─黄昏─ 「記」

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:14 G 11 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月30日〜08月07日

リプレイ公開日:2008年08月24日

●オープニング

 闇の帳が訪れるに黄昏が舞い降りる。

 地を轟かせて蘇る不死者の群れ。

 命の灯火が消えうせたその姿は、

 ──今という時に、相応しいのかもしれない。



●月と太陽

 ヴォルニ家に伝わる二つの器、杖と剣はヴォルニフの地下に眠る竜を封印するものでもあった。
 ヴォルニ動乱の結果により、デビルの使徒たちにその器は渡った。
 封印の地である ヴォルニフを中心とする三点「神の塔・悪魔の門・太陽の城」に眠る封印を解いた時こそ、この地に眠る竜は蘇る。
 それが伝えられた伝承のようだった。
 デビルはその伝承を元に器を手に入れ、塔、門、城の封印を解くべく動いた。
 結果、封印の一部解けたかに見えたのだが、その封印は不完全であり、解けた竜は完全体ではなく、半ば腐ったまま、ズゥンビとして地に現れた。
 同時に、各所に眠る死者もまた蠢動を始める。
 ヴァンガルド家の当主であるリューヌは貴下の騎士団を持って、現れたアンデッドの討伐にあたるが、各地で現れた数を掃討するには足りず苦境に追い込まれる。
 同時にアースガルズの当主が失踪。
 彼女が何のために消えたのかは今持って・・・・・・定かではない。
 また、闇がやって来る。
 リューヌの館に滞在していたテオドール・ヴォルニは自らの配下を召集する。
 テオドールはリューヌの一軍を率いるとヴォルニフへ向かった。


 その頃、ソレイユは半壊した生家の聖堂で祈りを捧げていた。
 祈ることで救われると彼女が考えていたわけではない。
 だが、祈ることしか彼女には出来ない。
 そんなソレイユに声を掛けたのは、
「俺さ、行かないと」
 神妙な面持ちのジルだった。
 手にした弓を強く握ると彼は静かにソレイユに告げた、
「決着というか、たいした理由じゃない。借りがあってそれを返すだけ、じゃなくてなんていうかな・・・・・・きっと俺がいないと駄目だから」  
 いったいジルが何を言っているのか、ソレイユは分からなかった。だが、ジルの瞳に浮かぶ意思の強さに
「いってこい」
 そして──生きて帰って来い。
 ソレイユは胸に在るその先をあえて言わない。
「大丈夫、まだ死ねないから」
 ジルは笑顔でそう答えると旅立った。
 彼にとっての始まり、そして終わりであるだろう地へ。
 全てが終わったら、故郷を訪ねようと彼は想った。
 記憶の中に薄れてしまった面影を追うよりも、再確認して想い出に変えてしまえば、それでいい。

 足取りは軽い。
 二人ともあの場所で待っているだろう。
 予感というよりも確信だった。
 なぜなら自分達は仲間だから。




黄昏
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●要点

 三つあります。


 1、ヴォルニフに現れる、竜を退治する。

 2、悪魔の門の村の援護に向かう。

 3、翼の生えた悪魔、カークリノラースを退治する。

 なお、一人で複数は選べません。


●状況


 1、竜はズゥンビですが、竜には違いありません。アンデッド化しているため、かなり
   頑丈になっています。周囲にはグールやその他不死者など、取り巻きが無数にいます。
   なお、ここが一番危険な場所で重要です。


 2、ジルが向かうのはここです。
   近くにある死者の洞窟という場所が源泉なので、そこを叩く必要があります。
   守備隊は少ないので、それほど長く耐えられないでしょう。


 3、カークリノラースは、キエフにいます。
   なぜいるのかは分かりませんが、何か狙いがあるのは明白です。
   カークリノラースは単体ですが、それなりに強敵です。


  
●補足

 竜はヴォルニフにある、領主の館地下より這い出てきます。
 時間的にまだ余裕はありますし、完全に出てこられる前に頭を叩ければ、
 楽になるでしょう。
 しかし、現状竜が出てくる事を知るためには何かが足りません。

 消えたアースガルズ家の当主を領主の館付近で見たという証言もあります。 
 しかしそれが何を意味しているのかは分かりません。
 
 あとは、こちらの手にあるものの利用方法も考えてみるのもまた面白いかもしれず、
 ヴォルニ家に連なる、テオドール・ヴォルニもいます。
 直接戦うだけが戦い方でも・・・・・・。


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●今回の参加者

 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●幕開け

 館に戻ったリューヌ・ヴァンガルドは、自らの私兵エウロペの構成員を決戦の前に執務室に呼び出した。
 本来エウロペは二つの器を手に入れるために結成された隊。すでにその目的を果たした今、隊の役割は終えたと言っても良い。
目の前に現れた隊員にリューヌは言った。
「最後まで付き合う必要ありません、後は貴方達の好きなようにしてかまいません」
 その時リューヌは自らの死を覚悟していた。
 同時にその結末が自分に相応しい最後だ。なぜか、そうも感じている。
 彼の前の立つ三人はそれぞれ独自の思惑と意思があってそこに立ち、リューヌに対してそれぞれの理由を答えた。
「終わるまで付き合います。デビルに跋扈されるのも不穏、不快ですから」
 見つめる両の目の輝きが違う、男というには華奢で線の細い彼の名はガーネット。いや違う、すでにその名を捨て、雨宮零(ea9527)に彼は戻った。
「あははー何時の間にかとんでもないことになっちゃってー・・・・まぁ乗りかかった船だしきっちり仕事は完遂させていただきまっしょい! 」
 ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)は彼女特有の軽快な感覚、深刻さが感じられない態度で話す。
「傭兵は戦いがお仕事。って、事はやることは決まってるよね」
 ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)は被った帽子に手をやると片目を閉じた。
 三人の答えを聞いたリューヌは一瞬呆れた。命を失うかも知れないと知りつつも、この三人はあえて戦いに行くというのだ。
「命知らずな方々ですね・・・・・仕方ありません、エウロペの最後の任務です。全力でヴォルニの平和を脅かす脅威を掃討します」
 答えは無い。三人はその指令を聞くと扉に振り返ると各々歩き出す。
「ついでにお互い無事に帰るさね」
 ジョセフィーヌが執務室を出る際に言った。
「上手くいくことを神に祈りましょう」
 リューヌは誰もいなくなった部屋で、消えた背にそう返すのだった。

●村

 朝、マクシームはこの状況をどうするか迷っていた。
「キエフに帰るにもこれじゃあ、まいったな」
 彼の目の前に立ちはだかるのは死人の群れ、わらわらと柵に群がっている。
「マクシームさん、何やってるの?」
 マクシームが立ち往生していると、アレクが通りがかった。
「アレク君か、実はな」 
 マクシームはキエフに戻るという目的がある。その話を聞いたアレクは
「こういう時は、みんなでアタックだよ!」
 なぜか妙に楽しそうないアレク。久しぶりに皆で戦えて嬉しいところもあるらしい。
「アレク君、性格が変わったんじゃないか」
「だって、これくらい危険なうちに入らないよ、黒いのもいないし」
 確かに因縁という面倒な鎖で繋がれていた。黒とか青の変な奴らに比べると、前にいるのはただの生きている死体である。
「う、うむ。奴に比べれば、みんな普通の死体、ア、アンデッドといっても弱そうだ」
「そうですよね、これくらいの現象。この村では日常みたいなものです」
 いつの間にか出現したケイトとセシリーが頷いている。
「まあ、それもそうだね、さっさとぶっ飛しちゃえ!」
 ソフィアも眼帯を片手に持ってふりつつ同意した。
「後詰はおいらがきちんと守るよ、神様に誓ってね」
 イルコフスキーが最後に笑顔でそう締めくくった。
 ──なんだか明るい。
 絶体絶命ピンチだったような気がする。しかしこれでは皆で裏山にピクニックに行くような感じだ。
 そのような空気がその場を支配している。
 盛り上がる集団の様子を見た男が首をかしげている。
「ルカ・元・隊長」
 馬若飛(ec3237)が壊れている奴らの態度に不審を感じ聞いた。
「何?」
 ルカは眠たそうである。どうやら寝不足のようだ。
「いったいこの村は、何なのなんですか」
 馬の質問にルカは淡々と答えた。
「そうね、魔境の入口かしら。人外の者や、普通に戦うと絶対に勝てそうもない化物が現われたり、妙に危険な場所が突然発見される。結果的にその場所を冒険踏破、化物と戦いを挑むことになってしまう。そんな戦場への入口よ」
「・・・・・・」
 馬は黙るしかなかった。
 とてつもなく嫌な予感がする場所であることには違いない。
 その脇には黙々とメモを取る男。ハロルド・ブックマン(ec3272)そう、お決まりのテイク。しかし、よく考えるとハロルドがここにいるのはマクシームと同じく不正規のような気がする。
 ルカがそれに気づいた。
「そういえば、一つ聞いていい、なぜハロルドがここにいるわけ、ヴォルニフに行くんじゃなかった?」
 その質問にハロルドはメモを見せた。
「某月某日、テオドール・ヴォルニが神の塔に行ったため、お前はイランではなく、ついていくわけにもいかずこちらに移動した。理由は不完全だが、他に方法が無かった」
「大人の事情ってやつだな」
 馬が独りごちた。
「まあ、どっちでもいいわ、とりあえず分かってるわね野郎ども。暴れるわよ」
 ルカの宣言。傭兵なのか野盗なのかよく分からない。
「へいへい」
 馬が諦めたようにうなずいた。
 こうしてマクシーム帰還大作戦こと、死者の洞窟攻略作戦が始まる。
「って、おまえら! 俺を忘れてない? 主役だぞ、主役」
 遅れて走っていくジル。 
 ジルは、やはりそういう役目が良く似合う。
「さて到着。ジル君は元気かな」
 アレーナが村に着いたのは、そんな穏やかな日? の午後の事であった。

●太陽の城

 出迎えたのは女だった。
「骨肉の争いですね」
 待っていた女が言った。
「分かっていたはずです」
 訪れた女が答える。
 訪れて女を守るように立つ戦士は、二人の様子を見て一言だけ発する。
「これも定めならば」
 男は背負った巨大な戦斧を抜くと構えた──。

 
●ヴォルニフ

 雷鳴が空を裂く。
 闇が天を突く。
 冥界の蓋は開かれた。
 なぜか分からない。
 だが、彼女は笑みを浮かべていた。
 吐く息の熱くなるたび、体中の筋肉が悲鳴をあげている。胸の高鳴り、息が切れる。だが、その辛さよりも純粋な喜びをルイーザは感じていた。
「ほら、こんな体験なんてそうできないにゃ。ここから逆転するのがひーろーだ」
 後方、襲い掛かってきた死体。
 ルイーザは背後の確認もせず、持ち手を変えると擦れ違いざまに切り捨てた。
「お見事。しかし気楽というかね、だいたいひーろーじゃなくて、ヒロインじゃない」
 ジョセフィーヌの訂正にルイーザは微笑みで返す。
「カッツェさんは、そういう人ですよね。それにしても絶望という言葉は口にしたくはないです。けれど事実、黄泉路の一歩手前というところですか」
 雨宮が自嘲を含んでいた。
 彼らの周りには骸となった兵士の山。
 いったいどちらが味方で敵なのか分からないほど、死体は無数に転がっている。
「矢も尽きたよ、さしものエースも、射れなくてはね」
「諦めるには」
 雨宮が続きを口にする前に、濁った咆哮が前から来る。
 土煙に交じり合うのは鼻腔をくすぐる死の匂い、息を吸うのも苦痛だ。その場に立っていた命あるものはそう感じる。自らの新世界地を目指し、暗い穴からにじり寄り這うたび滑るような摩擦、耳障りな音が響く。
 時が立つにつれ強くなる腐臭と這いずる何か、吐き気を催した幾人かの生者は駆けるか、その暇もなく嘔吐した。
 しばらくすると、音がしばし止む。
 びちゃびちゃ大地に滴り落ちる同時に窪んだ二つの暗闇が、生けるものたちをみつけ、ゆっくりと向いた。
 

 
●キエフ
 
 恐怖の根源は、きっと自らの過去と未知に対するものが、そのほぼすべてといえるのかもしれない。
 自らの内に眠っていた記憶を幻として魅せられたナタリーは、一度は克服したものと再度対決させられるはめになった。
 ナタリーの変調に気づき走り寄って来るクロエ・アズナヴール(eb9405)とフォックスを見ると少女は叫びだす。
 彼女にとって今の二人は恐ろしいものにしか見えなかった。
 フォックスが嫌がるナタリーのもとにたどり着いた時、爆音が轟く。
 その事態にクロエは振り向くと、沖田の唱えた呪文は爆発を巻き起こしていた。
 教会の庭に焼け焦げた匂いが広がる。しばらくした後、何者かの怒りがこもった叫びが轟いた。
「おのれ、おのれ、おのれ」
 衝撃とダメージで集中が切れたのか、姿を現したデビルにクロエは迷った。このままナタリーを保護するか、それとも──。
 クロエはその役目をフォックスに任せた。、
「申し訳ありませんナタリー。今はきっと決着をつける時」
 呟いた彼女は振り返ると、戦場目指して再度駆け出す。両の手に刃を持って・・・・・・黒い獣へと。

「ナタリー!」
 暴れるナタリーをフォックスはなだめた。ナタリーにすれば幻影とはいえ、恐怖の対象に抱かれていることになる。
 必死になって抵抗する彼女をフォックスは、抱いた。


 


●悪魔の門

 ルカが率いる、元・傭兵隊の活躍によりアンデッドは死者の洞窟まで追い込んだ。
 その状況を利用して、悪魔の門へと潜った冒険隊。
 地下一階の扉を開けた後、ケイトは下級デビルの追撃を防ぐために言った。
「ここは自分に任せてもらおう」
 暗がりの中でケイトは得物を構えると淡々と言った。
 事情を察したメンバーは何も言わなかった。ただ独り口を開いたのは
「付き合いマス。ケイト一人だと心配だから」
 ぶかぶかの三角帽をかぶった少女は、ごつごつした杖をくるりと回す迫ってくる影を差す。
 先に進む彼ら、地下二階でアレクがふとセシリーに言った。
「そういえば一階から二階にいくには道が二つあったよね」
「ええ、そうですアレク」
 ジルは二人が何を言おうとしているのか悟った。
 二人は突破してくる敵をここで迎え撃つようだ。
「ソフィアさん、ここはラヴリーな二人に任せて俺らは行くよ」
 ジルはソフィアの手を引くと言う、ソフィアは二人をみつめていたが。
「任せたよ」
 ソフィアを連れてジルは最深部に向かう。


●ヴォルニフ

 雨宮は目の前で蠢いている闇に呟いた。
「闇路へ行くとしても独りでは寂しいかぎりですが、雨宮零──参ります」
 彼は意を決ると、竜へ走り出す。
 リューヌのつけた兵は全滅した。
 ルイーザがジョセフィーヌを守るように立ちはだかる。
「弓で殴るとか?」
 ルイーザが言った。
「どうって、武器を貸しなさい、武器を」
「仕方ないにゃ、自分の体をきらないようにね」
「・・・・・・」
 ルイーザから武器を受け取ったジョセフィーヌは
「ないよりはましか」
 アンデッドに切っ先をむける。
 地獄の王に従う幽鬼の群れは、輪を縮める。数の差は圧倒的だ。例え、ここでどれだけ奮戦しようとも──きっと結果は目に見えている。
 それでも彼らは戦うことに決めた。
 その時、馬のいななきがやって来る。
「遅くなりました。ささやかですが──援軍です。休息してください」
 武装したリューヌは残された軍勢はそれで全部だ。
 そびえる白骨と腐肉の竜を視認したリューヌは、自らの指揮を執ると切り込んだ。
 

●神の塔・悪魔の門

 二つの点に到着したそれぞれの使者は、自らの役目を果たすため進んだ。


●ヴォルニフ

 リューヌの加勢によって破滅の時期は延びる。
 死と腐臭に満ちた街の中央。
 シシルとエリヴィラの二人は、竜の後にいた。
「・・・・・・グログロですね」
 シシルが正直な感想を漏らした。
「これに近づくの? 汚れちゃうな」 
 武器を構えてはみたが、エリヴィラはあまり気が進まない。
「ズゥンビですし、タフでしょうから、エリたんもガンガン行かない駄目だと思います。凍らせたりできるのかな?」
「でも、死んでるから凍らせても解けちゃったら終わりじゃないかな」
 エリヴィラの問いに一瞬考え込んだシシルは、しばらくすると手叩き。
「ほら、氷の柩に閉じ込めておけば時間稼ぎになるとか」
「あーそれいいね! やってみる価値ある。封印するまで時間稼ぎ、稼ぎ」
 シシルの提案にエリヴィラがうなづく。
「そうときまれば、アイース」
「コフィンですね」
 エリヴィラに返したシシルは呪文の詠唱を始めた。
 失敗にめげず、精神力を限界まで使い繰り返されたる呪は・・・・・・効果を発揮した。

 剣と杖の二つが戻された。
 伝承にある逆封印の鍵をソフィアが設置する。
「何も起らない?」
「ど、どうして」
 呆然とするソフィアは首を横に振るだけだ。

 ──城。
「太陽と月が混ざり合う、訪れた新月は全てを無に変えて戻す。封印を施すのに必要なの事なのです」
 母が言った。
「本来、ソレイユがその役割を担う巫女ではなかったのですか、お母様」
 女が返す。
「あの子は、内に持つ陽が強すぎるのです。再度均衡を保つためには不適合でしょう」
「それでは、誰が」
 母は答えた。静かに、
「時代が古い価値感の退場を求めているのでしょう、貴女がアスガルズ家を継ぎなさい。誇り、家を守るとはそういう事なのです。優しさにも色々あるのですよ」
 沈黙がやって来る。
「バルタザール。貴方には辛い役目を押し付けてしまいますね」
 母は言った。

「あ、OK!」
 ソフィアが叫ぶ。
 ジルは安堵の息をもらす。


 溶けかけた竜の周囲が輝きだしたのは、そのすぐ後である。
 すでに残敵を掃討していた竜掃討のメンバーは竜に向かって攻撃をしかける。
 その結果、竜は崩れ去った。
 

 

●キエフ 

 クロエの振るった刃が切り裂いた。
 致命傷に近いそれに窮地を悟ったデビルは逃げることを選ぶ。
「逃げます!」
 羽ばたくデビル、沖田が呪文を唱えようとした。しかし、彼のすでに精神力は尽きていた。 
「愚か者ども」
 悪態をつくデビルが振り返ったときだった。
 胸に痛み、刺さった銀色の矢。翼の力が消える
「バカな」
 落下する中で、自らの死をデビルは悟った。
「ふーなんとか間に合った。って、もしかしてこれが例のデビル?」
 遅れてやって来たマクシームは、目の前にいる仲間たちに訊くのだった。
 

 かくしてヴォルニの雲は晴れた。
 この戦いで、消費したすべてのアイテムは支給された。
 それがヴォルニからのささやかな報酬だ。
 
 
 太陽が昇る。
 完成した世界。
 変わることが無き場所。
 訪れた平和は、永遠という二文字を冠し鼓動を打ち続ける。
 産み出されては死んでいく命たち、背景という実在、配役という存在、絡み合う幾つかの記号の点滅。
 創られた園に住まう住人たちが自らの意味を知る事は決してないだろう。
 それでも、与えられた役割。その枠を超え何かを創り出すために少年は戻った。
「無事、戻ってきたね」
 ソレイユが言った。
「約束は約束だからな」
 ジルは送られた手袋を握り締めるとソレイユに言った。
「俺さ、帰るよ」
 結局、何も分からなかったのかもしれない。
「遊びに行くね」
 その声を聞きながら、ジルは歩き出した。
 自分の役割をもう一度、探すため。

 ヴォルニの歴史はこの時を持って動きを止める。
 テオドール・ヴォルニの子孫が次期ヴォルニ領主となる日が来るまで。

 完