願いの意味
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:Urodora
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月26日〜10月31日
リプレイ公開日:2006年11月03日
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●オープニング
●湖上の安息
「ねえ、プースキン」
少年は仰ぎ見る。
目に映るのは、自らよりも強く、高く、そして温かなものへの憧憬。
彼はプースキンの大きな手が好きだった。
触れられるたび落ち着く、プースキンは物言わぬけれど、その瞳は優しい。
村にいるよりもこの場所にいるほうが心地良い。
湖上に立つ小さな島の隠れ家は、アレク少年にとってまどろみに誘うゆりかごのようなもの。
ここにいるかぎり安心できるはずだった。その時がくるまでは・・・・。
●狩り
島は移ろう時の中、静寂と平和に覆われていた。
だが、開拓という名の侵略が森を襲ったあと沈黙は破られる。
揺らぐ境界。交わる悪意と善意。
罪はいずれにもない。
しかし歴史の潮流は、そんな些細な感傷で止められるものではなかった。
「村を守れ!」
男たちは口々に叫び進む。
先導するのは、一人の僧侶。
「悪は滅ぶべし、神の名の下に、我らこそが正義。今こそ平穏をこの手に」
彼らの目指す先にあるのは湖に浮かぶ小さな島。
鬼が住むというその島へ向け歩む。
手に手に武器をもちながら。
村から討伐隊が向かう。
その情報を事前に知ったアレクは、走りだしていた。
彼が頼れるのは森に住むという魔女だけだ。けれど、魔女は願いと引き換えに何かを奪うともいう。
怖い、でもそれしか方法がない。アレクは走った、走り続けた。
魔女が住むという館へと。
どこをどう通ってたどり着いたのかは憶えてはいない、しかし気がつくとそれはあった。
恐怖のあまり扉を開けるのを迷うアレクだが、意を決してドアをノックする。
「おはいり」
思ったよりも柔らかな声に誘われ、アレクは扉を開き進む。
魔女というからには、ひどく恐ろしい風貌を予想していたアレク。しかしその前に現れたのは、彼の両親とさほど変わらない年恰好の美しい女だった。
魔女は、アレクの直向な気持ちと話を聞き、咳払いを一つすると言った。
「そうさね、出せるだけの銅貨をおだし。お前の想いの強さは分かったから。
けれど、長い時間は足止めできないよ。それとこれをもってキエフにお行き、冒険者ギルドをたずねるといい」
そう言うと、魔女はアレクの差し出した銅貨と二枚の金貨とをすり替える。
「魔女さん、ありがとう」
手を振って笑顔で歩き出したアレク。その姿を見送りながら魔女はぽつりとこぼした。
「でもね坊や。願いってのは強ければ強いほど、弾けたとき、その痛みも大きいものなのさ」
●ギルド
相変わらずキエフの冒険者ギルドは盛況である。
真剣戦闘、探索依頼、貴族の陰謀、可愛い忍者のお供まで、さすがはロシア様々な依頼が集まる。
そんな中、息を切らして駆け込んできた少年が一人。
「お願い、助けて! プースキンを助けて」
擦り傷だらけ、幼さの抜けぬ顔を泥まみれにした少年は、ギルド員に向かってそう言うなり気を失った。
その身なりは決して良いとはいえず、ところどころつぎはぎだらけの衣服。
きっと近くにある開拓村の住民なのかもしれない。
「まったく依頼するなり倒れるなんて非常識な。最近ついてないな、それもこれもブツブツ・・・・」
倒れた少年を抱き起こしながら、一人回想するギルド員。
きっと彼なりに色々あるのだろう。
それはさておき、こうしてギルドにまた一つ依頼が舞い込んだ。
●リプレイ本文
●情報を探して
静謐の中、神々しさが満ちる。
扉を開いた先にいた人物にシャリオラ・ハイアット(eb5076)は微笑みかける。
突然の訪問者に、司祭は訝しげな視線を送るが、それに答えるかのように。
「司祭様の禿げがどれだけ進ん・・・・ではなくて、元気な姿を確認にきました」
と、彼女の声。そんなシャリオラの態度に慣れているのか、司祭は軽くため息をつく。
「相変わらず、減らず口は変わらんな。いったい用件はなんだね」
シャリオラの話を聞いた司祭は、彼女に語る。
ロシアは特殊な国柄であるので、あまりその方面を刺激しないようにしている。遺跡について司祭は詳しいことを知らないらしい。
そういえば、つい最近ハーフエルフ排斥を唱えて追われた男がいたこと。
ロシアでハーフエルフ排斥を唱えるとは、勇気があるのか、ただの馬鹿なのか。
そうシャリオラは感じつつも、とりあえずその場を立ち去った。
リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)はウィザードであり、教師だ。
そんな彼女が向かった先は宮廷図書館だった。その職業もあって何度か通ったこともあるので、見慣れた風景でもある。
何件か文献をあたって調べてみると一つのことが分かった。
あの湖周辺は、何かしらの加護を受けた地という記述があり、事実かどうかわからないが、湖に巨大な魔物がすんでいたという伝承が伝えられていて、魔物は石枕の下で眠っていると文献の中にはある。
「魔物。少し厄介かもしれません」
リディアは足早に仲間たちの元へ向かった。
「はぁ情報?」
ギルドに向かったのは、エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)とロイ・ファクト(eb5887)の二人である。
どちらも戦士ということで威圧感を感じつつも、ギルド員はそれとなく思い出したことを告げた。
彼が言うには、少し前にあの周辺で護衛の仕事? それを募集していた男がいたということだった。
結構な額の報酬だったけれど、依頼主はそんな金をもっている身分には見えなかった。
結局、ゴロツキというか評判は良くないけれど腕は立つ奴らが受けたということだ。
話終わったあと、ギルド員がエリヴィラに熱い視線を向けてきた。
それに気づいた彼女は、ちょっと照れてうつむく。
「おいおい、そうじゃなくて情報料を・・・・」
「欲しいのはこれか?」
「・・・・いえ、安全無事、任務遂行がギルド員の勤め。皆さんにご武運を」
ギルド員のおねだりの続きは、ロイの指した日本刀の影に消えた。
そして、ブレイン・レオフォード、アド・フィックス、キドナス・マーガッヅ、ラッカー・マーガッヅらの調査により。
宮廷図書館で、教会から、そう名乗った例の僧侶らしい男があの周辺の情報を調べていることが分かった。
さらに、確証はないがその男はある貴族とかかわりがあるらしい。
こうして、おぼろげながら点は交わり線と変わる。
集められた情報を一度まとめたあと、全速力で皆は村へと駆け出すのだった。
●幕はあがる
静寂と霧が湖を覆っている。
森の木々は、まだ眠りにつき始めたころだろうか。
襲撃はいまだ行われていないらしく、無事であったプースキンの住む橋向こうにある島に渡ったものたちがいる。
「お姉ちゃん、シシルお姉ちゃんってば、あぶないよ」
そうアレクが声をかけた直後だった。
「痛っ」
派手に転んだのはシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)。大人しげな雰囲気のするエルフ、見かけは少女だけれども意外に歳を重ねている。
「だから言ったのに暗いし、でこぼこしてるから気をつけてね」
立ち上がったシシルは服にかかった埃を払うと、照れ隠しなのか髪の毛に何度か手をやる。
その仕草を見たアレクは満面の笑顔で。
「シシルお姉ちゃんって、かわいい」
ランタンの灯りに照らし出されているシシル、その動きが一瞬止まったようにも見える。しかし、彼女が少年の言葉を聞いて何を思ったのか不明である。
なぜなら、遺跡の玄室の中央に文字が刻んである石碑、そして巨大な鬼プースキンが目の前に現れたからだ。
プースキンは、何も言わずじっと立ち尽くしている、特に敵意は感じない。
シシルはそれを見て、石碑に目を移すがしばらくすると言った。
「アレク君、リディアさんを呼んできて欲しいです」
「うん、わかった」
呼ばれてきたリディアは、石碑を見ると難しい顔してこぼす。
「これは・・・・きっと古代魔法語ではないでしょうか」
「やっぱり」
遺跡は、この玄室が一つだけの単純な造りだった、他に気になるようなところもない。
「魔物の伝承と関係あるのかも知れません、石枕の下で眠っている。それと関連があるなども考えられますね」
リディアの仮説を前にして、読めない石碑の意味を考え思いあぐむ二人、それをプースキンは静かに見守っていた。
そのころ、キール・マーガッヅ(eb5663)は、夜闇に紛れ情報を収集していた。
彼は、扇動者たちが滞在していると思われる建物を探す。村はそれほど広くない、調査するとそれらしい家はすぐみつかった。
まだ、我々には気づいてはいないようだな、その点こちらに分がある。
そう感じつつ、キールは気配を消して様子を伺う。中には二人の戦士がいるようだ、どちらもかなりの重装備である。彼らは何事か呟いている。聞き耳を立てると、とぎれとぎれに。
「しかし、あんな遺跡に何が・・・・だな」
「しらねーよ、あいつ・・・・村人に襲わせるのに意味があると・・・・さ」
話し声が聞こえてくる。
さらに様子を探ろうとした時だった。誰かがこちらにやって来る。
その人物は、僧衣をまとっているようだ。目深にかぶったフードで表情は伺えない。
中に入った人物は、戦士に向かって何事か指示しているようだ。
「朝だ・・・・準備・・・・急げ」
朝? もうそれほど時間はない。キールはこれ以上調査を続行するのを諦めて、得た情報と襲撃を伝えに戻る。
闇が明け始めた、朝日はもうすぐそこだ。
「子供は無邪気だな」
すやすやとエリヴィラの膝で寝息を立てているアレクを見て、ロイは呟いた。
傍らで、槍の手入れをしているフォルケン・ジルナツェフ(eb5760)も、その様子に少し心休める。
「時間ですかな」
先ほどキールのもたらした情報によると、襲撃は朝、敵は三人ということだ。プースキンを確保したことで状況は予想よりもこちらに有利ともいえるが、まだこれからだろう。
武器を使うことがなければいい、フォルケンは魔槍の輝きに目をやり思った。
「アレク君起きて、そろそろ危ないよ」
エリヴィラは、痺れた足をさすりつつアレクをゆり起こす。危険だから村へ帰そうともしたけれども、アレクは頑として聞かなかった。
お母さんってこんな気分なのかな、エリヴィラはそう感じた。
「ほら、起きなさい。早くしないと怖いオーガがやってくるぞう」
「オーガは怖くないよ、やさしいよ」
眠い目をこすりながら言うアレク、静かに太陽は昇りはじめる。
そして、時は来た。
●対立
一騎、民衆を前にフォルケンは説く。
「まずは、件のオーガに被害にあった者が居るのですかな? 被害に遭い、その報復手段を取ると言うのであれば、止めはすまい。しかし、単に『モンスターだから』『襲われるかもしれない』と言う仮定理由だけで戦うのは止すのだ。オーガの戦闘力は凄まじく、汝等の道具や体術では少なからず死人が出よう。起こり得るかどうかも判らぬ理由で死ぬるのか?」
それに反して、言葉は返る。
「然り、汝ら冒険者はそれを退治して生業とするものではないのか? 生きるために命を狩るものがそのような言葉を吐くとは、戯言ではなくて、何の座興か」
「論点を変えないでもらいたい。仮にも聖職者ともあろう者が、何故に無力な村人達を無用な危険に晒すのですか? 魔物退治であれば、軍かギルドに頼むのが常識だと思われますが? もしも村人に犠牲者が出たとした場合、如何なる責任を負うつもりですかな?」
「では問おう。力とは何だ。力とは誰かに頼るものなのか、力なきものはいずれ滅び、力あるものが残るのが世の必定ではないのか。冒険者と村人に何の差がある、脅威を排除するのに力の強弱など関係ない、不確定因子を消すことの何が悪い」
「仮定の話を持ち出して話を摩り替えないで欲しいですな。勇猛と蛮勇は真逆のモノ。貴殿の言っていることとオーガを退治すること、それに何の関係がある」
ざわめきが巻き起こる。そこにかけられる次の言。
「貴方は一体何者なんですか? 民衆を煽るのが神に仕える者の仕事ですか? 他にやることもあるでしょう。‥‥それともあの遺跡に何か秘密がお有りで?」
シャリオラの問いに、一瞬つまる扇動者。
「みなさん、聞いてください」
シシルは、遺跡について手に入れた話を村人に語る。動揺する村人たち。
「いったいあの遺跡に何があるの? 仮にあなたが正しいとしても、あたしは自分の手を汚さないで、みんなに押し付けることを許せない」
エリヴィラの強い気迫。それに観念したのか扇動者は態度を豹変させる。
「ええい、愚民どもめ。進め進むのだ! 神の名を下に。いや死にたくなければな」
扇動者の身体が黒く光ると、その場にいた村人の一人が輝きに包まれ倒れた。
恐慌に陥る村人たち。
「語るに落ちたな。神の名の下にか、とんだ神様もいたものだ。命を奪うなら、自分も奪われる覚悟くらいはあるんだろうな」
ロイの言葉を合図に、戦いが始まった。
状況はそれほど芳しくない。リディアの魔法による援護、キールの弓矢による牽制もある。
けれど村人が邪魔で思うように射撃できない。
一番の難点は、前衛に立つ戦士二人の頑強さにあった。
戦士は自ら攻めてこず守勢に回っている。攻撃は盾によって受け流され、あるいはカウンターを狙われる。
そこに飛んでくる魔法。攻撃が当たらないわけではない、だが装甲を貫くほどでもなく、フォルケンの狙い済ました一撃も、あちらから攻撃してこないのでは手の出しようがない。
「さっきまでの威勢はどうした。所詮、口だけなのか冒険者たちよ」
それとともに、扇動者がまた黒い輝きにつつまれる。
「いかん!」
とっさにエリヴィラを庇い、前に立つフォルケン。
走る漆黒がフォルケンを包んだと思うと、極度の疲労感が彼を襲い片膝を着く。
「フォルケンさん」
続く狙いすました斬撃エリヴェラは、すんでなんとか受け流す。
ロイは、割り込みフォルケンを援護するが、形勢は不利。
シシルは、さきほど何度か試してる魔法が効くことを祈った、これさえ決まればきっと。
彼女の想いが届き青白い氷結の棺が完成したのは、そのすぐあとだった。
戦士の動きを封じられ、扇動者は重い腰をあげざる負えなくなった。
そこへシャリオラが、ここぞとばかりにブラックホーリーを唱える。
さらに射線上に獲物を捕らえられるようになったキールの矢も狙う。
思うように魔法を使えなくなった扇動者は焦りだした。残った戦士も、数には勝てない。
こんなところで、終わるわけには。こんなところで・・・・まだ復讐を果たしていない。追い詰められた扇動者は、それを選択した。
「見捨てられたらしいな」
残された戦士に声をかけるロイ。
「僧侶としての実力は大した物ですが‥‥悪役としては三流‥‥いえそれ以下。三流どころか道化といってもよいですね」
逃げた出した扇動者の姿を眺め、リディアはあきれたように言った。
●願いの意味
戦いは終わった。
何が正しくして正しくないか、それは決められないこと。
けれども、人とモンスターが共生することは現実、無理な話なのかも知れない。
傷を負ったフォルケンを休ませたあと、プースキンを前に彼らは選択をすることになる。
まず、魔女の森へ帰すことが案としてあがる。きっと最善の策ではないだろうか? 皆否定はしない。
プースキンは彼らの言っていることを理解しているようにも見える。その瞳に安らぎのようなものが浮かんでいるようだ。
「けど、どうやって森へ行かせようかな。魔女は気紛れらしいし」
エリヴェラの懸念は確かだ、いやそれはいい、もっと辛いことは。
涙は悲しみを友に流れるもの。
真実はきっと痛みを伴う、それならば覆い隠してしまうのも優しさだろう。
だが、嘘は見えない傷になり、その傷からいずれ濁った赤い雫は落ちる。
答えはどれも同じだろう、同じであるのなら・・・・いっそ。
告げられたものは、失うことに慣れてはいない。
「うそだ、うそだよね。シシルお姉ちゃん」
アレクは信じたくなかった。あの日々がずっと続くと思っていた。
「アレク君・・・・」
シシルは言葉を続けられない。
「ねえ、エリヴィラお姉ちゃん、うそでしょ。うそって・・・・ぼく」
アレクは周りを見回す。皆うつむき何も言わない。
この頬を伝う熱さと胸の痛みは、なんなのだろう。どうしていいのか分からない。
「強くなれ、何かを守れるくらいに」
アレクの髪にそっと手を置くと、ロイはぶっきらぼうに言う。彼なりの優しさなのかもしれない。
「‥‥う‥‥ん・・・・」
泣きじゃくるアレクをエリヴィラはそっと抱きしめた。
その嗚咽が止まったあと、少年は願いの意味を知るだろう。
願いの先に続く想いが何であるかは、冒険者たちも知らない。
だが、想いが強ければきっと願いは届く。
なぜなら、彼らが今ここにいることも一人の少年の願い。
それが叶えた奇跡なのだから。
●幕引き
生きることを罪とするなら、その生に意味があるのだろうか。
神が作り出した全てが正しい。彼女はどこかでそう思っていないのかもしれない。
ああいうのは苦手だ。シャリオラはそう感じ一人、遺跡に足を運んでいた。
不可解な文字が刻まれた石碑をそっとなぞると、なぜか兄の姿が脳裏に浮かぶ。
ふと、石碑の周辺に目をやる。
あれは? そこには木片と思しきものが落ちている。
拾ってみると、それは一枚のタロットカード。
歪な微笑みを浮かべた道化師がシャリオラを見返した。
了