アレクの一日

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月06日〜06月11日

リプレイ公開日:2007年06月15日

●オープニング

 これまでのお話

 友達のオーガ、プースキンを黒の僧侶と呼ばれる男によって故郷の村より追放された少年アレクは、自らの力のなさを悔い、何かを守るための力を手に入れるために冒険者となった。 
 村に住んでいた友人や、訪れた冒険者達と共に冒険を繰り返す中で、自分の幼さと弱さを痛感した彼。
 そしてアレクの前に、進むたび立ちはだかる黒の僧侶。訪れた決戦で彼の魔手からは、からくも難を逃れたが、戻った村は何者かの襲撃によって火の手が上がっていた。
 その村より離れアレクは今、キエフに滞在している。

 ジル・ベルティーニこと、アレクの友人であるジルは一人ギルドを訪れていた。
「なんだ、いつもの三馬鹿トリオではないのか? 珍しいな」
 応対に出た中年ギルド員は、最近ギルドによくやって来る見慣れた三人組の片割れをみつけそう言った。
「たまにはね・・・・・・。独りになりたい時もあるのさ」
 ジルは顎に手を添え、やや俯きかげんで気取って言う。しかし、まったく様になっていない。
「その手のセリフは10年早いぜ、坊や。マーマのミルクでも呑んでナ」
 なぜか場末の酒場風やりとりを繰り広げている二人だが、とりあえず本題に戻ろう。
「ってことは、その坊やを勇気づけろってことかい?」
「うん、まだまだ子供だからねえ。色々ショックだと思うわけよ」
 そう言うジルも、さすがに自分を庇い目の前で人が倒れたのを見て、少しの間どんよりしていたらしいが・・・・・・。
「ま、命は大事にな」
「了解」
 中年ギルド員の言葉を背に、ジルはいくばくかの銅貨と依頼をギルドに預け立ち去った。

「それじゃ、母さんいってきます!」
「はい、気をつけるんだよ」
 旅支度を終えたアレクは、初めて自分達が受けた依頼を解決するために向かうようだ。
 扉を開いたアレクを太陽の陽射しが迎える。彼は、寝癖がついた赤毛を手で直すと剣を強く握りしめ、目的地へ向けて駆け出すのだった。

●今回の参加者

 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5663 キール・マーガッヅ(33歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 ec0700 アルトリーゼ・アルスター(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●アレクの一日

 アレクが冒険へ出かけるのを見送ったセシリア・ティレット(eb4721)ことセシリーは、お買い物のためキエフの街にやってきたようです。
 彼女の目的はコマドリのペンダントを買うこと。ちなみにコマドリのペンダントとは雌雄一対になったペンダントで二つを合わせて一つにできる物です。
「ペンダント? 雌を壊してしまったね、雄しかないよ」
 ちょうどアレクが帰ってくるころに、雌は入荷するようです。それを聞いたセシリーは、ちょっと考えたあと、
「片方だけでも良いので」
「あいよ、50Cだ」
 こうして、ペンダントを手に入れたセシリーは笑顔で去っていきました。。

 食事を終えたケイト・フォーミル(eb0516)は、
「リボン、ぬいぐるみ、リボン、ぬいぐるみ」
 人込みの中呪文のようにその言葉を繰り返して歩くケイト、なぜかときおり壁に隠れているのが不思議です。ケイトは男の子より女の子が好きなところがあります、ロマンスファンタジーですね。
「おーでっかい姉ちゃん、何さがしてるんだ」
 なにかとてもファンシーチックな店にやってきたケイトは、この店に不釣合いな渋めのオヤジさんに声をかけられました。
「ぬ、ぬいぐるみとリボンを」
「ぬいぐるみ? あいにく今切らしててな、リボンは姉ちゃんに似合うリボンかい? そうだなあ、これなんてどうだ」
 赤くて可愛いリボンをケイトにつけようとするオヤジさん。
「じ、自分ではなくて」
「いい、いい。似合ってるよ、うん」
 その言葉を聞いて照れたケイトは、リボンを突っ返すと走り去ってしまいました。
「逃げることはないだろう」
 残された店には赤いリボンに巻きつかれたオヤジさんだけが残されたそうです。


「きっとあれはケンブリッジにいたころから始まったのよ・・・・・・。だいたい、昔から報われない人生だった。分かるこの気持ち? あの時、卒業するつもりでいたのに、日程を忘れてて卒業式には出られなかった・・・・・・。今回のことだって私が悪いわけじゃない、もうボロボロ。ねえ、聞いてるの?」
「は、はい」
「最近は色々とあり過ぎて何だか疲れた・・・・・・今回はのんびりしたい・・・・・・だから、私を癒しのある場所へ連れて行って欲しい」
 マリス・メア・シュタイン(eb0888)は、癒しを求めて歩いていました。その途中公園で、出合った青年とぶつかったことから運命? が始まったわけではありませんが、ちょうど良いので彼女は色々聞いたようです。
「いや、俺は年上専門なので、若い子はちょっと」
「ええ!? こんなに可愛い子が頑張ってお願いしてるのに、ことわるなんて、非常識よ」
(いや、君も非常識だと思うけれど)
「さあ、キエフ癒しめぐりに出発して」
「せっかくの休みなのに・・・・・・」
 こうして、公園にいた非番のとある軍人青年はマリスに付き合わされたそうです。

 チリン・チリン。
 お昼時に水竜亭の扉を開いた人がいます。
「いらっしゃいませー」
「客ではない」
 キール・マーガッヅ(eb5663)を出迎えた、水竜亭の給仕さんのリュート。キールはリュートに何事か話しています。
 その後ろのほうで
「甘い、こんな味で味皇帝三本勝負に勝てると思っているのですか!」
「ア、アルトリーゼさん」
 イルコフスキー・ネフコス(eb8684)の前にいるアルトリーゼ・アルスター(ec0700)の形相がいつもと違います。これはワイルドアルトリーゼに変化した証。危険です、味にかけてのうるささはそこらの料理人の比ではありません。
「前に来たときより落ちてる、慢心しましたね。良いですか、料理は心、味の道に終わりはないのだから」
「・・・・・・おいらは美味しいと思うけどな」
 イルコフスキーはアルトリーゼに同行したことを多少悔いました。しかしパラの能天気さもあって、あんまり気にもしていないようです。
「追加の料理を持ってきました」
 キールとの会話を終えたリュートがやって来ました、イルコフスキーはあまりパラと接する機会がないので、親しみを感じて
「リュート君だったかな? 同じパラ同士仲良くしてね」
「はい、また良かったらお店にきてくださいね。あ、僕仕事があるので」
 リュートはイルコフスキーに手を振って去っていきます。
「ご馳走さまでした。では、次にいきましょうか? 約束の日にまた来ます。その日は夜のメニューを制覇ですね」
 普段の様子に戻ったアルトリーゼ、その豹変ぶりにイルコフスキーも驚いたそうです。
 
 一端ここで時間が進み。舞台は水竜亭。

「あー、もう。ポチョン仕事しなさい!」
「エリヴィラさん、ポチョンに期待するだけ無駄だよ」
「でも、リュート君」
 エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は、久しぶりに水竜亭でお仕事をしています。彼女はこの店と縁が深いので色々気になるようです。
「ポチョンもがんばってるポ。スプーンで突いたり、お酒に顔をつっこんだりしてる」
 小生意気そうなシフールがエリヴィラにそう返しました。
「それ、頑張ってないから」
「お皿を割るよりは仕事ポ」
 胸を張って答えるシフールにエリヴィラは悟ったようです。
「リュート君」
「何」
 微妙な間の後、溜息にも似た言葉がエリヴィラの口から漏れます。
「大変だね、とりあえずあたしも手伝う」
「ありがとう、エリヴィラさん」 
 こうして、エリヴィラは久しぶりにウエイトレスさんになりました。
 

「ま、今回の冒険も楽勝だったな」
「えージルは何か変なことしてたでしょ?」
 そして、アレクは冒険の旅から戻ってきました、それを出迎えたのはセシリーを中心としたお出迎え隊のようです。たいていの人々は彼と面識があるですが、初対面であるマリスはちょっと離れたところから見ています。
「ほらセシリーさんが待ってるぞ」
 その言葉にアレクはそちらを向き
「あ、お姉ちゃんー帰ってきたよ! お弁当ありがとう」
 駆け寄ってくるアレクにセシリーは恥ずかしそうに
「アレクさん、おかえりなさい」
 そう言って手をつなぎました。
「あれ、ケイトさん? イルイル、アルトリーゼさんも、後」
 アレクは集まってきたメンバーに驚いています。ジルはそれを確認すると何処かに去っていきました。
 アレクはセシリーに抱きついたあと、マリスを見つけて近寄り挨拶しました。
「はじめまして! アレクです」
「マリスよ、よろしくね」

 その頃。

「獲物はこの程度で十分か」
 森に出かけていたキールは、独りの時間を満喫したあと、手に入れた獲物を持って水竜亭に向かっていました。その途中。
「あれ? キールさんじゃない」
 見慣れた少年に彼は出会いました。
「ジルか、どうやら無事帰ってきたようだな」
「あ、キールさん。そういえば俺の依頼受けたって聞いたけど、でもさキールさん大丈夫なの?」
「何がだ」
「だって、キールさん俺以外とあまり話しないし」
 キールも内心そう思っていたのか、素直に、
「アレクをどうやって扱えばいいのか、分からない」
「あいつは、てきとーでも問題ないよ。結構鈍感だから」
 ジルはそう言うと去って行きました。
 
「ここが水竜亭か、ゆったりさせてもらおう」
 やって来たレイブン・シュルト(eb5584)。彼は大きな灰色の卵を持参しています。
「いらっしゃいませ。あれ素材持参? 卵料理ですか」
 それを聞いたレイブンは
「これは、俺は大事な卵だ。食べるなんて考えられない。今日はここで仲間達で何かするらしいから、それまで何か飲み物がもらおうか」
 リュートは首を傾げました後、聞きました。
「そうなんですか? その卵中身なんなのでしょうね」
「そのうちに孵化するだろう」
 レイブンは席に着くと、灰色の卵をじっと見つめ、皆が来るの待っています。

 さて、水竜亭に行く途中、イルコフスキーがアレクに言いました。
「アレク君、ちょっといいかな?」
「何、イルイル?」
「アレク君、冒険をするからには人が死ぬことも、大事な人が傷つくこともあるよね」
「うん、人だけではなくてモンスターも死ぬよ」
「そうだね、それにショックを受けたからって、それを引きずるよりも、次にどうすればそんなことにならないかを考えるべきなんだ」
 イルコフスキーの言葉にアレクは戸惑っています。
「おいらだって、出来ているとは言いがたいけど、そのためにいろいろ努力はしている。努力をして次こそは、しっかり対処しきるという覚悟で進んでいくべきじゃないかな?」
「がんばればいいのかな?」
 アレクには、イルコフスキーの話は少し難しかったようです。
「そう、転んでも進んでいけばいいんだよ」
「うん、分かった」

 ということで、水竜亭にやってきた彼らは。
「でね、ケイトさん。ニーナがエチゴヤをおそうっていうんだよ」
「ニ、ニーナらしいな。今度こそぬいぐるみを贈ってあげないと」
 アレクはニーナが熊のぬいぐるみ欲しさにエチゴヤを襲おうとした話をしました。
「そういえばケイトさん、アルトリーゼさんが何か、変」
「う、うむ。鬼のようだな、思わず壁に隠れてしまった」
 依頼の目的よりも食べることが大事になっているアルトリーゼは、レイブンの灰色の卵をみつけ、
「それは食べ物ですよね」
「これは食べ物ではない」
「美味しそう」
「まずい」
 などと、グルメロードを突っ走っています。すでに夜の部の料理を半分制覇したもよう。
「しかし、こんな子供が冒険者なんだ。世の中変わったよね」
 マリスは自分も若いのに、世慣れた事をいいたいお年頃のようです。
「あ、アレク君、元気?」
 エリヴィラがアレクを見つけて、やって来ました。水竜亭のウエイトレスさんは白いエプロンに青いリボンをつけています。 
「エリヴィラお姉ちゃん!」
アレクはエリヴィラに駆け寄り抱きつきました。
「久しぶりだね、アレク君」
 その様子を見ていたセシリーは、なんとなく落ち着かない気分を感じつつ、コマドリのペンダントを握り締めています。そんなセシリーにエリヴィラは乙女波長を感じとったのか、
「アレク君。ほら、お姉さんが待ってるよ」
 と、セシリーを指差しました。
「う、うん。またねエリヴィラお姉ちゃん」
 ついにアレクはセシリーの隣に座り、
「そうだ、セシリーお姉ちゃん、今度またデートしようね」
 何の気なしに言った言葉にセシリーは赤面しました。アレクはまだまだ子供のようです。
「アレク」
 ちょうど夕食が始まったころ、キールがアレクの元にやってきました。
「キールさん? 今日はジルはいないよ」
「いや、アレクの相手をしろとな」
「?」
「な、なんでもない。無事でなによりだ」
 それだけ言い残して、戻っていくキールの様子を不思議そうにアレクはながめました、キールは席に戻るとまた黙々と食事をし始めたようです。

 アレクを囲む夕べもそろそろ終わりの時間になりました。
 アルトリーゼは全てのメニューを平らげたあと一言。
「及第点」
 という言葉を残しました。マリスは久しぶりにまったりとした時間を過ごして、明日への活力としたようです。だた、なんとなく疲れがとれたのか疲れたの分からない状況だった気もしますが・・・・・・。
 キールは無言で立ち去りました、彼はクールなので騒がしいところが苦手なのです。
 レイブンは灰色の卵をアルトリーゼから守りきりました、いったい何が生まれるのでしょうね。
「セシリー、自分が送ろう。独りでは危険だ」
「おいらも行くよ」
 セシリーは眠ってしまったアレクを背負って家まで送ることにしたようです。それを聞いたケイトとイルコフスキーは、彼女に付き添いアレクの家まで送ることにしました。
 
 最後に残ったエリヴィラは店内の片付けを終えたあと、初日に買っておいたネックレスの包みを開けました。これは彼女が大事な彼のために買ったものです。
「それは勝利のルーンが刻まれているものだ」
 買った時に言われた言葉を彼女は思い出しました。
(冷静そうに見えて、結構無茶するからなあ、お守り代わりくらいになるかな)
 エリヴィラはネックレスを握り締めて、次に彼と会う時を思い浮かべ、独り鼓動を高鳴らせるのでした。


 その夜、寝息を立てるアレクの枕元にはコマドリを模したペンダントと手紙が残されていた。
 その手紙の文面は短く「おかえりなさい」 とある。
 だが、彼がそれに気づくのは朝のことで、今はきっと夢の中で遊んでいるのかもしれない。


 了