●リプレイ本文
ギルドを訪ねた冒険者達は、必要な情報収集と行動を行う。
依頼人の同行について問われた中年ギルド員は答えた。
「あんたたちだけで行ってきなよ。退治に依頼人が同行する必要もないだろう。安全になったあとで、村を訪ねて、供養すれば良いとおもうが」
「そうですか、それなら問題ありません」
ヤグラ・マーガッヅ(ec1023)の問いに中年は返答する。ヤグラは依頼人の同行を止めるために問いを投げかけたようだった。
「この依頼は? 何か似ているような気もしますが」
セシリア・ティレット(eb4721)は、少し前まで掲示されていた依頼書を見ると言った。その依頼はこれから行く村と深い関係があるようにも感じる。
「そうそう、似たような依頼があった、あった。多分、目的地は同じだと思うぜ、もう一組パーティーが行ったから、何かあったらフォローしてやってくれ。あっちは、ちょっと実戦向きと言うには、疑問符がつくような気もするしな。とにかく頼むよ」
中年は、セシリーの村についての様子についての質問にも答えた。
彼によると、村はそれほど大きくはない。全員がアンデッド化していたとしても五十までに届くことはないだろう。
そこまで話すと、中年は、サボリ・・・・・・ではなく仕事に戻って行った。
帰り道、依頼人の自宅を訪ねた女がいた。
「こんにちわー、依頼人さんいる?」
ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)だ。依頼人さんという呼び方もよく考えると不自然だ、しかし名前が分からないので仕方ないとも言える。
戸口に現れた、依頼人にルイーザは説明した。
普通に埋葬をした場合、アンデッドとして復活する可能性も高い。
だからこそ、火葬して葬ったほうが、死者の眠りが再び妨げられることもなくなり良いのではないか? と。
依頼人は、ルイーザの話を聞いて、しばし考えに沈んだあと。
「何度も惑うのは彼らも不本意でしょう。可能な限り、永遠の眠りにつかせてやってください」
「あたしらに任せて、泥舟に乗ったつもりで待ってて。それじゃ行ってきまーす」
ルイーザは明るい笑顔を残して去っていく。
彼女を見送った後、泥舟では沈んでしまうと依頼人は密かに思った。
時は経ち、向かった冒険者が村に着く頃。
不気味にまで静まり返った村に人の気配はない。
村が崩壊して、時は一月ほど経っているだろう、崩れかけた家屋が、当時何があったのかを静かに物語っている。
訪れるものもなく、静寂と沈黙だけがここにある。命を失った亡者と共に・・・・・・。
たどり着き、遠巻きに村の様子を探っていた冒険者達は、暗闇が明けるのを待っていた。
十月も半ばを過ぎると、北の地の空気は冷える。
冒険者達は、野営の準備も終わらせ、見張りを立てた。その見張りも、三つ目を回るころ。
周りには、寝息を立てる仲間がいる。時折、寝言を話し出すものもいるようだ。
揺らぐ炎の形を黙って見つめていた男は、焚き火の向こうにいる陰気な仲間を見つめると驚いた。
フォン・イエツェラー(eb7693)の視線の先にいる男は、先ほどから熊のぬいぐるみを取り出して眺めている。
確かに、大人の男が熊のぬいぐるみを愛でる光景は、違和感を覚えるものだ。しかし、フォンが驚いたのは、その事実よりも熊のぬいぐるみの異常さであった。
「ラドルフスキー様、ぬいぐるみはいったい?」
フォンの不審感に満ちた問いかけに、ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)は動じもせず淡々と答えた。
「グッキーだ」
名前を聞いたわけではない、フォンはそう思ったが、無言のままに時間だけが流れる。そのうちに、彼らの見張りの時間は終わり、セシリーとディディエ・ベルナール(eb8703)がやって来た。
そのため、フォンの疑問は未解決のまま終わる。グッキーという熊のぬいぐるみは、見るものに根源的な恐怖を思い起こさせるぬいぐるみのようだ。
──そろそろ夜が明ける。
イオタ・ファーレンハイト(ec2055)の前に動く死体がある。
二人の間、濁った視線と交錯する瞬間、輝く剣を構えると彼は斬り、死人は倒れた。
蠢く者どもに裁きと休息を与えるため冒険者達は、剣を振り呪文を唱える。
炎は渦を巻き、地を呪が走る。魔術師と戦士が動くたび、舞い散る枯れ葉のごとく蹴散らされるアンデッドの群れ。
緊張するほどのこともない、油断にも似た何が冒険者達の間に一瞬流れた。
皇 茗花(eb5604)はそんな中で、疲労した体を休めるため一息つくとき、何の目をやった先に。
彼らは、いた。
─α─
襲われている集団を目にしたフォンは、ひとまず目の前の敵を放置することに決めた。現在の彼の前にいる敵は、たいした脅威では無い。
駆け出すフォンの手には光に包まれた剣がある。援護に回るメンバーの様子を見たルイーザもまたそちらに向かおうと考える。
だが、彼女の前には一風変わった死人がいた。
冷えた瞳から感じる殺気のような気配、目の前に立つ不死者はきっと、普通のアンデッドではない。
油断をすれば、かなりの打撃をこうむることになるだろう。援護に回る余裕はない。
そう判断したルイーザは、両の手に構えた武器で指し、相手を挑発するかのように手招いた。
状態に気づいたディディエやラドルフスキーは、自らの呪では巻き添えを伴う可能性を考慮にいれた。すでに向かった仲間もいる。あえて危険を冒すこともない。二人は目前の敵の掃討を目標にして呪文を唱え始めた。
セシリーは自らの傷を癒していた。
一時包囲されたがなんとか撃退をして負傷した結果だ。敵の数はそれほど多くはなかったが、少ないとも言えないだろう。
負傷の治療のため下がった彼女を守護するのは、茗花とヤグラだ。
茗花の張った結界にセシリーは下がるヤグラは、浄化を戟に変え敵を撃つ、放たれた力は死したものを真なる眠りへと誘うだろう。
跳び上空から敵は来た。
回避を捨て、受けに回ったフォンは、衝撃を受け止めた。
目の前の集団に、戦士とおぼしき者は一人らしい。不利と見た彼は、割り込むように入り込むと盾となり、あえてここで自分が受け止めるのを選ぶのだった。
イオタが周囲を見回すと、動くものはいなくなっていた。
彼の剣の刃には、汚れた血がこびりついている。黒く変色した血は、もはや生命の証を告げない。イオタその穢れを振り払うかのように、剣を軽く振った。
遠くの方で大地を伝う重力波の鼓動、そして火炎の立ち昇る姿が見える。
戦いは、まだ終わっていない。悟ったイオタは、剣に波動を灯らせると、走り出した。
それからしばらく後、戦闘は決着する。
村を徘徊していたアンデッドは掃討された。襲撃した首謀者はすでにこの場を立ち去っていたようだ。
もう一組やって来ていた冒険者は、自らの目的を遂行するために、村の中心部へと進んでいった。
残された彼らは、埋葬を始めることにする。
「埋葬は、火葬のほうが良いのか?」
茗花の問いに、ヤグラは頷いた。
広場に集められた遺体に各々持ってきていた油をかける。
その数は二十体ほど、淡々と運んで焼く作業に皆無言のままだ。
独特の匂いが満ちる中、せめて明るくしようとルイーザはおどけて、イオタをからかったが、彼はそれほど乗らなかった。
集められた遺体処理が終わったあと、セシリーが持参した聖水を灰にかけた。
「いったい誰がこんなことをしたのでしょうか?」
ディディエの問いに答えられるものはいない。葬送の儀式は続き終わり、陽も落ちた。
「二人の合作です」
「それなりに美味しいと思う」
野営したヤグラと茗花は手料理を差し出した。
差し出された料理を受け取ったフォンは一口食べると、素直に、
「美味しいです」
感嘆した。
相変わらずラドルフスキーはグッキーと戯れている。陰気な男に悪鬼の熊はとてもよく似合う。
ルイーザとイオタは、イオタのちびっ子につっこむルイーザにイオタが、やや切れかけて声を発した。
「小さいことが悪いのですか!」
イオタの声の勢いに皆が振り返った。視線の中心にいるイオタは、ばつの悪そうな顔をして黙った。
その様子を見てルイーザはかえって楽しそうだ。
「イオ太はにゃー小さいからいいのだ」
そんな光景をセシリーとディディエは微笑ましく感じつつ手作り料理を食し眺めていた。
「とにかく無事終わってよかったです〜」
「これできっと、村人さんも迷うことはないですね」
そして、夜が更けていく・・・・・・。
こうして退治は無事終了し、彼らは村を後にしたのだった。
叩かれた扉を開くと、そこに見慣れない姿の男がいる。
「貴方は?」
彼がそう聞くと、戸口の男は答えた。
「預かった言葉を無事墓前に備え、村に安らぎをもたらしました」
「ありがとう、これできっとみんな浮かばれます」
イオタの報告を聞いた依頼人は、深々と一礼した。
了