アリアンロッドの鉄槌
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■ショートシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:14 G 11 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月26日
リプレイ公開日:2008年11月12日
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●オープニング
それはある日のことだった。
銀色の鎧を全身に纏った女がキエフを訪れた。
彼女は向けられる奇異の視線など物ともせず、ギルドの門を叩き、兜を脱ぐといった。
「古い友人に会い行きます」その供を求めにきました」
鎧の中から現れた女は美しい。整ったおとがい、つぶらな大きな瞳をまっすぐ向け見つめる。
だが、その美麗な姿とは裏腹に抱えている得物は無骨、巨大な斧槍を携えている。
応対に出た中年のギルド員は怪訝そうに女の姿を眺めたあと聞いた。
「それで、会いにいく古い友人とは?」
ギルドは仕事を頼むところだ。
中年は人探しを依頼するのかと思い訪ねる。だが返って来たのは予測と違う言葉だった。
「竜です。彼に会うのが私に科せられた役目なのです」
「竜、ね。物騒だ。本当か嘘かは分からないが、どこにそれは居るのだい?」
「ある村の近くの山にある洞窟の深部です。投げられた賽を回収する事が私の目的、止まった車輪を戻すことはできません。けれど絡む糸にまとわりつく邪悪を断ち切る必要があるのです」
中年は女が何を言っているのか理解できなかったが
「邪悪か、それじゃあ募集してみるよ。そういえばあんた名前は」
「アイラ」
中年は半信半疑で依頼を掲示した。
しかし同行希望する冒険者は現れなかった。
同時期・セシリア・ティレット(eb4721)はギルドへやって来てその話を聞いた。
「それなら私が行きましょうか?」
セシリアは自らの所持するアイテムを報酬として加算して再度、依頼が掲示された。
数日後、女の言葉は現実化する。
眠りから覚めたのは一頭の竜だった。
雪山の地下深く休火山に眠っていた竜はまどろみから醒める。
炎に覆われた鱗をもつ竜。
竜は滾る衝動をぶつける相手を待っている。
●リプレイ本文
運命の女神。
デュラン・ハイアット(ea0042)
シオン・アークライト(eb0882)
セシリア・ティレット(eb4721)
オリガ・アルトゥール(eb5706)
裁きのために紡ぐ言葉。
朝焼けが綺麗な日の事だった。
いまだ眠りの醒めぬ陽の照り返しを受け街を進む者がいる
秋はすでに半ば過ぎていた。
冷気が街を覆い、冬の訪れを告げている。
準備を兼ねて冒険者ギルドを訪れた銀の戦士はギルドに到着するとニ、三、残っていた用事を済まし、外を目指す。
すると彼女の視線の先に金髪の女がいた。
女は小さく礼をしたあと
「さあ、いきましょう。寒い中まっていたので、指が冷たいのです」
「確か君はこの前の?」
アイラの問いに女は頷き、
「セシリア・ティレットです」
寒さで紅潮した頬を押さえ、セシリアは答えた。
「セシリア・・・・・・君も物好きだな」
「よく言われます」
アイラの言葉に含まれるのは、危険の予測を込めた示唆だ。
今回の旅は竜の探索、竜は強大な存在。戦うにしても説得するにしても、ただですまないだろう。
セシリアは俯くと微笑むだけだった
「運命──言葉の意味は確定、だが裁きのために紡ぐ言葉の欠片にしかすぎない。セシリア、命を大事にしなさい、これも定め、しかし私は本来役目を紡ぐ使者ではない」
アイラはそこで言葉を切ると黙った。聞いたセシリアはアイラの言葉の意味を理解しようと考えていたが、新たな人物の登場によって遮られた。
「竜退治、これぞ冒険者の本懐!」
陽気で豪気、言い直すと自信過剰な、あの男がやって来たからである。
「デュランさん、朝から元気ですね」
「この状況を楽しまずして何が冒険者だ! 冒険者たるもの」
セシリアが声をかけた男、名をデュラン・ハイアットという、この世界ではそれなりに有名な魔術師だった男、過去形がつくのはいつのまにか騎士になったせいだ。
いわゆるマジックナイト──マジックナイト、高貴な響き。
魔法が使える騎士。エリート中のエリート。
何を目的としてデュランがナイトなったのかは分からない、しかしある意味デュランに不釣合いな魔法騎士──。
アイラはデュランを一瞥すると
「今回の同伴者の一人か、やけに浮ついた男だな」
言い放った。
「デュランはそれはそれで良いところなのですよ」
現れたのはオリガ・アルトゥール。怒らすと怖い女魔術師トップテンに入る女。そもそも、そんなランキングがどこで集計されているのか? 気にしてはいけない。印象操作というものだ。
相変わらず表情が読めない、雰囲気の凄みがましたような気もする。
「良いところか、褒められたと喜ぶべきのかね?」
デュランが尊大さを少量含みつつそう言った。偉そうな言動させるといちいち映える男である。
その光景を見ていたシオン・アークライト。欠伸を一つしたあと
「まったく能天気ね」
笑みを浮かべて沈黙した。
────
暗黒に浮かぶ空間にそれは。
闇に浮かぶ光に赤が奔った。飛ぶ炎が焼き焦げる肌の匂いを忍ばせる。
灼熱は前方にて来訪者を迎える、問答はない。
火炎が挨拶の代わりだ、先手を取られた。熱さに焼け付く肌、痛みに堪えオリガは自らに高揚の呪を紡ぐ、続けてデュランも自らを強化する。
「竜は所詮、竜か・・・・・・」
言う後、デュランが取り出したスクロールを高く掲げ朗々と詠唱を始める前、竜の牙が勢いよく振り下ろされた。
重みに比例した圧迫、雪崩れ落ちるのは白い歯列の鋭角。
並ぶ刃顎の前に──シオンがいた。
選択は二つ。
判断を導き出すまで時間は短い。
落ちる牙を受け流すのを諦め、一時シオンは左に飛ぶ、同時に右に走るセシリア、正面には銀の鎧の姿がある。
専守に努めるシオンは竜の気を引くように動く、デュランがスクロールの詠唱にてこずっている間に再度竜は火炎を吐いた。
熱気に包まれる一面、逃げるには遅くその場所も無い、刺激が覆い追ってくる熱に気づく頃、痛みが回りはじめる。脈打つたびに気力を奪うような痛撃の鼓動が襲う。
寸前完成した、オリガの魔法と各自の用いた盾などよって威力は削がれたが、紅蓮は未だ紅蓮のままだ。
「まだ、読み終わってないぞ、ええい」
デュランは読み終わった。
過ぎ去った風、焦げた髪に手をやったあとセシリアは握った得物に力を込める。
己が持つは竜殺し、竜の瞳がセシリアを見る。セシリアは睨み返す。
「こっちよ! でか物」
竜の気をセシリアから引くようにシオンが叫ぶ、竜の瞳がシオンに移ると笑ったようにも見えた。
瞬間、煙がその場を覆う。
急に現れ、視界をくらますそれに困惑する仲間たち。
「目くらましですか? いったい何の意味が」
呟いた後、オリガは悟った。
洞窟内部は広いとはいえ、広大ではない。その領域を煙幕で覆ってしまえば、行動は当然抑制される。それにたいして竜は煙幕に対抗する手段、そして火炎の息と魔法がある。
例え相手を認識できないとしても、威力が落ちるとしても領域の広い攻撃ならば一方的だ。
ほぼ確実仲間の誰かには命中しダメージを蓄積していくだろう。
ドラゴンの大きさからしてこちらの攻撃も当たらないわけではない、しかし目標が分からないのではやはり確実に劣る。
「狡猾な、滅多打ちしかないか」
デュランは詠唱を始める。こうなれば自らも呪文で攻撃するしかないだろう。
デュランは稲光を呼び寄せる。
「消耗戦ですか・・・・・・司令塔が必要ですね。デュラン、セシリー、シオン、アイラ、自分の位置を教えるのです」
オリガの選択は妥当だ。
この状況下で、範囲攻撃呪文を無意味に唱えても仲間にあたる可能性がある。。
オリガの指示を聞きつつ、煙幕の中、シオン、セシリア、アイラは独自の戦いを挑むことになる。
当初の予測を外れたシオンは竜を引き付けるのを諦め、牽制と直接攻撃に入った。連携できない今、個々で戦うしかないだろう。
(ドラゴンキラーになる前に、死んでしまいそうね)
そんな不安もふとよぎるが、この状況を楽しんでいる自分もいることにシオンは気づいている。
見えない敵に振り下ろす刃は甲高いを音を立てる。それが竜の鱗なのか? 果たして洞窟の床なのか?
晴れぬ空間で、彼らの戦いは続く、繰り返される攻防は熾烈を極めた。
遮断された空間で戦うのは精神的にも重大な圧迫だった。
炎によって削られる体力は地味だが蝕む、手持ちの回復薬も使い果たした頃──煙が晴れる。
現れた傷だらけの竜は悠然と此方を見つめていた。
「今こそ決着をつける時だ、行け戦士達」
アイラは斧槍で竜を指すと走り出す。
追って駆け出す、シオン、セシリア。
「フィナーレだな」
「気を抜いてはいけませんよ、デュラン。ただ最後なら華々しく行きたいものです」
デュランとオリガも詠唱を始める。
震える大気の振動を間近でセシリアは感じた。
吸う息の音を聞いたような気がした。遠くに見えるシオンに向けて竜は炎を吐き出そうとしている。
死角、剣を振りかぶる。込める力、限界まで息を止める、ゆっくりと初めに少し吐いて──すぐさま叩き付ける。
衝撃。
痛みに気がついた竜は対象を認識する。
セシリーが放った力任せの最大打力。体勢を崩している。
竜は憎しみを込めて攻撃することを選ぶ。
牙と牙。
向かう白い刃、シオンは倒れたセシリーを援護するために動くが──すでに遅い。
最初に気づいたのは妙にぬらつく赤に塗れた胸、
「倒さないと、倒さない・・・・・・と」
抜ける力、もう一度振りかぶった剣。ふらつく足元、消えていく意識、薄れる記憶に昇る姿は・・・・・・。
崩れ落ちるセシリー、の姿を見て、
「セシリー!」
オリガが叫んだ。
「シオン、アイラ、セシリーを頼む。私が足止めしよう。来い、デュラン・ハイアット相手。君の人生、いや竜生に訪れた最大の見せ場だぞ、私の魔力をその身に受けよ」
デュランが魔法を放つ。
大気を裂き伝わる雷光が竜に迸る。
その間──
「シオン、君はデュランを援護して欲しい、一人では荷が重いだろう」
アイラはシオンに言った。
「分かった。貴方はどうするつもり?」
「このまま放置するわけにはいかない、安全な場所に安置する」
「そう、後のことは任せて。大丈夫そろそろ終わりよ」
振り返ったシオンの先、竜の暴れる姿もまた、足掻きにも見えた・・・・・・。
咆哮が轟く。
戻ったシオンがデュランの援護に回り、オリガもまた攻撃を始める。
瀕死の竜は息を吸った。
吐き出すまでの時が長い、ちらつく暗闇に負けず、彼は吐き上げた。
地を遁走する炎が最後の洗礼とばかりに翔ける。
冒険者は耐えきった。
「よく頑張ったわ、ご褒美よ」
シオンの青い瞳が冷酷にきらめいた。
直後、竜の喉元に刺さる剣、声は断末魔、大きく響いて、ゆっくりと去った。
「終わりか、意外とあけなかったな」
真黒なデュランが格好つけた。あまり様になっていない。
「勝利したのは、きっとこの幸運のおかげですね・・・・・・」
オリガの手には焦げてしまった四葉のクローバーがあった。
今までの冒険で何かの縁があるのだろうか? それに秘められた幸運が彼女たちを救ったのかもしれない。
前に倒れているのは竜。
犠牲を伴ったが、戦いは終わリを告げた。今は早急に帰還することが必要だ。
失われていく命の炎の灯火をみつめ、オリガを灰をそっと吹く。
凪いでいた場に風が戻り、幸運は散っていった。
アイラは一人歩んでいる。
勝利の報告をするために、報告の主は死者であって生者ではない。
息をせぬものに辿りついたアイラは、しばらくの間死者を見つめたあと、
「死を持ってしても終わりではない。いつの日か旅が終わるまでは歩きなさいセシリア。それが貴方の運命、さようなら。二度と会うことはないでしょう」
返事はない無言の死者、頬を撫でたアイラは、その言葉だけ残し、生者の元へ向かうため立ち去った。
その姿を見送るセシリアが、どこか微笑んでいるようにも見えた。
運命、裁きのために培う言葉の欠片。
定めに抗う、人の生きる理由の一つ。
了