幻影の慕情

■ショートシナリオ&プロモート


担当:Urodora

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月19日〜11月24日

リプレイ公開日:2006年11月26日

●オープニング

●序

 はるか昔、その洞窟には幻の徴があったと聞く。
 魔に長じたものの意思と力を用いれば、陽炎のごとき想いを浮かべ歩ませることも叶ったとも言う。
 だが、風化する記憶にその存在はいつしか忘れら去られた。
 
 今からそれほど遠くない昔。とある逃亡者たちがそこに逃げ込んだ。
 その洞窟で追われたものたちは、安息と平穏を取り戻す。しかし、追われる者には必ず猟犬が放たれる。その放たれた牙が彼らを捕らえたのは、ささやかな月日のあとだった。
 牙が噛み付いたその後。彼らがどうなったのかは・・・・誰も詳しくは語らない。
 いつしか誰もがその洞窟で起きたことを忘れた。いや、忘却することで罪の意識から逃げたのかもしれない。
 そして時は過ぎ・・・・。


 ──封印は破られた。
 


●ギルドにて


 それは、うららかな陽気の午後。
 珍しく静かな冒険者ギルドで、居眠りをしていたギルド員はその依頼を聞くなり思わず。
「え! 帰ってくれ」
 と、拒否反応を起こしてしまった。
「おいおい、あんたの一存で決めるのかい」
 そんな様子を見て依頼主は呆れている。
「そ、そういうわけではないんだ。ゴーストが出るって話ね」
 依頼主が言うには、村の近くにある洞窟にゴーストがでるという噂があるそうだ。
「でも何の害もないんだろ。それならほっときなよ」
「いや、村の若いもんがさ、その噂を聞いて洞窟を見にいくっていったきりここ数日帰ってこないんだよ」
「なら、あんたらだけで探しにいけば・・・・」
 ギルド員の言葉を遮るように強く。
「こっちにも色々事情があるんだよ! とにかく捜索を頼むよ」
 そんな依頼主を前にもはや断る理由もない。
 乗り気ではないのは、ギルド員なりに色々な事情があるのだが、それはギルド員自身の問題なのでおいて置こう。
 こうして冒険者ギルドに依頼が舞い込んだ。

●今回の参加者

 eb5724 レイヴァン・テノール(24歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7784 黒宍 蝶鹿(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●サポート参加者

一文字 大我(eb5524

●リプレイ本文

●冒険の前に

 はじめまして。僕はレイヴァン・テノール(eb5724)、ナイトです。
 この暗黒の大地に正義とモラルを打ちたて、より住み易い国にするため日夜、頑張っているところです。
 今日は、なにやらギルドに不穏な話が舞い込んだようで、その依頼を受けるべく今ここにやってきたところ。
 どうやら今回の仲間は三人? いや、二人のようですね、ぜひ僕の力で依頼を成功に導きたいものです。


 ギルドについたレイヴァンは、なにやら目の前で騒動が起きているのを見た。
 騒動と言うわりにはたいしたことではないが、どうやらギルド員と仲間たちがなにやら話し合いをしているらしい。
「俺は知らないよ。前の依頼とは関係ないって」
 そろそろ中年という言葉が似合うギルド員は、前に立つ僧衣を着込んだパラの少年? にそう返した。
「でも、係員さん、神様の前では何者も嘘をついちゃいけないんだよ」
 それに対して、穢れなき黒い瞳で真っ直ぐギルド員をみつめるのはイルコフスキー・ネフコス(eb8684)、クレリックである。 
「だから坊や、俺は・・・・」
「おいら坊やじゃないよ。それにジュラさんから前の依頼の話を聞いたよ。ね、ジュラさん」
 イルコフスキーの視線の先にいるのはジュラ・オ・コネル(eb5763)。彼女は椅子にゆったり腰掛け、飼い猫のマスターシェを膝にのせて撫でている。声をかけられたジュラは、一瞬ギルド員を睨み
「忘れたとはいわせない」
 と、ボソリと言った。
「・・・・」
 あの貧相な胸の東洋系ハーフエルフ女・・・・この前も見た気がする。いかん逃げられん。 
 確かにギルド員には弱みがある。前回の依頼は彼の人生設計を多少狂わせた、子供の教育資金やら新築した家の借金があるからとはいえ、裏のルートに手をつけるべきではなかったのだ。
「分かってくれよ、俺にも生活が」
「生きてれば色々あるよね。でも、係員さんの信じる神様に誓って何も知らないというならともかく、それができないならお話してくれないかな?」
 そんなイルコフスキーの言葉。
 ああ、神様、お願いします。今この危機を救ってください、浮気はもうやめます。
 けれど、あからさまな私的事情込みで具申したギルド員の祈りが届くわけもなく、さらに追撃が
「誓えないなら隠し事をしているということで、ギルドのもっと偉い人にこのことをお話しすることになるけど、どうする?」
 童顔に似合わずイルコフスキー、なかなかのやり手? それとも神の思し召しだろうか。
 切り札をここで切ってくるとは、ただものではない。
 それを聞いて、ギルド員は観念した。
「うー、前の依頼については話すから勘弁してくれ」
 
 都合上ギルド員の独白は簡単に。

 ・退治の始末は、ある貴族からの依頼だった。
 ・あの洞窟はその貴族にとってなにやら大事なところらしい。
 ・どうやら、洞窟に封じられた魔力を元に月魔法の実験をしていたようだ。
 ・実験体のために、冒険者を必要とした。
 ・今回の依頼は、自分は何も知らない。

 結局、ギルド員もたいしたことを知らないのが本音のようだった。

 
 さて、その様子を眺めていたレイヴァンは思った。

 なんだか、僕にはよく分かりませんが、どうやら問題は解決したようですね。
 これで出発できます。姉さん待っててください、姉さんは僕が守ります。
 ロシアの大地に秩序を、この手この意思で・・・・さあ行きましょう。
 
 レイヴァンが拳を握り、熱く何かを誓っているのを見たギルド員は

「なあ、一つ聞いていいか」
 と、イルコフスキーに聞く 
「おいらで答えられることなら」
「受付の片隅で一人モノローグしてる女騎士は、お前たちの仲間か?」
「うん。でも、レイヴァンさんは男だよ」
 ちょっとびっくりつつしつつ、ギルド員は
「まあ、あんなにデカイ女はジャイアントでもないと、そんなにいないか。とりあえず・・・・死ぬなよ」
 と、ぽんと肩を叩く
「大丈夫だよ! なんとかなるって、神様は見守ってくれてるから」
 明るいイルコフスキーの笑顔をあとに、出発の運びとなったのでした。


●到着一日目

 斜めに長い影、夕陽の赤に乾いた北風が吹き込んでくる。
 風は、薄く積もった雪をふわりと宙に浮かべた。
 その光景に目をやったジュラは思う、この村にくるのも二度目だ。
 確か前に来たのは秋のころ、木々の葉が色づくころだった。だが、今では葉も落ち冬の足音がやってきている。
「やっぱり寒いね」
 イルコフスキーの吐く息は白い。
「着て正解だった」
 そう言うジュラの着ている防寒服は、まるごとてぶくろという変わったものである。
 左手につける皮の手袋を模したその服を着ると、もれなく極寒の中でも肉体じゃんけんができるという優れもの? そんなわけはない。
 想像するに薬指から顔を出しているのだろうか、いや、中指かもしれない。といいつつ親指だったら凄い。
 この議論はひとまずおいておこう。
「ジュラさん似合っていますよ」
 レイヴァンの視点から見ると、どうやらジュラに結構お似合いのようだ。
「・・・・」
 それを聞いてちょっと照れているのだろうか、まるごとてぶくろに深く顔をうずめるジュラ。
 意外に可愛いところもあるのかもしれない。
「でも、村の人たちの口が堅いよね。なんでかな?」
 イルコフスキーの言うように、彼らは村についてから調査を始めた。
 はじめ失踪した村人の特徴を聞く、どうやら二名でどちらも壮年の男らしい、彼らにはそれほど変わったところもなく好奇心で洞窟に向かったと言う。
 続いて、ジュラの話から聞いていた例の昔話について聞き込みを進める。けれどなぜか村人たちは、その話題を出すと一様に口を閉ざしてしまうのだ。

「察するに、何か触れてはいけない禁忌があるということでしょう」
「いけないことかあ。村の人たちは何をしたのかな、気になるね」
 怪訝そうなレイヴァンとイルコフスキー
「今日は遅い、明日にしよう。僕は朝、森にいく」
 ジュラの提案に二人はうなずく。
「じゃあ、おいらは亡霊を見たという人にお話聞いてみるよ」
「では、村長に協力を仰いでみるとします。お昼頃にまたここで」
 洞窟へ進む道を前にして、彼らはいったん村へと戻るのだった。

 こうして、到着一日目は終りを告げた。

 
●二日目 午前 
   
 朝。森へ向かったジュラを迎えたの厳しい寒さだった。
「ほら、寒いし落ちる」
 なぜかこの寒い中、肩に飛び乗ったマスターシェは服に爪を立てニャーと鳴き、あさっての方向を向く。
「・・・・誰に似たんだろ」
 とりあえずマスターシェを懐にねじ込むと、森の調査をはじめる彼女だった。

 村長の元を訪れたレイヴァンは、いつの間にか村長のあり方を熱く講義していた。

「それでも村長ですか! 村を守るために身命を尽くすのが長たるものの義務でしょう。トップがそのような意気込みで何のための権力ですか、王が王である価値がないのなら、国は滅んで当然です。僕は、騎士です。騎士が国のために尽くすように、村長が村のために行動するのは当たり前のことではありませんか。少数とはいえ、村人の命が危ういのですよ、今ここで動かなければ、何のための村長なのです」

「とはいっても、こちらにも事情があるんだがね」
 その勢いにちょっと困惑気味の村長は、弱く返した。
「事情、そんなことで僕は引き下がりません。真実を話すまで、さあ村長。答えてください、いったい何があったのです」
 バン、机を思いっきり強く叩くレイヴァン。
「はぁ、君もしつこいね」
「申し訳ありません。けれど、引きませんよ」
 ついに諦めたのか村長は、ぼそぼそと語りはじめるのだった。

 そのころ、イルコフスキーは亡霊の第一発見者を見つけていた。
「亡霊? 俺が見たよ」
「やった、亡霊ってどんな感じなのかな」
 村人はちょっと考えていたようだったが
「俺は、この村では新参者だから詳しく知らないけれど、昔あの洞窟にキエフから逃げてきた夫婦? がいたんだとさ。どうやらその二人は洞窟で死んだらしい。で、俺がみた亡霊ってどうやら二体だった気がする。もしかしたら関係あるのかもな」
「夫婦?」
「ああ、何か無残な最期だったらしい。ただ誰もそれについては語らないと思う。ここだけの話、村で見殺しにしたようなものらしいんだ。俺が話したってのは内緒な」
「神様に誓って内緒にするよ。ありがとう」


 そして、洞窟を前に彼らは揃った。
 森には点々と洞窟へ向かう足跡があるだけで他には何もみつからなかった。レイヴァンが村長から聞いた話は、イルコフスキーの聞いた話を少し詳しくしたものだった。
 その夫婦に刺客を放ったのはキエフに住む貴族で、村は金のために見殺しにしたということらしい。
 どうやら今回のゴースト騒ぎは幻覚ではなく、本物のようだ。

「辛いね。おいら、神様の元に送ってあげたいよ」
「ですね。やり切れません。弱者を救ってこそ・・・・」
 しんみりしている二人
「行こう、きっとなんとかなる」
 そんなジュラの言葉を合図に前へ進みだすのだった。


●初戦

 それは放たれた。白い氷点の牙は皆を包み、極寒よりもなお冷たき嵐が襲う。
「くっ、ブリザード」
 直撃を受けたレイヴァンはひとまず、後退する。他のメンバーも軽傷だが決して痛くないわけではない。
「・・・・たいまつが」
 アイスブリザードの前にジュラの持つ、たいまつが消えそうだ。
「ランタンが外に、イルコフスキーさん入り口の馬」
「わかった、すぐ戻るね」
 レイヴァンの声に駆け出すイルコフスキー。
 彼らの前に立つのは二つの影、影は人、しかし人であって人ではない。
「僕は戦いにきたわけじゃない、頼まれて調べに来ただけだ、そっちは、誰?」
 ジュラの問いに返って来たのは怨嗟に満ちた声だ。
「黙るがいい、お前ごときに何が分かる。我が苦しみ、我が痛み」
 これは駄目かな。ジュラは作戦を変えることにした。どちらから行く?
 それよりもこのままでは・・・・。
「ジュラさん、いったん退きましょう」
 レイヴァンの手から、牽制でオーラの輝きが放たれる。怯んだ亡霊を前に退く彼ら。
「ランタン、もってきたよ」
 戻ってきたイルコフスキーを前に、ジュラはある作戦を語る。
「分かりました、では片方の足を止めます」
「おいらも頑張るよ」

 かくして、戦いは次の場面に入る。
 
●連戦

 微笑み、誰なのだろう。姉さん? こんなところにいるわけないよね。夢なのだろう・・・・。
 レイヴァンはうつつの中で愛する人に会う、それが誰なのかはわからない。だが、彼は憑依された村人を前に立ち尽くした。

「近づいちゃだめだ!」
 ジュラの声にイルコフスキーの足は止まる。
「でも、レイヴァンさんが」
「きっとイリュージョンだと思う。前もあった。僕たちはこっちをなんとかしないと」
 相手は村人だ、不用意に傷つけるわけにも行かない。握ったホイップ、タイミングを計り・・・・打って絡め、動きを封じる。

 この温もりは何なのだろう。目前に祈りを奉げる何かが見える。
 いつだったろう、私がここに縛られたのは、どうして今頃になって目覚めたのだろう。
 光だ、この温もりはきっと光だ、神の慈愛など無いと思っていたのに、もうここにいられない。けれど、私の願いはたった一つ。  

「頼む、娘を・・・・娘を」
 崩れ落ちる村人、それと同時にイルコフスキーの祈りも止まる。
 神の祝福は平等に訪れるはずだよ。だから今は、
「ゆっくり休んでね。神様と仲良く」
 聖書を胸にイルコフスキーは、もう一度静かに祈りを奉げた。

 レイヴァンが気づいたとき、目の前には誰もいなかった。
 命拾いしたのだろうか? ぼんやりとして振る頭、仲間の姿も見える。 
「レイヴァンさーん、無事で良かった」
 走ってくるイルコフスキーの姿を見て、彼はほっと一息ついた。

●幻影の慕情

 今からそれほど遠くない昔。洞窟に逃げ込んだ家族がいた。
 家族はある事情で追手をかけられていて、両親はその洞窟で最後を遂げるが、生き残った娘が一人。
 けれど、その娘が今どこにいるのか、誰も知らない。
 この洞窟は幻の徴がある地、全ては幻影の見せるひと時の夢なのかもしれない。
 いや、それはきっと違う。
 幻は人の心を映す影でしかない、彼らが目覚めたのには理由がある。
 その理由を知ることを冒険者たちはできなかったけれど、それでも縛られた魂の一部は解放された。

 露にこぼれた想いは乾かない。
 亡霊の慕情、託した願いは涙になる。
 残ったのは一枚のタロットカード、愚者が歪んだ微笑を浮かべている。

●エピローグ

 その後、もう一人の村人も街道沿いで発見されたという。憑依されていた間の記憶は曖昧で意味をなさないものだった。 
 イルコフスキーは洞窟の仕掛けを調べようとやっきになったが、専門家ではないので
「なにがなんだかわかんないよ」
 と、そのうちに諦めてしまった聞く。


 ギルドについた彼らの前に、ブツブツと不機嫌そうなギルド員の姿がある。
「最近また忙しいんだよな。王宮関係の仕事なんて、軍でも動かせばいいだろ。冒険者は庶民の味方っと・・・・」
「へえ、庶民の味方が私腹を肥やすんだ」
 ホイップ(鞭)をニギニギしつつジュラが言う。
「ちょ、何。お前たち、もう帰ってきたわけ?」
「うん、そういえば鞭でビシビシする人をナントカっていうよね」
 イルコフスキー、どこでそんな知識を得たのだろう。教会にもナントカがいるのだろうか? 
 いやいや、そういう想像してはいけない。   
「今回の冒険も大成功でしたね」
 最後に満面の笑みで言うレイヴァン。君がイリュージョンにかかったから、密かに一人逃がしてないかな。
「まあ、あれだ終りよければ全てよしだ、受け取れ報酬を」
 こうしてギルド員の手から報酬が渡され、冒険は無事終了したのでした。

 了