東部戦線異常あり

■イベントシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 15 C

参加人数:41人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月05日

リプレイ公開日:2009年01月16日

●オープニング

 終わり行く年月。
 それは粉雪の舞う夕暮れ、ある辺境の砦の話。
 守備兵が兵舎に戻ると冷えた体、かじかむ指に温もりが帰った。
 視線を移すと机の上に各地で起きている事象を告げる報告書がある。
 記してある出来事は最悪なものばかりだ。しかしそれが真実だとは感じない。
 今の時期、雪と氷に覆われ始めたこの大地を好んで進軍してくる者はいないだろう。
 守備兵の頭の中には任務後の帰郷、行われる新年の行事を思っている。
 その時だった。
 扉が乱暴に開かれ、現れた歩哨が叫ぶ。
「敵だ! 援軍を、援軍、駄目だ」  
「敵?」
 敵、理解できない単語。だから、聞き返した
「敵、敵。信じられない、あれだけの数をどこに隠してやがった・・・・・・」 
 わめき散らす歩哨を背に守備兵は見張り塔へと向かう。
 そして眼下に広がる光景を見、絶句した。
 陽が落ちる白い平原を進む影の群れ。
 地平線の彼方、埋め尽くす黒い染み、それらは一歩、また一歩、進んでくる。
 ありえない事実を目の当たりにして混乱したがすぐに駆け戻り
「応戦準備、王都に使者を送れ、周囲に援軍を請え。ここで死ぬわけにはいかない」
 帰るはずだった。だから、まだ死ぬわけにはいかない。
 家族の顔が浮かんで、消える。
 耐えるように握った柄は、妙に冷たかった。
 ──次の朝。
 建っていたはずの砦は、砦としては消失する。
 残された物は無数の足跡、踏み砕かれた石片、もはや形を成していない廃墟だけだった。

 

 進軍する謎の大軍が現る。
 その報にキエフは震撼する。
 いったいどこの軍だ? 反乱か? 他国か? デビルか? その答えは、正体不明の軍の使者が携えた一通の手紙によって解明する。

 陛下。
 先に催した舞踏会は、いたらぬ下僕が機嫌を損ね、申し訳ございません。
 お詫びというわけではありませんが、こたび再度度陛下と遊戯を催すため、王都へ馳せ参じる次第。
 たいした物ではございませんが、それなりの土産を持参。
 それでは、王都にて再会することを願い、失礼いたします。 

 貴方の忠実なる下僕 グリゴリー・ラスプーチン

「?」
 文面と宙、二つを交互に見返したウラジミールは、一瞬何の事か理解できなかった。しかしその意味を知ると、書簡を地に叩き付けた。
「迎撃の用意をさせよ。下賎の者め、何を血迷った。許せぬ、許さぬ」
 王命を受けすぐさま各地に分散していたロシア軍の正規部隊の一つ、銀狐兵団を召集した。
 緊急の召集に集まった数は十分ではなく準備する時間もなかった。
 さらに危急のさい近衛のみでは心元ないという進言により、集まった何割か王都に残留する事になる。
 結果、ウラル山脈方面より進軍してくるの迎撃に銀狐兵団八百は出発した。
 報によれば、敵と思しき軍は千を超えるという、このままでは不利。そのため同時にロシア冒険者ギルドマスターの元へ援軍を請う使者が送られる。
 こうして、グリゴリー・ラスプーチンによる王都への帰還。
 王都奪取の意思は詳らかにされる。

 世の終わり、北の地にて催される舞踏会。
 彼の物が放つのは破滅の匂いを含む招待状。
 その文が貴方の元に届くのは遠き日のことではない。



●雪原の会戦  天候晴れ 積雪あり・浅め

  ■大目的

  「防衛」

  ■小目的

  「敵戦力を削ぐ」「銀狐の消耗をなるべく減らす」

  ■選択

 【攻撃】
  ・単独突撃 ※MAX危険 最強さん向き
  ・銀狐と共闘 ※危険 それなりに強い人向き
  ・遊撃  ※少し楽 普通の人向き    
 
 【防御】 
  ・維持 ※防衛線の維持
  ・後方 ※輸送・連絡・後衛の保護

 【補助】
  ・回復 ※主に回復
  ・援護 ※色々援護しようぜ!
  ・偵察 ※工作もあり
 
 【応援】
  ・応援 ※臨機応変・君次第
 
 ■戦況

 会戦が始まるまで両軍対峙後、一日程度時間があります。
 今回は小細工なしの正面対決のため、数の差が有利不利に大きく影響します。

 敵は隊をいくつに分けています。
 敵の指揮官は騎乗の人型、能力は未知数、小隊は各々数百ずつ兵を率いています。
 小隊長はオークロード、オーグラ、蛮族の長など。
 兵はモンスターのほか、下級デビル、蛮族の魔法使いらしきものが多数混じっています。
 銀狐は接近戦において敵を凌駕しているため、総数の差を考慮にいれても、なんとか防衛は可能です。
 しかし、彼らは歩兵・戦士主体のため、魔法や遠距離攻撃に対して脆いです。
 そのあたりをどう対処するかが鍵になるでしょう。


 ■注意
 
 主に乱戦になるため、強力な範囲魔法は凶器と同じです。
 使う場合は使いどころを間違えないでください。

●今回の参加者

沖田 光(ea0029)/ 巴 渓(ea0167)/ ローラン・グリム(ea0602)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ ディアルト・ヘレス(ea2181)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ ジェイミー・アリエスタ(ea2839)/ 双海 一刃(ea3947)/ 以心 伝助(ea4744)/ レティシア・シャンテヒルト(ea6215)/ シェリル・シンクレア(ea7263)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ セシルロート・クレストノージュ(ea8510)/ エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)/ 水鳥 八雲(ea8794)/ パウル・ウォグリウス(ea8802)/ ミュール・マードリック(ea9285)/ ラザフォード・サークレット(eb0655)/ カグラ・シンヨウ(eb0744)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ ルカ・インテリジェンス(eb5195)/ ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ オリガ・アルトゥール(eb5706)/ クレムヒルト・クルースニク(eb5971)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814)/ マクシーム・ボスホロフ(eb7876)/ イルコフスキー・ネフコス(eb8684)/ アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)/ アルバート・レオン(ec0195)/ 虚 空牙(ec0261)/ 馬 若飛(ec3237)/ ハロルド・ブックマン(ec3272)/ サイクザエラ・マイ(ec4873)/ ソペリエ・メハイエ(ec5570)/ シャクリローズ・ライ(ec5586)/ リゼリア・アメン(ec5966)/ サラディー・シッダールタ(ec5974

●リプレイ本文


「魔王ですか」
 呟いた男、ラスプーチンの瞳の色が変わる。
 彼は自らの上位存在者に対して尋常ならざる想いを抱いていた。
 ロシアにおいて、彼を掣肘するであろうデビルは一つ、いや二つある。
 その二つを出し抜くため、今回彼は挙兵したともいえる。
 デビルといえど、力あるものが上位に立つのは当然、神であろうが悪魔であろうが、利用できるものは利用する。
 彼にとって全ては手段にしかすぎない。
 一つ、憤怒の王。奴にはいまだ力及ばぬ、
 一つ、自分自身に力を与えた者。討つならばこちらが先決だろう。
 そのためにもロシアを征し力を蓄える必要がある。
 善も悪も自らの正義のために殺しあえば良い、流血の上に最後に独り立つ、それこそ勝利者ではないのか?
「狐狩りの準備をなさい」
 
 会戦が起る前の話である。

 

●布陣


【攻撃】

・単騎
ファング・ダイモス(ea7482)
イリアス・ラミュウズ(eb4890)
虚空牙(ec0261)

・共闘
巴渓(ea0167)
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)
パウル・ウォグリウス(ea8802)
ミュール・マードリック(ea9285)
ラザフォード・サークレット(eb0655)
セシリア・ティレット(eb4721)
オリガ・アルトゥール(eb5706)
アルバート・レオン(ec0195)

・遊撃
沖田光(ea0029)
オルステッド・ブライオン(ea2449)
双海一刃(ea3947)
リアナ・レジーネス(eb1421)
ルカ・インテリジェンス(eb5195)
マクシーム・ボスホロフ(eb7876)
ハロルド・ブックマン(ec3272)
馬若飛(ec3237)

【防御】

ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)
ローラン・グリム(ea0602)
水鳥八雲(ea8794)
ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)
メグレズ・ファウンテン(eb5451)


【補助】

アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)
以心伝助(ea4744)
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)
ミッシェル・バリアルド(eb7814)
サイクザエラ・マイ(ec4873)
ソペリエ・メハイエ(ec5570)
シャクリローズ・ライ(ec5586)
リゼリア・アメン(ec5966)

【回復】

セシルロート・クレストノージュ(ea8510)
カグラ・シンヨウ(eb0744)
ソムグル・レイツェーン(eb1035)
イルコフスキー・ネフコス(eb8684)
クレムヒルト・クルースニク(eb5971)

【応援】

シェリル・シンクレア(ea7263)
ディアルト・ヘレス(ea2181)
ジェイミー・アリエスタ(ea2839)


●開戦前夜

 戦いにおいて重要な選択はいくつかある。 
 それを敵軍に対する攻撃、防御と答える者が多いのかもしれない。
 だが、兵站の確保、情報の入手。
 先んじてこの二つを欠く戦は、灯りを持たぬまま暗闇を歩くようなものだ。
 元々この戦さを銀狐兵団は長期戦になると想定していなかったらしい。
 そのため糧食と兵器は最低限しか所持せず、足りない分は後方より送られる補給に頼ることになる。
 どうやら、彼らは目の前の事に目端は利くが、遠くと後ろは見えないようだ。
 作戦が開始される前、輸送部隊がこちらに向かっているという報が冒険者の陣幕に知らされた。
 その報を聞いたアナスタシヤ・ベレゾフスキーは、輸送部隊の防衛に志願した。
 華やかな戦場とは違い、地味な仕事だ。会戦に間に合うかさえ分からない。
 だが、
「それもよいじゃろう」
 一言残し、彼女は行った。
 後日、補給部隊は襲撃された。
 銀狐から割かれた兵はごくわずかだったが、アナスタシヤの魔法によって隊は撃退し、物資は無事届くことになる。 
 
 偵察に出ると名乗り出たものは何名かいる。
 主なところで、以心 伝助、ミッシェル・バリアルド、ルカ・インテリジェンス、リゼリア・アメン・シャクリローズ・ライ、サイクザエラ・マイなどである。
 ミッシェル、リゼリアはテレスコープを用い主な敵の位置を確認した。
 ルカは放った鷹を介して布陣を探った。
 シャクリローズはオーラテレパスによって雪に対して会話を試みた。
「駄目かな」
 彼は敵の情報を得ようとしたようだ。
 しかし、雪は明確な知性を持っていない。
 敵の布陣をある程度、判明したあとルカは銀狐一つの提案をする。
 それはイリュージョンを使用した陽動作戦だった。
 行動の許可はされたが、彼女一人では広範囲の規模を術中に陥れることもできず、敵術師の対応によって鎮静化する。
 伝助とサイクザエラは戦闘開始後に動くため、ここでは記述しない。
 

 
●開戦

 白雪、晴天の下、ラスプーチン軍と銀狐本隊が対峙したのは、太陽が中天を指す少し前の頃である。
 現れた敵軍は本営を後方に置き、部隊を三つに分ける。
 狐は同様に陣を敷くが数の上で劣勢、敵陣もっとも薄い隊は向かって右翼、蛮族が率いる部隊、事前の偵察によりある程度の情報は知れていたが、状況は変化するもの。
 変化を知るため忍びは走る。
 伝助は忍者だ。忍者の術は諜報に秀でる。擬態し敵を観察する彼を勘づくものはいない。伺う伝助の眼に敵左翼の慌しい動きが入った。
 どうやら敵は数の利を知り、左翼と本営から一部を振り分け機動力に優れる部隊を組織大回りに迂回して、味方後方を衝くつもりらしい。
 後方は冒険者と救護兵による陣地、補給所がある。
 確かに前方に対しては防衛線を張っている。だが後方に対しては無防備同然、仮に後衛を落されれば回復補給を失った上、挟撃される。
「やばいっす」
 確認した伝助は、ある人物と連絡を取る。
 ぼんやりと戦場を両軍の光景を眺めている者がいる、名をレティシア・シャンテヒルト。彼女は見ていると、いや何かを感じている。
「!」
 彼女は本営へと駆け出す。
 その頃、冒険者による遊撃部隊は、主に左右から半包囲を決行するため準備を行っている。
 その一人であるマクシーム・ボスホロフは、偵察情報の確認をしたさいレティシアが手に入れた情報を最初に聞いた男ともいえるだろう。
 すでに、銀狐本隊に随伴する冒険者は出発し激突するまで秒読みの段階だ。
 残るのは防衛線を守るため少数の兵、本営のみである。
 マクシームはどうするか迷い、複数ある選択のうち一つを採る。
 
 
 両軍が激突したのは、正午を過ぎた頃である。
 独りの男が開戦を告げる。彼は銀狐の旗を持ち自らが囮となり、戦神の笛を吹き鳴らした。
 軍の士気はそれにより上がり、有利に展開する事となる。
 男の名をディアルト・ヘレスと言う。
 ディアルトの笛の音に乗って激突した両軍、お互いの手の内を読むのように小競り合いを続けている。
 初め洗礼のごとく交わされたのは、魔法による応酬だった。
 エルンスト・ヴェディゲンはサンダーボルト、ラザフォード・サークレットはグラビティーキャノンを用いた。
 その返礼に返って来たものはブリザード、ファイヤーボールなどである。
 魔法が飛び交う中、エルンストは戦場を見、何事か考えていたが、ふと呟いた。
「お互い様」
 深い意味がありそうだが、何を意味しているのは分からない。
 その後ラザフォードは重力を駆使して転倒、アグラベイションを用い敵の動きを封じるのだが、なぜか不機嫌に見えた。
 
「空だ!」
 誰かが言った。頭上に現れたのはグリフォンに乗った、敵の部隊である。
 それを見ていたのは
「やれやれ、どこかしこも面倒くさい話だねぇ、って空」
 パウル・ウォグリウスがやってきた敵を見ると言った。
「相変わらず気楽な奴だ、いっそ一緒に飛んでみたらどうだ・・・・・・くるぞ」 
 ミュール・マードリックが答える。
 さて、このコンビは後にパウルを火の鳥に変えたいわゆる自爆攻撃を敢行することになる。
「ジャスト10秒だ」
 敵隊長の上空に到達したパウルを見てミュールが言った。その後爆音と供に、辺りがなぎ払われる
 突撃していく様子を見ていた銀狐の兵は、
「あれは何なのだね、副長?」
「さあ? ともかく敵の隊長と取り巻きが吹っ飛んだわけで結果オーライではないでしょうか、しかし敵陣深くですし、帰り道をどうするのでしょう」
 兵はあとからわらわらとやってくる。
 いつかパウルは、星になった。
「全く仕様のないやつだ、だからやめておけと」
 ミュールは溜息をついた。
 その様子を遠くで見ていた女が呟いた
「準最強さん達は、相変わらず、ナイスコンビぶりね、ナイス過ぎて熱いものが鼻から」
 水鳥八雲だ。止めたほうがよかったのではないか?

 
 話を戻そう。
「空だ!」  
 空からやって来たグリフォンを迎え撃ったのは、セシリア・ティレットだった。
「抹殺です、敵は抹殺」
 セシリアもグリフォンに乗っている、しかしその表情は鬼気迫り、殺気を辺りに振り撒いている。
 戦う姿は女神というより鬼神だ。追い込んでは容赦なく斬る。
 襲ってきたグリフォンを一匹ウォーターボムで落したオリガ・アルトゥールは鬼神の姿を見て言った。
「眼を覚ませないとだめですね」
 笑顔のオリガが、のちにセシリアに何を言ったのかは定かではない。
 そして巴渓だ。
「任せやがれ」
 と、彼女は迫る敵から術師を守るという自己犠牲的行動を買って出たのだが、なぜか味方から発射された魔法の射線上に立っていたため、不意打ちを受け巻き添えになった。
 不運である。
 ともかく巴渓は大怪我をしたため、後方へと下がる。
 彼女の想いは無駄ではない、不運だったそれだけだろう。
 
 前衛が戦いを始めた時、後衛では──。
「とにかく寒い! それより情報分析によると、敵の襲撃がある、はず」
 ジェイミー・アリエスタが欠伸をしたあと言った、根拠はある‥‥‥らしい。
 ちょうど伝助から情報を継続して得ていたレティシアは、空から全景を確認し戻ったシェリル・シンクレアもジェイミーと話している。
 その後ろ、怪我をした者を治療をしているのは、セシルロート・クレストノージュ、カグラ・シンヨウ、ソムグル・レイツェーン、イルコフスキー・ネフコス、クレムヒルト・クルースニクらだ。
 救護所は慌しい、前線から送られてくる負傷兵で溢れている。
「痛い、もっと優しく」
 どうやら、運ばれた銀狐兵が騒いでいるようだ。
「でも怪我、してないよ」
 ちょうど治療に当たったカグラが言った。
「嘘、ほら血、血がー!」
「それは鼻血。おさえて休めば治る。セーラさまのご加護を」
 確かに鼻血だった兵は赤面した。
 カグラが去ったあとセシルロートがやって来た。
 セシルロートは血まみれの銀狐兵をみるや否や
「命は大事にしないとだめ。皆の奮闘があるから私たちは無事踏みとどまれるの。無理はしてはだめ」
 セシルロート言う事は優しさに満ちているのだが、鼻血で救護された兵にとっては気恥ずかしいだけだ。
「え、その」
 兵がどう返そうか困っているとクレムヒルトがやって来た。
 彼女もやはり血まみれの兵を見ると
「大丈夫ですか? 聖なる母は力が必要ですか」
「え、う」
 困惑する兵、そらに留めとばかりはイルコフスキーがやって来て言った。
「神様、怪我をして人がいます、おいらに力を」
 そういうと祈りを捧げ始める。
「ご、ごめんなさい!」
 兵は逃げた。
 なぜ逃げたのか、当のクレリックたちには分からなかったが、ソムグルはその様子を一部始終見ていた思った。
 愛が多すぎるのも怖いな、と。
 逃げ出した兵は途中、少女と出会った。血だけらけの兵を見るなり少女、
「回復まほー、応急手当出来ない、でもお手伝いできる。治療できない重症者が出た場合 アイスコフィン取り出し凍らせる」
「生きたまま凍らせる気!」
 兵は思いっきり逃げた、ラルフィリアは何のことか分からず首をかしげた。 

   
 前線は膠着状態になりつつあった。
 銀狐と共に最前線に立っている男、アルバート・レオンは敵を前にしていた。
「来い」
 一匹潰して挑発する
 自らの装甲の厚さを利用し、肉を切らせて骨を断つアルバート。
 だが、すでに戦闘が開始されてかなりの時間が経過している、アルバートの顔にも疲労の色が隠せない。
 やはり簡単には行かないな、自分の戦術眼の通りだと、アルバートがそう感じた時。
 左右両翼を冒険者によって結成された遊撃部隊が取り付き、一時的に半包囲が完成した。
 
 【右翼】

 オルステッド・ブライオン、双海 一刃、リアナ・レジーネス
 
 敵右翼は主に重装兵と蛮族が配備されている。
 銀狐の部隊も装備において劣るわけではないが、魔法との援護と根本的な力の差でやや劣勢である。
 リアナは自らの魔法力を生かし、敵陣の構成を探知、これによりに敵右翼部隊の配置はほぼ知れた。
 敵の状態が分かれば、打ち崩すのは容易だ。
 遊撃部隊は少数だが、楔を打ち込めばそれでよい。
 リアナは、手に入れた情報をオルステッドと一刃に教えポイントを突いて攻撃するよう言った。
 リアナからの情報を得、一刃は緊張していた。なぜなら敵に包囲されている。
 打ち込んだソニックブームに気づいた敵、その一部が彼に向かって来た。
 一人で相手をするには数が多い、抜いた二刀を構えて眼を閉じると息を吐くと走りだす 敵は鈍くまだ気づかない、駆けて、駆けて擦れ違いざまに一度斬り、斬って飛ぶが敵の海。さらに囲まれた。
 なぜか知らないが笑いたくなった。
 再度二刀を翳した。
 一刃が覚悟を決めた時だ、一本の矢がオーガを頭を貫く。
「‥‥‥礼はいらない」
 一刃の視線の先に弓を構えたオルステッドの姿があった。
 オルステッドは、飛行弓兵として蛮族の魔法使いを撃つことに全力を尽くすと同時に負傷兵を後方へ移送する。
 なお、リアナはその後全体の情報を探知し本営へと伝える。
 
 
 【左翼】

 ルカ・インテリジェンス、馬 若飛、ハロルド・ブックマン、
  
 左翼は、主に下級デビルとモンスターを主体にした部隊である。
 兵数はそれほど多くはない。
 ──とんだ新年である。しかし、例年通りとも言える。
 ハロルドは手記にそう記したあと、アイスブリザードを唱えた。狙いは敵陣の後衛である。
 発生した魔力により隊列が崩れる。
 そこにルカはすかさず、銀狐の幻影を作り出した。
 混乱している敵にそれを効果的である。後方崩れた隊形を敵が戻す前、さらにハロルドは魔法を撃ち込み続けた‥‥‥魔力切れるまで。
 分断された敵陣は戦線を支えられなくなり、後退を始める。
 馬若飛は待っていたかのように手綱を引くと。
「今年も忙しくなりそうだぜ、こん畜生!」
 馬はそう叫ぶと矢を射ながら駆け出した。
 敵軍両翼は、混乱と打撃を受けた結果、崩壊しつつある。
 しかし──。

 最初にそれに気づいたのはソペリエ・メハイエだった。
 救護所の壊れた陣の修復をしていた彼女は背後に迫る異変に気づいた。
 いななきと共に馬影が迫る。
「敵だ!」
 レティシア、シェリル、ジェイミー予想より数時間早い。
 同時刻、崩壊しつつある敵軍は増強のため本営を中央直接投入する。
 だが、銀狐の予備兵力はもう無い。

●連戦

 敵の襲撃は想定していた事態だ。
 後方へとマクシームの言により共に下がっていた沖田光、救護所の防衛をしていたラルフィリア・ラドリィ、偵察後、帰還したミッシェル、リゼリア、シャクリローズ、サイクザエラ・マイなどはすでに迎撃の準備をして待ち受けている。
 さらに前線の防衛線を維持しているヤングヴラド・ツェペシュ、ローラン・グリム、水鳥 八雲、メグレズ・ファウンテンに助力を求めた。
 
 だが前線では、異変が起きていた。
 圧倒的優位かと思われた、優勢が崩れつつある
 事の発端はファング・ダイモスにあるのかもしれない。
 フォングは天下無双と言っても良い猛者だ。突撃する彼の武勇は群がる敵を蹴散らし続け、ついには敵の指揮官の前に彼は辿りついた。
「一騎当千を歌うならば、ここまで来て勝負せよ」
 敵指揮官はやって来た彼を挑発した、当然フォングは受けて立つ。
 指揮官は逃げるだけだった、いつのまにか敵陣深く誘い込まれたフォングは孤立する。
 そして、
「射れ、猪は狩るのはこれで良い」
 矢が降り注ぎ、フォングは落ちた。
 確かに彼は最強ともいえる。
 だが、敵陣に孤立してはその強さもいずれ潰える。
 それは虚空牙にもいえるだろう。彼もまた敵陣に置いて孤立しその身は果てた。
 彼らの勇は並ぶものなきもの、だが一振りの剣で切れる数は無限ではない。
 とはいえフォングらの活躍は自軍の士気を大いに高めていた。その柱を失った今、勢いが逆転し始めた。

 後衛に戻る。
「ふはははは! 教皇庁直下神殿騎士ヴラド参上なのだ〜」
 ヴラドが現れた、どうする?
「どうしましょうね、それよりこの状況でなぜ暴れ馬に乗っているのですか」
 メグレズは、馬らしきものに乗って空で暴れているヴラドを見て言った。
「馬ではないぞ、ペガサスだ」
「それでは、暴れ天馬ですね」
 何かほのぼの落ち着いた感じの二人だが、敵軍が防衛線に迫っている。
「二人とも遊んでいる場合ではないぞ、このままでは」 
 ローラン・グリムが危機的な状況を感じ言った。
「よしテンプルナイトにお任せ〜なのだ」
 いったい何を任せればいいのだろう。ローランは思ったが、
「やれるだけやってしまえ」
「カリスマティックオーラ発動!」

『カリスマティックオーラとは

 神聖なる存在感を示し、信徒を鼓舞し、敵対者を威圧する魔法です。範囲内にいる術者を含む聖なる母を信奉する者は、全ての行動が円滑に、聖なる母の教えに敵対する者は全ての行動と思考に障害を受けます。どちらとも言えない存在は影響を受けません。

 古文書抜粋』

「やりますね」
 メグレズが締めた。
 溜息をついている場合ではない、とにかく敵が迫っている。
 水鳥八雲はちょうど座を外していたせいで絡めなかったらしい。
  
 敵軍の襲来を察知により事前工作を行い、馬の行軍を阻止するための準備、リゼリアによるマジカルミラージュ、サイクザエラの陽動などによって敵の進軍を防いだ、後方。
 その場に轟くのは、
「ラスプーチン、お前の好きには絶対にさせません。この弓のように、僕の炎の翼がお前の野望を必ず叩き折ります!」」
 決めた沖田は、前方より来る敵に向かって、ファイヤーボールを撃った。それが後方での戦いの開始である。
 後衛は射手が主力である。
 その時、衝撃波が敵陣を襲う。
 イリアス・ラミュウズ。
 敵の長距離兵を潰すため奔走していた彼が、後方の異変に気づいて援護にやって来たようだ。
 心強い。
 さらに
「救護班をやらせはせぬ、やらせはせぬぞ〜!」
 何かやって来たが見ないことにしよう。   
 
  
 後方で戦闘が開始された。
 一方混乱する前衛、銀狐隊は再集結した術師と戦士達が銀狐の崩壊を支えていた。
 エルンスト、ラザフォード、オリガらは温存していた魔力をほぼ使い果たしつつある。
 その彼らに立ちはだかったのは、ダイモス&空牙を屠った敵の指揮官だった。
 すでに冒険者で近接戦闘可能が主な者はアルバートとセシリアのみである。
 唯一自ら迎い、彼の者と剣を交えたセシリアは直感的に悟った
 自分が叶う相手ではない、銀狐の精鋭も切り伏せられている。
「下がりなさい」
 ラザフォードのキャノンによって怯んだ指揮官を見て、オリガが叫んだ。
 すかさずアルバーがフォローに入る。彼もまた尋常ではないプレッシャーを感じている。 
 空から様子を見ていたシェリルは、傍らのスモールホルスに微笑むと
「そろそろ潮時かな? ふぃ〜ちゃん」
 スモールホルスは頷いたように見える。
 シェリルは最後に雷を落すと、地上に降りた。
「いけぇ、ふぃ〜ちゃん」 
 スモールホルスが西に落ちる太陽の陽を受けてきらめき、羽ばたく姿を見送ったあとシェリルは呪文を唱え始めた。
 シェリルの幻影により敵は動揺した。
 両軍の疲弊は限界に近い、ここで勝利に固執することに意味はない。 
 敵は退却を始める、それを追撃する余裕は銀狐にも冒険者にもなかった。
「妙刃、破軍!」
 メグレズの一撃により最後の掃討が終わった。振り向く彼女の視界に影のようなものが入る。
 敵の増援か? 影は近づいてくる、メグレズは構え──理解する。
「救援物資の到着じゃ」
 アナスタシヤが輸送部隊を連れて到着したのだった。
 

 こうして戦闘は終了した。
 今回の戦いは辛くも勝利したといえる。
 だが敵軍を殲滅したわけでもなく将も健在だ。
 君達は凱旋気分を味わいつつキエフへと戻るだろう。
 だが、この戦い一つの契機にしかすぎない。
 世界を覆う暗雲は、いまだ晴れない。



●今回の評価


 【銀狐勲章】

 レティシア・シャンテヒルト 

 【戦死・受勲】

 ファング・ダイモス
 虚 空牙
 パウル・ウォグリウス


 戦死並びに重傷者は軍が回収後回復したため、会戦前と変わらず。
 勲章については今回作成が間に合わなかったため、名目のみで授与はない。
 
 以上