ニーナ・ニームの憂鬱

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月21日〜03月24日

リプレイ公開日:2008年03月23日

●オープニング

「ニーナ!」
 眠気を誘う昼下がり、机に向かい、古代魔法語の勉強していた彼女は、傍らの三角帽子をちょこんと被ると、訪れた少年の声に振り返る。
「どうしたデスか? アレク」
「ジルが、手紙というか、よく分からない、へんな書置きがあって」
 咳き込み話す彼の話を聞いた彼女は
「反抗期の男の子症候群デスね」
 ばっさり切ったあとで、呆れた。呆れるというよりも、予測の範囲内ではあったが。
 落ち着いた態度をとる彼女を見て
「なんで、そんな落ちついてられるの? さがしに行かないと!」
 目の前の少年をどうするべきか、彼女は迷ったあと言った。
「放っておいてあげることも、優しさなのよ」
 過去に一度だけアレクは、彼女が怒ったのを見たことがある。
 その時、感じたものと同じ何かを、アレクはその時、感じた。
 静かであるからこそ、その静寂に畏怖を覚える。
 少年は彼女との間に自らとの差、時の壁を見た。彼女の外見は、確かに彼より幼い、しかし重ねた時の差は埋められない。
 それでも、
「分かったよ。でも、僕、やっぱりさがしてくる」
「いってらっしゃい、デス」
 走って行くアレクの後ろ姿を見送ると、彼女は家を出た。

 視界を塞ぐひさし、帽子のつばを杖であげると陽を眺めた。
 過ぎ去って行く季節、変わる風景。
 彼らは、いずれこの移り行く世界から消え行く、その時、独り残される自分に残るものが何なのかは分からない。
 けれど、記憶の中にだけでも全て記しておけば、彼らはずっと生きつづけるのかも知れない。
 ジルは戻ってくる。
 それなら、何にしよう。
 ケーキ。
 そう、ケーキがいい。
 ケーキを焼こうと、彼女は思った。
 けれど、自分独りでは何も分からないことに気づいた。
「あの時、真面目にやっておけば良かったデス」
 呟いたニーナは、ギルドへ向かって歩き出した。

●今回の参加者

 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1182 ラドルフスキー・ラッセン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

●ケーキ☆

 ジルが一騒動起こしている頃。
 ニーナはケーキを焼くために死闘を始めていた。
 ケーキを焼くのに、なぜ死闘という言葉を使ったか?
「しふしふー! 宿願成就記念ぱーてぃー」『記念♪』
 ・・・・・・。
 何か戯言を叫んでいるシャリン・シャラン(eb3232)とかいう名前のシフールがいる。 彼女を見ていると、体の節々が痛むと同時に妙に叩き落したくなる。
 そんな、気分がふつふつと沸いてくる。
 いや、気にしないでおこう。
 若干、記憶が曖昧だ。


 さて、死闘を話す前に
 ニーナはケイト・フォーミル(eb0516)、皇 茗花(eb5604)と一緒にお買い物に出かけた。二人とも両脇に立ち、手をつないで歩いている。
「おかいものー♪」
 うでをぶんぶん振り回しているニーナはわくわくだ。
 二人とも、その様子をみて微笑んでいる。
 茗花ならまだしも、ケイトとニーナでは身長差があるので、ケイトは手を繋ぐのは大変そうだったが、何も言わず歩いていた。
 こうして和やかな雰囲気でお買い物に三人は向かった。
 シャリンとお供のゴールドとフィニィもいるが。
 シャリン自身が、もうあれなので
「重いのもてない!」『もてない☆』
 とりあえずシャリンの分はフィニィが運んであげたようだ。
 ゴールドは値切るというか最後は喧嘩していたようにも見えるが気にするな。


 その間、リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)はセッティングの鬼と化していた。
「こんな内装では許しません! このパーティーつつがなく遂行します。なぜなに先生の名にかけて」
「は、はい、俺も炎に誓って頑張るぜ」
 ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)は、リディアの勢いにのまれた。そのため色々道具運びやら、こき使われている。
 リディアは行き遅れ三バカ・・・・・・じゃない三羽烏の一人である。そのため、お嫁入り準備特訓を重ねていたため、家事は得意のようだ。
 何かそれってさみしいぞ、早く嫁にいくんだリディア。
 しかし、あの三人、そろそろ誰か嫁にいかない?


 ──街。

「ケ、ケイト?」
 小麦粉を運んでいたケイトが、なぜか壁に隠れた。かなり久しぶりの気もするが、彼女は壁に隠れるのが本能だったような気がする。
「きっと、人ごみが苦手なのだろう」
 七割がた茗花の言うとおりかもしれない。壁に隠れているケイトを見たニーナは、
「ケイトは一人だと駄目デスね」
 とことことケイトに近寄ると、ケイトの頬をぷにっとした。
「ケイト、ケーキ、はやくケーキ」
「う、うむ、いこう」
 ケイトは照れた。
「ほら、二人とも、まだ仕入れはを終わっていない」
 茗花に促されて次の買い物に向かう。
 こうしてケーキ用材料を仕入れた彼女達はニーナ宅に戻るのだった。


 ──ニーナ宅。

「そこのボーイミーツガール、わしを忘れてはいない、いったい何をやっているわけかな? カナブーン」
 ニーナ祖父。
 原色。
 ファンキー。
 孫にセクハラをする、素晴らしい肉親。
 このあたりだったような気がする。 
 記憶が曖昧だ、変な駄洒落は言わないような気もするが、まあいい。

「見れば分かるだろう、パーティーの準備」
 ラドルフスキーは、相変わらず忙しい働いている。しかし、元々体力があるわけではない。なにせ顔色の悪さは超一流である。
「そうなのか、死にかけサイドデスマッチ。まあいい、わしも手伝おう」
「本当か?」
「泥舟に乗ったつもりで任せなさい」
 よく聞く台詞に、ラドルフスキーの脳内を嫌な予感が駆け巡った。即決その判断は下される。
「俺一人でやるよ」
「なぜだ。未来の祖父に向かってそういうことを言うのだな。分かっているのだぞわしの目をごまかすことはできない」
 ジジイズ・アイ。
 それはジャッジメントの証、全てのもの見抜く歳の力。ラドルフスキーは、そのぷれっしゃーの前に動けない。
「く」
 とりあえず、焼いている場面へGO

「おいしくつくるわよーフレア」『がんばれー☆』
 このシフールどうしても、何か納得がいかない。
 ニーナは、小麦粉と格闘していたが。
「ケイト、小麦粉! 混ぜて」
「じ、自分? ニーナがやらないと」
「ちっちゃいからできないデス」
 確かに、ニーナはちびっ子なので、混ぜる力は弱い。
 基本的に作製工程をニーナにやらせるつもりだったケイトは、どうするか迷った。
 同時に、このときケイトの脳裏によぎったのは。真っ白になる自分の姿であった。
「そ、そうだな! 小麦粉くらい混ぜても、大丈夫! かな」
「茗花 卵!」
 卵を渡す茗花、ニーナは割るというより、潰すという感じで卵を粉砕、どろどろにしつつも混入する。 
 殻の混ざった素地をみた茗花は、苦笑いしつつ、焼き釜に火を入れた。


「これでよし、上出来です」
 リディアはお茶の用意を完了した。
 それにしても、色々あったような気がする。
 彼女はふと寂寥感のような物を覚えた。
「これからどうするかは」
 リディア自身も分からない・・・・・・と彼女が浸っていた時だった。
 厨房で?


「火、火、火!!!!!!!!!!」
 ケイトがたじろいでいる。釜の炎がなにか凄い勢いで立ち昇っている
「ここは俺の出番だな、任せておけ」
 ラドルフスキーが呪文を唱えると、炎は跡形も無く消えた。
「ラドラド、火消えちゃったデスよ?」
「ああ、そのための呪文だ」
 満足げなラドルフスキーに茗花がぽつりと言う
「火が消えたら、生焼けになると思う」
 ・・・・・・・・・・・・。
「まだ俺は準備があるから、これで」
 ラドルフスキーは逃げだした。
「に、にげるなー!」
 ケイト。
「火付けです」『放火です♪』
 シャリン。
「これだから、ラドラドは駄目なんデス」
 ニーナ。
「まあ、もう一度つければいいだろう。形としてできればそれでいい」
 茗花が締めた後、もう一度釜に火が点されるのだった。
 

 そののち、ケーキは焼きあがった。
 シャリンはフレアと一緒に先に食べたため、記録係キックを喰らったようだ。
「いたい」『いたい♪』
 こういう時は皆集まるまで待つものさ、シフールさん。


 焼きあがった甘い香りの立つ焼き菓子を皿に移した茗花は、テーブルに用意してあったお茶を注いでみる。
 冷えた空気の中をそよぐ芳香が、彼女の鼻をくすぐる。
 自分は他の者ほど、少年達とは関わりが深くはない。関わる要素を持たなかったのあるが、自ら関わらなかったのもあるのかもしれない。
「茗花? どうしたデス」
 焼きあがったケーキを運んできたニーナが、聞いた。
「ちょっとな」
「いつも冷静なのに、珍しいデスね」
「冷静なわけでもないが」
「そうですか、茗花はどこの国にすんでたのデスか?」
「華仙教大国だ。ここより南東にある国かな」
「おうちに誰かいるのですか?」
「母はいる」
「お父さんは?」
 茗花は答えなかった。いるのかも知れない、いないのかも知れない。どちらであれ。それは今は良いことだ。
「さて、そろそろ帰ってくる頃だろう」
 茗花は立ち上がった。


 焼きあがったケーキに飾り付けにラドルフスキーは、古代魔法語をモチーフにしたメッセージを使うことを提案した。
「分かるか、分からないか。そんなことよりもニーナの気持ちを伝えられる言葉を使う、それだけでいいと思う」
 聞いたニーナは、珍しくラドルフスキーを褒めた。
「ラドラドもたまに良いことをいうデス」
「たまにか?」
「たまに、ね」
 なぜか、二人で微笑みあう。
「ケイトのところに行って来るデス」
「ああ、いってらっしゃい。準備しておく」
 


 案の定真っ白になったケイトは、着替えを終えていた。
 やって来たニーナは、
「黒いほうがケイトらしいデス」
 そう言った。
「ひ、ひどいな!」
「ケイトは、叩かれても殴られても、死なないものね」
「ああ、まだニーナを一人にさせるつもりはない、死んだって生き返る勢いだぞ!」
 胸を張るケイト。
 ケイトのニーナは走り寄ると抱きついた
 それは、長い時間ではなかった。温もりが離れてるは一瞬だった。
 離れた後ニーナは、いつのように笑って、ケイトを見つめ、
「ありがとう、うれしい」
 そう言った。
 ケイトは、返すのにどの言葉を選ぶか迷った、けれどこれが正しいと自分で思ったものを選んだ
「い、いつかは皆離れるとしても、寂しくなっても……想いがあれば負けはしない。自分は、そう思いたい」
「うん」
 

 最後に待つのが彼女だとするのなら、それもまた。
「さて、ニーナさんから見てアレク君とジル君の2人はどう見えますか?」
 帰趨のようなものかもしれない。
「リディア先生。アレクはもう一人でだいじょうぶ。ジルは、まだ子供だから、でも子供は旅に出さないとだめかな」
「そうですか、ニーナさんもそろそろ前に進んでみてはどうでしょうか?」
「私が」
「特に深い意味はありません、ですが人は良くも悪くも前に進んで生きていく生き物だと言う事です」
「そうデスね、ううん。もうこの口調も終わりかな」
「私ならやらないで後悔するよりもやって後悔する方を選ぶ。大人になるとはそういうことかもしれません」
「考えてみる」
 去っていくニーナを見つめ。
「はぁ・・・最近どうも説教臭くなっていけませんね、だから行き遅れトリオとか言われてしまうのですね」
 リディアは呟いた。


「帰ってきた! もう、たべちゃうぞー!」『ちゃうぞー☆』 
 シャリンが喜びを踊りで表現しながら、告げている。
 どうやら、ジルの帰宅のようだ。


●開かれる扉


 待つのが苦しい思える間は、幸せなのかもしれない。
 待つことさえできない事が、苦しいのかもしれない。

 どちらにせよ、待っているものがいる場所。
 そこに帰ってくることができる彼は、きっと幸せだろう。

「何も言わず迎えることも、きっと家族なのですよ」

 リディアが言った。

 開かれる扉。
 その向こうから訪れる風は、別れを運んでくるだろう。
 別れの後に何が来るかは誰も分からない、分かっていたとしてもそれは──。
 今語るべきものではない。

「おかえりなさい」


 扉は開かれた。



 了