蜘蛛の巣、詩人の惑

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月14日〜01月18日

リプレイ公開日:2009年01月26日

●オープニング

 子供達の声を背に浮かれぬ顔の青年は道を進んでいた。
「ごめん、おじさん」
「おじさん?」
 まだそんな歳じゃない。
 言葉をかけようとするが、子供達はすでに遠く走り去った。
 時折、空から落ちる雪は防寒着を薄く包む。
 キエフの街、雑踏の賑わいは、きっと世界を覆う暗雲を忘れるためもあるのだろう。
 見上げた灰色の空は重い、無言でこちらを睨んでいるかのようだ。
 眠りともに痛みを連れてくる冷気に耐えながら、ぼんやりを歩む青年はそのうちに広場へ出る。
 そして彼の視線に入ったのは、謳う女だった。
 吟遊詩人。
 しばらくの間、青年は謳う詩人をみつめていた。
 訴える言葉、切迫を伴う感情の調べ、織り成す物語、聞き入る子供たち。
 どれにも興味は無い。
 引っかかるのは、受け取った手紙だけ。
 その場を後にした青年は、さらに歩いた。
 目的はある。
 だが、意識が果たすのを拒んでいる。
 彼は一通の手紙を頼りにここまでやって来た。
 なぜ自分の元に届いたのかは分からない。だが、来なければならないような気もした。
 何度も躊躇しては裏通りを進むと目的の場所へと辿りつく、目の前の建物はありふれたものだ。
 訪問を告げると男が応対に出る。
 持参した手紙を差し出すと男は青年に聞いた。
「君がカインかね?」
「ああ、あんたが呼んだのか」
「入りなさい」 
 扉が閉じた。ゆっくりと。


 その頃、冒険者ギルド

「暗い、暗すぎ。なにこのダークな雰囲気。だいたいデビルとかいってるけど顔色の悪すぎ集団じゃん、虎? 犬? 尻尾、動物ね、動物」
 ギルド員が現れた。
 ギルド員は女、というよりおねーさんといったほうが良い。おねーさんは明るい。
 そのギルド員の前には城よりやってきた使者が困惑しつつ立っている。
 ひとまず話しかけることにした使者。
「それで依頼なのですが」
「帰って」
「あの、依頼を」
「分かったから、帰って」
「だから! 私は王宮の使者です、きけってば!」
「・・・・・・それなら言ったら?」 
 この女に二度と会いたくない、使者は心からそう思った。


 


●依頼要約

 キエフ城下の話です。
 不穏な噂、歌が城下に流れ出しました。

 歌をまとめると

 キエフは何者かの手によって襲われる。
 そのさい王国の支配者たちは自らの身を守るために民衆は犠牲に捧げるだろう。
 キエフの民草よ、選民による暴挙が起きる前に玉座を守護する貴族ともども、国王を自らの手で引き摺り下ろせ。
 それこそが唯一、民が助かる道だ。
 
 そのような内容です。
 誰も信じていませんでしたが、歌が流れ出すと同時に一部貴族の悪事が白日の下に晒され始めます。
 さらに夜間、城下での襲撃の報告が後を絶ちません。
 民の心理は日を追う後に、負に向かっているようです。
 
 目的地は一軒屋。
 周囲に民家が普通に存在します。
 出入り口は二つ、話によると戦士風のゴロツキが数名、フードを被った怪しい輩も数名と盗賊風の男達。
 その他、詩人風の男女の出入りも確認されています。
 数は全部で十数人程度のようです。

●今回の参加者

 ea1968 限間 時雨(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2563 ガユス・アマンシー??E expires(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085)/ オリガ・アルトゥール(eb5706

●リプレイ本文

【キエフ 夜】

 夜道を歩く男がいる
 彼の名前はドンドコ・スキー、治安を守る警備隊長。ちなみに武器は弓矢だ。
 最近このあたりに身元不明の怪しいやつらがたむろしているという報を受け、彼は巡回している。
 場所は街角、夜の闇。
 物音を聞いて来て見れば、あからさまに怪しいやつらが目の前に数人いる。
 ここは拷問ではなく尋問してみようと彼は思った。
「止まれ、撃ち殺すぞ」 
「ちょっと、まっていきなり? 仕事で来ただけのぼうけんしゃ」
 灯りに照らし出された女は防寒着の上からでも胸かないことが分かる。
「冒険者? 黙れゴミくず。税を支払わないやつは、犬以下だ。這え」
 ドンドコは矢を・・・・・・。
 ──。


 
●事前

 冒険者の行動は、作戦の確認と話し合いから始まった。
 今回はガユス・アマンシール(ea2563)の提案により四日間のうち数日を主に調査に回す事になったようだ。
 

 
●一日目


 【一軒屋】
 
 賊? がいると思われる一軒屋にやって来たのは、ガユスとルイーザ・ベルディーニ(ec0854)である。
 到着してみると目の前にあるのはありふれた家だ。特に怪しい感じはしない。
 昼間は人通りもそれなりにあるため、普通に見張った場合それなりに目立つだろう。
 周囲を見回し、身を隠せそうな場所をなんとか探しだしたガユスは、ブレスセンサーによって一軒屋の内部を調査し始めた。
 彼はその行動を一定時間ごとに夕暮れまで地味に続けた。
 しかし、夜の訪れと共にやって来た寒さの前に耐えられず退却することなる。
 その結果、分かったのは下記の情報である。

 昼間は五、六人程度常駐している程度。
 夕暮れに帰ってくるものがあり、数が増える。
 それと同時に見張りを数人立てる。
 見張りは時間によって交代する。
 戦士が四人、フードの被った男三人ほど。

「寒いですね」
 その後三日目までガユスは捜索を続けることになる。
 ガユスが風邪をひかないことを祈ろう。 

 ルイーザは買出しや周辺注意などの補佐を主に行った。
 買出しに行ったルイーザはガユスの好みが分からないので、自分の好みで食事を買ってきた。 
 ルイーザが持ってきた昼食を見たガユスは、好みはきちんと聞いて行きなさい。
 そう思ったが何も言わずに食べた。 
 そういう小さなドラマもあることにはあるのだが、ここでは詳しく語らない。
  
 【キエフ】

 キエフの街中を歩く者がいる。 
 限間時雨(ea1968)とサリ(ec2813)だ。
 彼女達はそれぞれの目的で動いている。詩人を探すという点は共通している二人は、詩人が現れそうな場所を捜索していた。
 詩人というからには、広場で歌っているだろう。
 時雨はそう思ったのだが、
「いない」
 街の広場にやってくると、詩人の影も形もない。冬ということで道を歩く人も寒そうだ。ちょうど通りがかった頬の赤いおやじに、時雨は詩人について尋ねる、
「これこういう詩人知らない?」
「詩人? 今の時期に外で歌うやつはいねーべ、ねぇーちゃん」
 冷たくあしらわれる。 
 時雨は微妙なショックを受けつつも、聞いた。
「そ、そんなことは分かってる。じゃさ、どこにいるの?」
「そりゃ詩人だし酒場だろ、サ・カ・バ」
「あ、そうだよねーあはは」
 時雨は納得した。
 かといってそこにいるとも限らない。
 だが、とにかく時雨は最寄りの酒場に向かった。


 その頃、サリは子供達と遊んでいた。というより捕まっていた。
 サリはパラだ。パラは結構小さい、そしてそれなりに珍しい存在だ。
 そのため。
「遊ぼうぜ」
 見慣れないものを見ると子供は凶暴ではなく、活発になる。
「え、そのちょっと」
 しかし子供達は容赦がない。 
 という風に子供に巻き込まれつつも、サリは詩人についての情報を探り忘れたわけではない。
 子供達が言うには詩人の歌はこうだ。
 

 「グロズーヌイの歌」

 四方より居城へ脅威迫る時
 王は居城を捨て自らの手足を刈りて慈悲を請う
 脅威の主は螺旋と僧侶、騎士と雷光駆けぬける
 従う騎士は青銅、赤銅、白亜に黒鉄 
 雷鳴轟く時この地は終わり録に記されるだろう
 今ぞ、さあ喇叭を吹き鳴らせ
 立てよ農民、立てよ商人  
 抗うことなき精鋭たちよ、紫旗の下に集うのだ

 そんな感じらしい。
 さらに色々語りがついているのだが、長いため省略。

 なお、詩人の捜索と尾行は失敗した。
 時雨は酒場で詩人に探しに行ったのはいいのだが、飲んでしまった。
 サリは子供達と雪だるまを作ることになった。


 
●二日目

 【定期連絡】

 冒険者達は手に入れた情報を総合した。
  

 【キエフ】

  
 新たに一軒屋にやって来たのは、サリである。
 調査を続行していたガユスと落ち合うとガユスは昼食について訪ねる。
 サリは何のことか分からなかったが、
「なんでも良いですよ」
 そう笑顔で答えた。
 その後、ガユスは昨日と引き続き地味な調査を続ける。
 サリは家の構造について調査をした結果、詳しい構造を知った。
 どうやらそれほど広い家ではないようだ。
 
 

●三日目

 【定期連絡】

 冒険者達は手に入れた情報を総合した。

 【接触】

 男達は追われていた。
 自分を追っているものに気付いたのは、先刻。
 隣を走っていた女は突如消えた。
 いったい何が起きたか? それを理解する前に走り出す。
 曲がりくねった路地を駆け抜ける。いったい自分達を何が追っているのか分からない。
 敵か? 敵といっても、いったいなんだ。
 そこまで考えた時、突如道が途切れる。広がった視界に立ちはだかる白い海、態勢をなんとか直すが滑る足元には叶わない。
「くそっ」
 派手に転び辺りに立つ雪塵。その雪がおさまった頃、追う影が前に現れると言った。
「そこまで、ですね」
 目の前にいるのは女、見下ろすの瞳はどこか冷ややかに見えた。
「お前はいったい何者だ?」
「名乗るほどの者ではありません。少しの間眠ってもらいます」
 陽小明(ec3096)は一撃を食らわした後気絶した男を運び。
(転ばす前に自分で転ぶとは、それにしてまるで盗賊の仕事ですね)
 そう思った。


 【尋問】
 
「さあ、雇い主が誰か、何を企んでるのか、わかる範囲で教えてくれるとおねーさん嬉しいなー」
 時雨は捕まえてきた捕虜の喉元に刃を突きつけつつ、にこやかに聞いた。
「そうだにゃー、白状しないと、どぴゅっと死んじゃったりするかも♪」
 同じくルイーザも嬉しそうだ。
「俺、俺たちは何もしらねー金をもらっただけだ、僧侶、僧侶に聞け」
 男はそう言った。
「ほーんとかにゃー痛い目見たくなけりゃ大人しく吐くといいよー♪」
 ルイーザが刃ではなく背で頬を撫でる。
「ほーんとかなー」
 時雨も一緒になってぺちぺちを始めた。
 
「随分と楽しそうですね、あの二人」
 小明は呟く。
 尋問の結果、アジトにいるほとんどの者はどうやら金で雇われたようだ。
 内情に近いのはフードを被った何か、通称は僧侶と呼ばれているらしい。
 やはり知るためには襲撃するしかない。
 だが、ここで兵を捕まえて数を減らしてしまったのが・・・・・・。
 


●三日目 夜

 【襲撃】
 
 アジトでは帰ってこない者がいることを知り、自分達が狙われていること悟った。
 結果、僧侶と呼ばれる者はアジトを捨てる準備を始める。
 ガユスは三日目の調査でその変化を知り、急ぎ冒険者たちにその報を知らせた。
 事態は一刻の猶予もない。
 先ほど尋問をしていたルイーザ、時雨も真面目な表情になる。
 このままで解決どころか脚きりだけで終わり、手がかり一つないまま逃げられる。
 時間はない。
 準備万端とはいかない、当初の作戦通り戦うのも不可能だろう。
 それでも彼らはいくしかなかった。
 
 到着したのは夜。
 冒険者達を冷たい風が襲う、事前の調査で入口は二つある事は分かっていた。
 サリの調査で部屋の数もある程度把握している。
 結果、ルイーザは表、小明と時雨は裏口から進入する。
 ガユスは呪文の保護をかけたあと逃げる敵に呪文を浴びせるため準備。
 サリも同じく矢を射掛けるため配置についた。

 見張りに最初の一撃を加えたのは時雨だった。
 忍んで歩き注意を一瞬此方に向けるために切りかかる。
 相手の視線が時雨に移った背後、すでに重心を低きに置いていた小明は右から左に相手の踵を勢いよく薙ぐと刈られた見張りは何が起きたのが理解する前に倒れ、そこへ時雨がゆっくりと留めを刺す。
 同時に見張りを倒し表口から侵入したルイーザはドアを勢いよく開く。
 自分が注目を集めれば、敵の一部は裏口から逃げるはず。そのような計算と自らの実力を秤にかけた結果だ。
 現れた彼女に驚きと共に襲い来るのは三人程度、もっとも腕が立そうな戦士へ彼女は駆けた。
 相手に張りつくような位置、引いた拳、初撃を内腑へ力一杯叩きつけると鈍い音ともに刺激臭が散る。
 血が混じった液、まみれた匂い。無意識に唇を舌で撫でたあと 
「次は誰が最初に踊ってくれる? ちょっち痛いけどね」 
 そうルイーザは言った。

 ルイーザの突入後、裏口から侵入した小明と時雨は逃げてくる数人を相手にしたのだが全てを倒すことはできない。
 逃げだした数人。闇に紛れて逃げる敵に向け、サリは矢を射続ける。
 暗闇にやって来る襲撃者に怯み動きを止めると、ガユスの風の刃が放たれる。 
 その攻撃により倒れたフードの男がいる。
 倒れた探るガユスは懐から計画書らしきものを発見した。 
 計画書には具体的な案と共にラスプーチンという銘を発見し。
 この計画の裏にいるのがラスプーチンである可能性があることが判明した。
 その後、逃げた数名を除きほとんどの者は退治した。夜の寒さと最近の治安もあり外に出てくるものいなかったため、なんらかの騒動で片付けられるだろう。

 全てが終わった後、小明はアジトの机の上、無造作に置かれている絵を二枚みつけた。
 襲撃の振動で埃や壁の欠片を被った絵は、どうやらロシア国王ウラジミール一世を描いた物のようだ。
 二枚の絵に描かれている人物は、一見して同じ人物に見える。
 しかし二つを見比べていた小明が、微妙な違いに気付く──前に、時雨の叫び声が響いた。


●【キエフ 夜】
 
 ドンドコは矢を放つ。
 ──相手はかろやかに避けた。
「お前達、怪しすぎる。ちょっと詰め所まできてもらおう」
 ドンドコの一方的な決めつけにより、不審人物として認定された冒険者たち。
 ここで抵抗するか意見は分かれたのだが
「無駄な抵抗はしないほうが良いと思います。情報が伝われば迎えが来るのではないでしょうか?」
 サリのな意見により、今回は大人しく従った。
 その後、どうやら手回しされ迎えの者がやって来て言った。
「それにしても災難でしたね。今回の話はあくまで我々ではなく貴方達、冒険者独自行動ということで処理するつもりでしたが、あのまま放置していくわけにも」
 使者の言葉の裏には、失敗した場合は冒険者に責任を押しつける、探りをいれるための手段、そんな意味が含まれているのだろう。 
 今回国、軍として直接関わることを避けたのは、保険のようなものだ。
 成功すればそれでよし、失敗した場合即時介入、事件自体をもみ消すつもりだったのかもしれない。
 国が表だって動く事は、噂の裏づけのようなもの。
 例え裏づけにならなくとも、それを契機にさらに噂、流言として使いようもある。
「貴方達の活躍により、裏にいるのが誰なのか判明しました。本当か嘘かはともかく、どうやら情報戦はすでに始まっているようです」
 言い残すと使者は立ち去る。

 その後、腑に落ちず納得できない想いをどこかに抱きつつも冒険者たちはギルドへ歩き出す。 
 途中、酒場によって仕事の成功を祝い昼食を共にしたようだ。
 その時の注文はピロシキ。
 美味しく食べられたかは不明である。
    
 了