宝石はどこから来た?

■ショートシナリオ


担当:若瀬諒

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月26日〜12月03日

リプレイ公開日:2006年12月04日

●オープニング

●王宮の噂話
 サミアド砂漠近くで、ある学者が拾ったという宝石類が届けられた。
 多くが安物だったが、一つだけこれはという紋章入りの指輪があった。調べてみたところ、どうやらある地方領主のものだという。

「聞いたか? 例の指輪の話じゃ」
 メイディアの王宮内。
 そろそろ昼食時かという頃、初老も過ぎたであろう二人の男が、雑談に花を咲かせていた。
「おお、モラット家の指輪が紛れ込んでいたという話じゃな」
「また、変な物が紛れ込んでいたものよのう」
「モラット家といえば、確かご令嬢が失踪しておったの」
「クレヨ様じゃな。表向きは病気で静養と言われておるが――」
「なんのなんの。じゃじゃ馬ぶりが極まっての家出とのもっぱらの噂じゃ。見つかった指輪も、おそらくはクレヨ様のものじゃな」
「しかし、そうなるとクレヨ様はどうなされたんじゃろうなぁ」
 ぢぢいAの問いかけに、ぢぢいBは白い髭を撫でながら、のほほんと呟いた。
「‥‥そういえば、宝石が見つかった土地の近くで、盗賊団が暴れておるらしいの」
「ほう、盗賊団とな?」
「何やら『俺達の宝石を返せ!』と辺り構わず旅人を襲っているとか」
「‥‥おぬしも、妙な情報を持っておるの」
「なんのなんの。昔取った杵柄とうやつじゃ」
「しかしとすると、その者達が元々持っていた宝石、ということになるかの?」
「さて‥‥その辺は直に訊いてみないとわからぬが‥‥」
「もしそうだとしたら、クレヨ様は既に、ということも‥‥」
「そうとも言えんの。金に困って売っ払ったのが流れただけかもしれぬて」
「ふむ‥‥それもそうか」
 そんな相手を見て、ぢぢいBがにんまりと笑った。
「なに。しばらく待てば結果もわかろうよ。どうやら、冒険者ギルドへの依頼も決定したそうじゃし」
「なぬ? 冒険者ギルドへ?」
 ぴくりと眉を吊り上げ、オウム返しに聞く。
「モラット公が指輪の出所を探るため、冒険者を雇うそうじゃ」
「なるほどのう。生きているなら貴重な手がかりじゃな」
「逆もある。もし盗賊どもに殺されているとしたら、因果応報というものをその身に教え込んでやらねばなるまい」
「‥‥しかし、上手くいくかのう?」
「どうじゃ? 賭けるか?」
 髭のぢぢいはにやりと笑う。
「冒険者のお手並み拝見、さあ、どっちに賭ける?」
「むむむ‥‥」
 王宮内だというのに、なんとも‥‥のどかな昼食時であった。

●今回の参加者

 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7850 フローラ・ブレイズ(33歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb8427 ベイヴァルト・ワーグウィン(41歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●情報は足で稼ぐ
「それじゃあ、まずは情報収集ね」
 直接の依頼人であるモラット公から話を聞いた後、お嬢様であるクレヨ捜索のため、一行はまず手分けをして聞き込みをすることになった。
「私は、屋敷内のメイドや使用人に話を聞いてくるわ」
 フローラ・ブレイズ(eb7850)が廊下を見渡しながら告げる。
「わしは学者殿のところへ行って、詳しく話を訊いてこようかの。付近の地図を借りられるかもしれんし」
 以前、ベイヴァルト・ワーグウィン(eb8427)とフローラは、件の盗賊団のアジト付近へ足を運び、学者を連れ戻すという依頼を受けている。話を訊くなら彼らのどちらかが行くのが手っ取り早い。
「では、そちらはベイヴァルト殿にお任せして、私は街の人たちからクレヨ姫様について聞いて回りましょう。二人で行っても仕方ありませんからね」
「あたしも街で聞き込みがじゃ! 襲われた行商を探し出して詳しい話を聞くぜよ」
 イレイズ・アーレイノース(ea5934)にカロ・カイリ・コートン(eb8962)が続き、手早くそれぞれの分担が決定する。
「あまり時間もないわ。今日中に出来るだけ調べましょう」
 フローラの言葉に頷き返し、各自早速情報収集へ向かった。

 夜。
 聞き込みを終えて、一行は酒場へと集まり情報を纏めていた。
「クレヨ姫様は、以前からよく街へ出て来ていたそうです。多くの人が街で姿を見かけていますね」
「私もメイドから聞いたわ。無断で屋敷を抜け出して、よく叱られていたらしいとか。しかも、いつも突然いなくなるみたいで、今回の家出についても手がかりは特に無しよ」
「元気の良いお嬢様じゃき!」
 二人の報告に、カロが軽快に笑う。
 逆にフローラは肩をすくめて、更に言葉を続けた。
「元気がありすぎるのも問題よ。なんでもこのお嬢様、魔法まで使えるらしくて」
「ほほぅ、魔法をかの?」
 今度は感心したように、ベイヴァルトが聞き返す。
「ええ。ここ最近、屋敷内で撃ち回っていたらしいわ。街でないだけマシだけど」
 答えて、ふぅっと短いため息をつく。無理もないが、かなり呆れている様子だ。
「魔法は使われていませんが‥‥かなり高慢で、好戦的だったようですよ。店先で値切りながら『自分の言うことが聞けないのか』と怒鳴る姿も珍しくなかったとか」
「‥‥問題は問題じゃが、随分と庶民的じゃのう」
「そういえば、クレヨ様の人相書きを貰ってきたわ」
 思い出したように言って、フローラは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
 描かれていたのは、ややきつそうな少女の顔。全く癖の無い長い髪と、やや吊り上った大きな目が特徴的だ。
「なかなか気の強そうな顔じゃき」
「性格は顔に表れるものね‥‥。ところで、盗賊団のほうはどう?」
 人相書きを一先ず縦に丸めつつ、今度はカロとベイヴァルトへ尋ねる。
「わしの方は、まずこれじゃ」
 ベイヴァルドが地図を広げて見せる。以前の依頼で借りた物と同じ、砂漠の地図だ。盗賊団のアジトがある遺跡にも印がされている。
「学者殿は残念ながら何も見ておらんかったようじゃが、弟子殿から多少話を聞くことが出来たぞ」
 その印にとんっと指を置く。
「この盗賊団が作られたのは、知られるようになるよりも、もっと前のことらしいのじゃ。しかし発足当時は、村人に追い返されるほどのへっぽこ軍団じゃったらしくてのう‥‥」
 呆れ混じりに同情のため息をつき、気を取り直すように声のトーンをわずかに変えた。
「ところが、じゃ。丁度クレヨ殿が失踪した頃から、村人未満のへっぽこ軍団が日に日に力を上げていったようでの。お蔭で最近では、遺跡を塒にする盗賊団として名が知られるほどになったそうじゃ」
「クレヨ姫様が失踪した頃から、ということは‥‥」
「色々とやらかしてそうね」
 他の三人も真意は察しているのか、こくりと頷き返す。

「それで、活動場所なんじゃが‥‥宝石を取られる前までは、この辺りじゃったらしいが‥‥」
「それなら、あたしがバッチリ聞いて来たぜよ!」
 言いよどみながら印を中心に指で円を描くと、カロがぐっと身を乗り出した。
「最近は活動範囲が拡大しとるそうじゃ。わざわざ大回りした行商も襲われたそうじゃき、間違いないぜよ」
 自信満々に胸を張る。
「ふむ‥‥そうなると、上手く出会えない可能性が大きいのう」
「指輪を餌にしたらどうかのぉ?」
「指輪って‥‥届けられた、紋章入りの指輪ですか?」
 オウム返しに聞くイレイズに、カロはこくりと一つ頷き返し、
「それに釣られて盗賊一味が‥‥現れてくれんかね」
「どうやって耳に入れるかが問題じゃのう」
「その前に、指輪を借りてこないといけませんよ」
「それは明日にでも頼むとして‥‥」
 考えながら、三人が腕を組む。と。
「ダメでもともと。とにかくやってみましょう」
 言って、フローラは軽くウインクしてみせる。
 その手のひらには、いつの間にやら輝く指輪が置かれていた。

●指輪と砂漠の盗賊団
 作戦はやはり、指輪を使って盗賊団を釣り上げるという形になった。
 手当たり次第に『盗賊団に指輪を返せと言われたら、自分達の特徴を話し、そいつらが持ってると言ってほしい』と伝え回り、盗賊団と遭遇する確率を高めた。
 結果がやってきたのは、砂漠での調査開始二日目。
「てめえらか! 俺達の宝石を盗みやがった悪党は!」
 盗賊を絵に描いたようなその男は、一行の目の前で馬から飛び降りて、口汚くそう言った。
 後ろには、十人近い他の盗賊達が怒りの形相で一行を睨みつける。
 が。
「盗人無勢がよく言うのぉ」
「全く。元々あれは盗品でしょう」
「しかし、思ったよりも早かったのう」
「作戦大成功ね」
 その程度の凄みで臆するはずもなく。口々に好き勝手な反応をする冒険者達。
「ごちゃごちゃうるせえ! とにかくだ。大人しく宝石を返せば、多少の痛い目だけで勘弁してやってもいいぜ?」
 数の有利からか、余裕の笑みでじりじりと近づいてくる先頭の盗賊。
「そりゃあうちらのセリフじゃけぇ!」
 カロが盗賊の前に立ちはだかってサンソードを構える。
「私達の質問に素直に答えれば、意識の保証はしてあげるわ」
 挑発的に返しながら、フローラは剣の柄に手をかけた。倣って、イレイズもハンマーを手に取り、ベイヴァルトは小さく詠唱を開始した。
「ふざけやがって‥‥! おい! やっちまえ!」
『おおおぉぉ!!』
 激昂した盗賊の声に、後ろの盗賊達が雄叫びを上げる。
 それが、戦闘開始の合図となった。

 ‥‥結局。多少強くなっても、所詮は元へっぽこ軍団。斬られ、武器を破壊され、雷撃を山ほど食らって、盗賊達はあっけなく全員が地に伏した。
「まあ、こんなもんじゃろ」
「一通り片は付きましたね」
 ざっと辺りを見回して、一行はそれぞれに獲物を収めた。
「さて、それじゃあ‥‥誰か適当な人を起こして、尋問ね」
「そうじゃのう」
 こくりと頷くと、ベイヴァルトは近くで痙攣していた盗賊に歩み寄り、
「ほれ、起きんか」
 杖の先端で頭を何度か小突いてやる。
 と、よろよろと震えながらも、盗賊はゆっくり起き上がった。
「ぅ‥‥く‥‥」
 まだ意識がはっきりとせず呻いているが、フローラは構わず問いかける。
「突然だけど、私の質問に素直に答えてね。この指輪はどこで手に入れたの?」
 言って、クレヨの指輪を見せる。
「指輪‥‥? ‥‥ひぃぃっ! た、助けてくれ! 命だけは‥‥!」
 ぼんやりとした様子で盗賊は一行の方へ向き直り、その顔を見るなり目を見開いて怯えだした。
「質問に答えたら、考えてあげるわ。この指輪はどこで手に入れたの?」
 盗賊を睨みつけながら、先ほどと同じ質問をもう一度する。
 そこには何故か、妙な凄みがあった。
「そ、その指輪は、ボスが‥‥! し、しらねえ! 俺は悪くないんだ! 助けてくれぇぇ!」
「ボス?」
 オウム返しに聞くが、指輪を見てから一層怯えてしまったようで、全く会話にならない。
「そういえば、戦闘中にも気になることがありましたね。そんなに『ボス』が怖いのでしょうか‥‥」
 イレイズの言葉に、うぅんと一つ唸るカロ。
「考えていても仕方ないきに! ともかくその『ボス』ちう奴のところに行けばわかるぜよ」
「それもそうね。あなた、ボスのところへ案内お願いね」
 フローラに言われ、もう言葉もなくこくこくと頷く盗賊。
 この盗賊が臆病なだけか、それとも『ボス』がそれほど恐ろしい相手なのか。
 ともかく一行は他の盗賊を縛り上げ、怯える盗賊の案内の下、一路『ボス』の待つアジトへ向かった。

●アジトで待つ者
 岩の転がる砂漠の遺跡。ベイヴァルトとフローラが以前の依頼で訪れた場所にほど近い。
 案内されたのは、崩れかけた王宮と思しき残骸の中であった。掃除でもされたのか、見た目ほど中は崩れておらず、特に王室と思われるその部屋は、遺跡と化した現在でさえ未だにその高貴さを保っていた。
 部屋の中には一人の少女が、こちらに背を向けながらイスに座り、ぼんやりと本を読んでいた。癖の無い金髪を腰まで伸ばし、高そうなドレスは、それでも多少活動的に作られているように見える。
 案内盗賊の「ボス、お客人です」という言葉に振り向いたその顔には、やや吊り上った大きな瞳が――
「その呼び方はやめなさいと言っているでしょう! だいたい、私は盗賊団をもらっただけで、あなた達のボスになった覚えはないわよ!」
 読んでいた本を叩きつけるように閉じ、ずかずかと歩み寄りながら早口で捲くし立てる少女。
 その迫力に圧されて、案内盗賊はひたすらに謝りながらカロの後ろへ逃げ隠れた。
「情けない奴じゃのぉ」
 一つため息をつき、やれやれといった感じで前に出る。
「さてさて、確認するまでもなさそうじゃが――あんた、クレヨ・モラット殿じゃの?」
「そうだけど‥‥誰? あなた達」
 盗賊しか目に入っていなかったのか、大きな瞳をぱちくりとさせる。
「あなたの行方を捜すよう、依頼を受けた者です」
 イレイズが軽く頭を下げる。
「私を?」
「ともかく、じゃ。盗賊に指示を与えていたのはクレヨ殿じゃな?」
「え? えぇ‥‥確かに指示は出していたけれど、私はボスになど‥‥!」
「そんなことはどうでもいいのじゃ。クレヨ殿、ご家族は何名おられる?」
「か、家族‥‥?」
 クレヨの言葉を遮りながら、ベイヴァルトは質問を続けた。クレヨはその意図を掴めず、ともかく律儀に質問に答える。
「親戚縁者を含めれば‥‥百ほどかしら」
「百か。了解じゃ」
「?」
 その答えに頷き、ゆっくりと近づいていくベイヴァルト。クレヨはやはり頭に疑問符を出したまま――
 パシン、という音が、部屋の中に響いた。
 倒れぬまでも、頬を押さえてよろめくクレヨ。
「な‥‥何をするの!」
「周囲を心配させた挙句、民を守るべき貴族が民を襲ってどうする。愚か者」
「だ、だからって‥‥ぁくっ!」
 また、今度は反対の頬に。
「ご家族一人一人の分じゃ。よく噛み締めい」
 その後、クレヨへの『愛の鞭』はきっちり百発まで続いた。
 終わる頃にはクレヨも赤い頬を涙で濡らしながら「ごめんなひゃいごめんなひゃい」と謝っていたのは言うまでもない。

 ――失踪した日。クレヨは心置きなく魔法を撃つために街を飛び出した。そして、どこかにいい標的がないかと探していたところへ、当時のへっぽこ軍団がやってきたのである。村人にやられるへっぽこ軍団は、少女とはいえ魔法を扱うクレヨに敵うはずも無く、あっさり全員叩きのめされた。それはもうボコボコに。「何でもやるから命だけは」と懇願する盗賊達に、ついいつもの癖で「盗賊団丸ごと欲しい」と言ってしまったことが始まり。
 しかし、もらったものの如何せんへっぽこ。このままでは利用も何もないと思ったクレヨは、直々にそのへっぽこ軍団を鍛え上げることにした。それがどれだけ恐怖の日々だったかは盗賊達の行動で判るだろう。
 結果、無茶苦茶なスパルタ特訓によってそれなりの力を得、失敗したらタダでは済まないというクレヨへの恐怖も相まって、へっぽこ軍団はいっぱしの盗賊団として恐れられるほどになった。
 クレヨ曰く、当初はちょっとした遊び気分で、欲しい物を手に入れたかった、そうだ。泣きじゃくる姿は少し可哀想ではあった。

 ところで、アジト内にある物を持ってこさせた結果、結構な数のお宝が集まり――
「結構あるのう。持っていくのも大変そうじゃ。何ならいくつか懐に‥‥」
「アジトのお宝はもらっとけ、なんて‥‥いや、冗談じゃ!」
「でも、どうせだから何かもらっておいても」
「盗品なんですからダメですよ!」
 イレイズの言葉に、「嘘嘘」と言いながら冷や汗を垂らす三人だった。

●モラット家
 色々と物議を醸し出したお宝だったが、モラット公の計らいで持ち主を探し返還するということになった。
 そして、こっそりと肩を落としていた一行にも、モラット公から嬉しい言葉がかけられる。
「クレヨを見つけ出してくれた分の追加報酬じゃ。受け取ってくれ」
 物欲にまみれているわけではないが、追加報酬という甘い響きに多少なりとも心が躍る一行。
 公の合図を受け、横手からトレイを持った少女がやってくる。上にはずっしりとした革袋が乗せられていて――
「クレヨ姫様!?」
 イレイズが驚きの声をあげる。従者かと思っていたが、持ってきたのは正真正銘クレヨだった。
「どうぞ、皆様。私からの感謝も詰まっていますわ」
 言いながら、恭しく革袋を差し出す。
「クレヨ様から直々に渡してもらえるなんて、光栄ね」
「皆様にはお世話になりましたからね」
「ベイ翁の愛の鞭が効いたんかのぉ」
 すっかりお嬢様らしくなったクレヨに、感心の声を上げるカロ。
「貴族は民を守るものじゃ。忘れるでないぞ」
「ええ、心に刻み込んでおきますわ」
 ベイヴァルトの言葉にも素直に頷き、穏やかな笑みを投げかける。
 それはまさに、民を愛する高貴な貴族の姿だった。

「さてと、いくら入っているかしら」
 屋敷からの帰り道、一行は早速追加報酬の中身を確認することにした。
「お嬢様を見つけた大手柄ですからね」
「多ければ多いほどいいのう」
「きっと大量じゃ!」
 100Gはあろうかというずっしりとした重みに、期待が高まる。
 が――
「‥‥」
 開けた袋に入っていたのは、大量の石と僅かなお金、それと一枚の羊皮紙。
 呆然としながらも、とりあえずその羊皮紙を広げてみる。そこには丁寧な字でこう書かれていた。
『治療費はここからもらっておきましたわ。けれど、感謝の気持ちとして4Gほどは残しておくことにします。 クレヨ』
「‥‥やられたわね‥‥」
「ちゃっかりしてると言うか、なんと言うか‥‥」
「流石はモラット家のお嬢様じゃあ!」
「ほっほっほ。まあ、残っていただけでも良しとするかのう」
 地方領主の娘、クレヨ・モラット。まだまだ大物になりそうな予感のする一行だった。