バルバロッサの帰還
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■ショートシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:21 G 72 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月17日〜02月01日
リプレイ公開日:2010年03月14日
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●オープニング
終章、紡ぐ糸の到。
世界、閉じた区達。
語る者すら、もう此処には居ない。
ある者は過去を記憶に残し眠り、ある者は未来に旅立った。
悪戯に時を戻し始めることなど無粋。
だが、開かれた扉に善悪などなくとも、再び語ることに意味はある。
果て、境、越えられぬ岸を超えた時、彼岸に自らの影を見、畏怖する。
恐怖、絶望、極みに昇る生への執着は争いに結実するだろう。。
言葉の森、移り行く末、産まれる高揚とて打ち消すことはできない。
問いの答えに去就が決まり、輪廻の業、終焉に至るとしても、変わること無き呪縛は生き続けよう。
贖いは血によって律され、罪人が懺悔しようとも、選択の咎、無垢には戻らない。
「無に帰す」
それこそ、彼のせつなる願い。
この場に秩序も混沌もない、あるのはただ灼熱の滾りのみ、進軍の喇叭と破壊を撒き散らす。
再び終わりに誘う羅針盤はいずれを指す。
●キエフ
夜の聖堂に少女が一人居る。
なぜかなのかは分からない、胸騒ぎに目が覚めた。
「ナタリー」
静寂の中、祈りを捧げる少女を見つけ、声をかけたのは初老の男だった。
「神父様」
先にある柔和な表情に少女は和む、が、胸騒ぎは消えない。
一風変わった手紙が届いたのはすぐ後のことだった。
彼女は行くだろう。
始まり、そして終わりの地へ。
●ヴォルニフ
空位の領主を補佐するため、仮の領主代理となったリューヌ・ヴァンガルドに書状が届いたのはそんな時だ。
内容が事実だと確認された時。
リューヌはすでに存在しない男の下を訪れる。
「殿下」
「リューヌか」
話を聞いた男が出発しようとした時。
その前に立ちはだかったのは、艶やかな黒髪をした少女と黒いローブを羽織った男だった。
「ネメシス」
「その名で呼ぶのは、もう貴方だけですね」
「戻ってきていたのか」
応えもなく、少女は不敵な笑みを浮かべる。
「生憎、決着ついてないですから」
手には嬰児が一人、姿を見た男は逆らえず、無抵抗なままに斬られる。
「子供を守るなんて、殊勝な心がけ。けれど、今回は貴方に用があるわけではない」
いい残し、二人組みは立ち去った。
●村
「元気そうじゃん、たまには顔を出してやらないと」
ソレイユと宛名のある手紙を置いた。
ハーフエルフの少年は、傍らのエルフの少女にそう話しかける。
内容が内容だ。
それでも懐かしさは隠せない。
「ジル、会いに行ってあげればいいのに」
「今は、ここを離れられないだろう」
「デスね」
奥に眠る、氷柱を二人は思い浮かべた。
「だから、俺はお前が嫌いなんだよ。凍ってまで、面倒かけやがって」
「ジル、素直じゃないデス」
「素直になったら、俺じゃない」
「つまらない意地デス」
「ぷ・ら・い・ど・だ」
「ぶー」
ジルは一瞬、言葉を切り、
「こいつが元にもどったらさ、もう一回冒険にでるのもいいんじゃないか」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
●街道
村に手紙が届いた頃。
ヴォルニフを出立した一軍が反乱軍の掃討に向っていた。。
陣頭に立つのは、不釣合いな鎧を着込んだ。
「あたしの初陣なのに、散々な結果」
「姫巫女!」
「その呼び方やめなさい、ソレイユって名前あるんだから」
「失礼、ソレイユ様。迎撃に向った隊は壊滅、敵はヴォルニフに向け進軍開始とのことです」
「はぁ、仕方ないな。伝令! 狼を荒野に放て」
「シィノークをお使いになるのですか?」
「せっかく作った近衛だし、使わないともったいないよ」
「もったいないって、良いのですか、それで」
「いいの、いいの。軍隊なんて、何かを守るために使ったほうがましだから」
それに──。
言葉は続かない。
同時刻。
ヴォルニフより派遣された一軍を撃退した反乱軍の首魁。
少女と男が話している。
「壱に衝突、弐に無法、参を飛ばして死よ」
少女にむかって男が聞いた。
「口癖か」
「かもしれない、いいえ。きっと拍子を打つのが好きなだけです」
「以前、俺にもそのような口癖があった記憶がある」
「何、気になります。少し」
「滅びよ、全て滅びよ」
「貴方らしい」
「すでに失せた過去よ」
「その顔で言われても、格好つかないです」
「この仮面は、もう一人の俺だ」
男は黙った。
●キエフ・冒険者ギルド
相変わらずのギルド。
中年のギルド員が毎度のごとくさぼっていると、はずれかかった眼帯をした女が駆け込んできた。
興奮した
「父さん! これを見て、みやがれ」
「バカ娘! 動揺のあまり変身と口調が中途半端だぞ」
指摘された事実に困惑した女だったが、そんな事実を振り切った。
「そ、そんなことどうでもいいんだよ。さっき、よくわからないまるごとが部長と名乗って手紙を渡された」
「えらく説明口調だな」
「そんなことはいいから、ほら」
中年は差し出された手紙の黙読を始めた。
『わしは部長、またの名をスイートダディ。今日はあんたたちに知らせることがある
死んだはずパトロンが例の村をまた襲うらしい、今回も彼らしく無駄に派手な計画だ。
このさい、しらばっくれようと思ったが、色々しがらみがある。
そこで書記長との相談の結果、警告にこの手紙を託すことになった。
あとは、冒険者を雇ってなんとかするのだ。詳しいことは別記に説明してある』
中年は思った。
なんだこの手紙は? それよりまるごとで部長? 旅に出たはずの奴らが帰ってきたのか。
「で、この内容を信じるのか?」
中年の問いに、半眼帯の女はしぶしぶ頷いた。
「このさい、信じるしかないだろう。どこかで見たような奴らだったし」
「分った。掲示してみよう。ただ」
「ただ?」
「受けるやつがいるかはしらんがね」
中年のギルド員はいつものようにそう言った。
フィナーレ♪
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●目的
アレクサンドル・ヴォルニの亡霊から、
とある村にある氷柱を守ること。
●敵
少女と男の二人組みです。
データとしては、女の子は剣の達人です。
刀を普段使いますが興に乗ると雷の刃を用います。
もう一人の男は黒ローブ姿です。
魔法使いのようにも見えますけれど、さて。
彼はなんらかの魔法を使うようですので、エンチャンターの役目なのかもしれません。
その他にヴァンパイヤ少しと反乱軍が結構います。
●場所
氷柱はある村の教会に保存されています。
●状況
ヴォルニフから援軍が送られていますが、反乱軍の掃討で到着が遅れるはずです。
愚者の騎士は、怪我をしたようで、頼りになりません。
冒険者は襲撃の二日前に辿りついたという設定です。
その間に何をどうするか、それも一つのタクティクス。
●配置
村は襲撃されることが妙に多かったせいか、出入り口が一つしかありません。
防衛的には多少持ちこたえられます。
目的を果たすのが一番大事ですが、犠牲はあまり出さないほうが良いと思います。
ちなみに教会は何度も壊されそうになったせいか、異常に堅固ですのでちょっとやそっとの衝撃では壊れません。
キエフ・ヴォルニフと街道はつながっていますが、移動は季節がら少し大変です
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●リプレイ本文
●バルバロッサの帰還
その日、村は曇りだった。
灰色の空が憂鬱に見下ろす大地に、氷の破片が輝いている。
初春の息吹は密やかにささやくが、晩冬も我が者顔で居座り、冷気はいまだ強く厳しい。
「こっちだ」
「準備を急げ」
掛け声が飛び交う村の広場は慌しい。
襲撃に備える村人たちで混雑している。
村は襲われる事態に慣れていた。予想以上の動揺はない、それでも警告された日にちが近づくと独特の重苦しさが村を染めた。
広場からやや離れた場所でそんな光景を眺めている少年が居る。
歳にして十八程度だろうか? 忙しない視線、落ち着きの態度、整っているとはお世辞にも言い切れない容貌だ。特徴的なのは、ややとがった耳に、彼は身震いを一つすると鼻をすする。
「寒いね」
つぶやくというより、自分を納得させるように、雪へ向かって話しかけた。光を受けた雪は鋭く反射する。
望んだわけでもないのにやって来る白雪の誘いに少年は目を逸らす。
「ジル」
掛けられた声にジルと呼ばれたハーフエルフの少年は、
「本拠地に行ってくるよ」
手を振って答える。
本拠地と称した目的地は村の外れにある教会だ。
踏み出したジルは息を大きく吐いた。
薄れていく息が散ってゆく、靄を追い越しジルは歩き出す。
いくつか出来事が彼を変化させた。
変えたのか、変えられたのか難しい、それでも変わったことには変わりない。
ジルはもう一度身震いをする。
目的の場所、教会に保管されているのは、ある氷柱だった。普通の氷柱ではない、アレクセイ・マシモノフという名の少年が凍りつき眠っている。同時に今回の襲撃の目標は彼なのだ。
歩歩、騒がしさに目をやり、しばらく進むと教会に着く、ジルは小部屋に安置されている氷柱へ向かった。
彼の到着を知って出迎えたセシリア・ティレット(eb4721)も隣に居た。
ジルはセシリアの姿を確認すると機先を制すかのよう言った、
「セシリー、まだアレクは助けないほうがいいんじゃない」
「どうして」
ジルは、氷柱に閉じ込められ少年とセシリアの間を交互に移す。
「危険だから」
「このままでも十分、危険です」
セシリアは語尾をやや荒げた。
焦りが見受けられる。
「敵が襲撃してくるなら。今助けても、かえって狙われない?」
二人の前、氷柱の少年は眠っているように見える。
セシリアは黙った。
気まずい沈黙が包む、どちらも自らの言い分を納める気はないようだ。
二人を救ったのは意外な人物だった。
「出迎えはなしか」
豪快に開け放たれる扉、やって来たのは男だった。
「着いてたんだデュランさん」
視線の先の男は整った目鼻立ちをしている。一見して凛々しいといえば、凛々しい、だがどこか不遜な感じを与える。男の名をデュラン・ハイアット(ea0042)という、
「デュランさんはどう思う? アレクをすぐに助けたほうがいいのかな」
場の緊張をほぐすため、ジルはデュランに話を振った。
急な返答に困ったデュランは、数度指で頭を掻き、つかのまに熟慮を重ねたように見せるが
「真っ当といえば、真っ当な意見ではある。だが、問題がある」
答えを確定するのを避ける。
氷柱に眠る少年、アレクセイ・マシモノフの解放はそれほど重要ではなかった。彼が自由であろとなかろうと、どちらにせよ危険であることに違いはない、氷に封じられていたアレクセイ少年が直ぐに活動できるかに尽きる。
返答したデュランは初めから、問題自体に興味がなかったらしい。ぶっきらぼうに返答したあとはたまに欠伸する程度で、話し合いというには激しいやり取りの傍観を続けた。
セシリアとしては、助けたい気持ちのほうが強いのだろう。
想いが不満となってあらわれたのかもしれない。
「それでも!!」
ジルに喰いかかる。
「セシリー冷静に考えてみなよ」
食い下がるセシリアがジルに詰め寄った時、ドアがノックされた。
これを幸いとジルは大きく声をあげ、来客を迎える。
「どうぞ」
扉が開かれた。
女が入ってきた。
女の眼光は鋭利だ。どこか朴訥、生真面目さを感じさせる面立ちに、胸部を強調した豊満な肉体の不均衡さ、その差異が独特の魅力を彼女に与えていた。
「邪魔する」
彼女、レイア・アローネ(eb8106)が部屋に入ってくるなり、ジル・ベルティーニの衝動が疼きはじめた。
疼きは彼の本能というものか、はたまた性なのだろうか? かつて流星の狩人として名を馳せたジル、その鑑定は胸部の状態を星の数によってランクづけをする。彼は鑑定に関しては誇りが感じていた。素材として、レイアという逸材をみつけた今止まらない。
そのような誇りに何の意味がある? などとつっこまれようとも、ゆずれない物がある。
「流星の狩人よ。彼女の星はいくつだ?」
デュランが煽った。
「デュランさん、俺に対する挑戦だね、逃がさないよレイアさん」
「何の話だ? 私は来客があったのを伝えにきたのだが」
困惑するレイアを放りだし、隅から隅まで観察するジル。彼からしてみれば、辺境の村で引き篭もりの生活、たまにやってくるのはエルフのぺたんこ少女程度だ。ここで血が騒がないわけが、ない。
興奮するジルは、
「いいね、いい」
「流星、磨きがかかったな」
「デュランさん、俺を誰だと思ってる。流星の狩人汁だよ。ジルのジは汁のジだよ」
「なんでもいいが、良い子はついてこれんぞ」
「いいのもう自己満足なんだから、それよりデュランさん。妹離れしたの?」
「なんのことだ」
デュランとジルが明後日の方向に話をすすめる。見かねたセシリアは、
「あの、あのですね。真面目にやらないとだめです」
口をはさむが、
「セシリー、いまさら優等生ぶってもさあ、俺は知ってるんだよ」
ジルが何かを知っているか知らない。だがセシリアはどうやら墓穴を掘ったようだ。いまさら、真面目にやっても終わりです。どこからかそんな声が聞こえてきたような気もセシリアはした。
全てを置いてけぼりのまま、ジルによる流星チェックが始まる。
はずだった。
が、
「何やってるんデスか! 真面目にやりなさい」
暴走していた二人は気づいていなかったのだが、先ほど部屋に新たな来客があった。
今、その存在に気づいたデュランとジル、時はすでに遅い、振り返った先には杖を持ったエルフの少女が一人。
「ニーナまて、まっててば」
ジルの声は届かない。
即、詠唱に呼応して杖から雷光に去来するのはビリビリ、ズガーンの音、後にあるのは二匹の焦げた生物だ。
いや、君のほうが何をやってるんデスか? 床に突っ伏した男たちの脳裏にそのような言葉が浮かんだかは定かではない。言い返そうと思ったところでビリビリする身体が許してくれない。
「アレクを助ける話はどうなったんですか! 助けたいんです」
セシリアが話を混ぜ返すが、今はそれでどころではない。
エルフの少女は少女で、自分の所業に満足げに黒焦げになったデュランたちを杖でつついている。
レイアはしばらく無表情のまま、唖然と光景を眺めていた。
動揺する暇も与えられなかった。
いつしかここにやって来た本来の目的も忘れたレイアは、これからどうやって戦うか? そこに思考の全てをやる、そして一つの結論が出た。
「結局、星は幾つだったんだ」
きっと、三つだ。
くしゅん。
寒空の下で、少女はくしゃみをした。
村の入口で誰かを待っている。
少し前の話になる。
村にやって来た少女は、入口で出会った冒険者とおぼしき女戦士に来訪を告げた。
聞いた女戦士は連絡すると言い残し、その場を去った。けれどいっこうにかえってくる様子はない。
少女にとっては久しぶりの旅行だった。目的からして楽しい道中とはいえなかったが、旅行であることには違いない。
何度か話に聞いた村だった。
これからどうすかる考えはじめた彼女に掛けられた声は
「ナタリー」
聞き覚えがある。少女は振り向いた
「再び出会えたことに感謝を込めて」
一礼をする男、男は少女の手を取ると甲に口づけをした。
現れたフォックス・ブリッド(eb5375)にナタリーは言った。
「相変わらず格好つけですね」
「そうでしょうか」
「キザもあまりひどいと嫌味です」
「嫌われたのでしょうか」
「嫌われるようなことをしたんですか」
フォックスは困った。
からかわれているのを理解しつつも、どうすれば良いのか分からない。
「嘘ですよ、久しぶり元気でしたか?」
「げ、元気です」
ぎこちない笑顔のフォックスを見て、ナタリーは破顔する 。
その後、しばらく談笑していると、
「遅くなった」
女戦士は無事迎えにやって来た。
金色の髪が風に揺れた。
伸びた長さは時の流れを示している。
セシリアがこの村を訪れるのは何度目になるだろう。起きた出来事を思い出す事はあっても、忘れることはない。
追憶というには遠く、思い出というには勇み足だ。まだ何も始まってもいない、終ってもいない。
村の入口の魔法によって強化していたセシリアの元をジルが訪れ声を掛けた。
「やっぱ心配なの」
「大丈夫ですよ。あれくらいでは死にません」
セシリアは言い切った。ジルもおもいっきり首を縦に振った。
ああいう熱血バカタイプが死ぬわけがない、そう信じているのかもしれない。
「そういえば、セシリー。あの子知ってる?」
ジルの視線の先には訪ねてきた少女の姿がある。知りあいに何処と無く似たものを感じて聞いた。
「ナタリーさんですね、知ってるというか」
話題に上がっているあの子は、フォックスがくっついて離れない人物だ。
ジルはフォックスを不審人物と認定したようだ。ジルマインド上で少女趣味に変換されたらしくそうなった。
「ま、いいや。戦ってくれるならなんでも」
「ジルも他人の事をどうこういえないです」
「お互いね、そういえばデュランさん大丈夫かな」
ジルは遠い空にいるデュランの無事を祈った。
先遣隊としてデュランは敵陣に向かっていた。
騎乗するグリフォンから見下ろす光景は心地よい、遥か下に無数の点がうごめいていた。
眼下を射した指をデュランは軽く鳴らす、小気味好い音につられ翻った外套が風に棚引いた。
デュランは呪を唱える。詠唱は短く、速い。呼び出された源に応じ光点が手中に集まり、波動が明滅を繰り返す。デュランは笑う、自嘲するかのように小さく、高まる魔力は次第に形を成し一点に凝縮した後。
弾けた。
疾駆する雷に牙を剥いた大気が追尾する。大気の尾が地に触れると、天から怒号が発せられた。
雷光は蛇行を象る、嵐を率いて駆けずり回る発火は鋭利に貫き、悲鳴という獲物を飽きるほど狩り続けた。
やがて、狂奔する光龍の雄叫びはおさまり、焼け焦げた四肢から湿った紫紺が辺りに満ち鼻を刺す頃、燻った煙を後ろに、
「私の役目はここまでだな」
デュランは言った。
閃光の嵐を潜り抜け突破してくるのは、予測通り、対の敵だった。率いる手勢は多くはない、核である二人さえ倒せば瓦解するだろう。
冒険者はその二人を迎えうつため、村の門に集結する。
いつしか雪が降り出し、現れたのは黒髪の美しい少女だった。
六花乱れる地に整然と歩調を進める。身に不釣合な大刀の彩りと舞い散る雪はこの世成らざる景色を静謐に描く、一歩、一歩、歩み終えた少女は立ち、鋒先をレイアに向け言った
「死は須らく牙の胚、一に在る苦痛、ニに知る無、三は三重、虚人の臍、噛んではみるが苦くて不味い」
意味はない、ただ紡ぐ、
「墓碑に刻む銘は、それで十分か」
相対するレイアは皮肉を交える。
「情緒ない。ですね」
返答は始まりの合図、互いに仕掛ける機会を伺った。
少女の傍らにはいつのまにか黒衣の男が居る。
男は死角を作り出すかのようにレイアの視界を塞ぐ、忽然と少女の姿はレイアの前から消えた。
追って四望を見回すが体はない、瞼だけが瞬きを繰り返す。
静態に風だけが流れた。
沈黙は一瞬、ざわつき触れる怖気が肌をなぞり、逆立つ毛が敵の存在を知らせる。
視界の隅に影が走った。
左右に視線を振るが捕まらない、沸き起こる苛立ちに指は無意識に震える。先手を打って動くか否か、その迷いが判断を狂わせた。
レイアの剣が指し示す前、再び現れた少女は空に跳躍、飛んだ先には男の肩、さらに踏み抜き高みに行くと。
ふわりと浮いた。
瞬時、宙に留まる時は短い、レイアが反応する間も無い、少女は自らの重みを掛け、天から転して突き至る。
喉下に当てられ冷ややかな接触を確認する前に反射が大腿を伝う、寸で退き傾く身体の前を刃の軌跡が光沢を残した。
不意を撃たれ、荒ぶるレイアの瞳が吼える。
崩れた姿勢から正中に斬るは難しい、逆手に持ち替え下方に構え、踏みとどまる半身に力を込めて息を吸う。
再び少女が高く跳んだ。眼で射るレイア、逆に斬り抜けば肩が鳴る。抗う血肉を叱咤して込める力に身体は軋む、緩慢に這う切っ先が地を擦り滑り金切って、係る重みに抗するが唸って鈍く昇りゆき、仕舞いに捷く斬り上がる。
屹立した刀剣の穂先が敵を見据えた。
微動する剣が静かに哭く。
続けざまに声に応じて爆発が起った。
空中の少女に逃げる場所などない、刀を盾に爆発を受けるも勢いに吹き飛び、粉雪をあげ強かに身を打つと地に転げて飛び退いた。
レイアは一息着き、頬を滴る熱に気づく。傷から溢れる赤は塩辛い、舌で絡めとり前を見ると、再び立った敵手が居た。
レイアが死闘を演じている脇で、セシリアが黒衣の男と相対している。
「私はいったい何のために生まれた。答えろ」
男の問いかけはセシリアの返答など期待をしていない。
隙と見たセシリアは、走り男に詰め寄った。
行動を初めから予期していたのだろう、男の両手に暗い力が宿った。接近していたセシリアは抵抗をこころみるが、遅い。
産まれゆく暗闇はまるで男の心を表しているようだ。救いはない、あるのは憎悪に彩られた黒だ。
力の洗礼を受ける前にセシリアは男の仮面を見る。だが、仮面は無表情のまま何も答えない。
ナタリーを庇いながら戦っていたフォックスは、セシリアが窮地にあるのを知った。
ナタリーの庇護を続けることが彼の目的だ。
だが、このまま放置すれば、状況はさらに悪化するだろう。
見かねたナタリーが言った。
「いいです。行ってください」
「しかし」
「一人で戦えます」
瞳には強い意思が宿っている。
「強くなりましたね」
「元々、強いですよ」
フォックスはどう返すか迷ったが、しばらく考えた後で、
「では、これを私の代わりだと思ってください」
自分の羽根付き帽子をナタリーにかぶせる。
彼女には少し大きい、ぶかぶかで目線を隠した。
ナタリーは帽子をずり上げるとフォックスに笑いかける。
「頑張って」
「仰せのままに」
言い残し、フォックスはセシリアの援護に向かった。
解放された漆黒を喰らって堪えるセシリアに再び、魔力が満ちる。
捕えられた獲物に裁きを与えるため、絶望こそが唯一の希望だった。
呪文の詠唱が始まる。
だが、男は自らの身体に異変を覚えた。あるはずのない痛みがある。
痛みの源は脇腹だ。男が目をやるとそこには憎々しげ突き刺さった矢がこちらを睨んでいた。
セシリアの窮地を、フォックスの一矢が救った。
怯む男、セシリアは苦痛を超えて刃を振ったた。切り裂いた斬撃が縦に落ちる。乾いた音共に男の仮面が割れる。そこにはセシリアの見知った顔があった
引き攣った顔に浮かぶの表情は怒りという仮面を被った恐怖だ。かなぐり捨てた自我が憎しみという歪みで覆われている。
変わらないことが疵なのだろう。
一歩踏み出せない者の末路、悪夢は繰り返す。自分がこの場所にいる意味は与えられた使命だけが示す。もし全てを諦められるならば、安らぎがもたらされるのかもしれない。
それでも、男に従うしか術はない。
「私はそうするしかないのだ。お前たちのような恵まれた奴らとは違う」
あげた手は何も掴めず空を切る。
セシリアは憐れむ。今ここで全てを断ち切らなければ、悲劇は永遠に繰り返される。
「さよならAF」
語尾はささやきに消える。振り上げた剣が、ゆっくりと降ろされた時、彼の呪縛は消え失せた。セシリアは仮面を取って男に被せる。
せめてもの手向けだった。彼がいったい何者だったのかは誰も知らない、知らなくて良いことなのだ。事実を自分の心にしまい、忘れ去るのも慰めなのだから。
レイアは息を吐いた。
ぼろぼろの身体、血まみれの自分は立っているのもやっとだ。
どちらが倒れても不思議ではない戦いだった。
今、足元に倒れている少女が何者なのかは結局分からない。
「復讐は、自らを、滅ぼ、すため」
末期の言葉の意味よりも、今はただひたすらに眠かった。
その後、ヴォルニフからの援軍により残敵は掃討された。派遣軍の司令官の少女にジルがいじられていたのが特に印象的だった。
砕けた氷の中より助け出された少年は解毒薬を与えられた後、目覚めて開口一番、
「おはよう、みんなどうしたの? 何かあったけ」
寝ぼけまなこでそう言ったらしい
なんであれ、村に平和は戻り、冒険者もまた自らの道に戻るだろう。
羽根付き帽子の少女は太陽を見ていた。
いつか、自分もこうなりたいと願った気もする。蝕まれた過去はすでに記憶の片隅に眠っていた。
ふと、後ろに人影を感じ、ら抱きしめられた。
「フォックスさん、急にどうしたんですか」
背後の温もり、鼓動は速い、そのまま
「結婚してください」
答えを待つ間の沈黙が痛い。
しばらくして、答えは出た。
「キエフに戻ったらね」
全てを見届けた後、男は何も告げず旅立つ。 世界にはいまだ謎が残り、未知との冒険が待っている。
今は通過点にしかすぎない、求めるものがある限り彼は何処までも行くだろう、なぜならば
「そこに冒険が待っているからだ!」
デュランの脳裏に、ふと妹の顔が浮かんだ。
女はどうするか考えていた。
このままふらりと旅を続けるのもよいかもしれない。少し休んで冒険を続けるのも良いだろう。なんであれ、最後まで付き合ったのだから。
「ヴォルニフか」
過去の系譜が記されるその街、全ての始まりの街へ一度行ってみよう
レイアは頷き歩みだした。
道の途中、歩みを止めて少年は振り返る。
瞳に映る光を重ね合う、過去と未来が重なった風景は遠くに見えて近くにあった。
願いこめ、少年は空にむかって手を伸ばす。 その先にある物。
いったい何という名前なのか分からない。もし知っていても呼びかたが分からない。呼びかけても空は無言のままだろう。
今日という名の足音が駆けていく。
「何やってんだよアレク、みんな待ってるぞ」
雲の下、少年は振り向いた
変わらないものがあるのなら、それはいつでも近くあるものだ
「帰ろうセシリー。僕達の場所に」
遠く手を振る仲間のもとへ。
少年は手を差し出す。
彼女は手を取る。
繋いだ手、重なる安らぎを伴に、二人は歩みだす。
バルバロッサは帰還した。
もう二度と、旅立つことはない。
●両刀女はやるせない
ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)は村に向かっていた。
道中、
『デュラン・ハイアット出現注意!』
という立て看板を偶然、発見する。
噂では謎の魔術師が敵の一軍を敗走させたあと、看板を立てたらしい、
「デュラン、デュラン。そうか! 派手だにゃ」
二つの出来事より導かれた答えに、ルイーザが納得した時だった。
「君、そこの君」
「にゃ」
突然声をかけられた。振り向いたルイーザの前に物体がいる。物体は変なきぐるみを装着していた。着ぐるみはこの界隈ではまるごとと称される衣服、ルイーザもまるごと自体初めて見るものではない、だが目の前のまるごとは形容しがたいまるごとだった。
相手の格好からして、警戒するのもばかばかしい、ひとまず彼女は挨拶を返す。
「にゃす」
「君はどうやら冒険者のようだな」
「そうだけど」
「私はにゃるっと部長。この世界を守る、守護者の一人だ」
守護者。いきなりの発言にさしものルイーザもひく、だが彼は状況を考慮しない。
「唐突だが、君に任務をやろう」
「に、にんむ」
「そうだ、この手紙をヴォルニフの統治者に届けるのだ。全ては世界の均衡を守るため」
言っていることは意味不明だった。
だが、相手の怪しさがどうであれ、こういうノリはルイーザも嫌いではなく、
「よし、受けた!」
引き受けるなり、ルイーザは駆け出した。
――中略――
「それで私に届けたのか、カッツェ」
「そうだよ。細かいことはきにしない」
「要件は了承した。だがカッツェ、さっきから気になっていたのだが、その振り上げた拳はなんだ?」
「リューヌちんってば、呼んでくれればいいのに水くさいなあ、だから」
「だから?」
「殴る」
ボコスカ、ボカスカ、ボケステ。
――省略――
ヴォルニ領都、ヴォルニフの執政官であるリューヌ・ヴァンガルドの元を訪れたルイーザは、にゃるっと部長に託された経緯を説明し、手紙をリューヌに渡した。
世界の均衡を守る。
大層な謳い文句の手紙に記されていたのは、あまりに短い文だった。
「前の敵は囮、裏に気をつけろ。だけだな」
「それって奇襲するってことかにゃ?」
「かもしれないな‥‥‥カッツェ。君はこの事実を一応村に伝えて欲しい。私も手勢を集めてすぐに向かう」
「了解!
こうして手紙を携え村に向かったルイーザだったが‥‥‥。
「まにあわねー」
どうやらヴォルニフに寄り道したため、主戦場に遅刻しそうだ。
焦るあまり街道を外れ、雪道で思わず迷子になった挙句の果て、ペットのジルニトラともはぐれた隻眼の女の前に立ちはだかる謎の影。
「我はウラボス。ボスによる、ボスのための最後の戦いを今ここに」
「‥‥。よく分からないけど、やってやるよ」
「これぞ裏の裏」
「もしかして、お前が裏」
色々度外視、あらゆる意味でアナザーなストーリー。何の因果か狙われたアイドル、もといルイーザの前に立ちはだかる、ウラボスだった。
何か変。
まあ、いいじゃね。最後だし。
こうして、ルイーザとウラボスの戦いが始まった。
「高速詠唱、ふぁいやーすとーむ」
斜め四十五度付近から、火炎の嵐が飛び出る。
「小手先の炎なんて効くわけねえ。ルイーザ様をバカにしてんのかよ」
明らかに性格が変わったルイーザは意識を集中させる。
眼帯の宝石が光った。
右に握るクルテイン。
左に構える飛鳥剣。
両刀を交差させ、炎を自ら受けとめたルイーザ、ダメージなんぞ無視きめて一気にウラボスとの間合いをつめ、握る剣に異様に力を込める。
「うらうらぁ、うらうらぁ、うららぁ! ダブルアタック・クロスブリッド」
弾矢の如き旋風、滅多打ちの右左。
「ふんぎゃー」
情けない叫び声をあげウラボスは逝った。
「いつの世も悪は滅ぶもんだぜ」
やり遂げた感みなぎる独白の後、汚れた刀身を拭いて、ルイーザは雪道に戻った。
その後、目的地に着いた彼女は全てが終っている事知り、
「やるせないなあ」
そうなぁ、娘つぶやいたんだと。
どんどはれ