少女は励ますだろう。
 
「私は貴方に助けられし者 次は貴方の光となりましょう
 貴方の剣が闇を払い 私に光が優しく笑んだ
 光ある世界を私は知った だから私も光を貴方に捧げる
 貴方を支えて私は祈る 光ある世界の為に」

 それを見つめる詩人は静かに、厳かに語り。

「暖かな温もり、いまだ見つからぬ光。それは誰の為が真実。国を追われ、民草を捨てざる負えなかった女王、しかし彼女の手には、まだ剣の閃光と少女の献身が残る。白い花が枯れる前に、黒き薔薇を刈ろう。女王は国への帰還を決意した」

 終幕の歌を続ける。
 
「揺れ動く地平線 赤い日が落ちてゆく
 仰ぎ見た白い月の光 焦がすように

 道なき道を行こう 誇りだけをまとって
 心の命じるまま 明日の果てを目指し

 迫りくる迷いの闇 切り開くように
 想いを秘めた心の刃 空高く掲げて

 駆け抜けよ大地を 駆け抜けよ時代を

 瞬間に光立つ 希望を抱え
 駆け抜けよ大地を 駆け抜けよ時代を
 牙をむく混沌に 研いだ剣を立てて戦え 今がその時ぞ」

 三者の合奏は懐かしき調べ、奮い立つ楽曲。その音鳴り響く中で幕は下りた。

●三幕

 配役

 剣の女王  「乱雪華」
 道化師   「サイーラ」
 哀愁の狂王 「リン」
 吟遊詩人  「エフィ嬢」
 王女    「フィーリア」 

 伴奏&コーラス 
「ウィルシス・ブラックウェル、カノン・レイウイング、フィニィ・フォルテン」

 『女王の帰還』

 壇上の詩人は移り変わりし者、語る言葉は最後の筋書き。
 
「王は己が欲望の向くまま悪政を築く、姫は苦しむ民の為に、付き従う花の為に、再び剣を手にして挑む。名を持たずとも、何を得ずとも、弱き者の為に剣を振るい続けて全てを取り戻す。けれど国を持つことなく彼女は目指す。花の香りに導かれながら、弱きを救う剣とならんとして、誰の為でもない世界の平和の為に、祈るように振るい続ける」

 場面は過去の追憶の集う場、剣の女王の城。
 舞踏会で踊る貴婦人、紳士に混じり、一体の仮面の道化が一礼の後舞い踊り歌う。

「王が望んだ世界を望まぬ女王が壊した時 
 歪な夢は崩れ始まる物語
 言葉を運べ 想いを贈れ 掲げる剣は互いへの花束
 咲かせる剣戟は 互いの恋歌
 言葉を歌え 光を贈れ
 ひび割れた欲望が絆さえ引き裂く
 失った痛みに気づく時 はばたけるや? 」

 答えなき道化の嫣然たる問いの行方、民の苦渋と怨嗟など、そ知らぬ貴族達。正義の天秤はいずこ・・・・・・。その時、嬌声を悲鳴が打ち破った。

 ──剣の女王が刃持ち帰還したのだ。
 
 剣掲げ王座へ進む彼女。
 その眼にはすでに迷いは無い。

「今、力与えよ さあ舞い降りたまえ 光る力 目覚めるがいい
 思いこめた叫び 今掲げれば 舞い降りよ この胸の中で光れ
 もし目の前の獣 今暴れるのなら
 その体に 矢を刺すように 霧氷のようにとりまいて
 我が剣を 高鳴る音 胸に響かせ 歌え 戦え さあ
 踊り子のように
 光振りまき 身を翻し 羽を纏って
 熾烈な時に 色とりどりの剣戟を挙げて
 夢に咲き誇れ」

 女王の帰還を見届けた詩人は続ける。

「花散り行くの前に忘れていた何かを取り戻すのは、剣の舞。告げる春は始まりと終わり長い旅路の帰路、振るわれる剣に倒れた王の衛兵に彼は事実を知る」

 旅の終わりは新しい時代の始まり、それは古い聴衆の流転。想いあれど過去は過去、王は黄昏に歌い、我が身の嘆きを朋に自らも剣を抜き、終焉の輪舞に興じる。 

「銀の雨に撃たれて
 遠き誓いを思い出す

 あの丘の上 リラの花咲く頃
 お前はいつも 私の傍で 微笑っていた

 例え私が 獣になろうとも

 お前だけは 忘れないでいてくれ

 怖れよ 私は 漆黒の刃
 千の爪痕を刻む者
 千回生まれ変わっても お前に 憎まれていたい」

 二つの剣は刃交え、物語の終りを示す。舞台は暗転し、残された一粒種の王女は、悲しみとも悦びとも取れぬ歌を奏でる。
 
「明日は 全ての上に訪れ 昨日の涙 空へ帰る
 傷跡残る大地で まだ眠る芽を揺り起こす慈しみの雨になれ

 幾つもの違う想いで 混ざらない色で 
 伝え合う心の中 幾つもの同じ願い

 やがて錆びた剣を囲んで 緑の蔓が這う 悲しみの記憶を包んで
 輝きは 名も知らぬ誰かの上 緑なす日差し
 生きとし生ける者 全ての上に」

 最後に裾より出でた詩人は、

「王国は平穏を取り戻した、犠牲と血の上に。されど、それはまた・・・・・・一つの歴史」

 そう、締めた。

 フィニィの歌と並ぶ演奏が、閉じる幕を送る。
 舞台に集まった出演者を前に拍手の嵐が出迎えるのだった。

●アンコール
 
「えー! リンさんこの格好で出るんですか」
「似合ってますよ♪」
 リンの策略により完璧な女装をさせられたウカ、ポニーテールが素敵な女の子にしか見えない。
 どうやら、彼はアンコールとして一曲披露するようだ。大人の事情で次の演劇までの時間があまり無い、早速歌ってもらおう。
 
 「故郷」

 森よ 我が命育みし 母なる土地よ
 緑よ 我が里包みし 優しきその色

 朝露が 暁の光浴びる時
 木漏日が 天の光降ろす時
 夕闇が 光閉ざして星呼ぶ時
 月光が 星々の光と瞬く時

 我は忘れぬ 故郷の 光が告げる数多の光景
 我は伝える 故郷を 未だ見ぬ土地の人々へ

 我は願う 故郷へ 我が祈りが 一族を 守らせたまへと 強く願う

 …母なる大地に感謝を。そして祈りを

「ウカちゃ〜ん! す・て・き〜あの子も呼べばよかったわ☆」
 呼ばないほうが彼のためのような気がするが・・・・。

●閉幕

 大喝采を浴びたマリーナフカ一座の公演ではあったが、惜しくも準優勝に終った。
 とはいえ賞金はきちんと支払われたらしい。この公演により一座に二人ほど新人が入ったようだ。彼らはこれからロシア国内を暫くの間回って来ると言う。そのうちにまたキエフにやってくる時もあるだろう。
 フィニィは、リュミィに今日の事をどう話そうか考えつつ後片付けをしていた。今度は一緒に歌う事が出来れば良い。彼女はそう思ったようだ。
「お祭りですし、当然、自分も楽しんだ事に報酬を頂く訳には参りません。わたくしは無報酬で参加させて頂くつもりでした」
 差し出された報酬をカノンは断った。それを聞いたエフィは笑顔で返す。
「それじゃあ、報酬じゃなくて贈り物ね。はい、どうぞ。ほら、人の好意は素直に受け取っておかないと後で後悔するんだからね」
 半ば無理やりに押し付けられた包み。エフィはカノンが言い返す前に手を振って去って行った。困惑しつつもカノンは、包みを開ける。どうやら、数枚の貨幣に混じって、変わった形のコインが一枚入っているようだ。
 そのコインは不思議な輝きを放っていた。カノンは物珍しげにそれを手のひらに載せると去ってゆく一座の姿が消えるまで、見送るのであった。


 了