キエフ動乱、王二人

■イベントシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 90 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月16日〜03月16日

リプレイ公開日:2009年04月03日

●オープニング

 危急のさいである。
 キエフ城下を訪れた者がいる。
 月光に照らし出された肌は青ざめ、フードの奥には狡猾な光が宿る。
「準備は整ったのでしょうね?」
 男が問うと、
「ぬかりなく」
 部下は答える。
 しばらく虚空を見据えたあと
「無駄な力を使う必要はありません。他力を持ちえばよい。利用できるものは全て使う。はじめましょう」
 男はそう言った。

 出現したデビル迎撃に向かう者達の出立により、キエフ城下・ギルドは閑散していた時の話だ。
 間隙を衝きマリンスキーに進軍してくる一軍がある。
 辺境を瞬くまに制圧した一軍は、近衛・炎狐の旗を掲げた王の名を轟かせている。
 彼らは襲うデビルや蛮族を打ち倒し地に安寧を持たらし城へ進む。
 ある者はそこに王・ウラジミールの姿を見たと証言さえする。

 そして、その時は唐突にやって来た。

 【主文】

 現王ウラジミール一世はかつての騒乱において王国顧問ラスプーチンの手によってすり替えれた偽王である。
 我々はその証拠に真の王を戴き、偽王ウラジミールを誅するため進む、真王軍。
 世界を覆う暗雲、デビルによる悪辣な所業によってロシアの地は疲弊しきっている。
 だが、いったい国が何をしてくれたというのだ。
 キエフの民よ、我々は解放軍である。虐げられた君達を救う。
 志同じくするものは集え、約束の時は近い。

 キエフ城下一面に檄文、同時に扇動者が演説を始めた。
 元より治安の悪化、市中は人心の低下などより一部の民の心は離れていた。
 辺境では解放軍を自称し小手先ではなく実力を持ち行動する真王軍は歓喜の声をもって迎えられその規模を増した。
 デビルの迎撃で余力の無い、この時。
 彼らは機を計るかのようにマリンスキーに向け進軍を開始。
 ロシア側は反乱分子の進軍に対し一部残存する銀狐兵団と緑林兵団が迎撃するも。
「うぬ如きの剣など毛ほど感じぬわ。天に太陽は二つ無く、地に冠は一つのみ。散れ下郎」
 敵の将、黒鉄の鎧を着た将、率いる騎兵隊の前に一蹴される。
 そればかりか離反し敵側につく者さえ現れる始末。
 ロシア国王ウラジミールは事態の急転に対し直属部隊ルーリック家の守護神、赤天星魔術団の一部を動かした。
 乱を仕掛けたのが一部大公家という噂も流れる中で、他家を統べるロシア国王の威信をかけ鎮める必要があったとも言える。
 これにより温存されてきたロシア軍・最精鋭、世界最強の魔術団と謳われる赤天星魔術団の実力はいかほどの物なのか?
 その実力が試される時がやって来た。

 ●赤天会戦
 
  
 真王軍  VS 赤天星魔術団 

 キエフ郊外平原にて衝突。
 小規模、局地戦。

 真王軍は騎兵百に対し、赤天星魔術団は五十、銀狐兵団の歩兵三十の布陣。
 真王軍の将は黒鉄騎、全身鎧で斧槍の驍将。攻撃・騎乗は超越的。
 騎乗する馬も特殊装甲、装着。
 彼の者貴下の騎兵隊は総数百程度ではあるが、全員装甲騎兵隊のため普通の弓矢や軽度の魔法程度では歯が立たない。
 そのため緑林兵団と銀狐兵団の混成部隊は騎兵突撃の前に混乱に陥り、歩兵に攻撃され壊滅した。
 結果、赤天星魔術団の一部が借り出された。


 赤天星魔術団側の主な目的は突撃を止めるための壁、彼らの足を鈍らせる手段をどうやって作るかだろう。 
 止められなければ終わる。


 真王軍は赤天星魔術団による魔法攻撃をどうやって防ぐのか、そして足を止められたさいの代案次第。


 局地戦のため他のフィールドについては特に考えなくて良い。
 騎兵の突撃に対し魔法隊の応戦のみを考慮し作戦を立てるように。
 対決までの時間はジャストニ時間。

●今回の参加者

ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ 以心 伝助(ea4744)/ 雨宮 零(ea9527)/ シオン・アークライト(eb0882)/ セシリア・ティレット(eb4721

●リプレイ本文

●再来

 かつてマリンスキーを襲った春の祭りに登場した主たる人物達、彼らはそれぞれの思惑を元に動いていたはず。
 だが、すでにそれも過去の物となりつつある。
 ロシアという国で織り成した物語も移り変わる世界という場面では狭い一幕にしかすぎない。 
 だが、あの男はそのような事など気にはしない。 
 彼は自らの野望のために動くだけだ。
「わたくしはよりよい立場に立って操るだけ」
 彼にとってあるのはそれだけだった。

 

●出発

 出発の前の事。
 シオン・アークライト(eb0882)は城門で声をかけられた。
 かけられた声に聞き覚えのあった彼女は、振り返ると
「零、見送りに来てくれたの?」
「気になって」
 声の主は雨宮零(ea9527)、シオンの想い人だった。
 零は後で様子を見に行こうと思っていたのだが、なぜか足が向いていた。
「大丈夫よ」
 そんな零を見て、微笑ましいと感じたシオンは出発前の抱擁を交わした。
「見てるよ」
 零は
 その様子を見ていた者が二名いる。
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)、
 セシリア・ティレット(eb4721)という。
 ヴラドはシオンと零の抱擁を間近にして。
「それにしてもキエフの繁華街、色街はどちらであろうか?」
 セシリアはそれを聞いて、
「あの・・・・・・目的が違うのではないですか」
「冗談、ああいう場面を見ていると心のワクワクがとまらない予感がしただけである」
 ワクワクしている場合なのだろうか、テンプルナイト。
「ヴラドさんって話し方が独特ですね」
「余の個性というやつだ。元々戦いよりも女性の相手のほうが得意である」
 それもテンプルナイトの誇り、多分。
「私も女ですよ」
 ヴラドはセシリアを見つめ、少し考えた後言った。
「怖い人は遠慮しておく」
 セシリアは無言で腹に軽くパンチを入れて荒々しい人である事を如実に示した。
 というが定かではない。

 その頃、以心伝助(ea4744)は城に忍び込むため変装するメイドの特徴を知るため街を歩いていた。
 不意に話しかけられ時、メイドの口調を複製するためである。
「分りやしたご主人様、あっしに御用。何か違うっす」
 思わず独り言を呟いている伝助、沿道を歩いていた子供がそんな彼を見て言った。
「お兄ちゃん怖い」
「こ、怖くない、怖くないっす」
 伝助は動揺した。
 メイドの口調を街中で練習していた自分の油断、城に忍び込むのにこれでは忍び失格、というより普通に独り言を言っていた自分にかもしれない。
 子供の疑惑の視線が向けられる、伝助は繕った
「これは新しい遊び」
「遊び?」
「そう、メイドごっこ」  
 メイドごっこ。 
 伝助の口からでたでまかせがのちにキエフにメイドブームを引き起こす。
 かどうかは分からないが、一部で流行ったという話もある。


●結果

 

 【セシリア・ティレット】

 セシリアは宮廷画家アンドレイを頼る。
 しかし彼女とアンドレイの間に個人的な友好があるのかが分からないため、アンドレイを頼るのは難しいと判断した。
 だが着眼点としては悪くはない。
 よってかつて報告書に記載されていた絵を彼女は捜しに出かけた。
「依頼の話ですか?」
 ギルドで詳しい話を聞いたセシリアは、絵が警備兵の詰め所にまだ在ることを突き止めるとその場所に向う。
 



 【ヤングヴラド・ツェペシュ】

 ヴラドはキエフの社交界を目指した。
 社交界、その権威を利用して話の輪に入ったともいえる。
 そこでヴラドはサーチフェイスフルを使った。

 ちなみにサーチフェイスフルとは

 『聖なる母を信奉し白の教義に忠実な者を探知し、距離と数を知る事ができる魔法です。信仰の強い者ほどはっきりと、信仰心の弱い者はぼんやりと探知されます』

 しかしヴラドは最大の問題はここがロシアということだ。 
 ロシアの教義は黒がメインのため、白は異端に近い。
 それでも持ち前の明るさ、怖いもの知らずな彼の行動により情報を集まった。   
 今回の出来事はどうやら、各大公家というよりとある男の差し金により起きた事態らしい。
 とある男が誰なのか? それはやはり元王国顧問ラスプーチンという意見だった。
 その夜、晩餐会が催され王も出席すると聞いたヴラドはある情報を携え出席する事に決めた。


 【雨宮 零】

 零の元に手紙の返事が返って来た。

 文面はこうだ。

「久しぶりですねガーネット、お元気そうでなによりです。
 さて、問われた内容について入りましょう。
 今回の件についてなら話を聞いています。公式には反乱軍と呼称されていますが、軍を率いる男はかつてそれなりに有名な男でした。しかし些細な出来事により軍を追われたと聞きます。
 私の知る限りでは不正を暴いて追われたということですから、自ら好んで反乱に加わるとは考えられません。何かしら理由があるのかもしれませんね」

 その手紙を読んで零は思った。
 真王軍と名乗る側にも何か理由があるのだろうか?
 だが、ここで考えていても分るわけでもないだろう。
 その後、零はシオンを追って戦場に向う。

 
 【以心 伝助】 
 
 メイドの訓練を不完全に終えた伝助は見つからなければ良いという結論に達した。メイドの格好しつつ隠密をすればそれで良い。
 かくしてメイド隠密デンスケがここに生まれる。
 デンスケはかつて王宮に潜入した経験を活かし諜報活動を行った。
 デンスケは王の身辺を中心に探ることにする。
 途中、メイドに声をかけられ、
「あ、わたしは」
 などの事態もあったが、そこで大きな収穫があった。
 王宮にいる王はデビルではない。
 そして彼は正真正銘ハーフエルフ。
 この二つだ。 
 その他に怪しい情報はない。
 デンスケの勘はこちらの王が本物と告げている。
 しかし、確固たる証拠があるわけではない


 【セシリア・ティレット】

 絵を発見したセシリアは王のどちらかがハーフエルフではないという目測によって動いた。
 だが、結果分ったのは
 「どちらも耳が尖ってる」
 そう、どちらもハーフエルフなのだ。
 セシリアの予想は外れた。
 けれどしばらく肖像を見比べていた彼女は一つの事に気づくた。

 【ヤングヴラド・ツェペシュ】

「教皇庁直下ヤングヴラド・ツェペシュ参上である」
 その口上も、やや白い目で見られるヴラドだが、それくらいで負けるテンプルナイトではない。
 ヴラドの晩餐会での目的は一つ。
 王の瞳の色を調べることだった。
 セシリアが調べた結果、両者の瞳の色が微妙に違う。
 ラスプーチンによる内乱が起こる前の王が真実だとするのなら、過去の肖像画のほうが真の王だろう。
 その情報を携えて確認したヴラドは王の瞳を確認する。





 伝助の情報。
 セシリアと王の瞳。
 この両者により此方の王が真の王である確率が高いことが確認された。
 だが、零の得た情報によると真王軍側が悪とは言い切れないところもある。
 真実が問題なのか、真実などどうでも良いのか?
その結果は戦闘のいかんに掛かっているのかもしれない。
 



●戦役


 威圧。 
 シオンの前に騎士が現れた。
 馬上の高みから此方を見定める視線に殺気というよりも何か強い意志をシオンは感じた。戦闘はすでに半ばを過ぎた。
 当初、シオンの献策により泥濘を作り出すことには成功したが、突撃の足を止めるまでには至らない。
 さらに防壁を作り出し一部の突撃を押さえ込むが突破してきた騎兵。
 それを抑えるため歩兵である彼女達が前線に今立っている。
「寡兵、味方は私一人か」
 周りを見渡してシオンは笑った。
 頑張りがいがあるといえばあるが、心もとない。
 その中で彼女の前に現れたのは黒鉄の将だった。
 赤天星魔術団の魔法攻撃の嵐を潜り抜け彼女の前に現れた将、馬上と地上では相手にならない。
 シオンは馬から落すか考えを巡らせた時だった。
「出来そうだな。よかろう相手をしてやる」 
 将は降り立った。
 互いに剣を構え、初めに撃ったのはシオンだった。
 一合、二合、三合。
 受けに回る将は無言のままだ。
 シオンの息が上がった時、将は自らの斧槍を両手で構えると一閃。
 風圧がシオンの頬切る。
 勝ち目がないかもしれない。
 シオンは悟った。
 相手の武器と互角の威力を誇るであろ段平を大上段にシオンは構えた。
 出来れば相打ち、駄目なら・・・・・・。
 シオンの考えを見透かすように、
「大勢を決した。命を瑣末するな」
 将は馬上に戻る。
 毒気を抜かれたシオンはその姿に周りの状況を知った。
 陣は崩れている。
 接近された魔術師ほど脆いものもない、このまま此処にいれば彼女自身も危ういだろう。
 シオンはその時、どこかで自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
 それは彼女を助けに来た、想い人の声。
 彼女がそれを知るのはもう少し後のことである。

 
 シオンの勇戦虚しく、第二派の突撃の前に前線は崩れた。
 支える人員が圧倒的に足りないそれが大きな理由だ。
 散り散りになったロシア王国軍。
 もはや城への道を守る者は何もなかった。


 真王軍、突破。
 報を聞いたラスプーチンは上機嫌で手を叩いた。
「我が事成れり」
 ラスプーチンが狙っていたのは今回の戦役に第三者が介入しないことだった。
 あえて自分の軍ではなく真っ当で義憤に駆られるものを調略し灰色に作り上げたのはどちらの軍にも味方を作りにくくするため。
 よって真王の軍は彼の手先の軍とも言えるが利用されていることを彼らも知らない。
 冒険者の大半がどちらにもつかず、日和見を決めた結果。
 ついにマリンスキーへの道は開かれた。
 ラスプーチンは傍ら控える部下に言った。
「デビル側に通達し援軍を請うのです。今こそマリンスキーを陥落させる好機だと、王都を陥落させればロシアは我が手に落ちるのも時間の問題、結果この地域のデビルによる侵攻も楽になるでしょう。無策、志もなく守る勇気もない。そんな者しかいない国など落ちて当然ですよ」
 彼の前にあるのは、世界の先にあるもの。 
 諸悪は決してなくならない、それは善あるかぎり当然だ。
 いずれ自らを支配するものが滅んだあと自分が支配者になれば良いのだ。
 善と称するものどもが嬉々として行ってくれるだろう。
 それを待ち、自分は自らの王国を創るための基礎を固めればよい。
「マリンスキーへ」
 ロシアの明暗を分けるであろう、王都決戦がここに始まる。