─黄昏─ 「戦」

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:14 G 11 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月30日〜08月07日

リプレイ公開日:2008年08月18日

●オープニング

 闇の帳が訪れるに黄昏が舞い降りる。

 地を轟かせて蘇る不死者の群れ。

 命の灯火が消えうせたその姿は、

 ──今という時に、相応しいのかもしれない。



●月と太陽

 ヴォルニ家に伝わる二つの器、杖と剣はヴォルニフの地下に眠る竜を封印するものでもあった。
 ヴォルニ動乱の結果により、デビルの使徒たちにその器は渡った。
 封印の地である ヴォルニフを中心とする三点「神の塔・悪魔の門・太陽の城」に眠る封印を解いた時こそ、この地に眠る竜は蘇る。
 それが伝えられた伝承のようだった。
 デビルはその伝承を元に器を手に入れ、塔、門、城の封印を解くべく動いた。
 結果、封印の一部解けたかに見えたのだが、その封印は不完全であり、解けた竜は完全体ではなく、半ば腐ったまま、ズゥンビとして地に現れた。
 同時に、各所に眠る死者もまた蠢動を始める。
 ヴァンガルド家の当主であるリューヌは貴下の騎士団を持って、現れたアンデッドの討伐にあたるが、各地で現れた数を掃討するには足りず苦境に追い込まれる。
 同時にアースガルズの当主が失踪。
 彼女が何のために消えたのかは今持って・・・・・・定かではない。
 また、闇がやって来る。
 リューヌの館に滞在していたテオドール・ヴォルニは自らの配下を召集する。
 テオドールはリューヌの一軍を率いるとヴォルニフへ向かった。


 その頃、ソレイユは半壊した生家の聖堂で祈りを捧げていた。
 祈ることで救われると彼女が考えていたわけではない。
 だが、祈ることしか彼女には出来ない。
 そんなソレイユに声を掛けたのは、
「俺さ、行かないと」
 神妙な面持ちのジルだった。
 手にした弓を強く握ると彼は静かにソレイユに告げた、
「決着というか、たいした理由じゃない。借りがあってそれを返すだけ、じゃなくてなんていうかな・・・・・・きっと俺がいないと駄目だから」  
 いったいジルが何を言っているのか、ソレイユは分からなかった。だが、ジルの瞳に浮かぶ意思の強さに
「いってこい」
 そして──生きて帰って来い。
 ソレイユは胸に在るその先をあえて言わない。
「大丈夫、まだ死ねないから」
 ジルは笑顔でそう答えると旅立った。
 彼にとっての始まり、そして終わりであるだろう地へ。
 全てが終わったら、故郷を訪ねようと彼は想った。
 記憶の中に薄れてしまった面影を追うよりも、再確認して想い出に変えてしまえば、それでいい。

 足取りは軽い。
 二人ともあの場所で待っているだろう。
 予感というよりも確信だった。
 なぜなら自分達は仲間だから。




黄昏
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●要点

 三つあります。


 1、ヴォルニフに現れる、竜を退治する。

 2、悪魔の門の村の援護に向かう。

 3、翼の生えた悪魔、カークリノラースを退治する。

 なお、一人で複数は選べません。


●状況


 1、竜はズゥンビですが、竜には違いありません。アンデッド化しているため、かなり
   頑丈になっています。周囲にはグールやその他不死者など、取り巻きが無数にいます。
   なお、ここが一番危険な場所で重要です。


 2、ジルが向かうのはここです。
   近くにある死者の洞窟という場所が源泉なので、そこを叩く必要があります。
   守備隊は少ないので、それほど長く耐えられないでしょう。


 3、カークリノラースは、キエフにいます。
   なぜいるのかは分かりませんが、何か狙いがあるのは明白です。
   カークリノラースは単体ですが、それなりに強敵です。


  
●補足

 竜はヴォルニフにある、領主の館地下より這い出てきます。
 時間的にまだ余裕はありますし、完全に出てこられる前に頭を叩ければ、
 楽になるでしょう。
 しかし、現状竜が出てくる事を知るためには何かが足りません。

 消えたアースガルズ家の当主を領主の館付近で見たという証言もあります。 
 しかしそれが何を意味しているのかは分かりません。
 
 あとは、こちらの手にあるものの利用方法も考えてみるのもまた面白いかもしれず、ヴォルニ家に連なる、テオドール・ヴォルニもいます。
 直接戦うだけが戦い方でも・・・・・・。


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●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5195 ルカ・インテリジェンス(37歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ レオーネ・オレアリス(eb4668)/ 水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

 夜が来る。
 物語は器に満たされる酒のような物だ。
 昼と夜の狭間に訪れる一時、空白に注ぐ苦い酒は、過去に散りばめた何かを思い出させる。
 すでにその輝きが今は失われつつあるとしても、古くなった酒を飲みほす時、浮かぶおぼろげな記憶として刻まれることを願うために書き記す。


●村

 瞳に映っていたのは、心の底で予期していた訪問客の姿だった。
 訪れた者の表情は硬い、矢継ぎ早の質問を彼女は一通り聞いた後で答える。
「今は急いでいるから、詳しい話は後だ。結論は簡単。仮に何かが解放されるのならもう一度封印するか、もしくは」
「倒せば良い、だけですね」
 ソフィアは言葉の先をシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)が続けた。
「でも、再封印をするといっても、どうすればいいんだろ?」
 エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)の疑念も確かだ、方法が分からないのでは意味がない。
 エリヴィラの問いに、ソフィアは抜かりなかった。
「きちんと調べておいたよ。行われた儀式を逆転させる。話を効く限り、必要な器は手元にあるらしい。そしてこれも」
 ソフィアの手にはロザリオがある。
 少し前の事、彼女達とは別にフォックス・ブリッド(eb5375)が訪れ託していったものだ。
「私がもっているよりも、きっと何かの役に立つでしょうから」
 フォックスはそう言い残すとキエフへと向かった。その光景を思い出しながらソフィアは言った。
「ただ、この状況下でどうするかということかな」
 すでに半包囲されつつある村は、新たに建設された柵で侵入を阻止していたが、長くは持たない。 
「儀式を行うということは、悪魔の門、神の塔へ最低数人は振り分けないと駄目ということですか?」
 シシルの言葉にソフィアは頷く、
「そのとおり。問題はヴォルニフまで戻って器を取って来るまで、村が持つかどうか、封印が完全に解けるまでは余裕があるらしいけれど、この村はヤバイかもね」
 二人の会話を聞いていたエリヴィラは、
「悩んでいても仕方ないよ。戻ろう、戻ってそこでなんとかする」
 シシルはエリヴィラの言葉に
「エリたん熱血。でもその通りかもしれません。幸い、こちらに向かっている仲間もいます。なんとかなると信じましょう」
 シシルとエリヴィラは一旦ヴォルニフに戻っていった。 
 
 ソフィアは二人を見送ったあと、やって来た男がいる。
 マクシーム・ボスホロフ(eb7876)だ。
「封印について話を」
 彼の問いを聞いたソフィアはなぜか笑った。
「あーちょっと遅かったかな、詳しい話は今からします。村を守りにやって来るのが君達なら大丈夫かもしれない。その中から何人かは悪魔の門に向かわないと駄目なのだけど、空いている人はいるかな」
 悪魔の門という単語を聞いたマクシームはさすがにげんなりした、
「悪魔の門? 急だな。また、あそこに行くのかい、いいかげん飽きてきたのが本音というか」
「ここまで来たら、最後まで付き合いなさい、マクシームオヂサン。といっても、当面は死体を追い払うことになります。がんばって村を守りましょう!」
 なぜか楽しそうな様子のソフィア、昔の冒険気分を思い出したのだろうか。
「これは、溜息しかでないな」
 言葉の通りマクシームは溜息をもらした。

●キエフ

 その日の午後、キエフ近郊で雷が落ちたと言う。
 鳴り響く雷鳴降って来る小雨。水を吸ったマントを身から剥いだ女は目的地へと歩いていた。
 急いでいるわけではない。けれど雷が一つ落ちるたび、歩く速度があがり、いつのまにか小走りになっている。
 到着した小高い丘に立つ教会だった。
 扉を叩いた女クロエ・アズナヴールは、開いた扉の向こうに現れた神父の姿を見るなり、
「ナタリーは無事ですか?」
 ずぶ濡れの姿のままで、そう言った。

 沖田光(ea0029)はナタリーという少女と初対面だった。緊張というにはたいしたものではないが、見知らぬものに会う独特の何かが二人包んでいる。
「沖田さんは、皆さんとお友達なのですね」
「お友達というか、なんていうのでしょうね」
 沖田は答えに困った。様子を感じとったナタリーは、
「たいしたものじゃないけれど、私が焼いたお菓子です、ちょっと甘いかも」
 ナタリーは手製の焼き菓子を差し出した。
「いただきます」
 ナタリーの気遣いに、沖田が菓子をつまもうとした時だった。
「・・・・・・いただきます」
 フォックスが横取りした。
「え!?」
 沖田は驚いてフォックスを見る。
「フォックスさんの分もあります。駄目です。そういうことしちゃ」
「・・・・・・はい」
 沖田は瞬時に悟る。二人の力関係を──。
 その頃。
「やはり、この場所が狙われる可能性があるということですか」
 すでにやってきていた二人。さらにクロエの説明を聞いた神父はそう言った。
「安全な場所に身を隠すのが良いと私は思います。可能ならば急いで」
 クロエがそこまで話した時、強く叩かれる扉。
「神父様」
 急に開け放たれたそこに現れたナタリーの顔に浮かんでいたのは不安、紡ぐ言葉は
「庭に何かいます」
「その時間は、どうやら無いようですね」
 クロエは剣に目をやった。

 彼は追い詰められていた。
 果たすべきを果たせず、助力を請うた仲間も倒された。
 さらに解くべき封印は不完全にしか解けていない。
 彼は知らなかったのだ、もっとも大事で必要な何が足りなかったことを・・・・・・それを知った今。
「此処か」
 残されたのは、その何かを手に入れることだけだった。
 目的地にやって来た彼の前に立ちはだかったのは、冒険者。
「どくがいい雑魚ども」
「こんなところで、また会うとは、貴方には因縁があります。そして狙いが私の大切なものならば、許すわけにはいかない」
 クロエが言う、
「これ以上でデビルに好き勝手させるわけにはいきません、覚悟」  
 沖田が言う、
「ナタリーを狙うとは万死に値する。あの時の借りは返させてもらおう」
 フォックスが言った。
「ええい、どけ、どくがいい、時間が無いのだ」
 デビルが吠える。
 戦いが始まった。 
 間合いを詰めたクロエが利き手の剣を構えた時、目前に漆黒の壁に生まれる。
「カオスフィールド! そのまま突っ切るしかありません」
 沖田の声が聞こえる。
 躊躇せずクロエは襲う痛みに耐えながら駆け抜ける。
 振る刃の輝き、下ろす呼吸、カークリノラースは地を蹴り空に逃れようするが、クロエは息を吐くと一気に切りつけた。
 走る斬、切り裂かれた痛みにデビルは、
「許さんぞ」
 獣は自らの姿を隠しデビルは消える。
「空です!」
 クロエが直感で叫ぶ、フォックスは矢を放つ、敵が見えるわけではない、だがそれらしいところに放ち続ける。
 その間に沖田は精神の高揚を告げる魔法を自らと仲間にかけた。
 カークリノラースは動きを封じられていた。
 分が悪い、そんなカークリノラースの目に入ったのは
 (あの女だ)
 ──ナタリーは、彼らが戦う様子を教会の中から眺めている。
 自分に出来ることは見守るだけだった。
 祈るしかないナタリー。そんな彼女にどこからか声が聞こえる。その声は懐かしくも、あのおぞましい声だ
(穢れた者が元に戻ることはない、お前の刻印が消えることなど無いのだ、さあ、私ともに行こう、過去から逃れることなど出来ない)
 デビルの誘惑、彼女の心に迷いが生まれた。
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ナタリー! この外道」
 ナタリーの叫び声を聞いた、クロエが駆け出す。
「ナタリー、今、行きます」
 フォックスも続けて走り出した。
 その様子を満足気に確認したカークリノラースは、次の獲物を沖田に決めた。
「踊れ、踊れ、貴様ら可等な生物は所詮、デビルの敵では」
「無い。余裕ですか? 決まりきった台詞、三流も良いところですよ」」
 沖田は目の前の空間に話しかけていた。彼の手のひらに蝶がもがくように羽ばたいていた。
「姿が見えないのなら、全部焼き払えば良いだけです」
 沖田は呪を唱える。
 炎の爆発が彼の前にいる邪悪を焼き尽くすように──と。

●村
 
「こ、この村に来るの何回目かな」
 ケイト・フォーミル(eb0516)が懐かしさを感じていた。
 隣に立つ、セシリア・ティレット(eb4721)も言った。
「戻ってくるには、ちょっと早いんですけれど」
 セシリーは自嘲気味だ。これから始まる戦いの緊張感はそれほど無いようだ。
「デビルとかアンデッドとか、神様も意地悪だよねこの村ばかり、今度なぜか聞いてみないと」
 イルコフスキー・ネフコス(eb8684)が呟いた。
「それにしても、ジルさんはどこに行ったのでしょうね」
「アレク君たちに会いに行ったんじゃない? セシリーさんはいかなくていいの」
 イルコフスキーは特に含みもなく言ったのだが
「え、べ、べつに」
 なぜかセシリーは照れた。 
「セ、セシリーは無意味なところで照れるな。さて自分もニーナに会って来よう。げ、元気だろうか、久しぶりだな」
 三人が、なぜかのんびりした空気に包まれていると
「なにボヤボヤしてるの、そこの三人。馬とハロルドならまだしも、ここは私達にとっては慣れた戦場。負けるわけにはいかない。敵はアンデッドと練習にちょうど良い」
 ルカ・インテリジェンス(eb5195)はきびきびと動いている。
 その後ろにいるのは、髭面の男だ。
「隊長、なぜ自分が荷物持ちをしているんですか?」
 馬若飛が重量制限以上の荷物をなぜか持たされて喘いでいる。
『某月某日
 基本的にルカ隊長は横暴である。あの人をどうにかしないと、明るい未来はやってこない気もする。
 今回もまた戦地に駆り出された、いつになったら平和がやってくるのだろうか』
 ハロルドは黙々と愚痴を綴っている。
「二人とも何か言った? 役立たずは嫌いなのよ」 
 一喝された二人は黙々と作業に戻る。
「濃い人たちが色々増えましたよね」
 セシリーは呆然としている。
「う、うむ、自分たちが一般人のようだ」
 ケイトが納得した。
「それよりも、アレク君たちのところに行こう」
 イルコフスキーは村の中央にある、再建された教会へ向かう。

「到着したか」
 マクシームは、すでに教会にやって来ていた。傍らにはソフィアの姿もある。
「マクシームさん、キエフに行くのでは」 
 マクシームの姿に気づいたセシリーが声を掛けた。
「それが、それより君の王子様なら、ほら、そこに」
 マクシームが茶化した。
「え、な、なんですか」
 セシリーの視線の先に赤毛の姿があった。
 少年はぎこちなく言う、
「セシリー元気だった?」
「アレク」
 もう一組、
「ケイト、久しぶりデス。お腹すきました」
「ニーナ、久しぶりに会うのにお腹すきました、ま、まあ、う、うむ何か食べに行こう」
 互いに抱き合った。
「さて、感動の再会をしているところ悪いのだけど、時間もないことだし、今回の作戦について話をしておくわよ」
 ルカがメンバーに向かって、作戦の説明を始める。
 一通り終わったあと、ソフィアが今までの経緯を説明した。
「ということで、悪魔の門の最深部に進む人たちが必要なわけです、それで誰が行くかを決めないと駄目」
 ソフィアの話を聞いたルカが続ける
「そうね、私、馬、ハロルド、そしてイルコフスキーは此処に残ったほうが有利ね、例の器が届く前にアンデッドの強襲するという手もあるけれど、それをするにしても決めておいたほうが」
「あの」
 ニーナが手を上げた。
「はい、ニーナ」
 ルカが指差す。
「冒険隊、セシリー、ケイト、オヂサンでいいんじゃないデスか」  
「そうね、オヂサンはレンジャーだし、悪魔の門は二手に分かれないと駄目。ちょうどよいバランスじゃない、よし、それで良い決定」
 こうして、悪魔の門探索メンバーも決定した。
 淡々と進んでいく会議を横目で見つつ、セシリーが小声で囁く。
「あの、オヂサンで括られていますけど、いいんですか」
「渋いマクシームさんでも良い。それよりもだ! 私はいくところがある」
 マクシームは、悪魔の門へ行くのを辞退しキエフに向かう。
 マクシームがキエフにたどり着くのが遅れたのにはこういう理由があった。

「よ、よし、頑張ってアンデッドをたおすぞー!! 頑張ろう冒険隊」
 ケイトが拳を突き上げた。
「神様、おいらたちに祝福をデビルに裁きをあたえよう」
 イルコフスキーも拳を突き上げる。
「な、何かシリアスモードで帰ってきた俺の立場がナイんですけど」
 呆然とその場面を見つめているジル、その背が叩かれる。
「ジルは、やっぱりジルデスね」
「何、わけわかんねーこといってんのニーナ」
「そうだよね、やっぱりジルっぽいよね」
「ちょっとアレク、お前と俺だと何が違うわけ」
 二人は静かに言い切った。
「空気」
 空気の違いは、彼にはどうしようもない。


●ヴォルニフ

 異変に気づいたのは元領主の館の警備をしていた名も無い兵士であった。
 この異変の最初の目撃者であり被害者だ。
 兵士が事態に気づいた時には、すでに兵士の視界は緑色に染まっていた。緑に見えたのは兵士の感覚、実際は茶がどす黒く変色したものだった。
 異変に気づいた兵士は状況を確認するか、その場から逃げだすかの選択に迫られ、逃げる事を選ぶ。当然の選択だったが、選ぶのが遅すぎた。
 兵士は、次の呼吸をする権利を与えられない。
 振り回す手に握る剣が力なく落ち、麻痺してゆく兵士の瞳に映ったのは、濁った黄と鋭い歯を持つ影達だ。
 村から戻ってきた二人は、器の今の主が誰なのかをソレイユから聞かされた。
 ソレイユの仲立ちで、彼らはリューヌと出会うことになる。
 リューヌは、ソレイユの話を信じた、事態がすでに悪化の一途へむかっていたこともある。
 渡された剣はリューヌの配下の一軍を持って運ぶと言う。その配下はジョセフィーヌ、雨宮、ルーイザらの所属していたエウロペのことだった。
 しかし、
「私が行ってくるよ、飛べるのは私だけのようだからね。今は一刻を争う、護衛もいらないから」 
 アレーナ・オレアリス(eb3532)が言った。エリヴィラのグリフォンは疲労の色が濃い。アレーナが剣を村へ運ぶこととなる。
 次に、塔へ向かうことになったのは、
「我が行こう、元々の責任は自分にある」
 リューヌの客人の男が言った。彼はテオドール・ヴォルニ、かつて愚者と呼ばれていた男だ。
 彼の名乗りについて反対するものは特にいなかった。たいていのものは、彼とその配下の実力を知っている。
 そして、この男が一度言ったことは守る分からずやであることも。
 こうして、剣と杖の二つの追う者たちが決まり、その時が来るの待つ。


 太陽が翳った。
 かつて陽を飾った城に立つ女がいる。
 女の傍らには巨漢の男が立っていた。
「戦いが始まるようね」
「我々の戦いもな」
 二人は顔を見合わせた後、城の奥へと歩んで行った。
 そこに待つものが何であるのかは・・・・・・知らずに。