●リプレイ本文
あの夕陽が落ちる前に歩きだそう。
胸に在る切なさ、二度と巡らない季節のため。
──村の場合。
冒険を終えたジル・ベルティーニ。
「新生流星の狩人」G・NEOは諸々の発端である例の村に戻っていた。色々あった結果、彼も成長したと思いきや・・・・・・愚痴をこぼしている。
どうやらジルは、自分の旅の終わり方について納得していないらしい。
「だいたいだな、アレクが感動物語っぽいしゅうりょーなのに、なんで俺はコメディタッチなんだよ! それもあれだろ、不完全燃焼すぎてやっつけ感ありありじゃねーか」
ちょうど村を訪れていたニーナにジルはぐだぐだ話すのだが、平然とそれを聞き流すニーナだった。
ニーナは一通り愚痴聞き流したあと、的確な一言をぶつける。
「だってジルはそういう立ち位置デスよ」
「立ち位置って・・・・・・」
「三枚目が主役はコメディたっちになりやすい。一つのお約束なのデス」
それは物語というものの鉄の掟。そんな掟がどこにあるのかも謎、ニーナがそんなことを知っているのも謎だ。
ともかくそういう感じの村、いまだ正式名称が不明な此処にやって来た来訪者が数人。
この物語は旅人が村にやって来るきた事から始まる。
──ミィナ・コヅツミ(ea9128)の場合。
MMOの永久休業と同時期に恋が終わりを告げたミィナ。そろそろ溜息を友達にするのにも飽きたと思いつつも溜息をまた一つ。
このままどんよりしていては自分らしくない。そこで傷心旅行というわけではないが小旅行へ出ることにした。
キエフの近郊はきっと何か色々あって不穏だろう。
だが、細かい事はあまり気にしない今回の旅は、ナニセせんちめんたるじゃねーだ。
「恋なんて、ともかくMMOは永久に不滅でーす」
気晴らしに雄たけび? をあげ、まるごとトナカイを着てみたが、どう考えても旅に不釣合いのような気がしたミィナは大人しくトナカイをメインにして普通の格好をしている。
元々ミィナはよく考えると半分は東洋人だ。よって和装が似合うと推測されるが、今回は胸が強調されているような気もする。
それを人は目の錯覚、脳内補完とも言う、その胸が強調される気するというのは、僕と君の大人の仕事である。
その旅の途中ミィナはこの村に立ち寄ったのだった。
──セシリア・ティレット(eb4721)の場合。
最初から村にいるセシリア。
なぜいるのかは事情通には説明する必要もないので省く、ともかくセシリーはジルに負けない勢いでアレクに愚痴っている、ようだ。
「最近、私に合った難しい依頼がない時期が多いため、仕事がなくて生活が苦しいんです。冒険者なんてもういらないのでしょうか? 平和は来ていないのに」
「だったら、畑仕事を手伝ってよセシリー。じゃなかったら、簡単なのをやればいいんじゃないかな?」
「私はこれでも結構強いんですよアレク。強いのに弱いものいじめは・・・・・・」
「強いなら、弱い人を助ければいいと思うけど」
「ぶーです」
セシリーはいじけた。
アレクは単純なのでそう言うわけだが、そのあたりは難しい問題が山積のためコメントを差し控えさせていただく。──by 記録係。
さて、突然だが、ここで疑問に対するソフィア姉さんの回答です。
説明口調なのは気にしない。
【Q】
「アレクサンドル・ヴォルニの遺体が見つかっていない。
彼と協力していたゲオルグが研究や儀式で使っていた廃教会で入手した資料の内容」
【A】
アレクサンドルの遺体はデビルによってエステバンの地下に移動・安置してあります。
黒の僧侶ゲオルグは世界崩壊を標榜していたわけですが、アレクサンドルを自らの手で殺めて支配、ヴォルニを操りロシアに混迷をもたらす。それも、目的の一つだったようです。
そのためゲオルグはアンデッドの研究をデビルの力を得て進めていました。
例の教会でみつかった資料・文字は研究の名残です。
戦記においてエステバン・ヴォルニフ・村の地下の三つにはそれぞれドラゴンズゥンビに匹敵する何かが存在していましたが、ヴォルニフのドラゴンのみが復活、倒された結果元凶は消え、他は目覚めてはいません。
「ゲオルグが不死や力を研究していたので、元領主がその研究でバンパイアやゴーストなどの不死者となっていませんか」
セシリーのこの推測は半ば当たっています。
ただし仮にアンデッド化していたとしても、封印が解けないかぎり復活はないでしょう
これに関連して。
【Q】「ソフィアが聞いた地の底からの音の主」
は、上にあげてある三体の魔物の一つの動く音のだったようです。
守護者であるプースキン・アレクら戦士の一族の先祖は魔物の動きを監視するためにこの地に送られたようですが、その目的を憶えているものはいません。
【おまけ】
アレクは農作業や狩りを生業としています。
ソレイユはヴォルニフのアスガルズの館にいます。
なおアスガルズ家の現当主は森の魔女です。
──フォックス・ブリッド(eb5375)の場合。
旅は独りでも出来るが、恋は一人では出来ない。
恋、その旅路に終わりにあるのは、新たなる旅だ。
幸福という結末ここに至ってやってくるのかは彼自身の選択であり彼女の結果。
ナターシャ・アスガルズは心に傷を持った少女。
傷というものは癒えたかに見えても消えない。
それでも彼が選ぶというのならば、全てが終わる前に機会を与えることにしよう。
フォックス・ブリッドがナタリーの元に訪れるにはまだ時間があった。
それは一つの儀式、通過点だ。
「ロザリオ?」
どこかでみたことのある男が訪問してきた時も、ソフィアは思わずそう問い返していた。
「そうです、必要だから」
なぜ? そうソフィアが聞く。
口ごもったフォックス。少しずつたどたどしく理由を答える。
「求婚か」
ソフィアは目の前の照れた様子の男を見て笑みを浮かべた。
彼女の笑顔、そこに含まれた複雑さを感じ取れるほどファックスは機微に疎い、
「持ってくるから少し待ってて。きっと持ち主に戻すのが一番良いだろうから」
しばらくして彼女はロザリオを持ってきた。
「上手くいくと良いね」
「は、はい」
ソフィアはフォックスの背を押して送り出した後、ふと自分の過去を思い出していた。
──イルコフスキー・ネフコス(eb8684)の場合。
礼拝を終えた帰り道。
イルコフスキーは、なぜか冒険者ギルドのある通りに立ち寄り、ギルドの門を叩いていた。
「いらっしゃい」
何度か見たことのある無愛想なギルド員が面倒そうに挨拶をした。
「こんにちは、中年ギルド員さん」
「パラのクレさんか。よったのはいいけれど、今仕事はないぞ」
「ううん、おいらはただ寄ってみただけだから」
イルコフスキーは周囲を見回す。広がっているのは見慣れた光景。
「しかしあれだな、あんたもキエフに長いね」
中年が言った。
「そう言われると結構長く住んでいるかも。あ、ソフィアさんは元気?」
イルコフスキーの問いに中年は苦笑いを浮かべた。
「あのバカ娘なら今では遺跡の周辺に住んでいるよ。何か遺跡に思い出があるんだそうだ」
「思い出か」
イルコフスキー自身もそれなりに思うところがある。
「ああそういえば、俺もこの仕事を辞めることにしたよ。だからあんたたちともお別れだな」
中年は気だるげに言った。
「辞めちゃうんだ」
「事情があって、郷里に帰ることになったよ」
「そう、残念だね」
その後イルコフスキーは自宅に戻ると旅支度を始めた。
行く場所は・・・・・・まだ決めていない。
──ナターシャ・アスガルズの場合。
「神父様、お話があります」
その日ナタリーは旅に出ると言い出す。
神父は驚いたが
「分かった、私が行くことはできないので供をつれていきなさい」
こうして護衛として下働きの男を連れて旅立つナタリー。
目的地は・・・・・・。
●季節の終わり
「あれれ! ナタリーちゃんじゃない? キエフにいないと思ったら、こんなところにいたんだ」
言葉をかけられた少女は首を傾げた。
「あ、トナカイもトナカイ。MMO☆ダンサーミィナだよ」
「ト、トナカイさんですか? 普通なので分からなかったです」
「まるごとを着てない姿で会うの初めてかもね☆」
運命の糸。
というほど大げさではないが、偶然出会った二人は再会を喜ぶ。
「この前は司会してくれて本当にありがとう。あのね、あたしナタリーちゃんに言いたいことがあるんだ」
ミィナが真剣な眼差しを向けた。
「な、なんですか」
ナタリーは緊張しつつ返した。
「あなた可愛いからもっと皆と一緒にどんどん楽しい事しなさい、あなたが微笑んだらきっと誰でもイチコロだよ☆」
「・・・・・・びっくりした。もっとすごいこと言われるのかと思いました」
「てへへ笑顔、笑顔、そうだ。これから」
ミィナがEXステージについて話をしようとした時だった。
「ナ・ナタリーここにいたのですね!」
フォックス・ブリッドが現れたのだった。
──時は少し戻る。
キエフに戻ったフォックスは両手いっぱいの花を抱えて教会を訪れ神父によって事実を告げられた。
「すまない、ナタリーは旅に出ているよ」
「せ、せっかく来たのに、いったいどこに」
「詳しくは分からないが、どこかにある村とだけ」
その程度の情報で居場所が分かるわけがない。フォックスは逆上した。
「神父様は、ナタリーが心配じゃないんですか! また何があるか分からないのに」
頭に血が上ったフォックスに対して神父は、
「あの子には神の加護がある」
厳かに言った。
「神父様、いったい貴方の正体はなんなのですか? ただの神父ではないでしょう」
フォックスの問いに神父は顔色を変えずに。
「いいや、ただの神父だよ」
と、だけ言った。
元に戻る。
「ということで捜したよナタリー」
フォックスが語り終えた。用意した花は飛んでくる途中、無残にも散っている。その様子を見たミィナは気を利かす。
フォックスは、このことで何のためにやって来たのか目的を独白したようなものだからだ。
「とにかく色々大変でしたね☆ あたしはちょっとジル君に会いにいってきまーす」
「え、ミィナさん」
こうして・・・・・・フォックスとナタリーは再会した。
「あれ、イルイルじゃん。どうしたの? 久しぶり」
イルコフスキーは見慣れた村の門をくぐると、見慣れたハーフエルフの青少年が現れた。
「久しぶりジル君、元気だった?」
「元気、元気。今、家にニーナもいるんだけど、遊びにこない」
「そうだね、そうしようかな」
イルコフスキーはジルの家に向かう。
「イルイル!」
抱きついてきたニーナは相変わらずだった。成長した姿はあまりみせないらしい。
その姿を見たイルコフスキーは、彼女の中に純粋さが残っているのを感じて、安堵し言った。
「無邪気に遊ぶと言うのは難しくなってるかもしれないけど、でも純真さを忘れないでほしいと思うんだ。 一時的には、狡猾な人のほうが得をするかもしれない。けれど長い目で見れば、自分を保って純粋に生きるほうが満足できると思うんだよ」
その言葉を聞いたジルが茶化した。
「お、変わらないなイルイルも早速説教ですかー」
「デスかー」
「うん、それがおいらの仕事、役割だからね」
そう言うとイルコフスキーはウインクする。
「ソフィアさん」
「なんだ、アレク嫁」
「その呼び方はあの?」
「嫁には違いないでしょう。それで村の地下に封印されている何かについてなのだけど、前もいったとおり悪魔の門は、本来竜を祭る遺跡」
「ということは、竜が居るというこですか?」
「その可能性が高いかもね、単に推測でしかないから確定はできない。竜に関係した何かではある気がする」
セシリーはソフィアの元を訪れている。例の話の続きのようだ。
「それで大丈夫なのですか?」
「どうだろう、昨今のロシアの状況はあまり良くはない。封印が神器とは関係なく解ける可能性も無いとは言い切れない」
ソフィアの話をまとめると、村の地下に封印されている何かと関連しているものは竜で、それに関連した何かが稼動するかもしれない。
となる。これは予測であり現実化するかは分からない。
「まあ、大丈夫だと思う、再封印したばかりだし、それより知ってるかい」
「何をですか?」
ソフィアはフォックスの訪問をセシリーに話した。
「ちょ、なんですかミィナさん。こんな裏山に呼び出して」
ジルは青少年として美味しい状況にいた。
「あたしとダンスを踊ってみない、教えてあげるから」
踊りに誘ったミィナの心の内にはある想いがあった。
「い、いたいっす」
慣れてないのでジルの足踏んづけた。
「え、ステップはこうだよ」
その時だった。つまづいてミィナはジルを巻き込んで転がる。
気がついたジルの上にはミィナの胸。
お約束だ。
「もごもご」
ジルが何か言おうとした時、ミィナはジルにかつての恋人の面影を重ね、ジルを起こしたあと困惑する彼を
「少しの間だけこのままで居させて」
思いきり引き寄せて抱きしめる。温もり包まれたジルだったが、違和感を感じる。
「ミィナさん泣いているの?」
「泣いてないよ、泣いてない」
ミィナは半泣きの顔を見られないよう隠す、ジルは理解した。理解というのには遠いものだったが黙ってミィナを抱きしめた。
嗚咽というには弱かったが、しばらくするとミィナはいつもの彼女に戻り言った。
「今日は振り回してちゃってゴメンね。どう?☆二つ半から3つ☆くらいにランクアップできそう? ってか、表現的に半分とか言われるとなんか半端でヤなんだけど」
「☆☆☆。ミィナさん次は頑張ってね」
気遣うジルにミィナは言った。
「生意気。でも、ありがとうジル君」
ミィナは何かを振り切ったのかもしれない。
フォックスは、もう一度ナタリーに告白したようだ。
「け、結婚ですか? 私」
影のほうで見ていたミィナ・セシリー・ソフィアらは
「いきなりすぎない」「ノーコメント」「まあ、結婚という制度が云々」
迷うナタリーにフォックスは勇気を総動員して、抱きしめ、そっと口付けした。
過去、聞かされた自分の生い立ち、それがナタリーにとって枷となっている。
彼女はフォックスが嫌いなわけではない。
それよりも好悪の感情自体が分からなかった。
彼女の脳裏に自らに忠誠を誓った騎士の姿が浮かんだ。
「私には騎士がいます。それを含めて受け入れてくれますか?」
フォックスは、頷いた。契約は成立するようだ。
遠くから光景を見ていた彼は、一通りの通過儀礼を見届けると指で宙に幸福と書き。
「神様の加護がありますように」
この言葉を口にするのは何度目だろう。イルコフスキーはそう思った。
季節の終わり、それは次の旅の始まり。