料理の達人

■ショートシナリオ


担当:若瀬諒

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月04日

リプレイ公開日:2006年12月05日

●オープニング

●見習いシェフ麗玲
 大通りからは少し外れた、こじんまりとした料理店。
 あまり大きくはないその店だが、他にはないメニューと独創的な味付けが評判を呼び、知る人ぞ知る隠れた名店として、その日もそれなりの賑わいを見せていた。
「麗玲(れいれい)ちゃーん! こっちに蒸し麦二つー!」
「こっちは木の葉もどき一つー!」
「蒸し麦二つと木の葉もどき一つ、了解アル〜!」
「麗玲ちゃん、逆さ魚を3番にお願いねー!」
「はいな〜!」
 客の注文と厨房からの料理運びに快活な返事をして、ウェイトレス――麗玲が店内を慌しく駆け回る。
 年の頃は17、8。長い栗色の髪を頭の左右でまとめ、動きやすさを重視した制服なのか、ロングスカートの片側に深い切れ込みの入ったワンピースのようなものを着ている。
「お待たせアル〜」
 客のもとへ来た麗玲の両手には、料理を乗せたトレイが二つ。
「お、きたきた」
「ジャンジャン食べるアルヨ〜」
 言いながら、手際良くその料理をテーブルへと並べていく。
「麗玲ちゃんの料理も、早く食べてみたいねぇ」
「任せるアル! もう少ししたら、アタシもシェフも一員アルネ!」
「はっはっは、期待してるよ〜」
「はいな!」
 客に元気な笑顔を見せ、料理を並べ終わると、またぱたぱたと厨房へ駆けていった。

 麗玲はその快活さと奇妙な口調から、今や店の看板娘になっている。同時に麗玲は、この店の見習いシェフでもあった。
 正式なシェフとなるには、独自の料理を作り、味や見た目、アイデアを含めた『独創性』を認められなければな入らない。
 他店はもちろん、同じ店のシェフにすら真似の出来ない独自メニュー。それは言わば、シェフの『武器』であり、各シェフがそれを持つことで、つまりはこの店自体にとっても強力な『武器』となる。
 そんな環境であれば、当然普通の料理では生き残ることが出来ない。各シェフにはより高い『独創性』が求められていき、それはもはや少年漫画主人公の戦闘力のようにエスカレートする一方である。
 ‥‥が、どんな突拍子もないアイデアが浮かんだとしても、それと味を両立させることは難しい。逆も然りで、どうしてもどちらかが欠けてしまうことになる。
 そして麗玲もまた、例外ではなかった。

「うぅむ‥‥」
 麗玲の料理を一口味わい、店長は腕組みをしながら唸る。
 一日の中で最も忙しいであろう昼食時が終わり、客足もまばらになってきた頃。見習いシェフである麗玲は、店長へ自らの作った料理を出し、その料理を評価してもらっていた。
 見習いシェフの修行とも試験とも言えるこの時。ここで認められれば、明日にでも麗玲は正式はシェフとして働くことが出来るのだが‥‥。
「ダメアルか?」
 不安そうな顔で、麗玲が尋ねる。
「全然ダメってわけじゃないんだが」
 言って、また一口。
「もう一つこう、攻撃性能が足りないんだよなぁ‥‥」
「そうアルか〜‥‥」
 妙な回答だが、それで麗玲は納得したのか、しゅんと肩をすくめた。
「アイデアはいいんだけどな。後は味をもう一つ‥‥食材を変えてみるとかな」
「食材、アルか‥‥」
 と。
 カランカラン
 扉につけられた木製のベルが音を響かせ、厨房へ来客を知らせる。
「おっと、客のようだ。麗玲、頼むよ」
「了解アル」
「お前さんはまだ若い。素質も十分にあるんだから、焦ることはないぞ」
「はいな!」
 背中からの励ましに、麗玲はいつもの調子で快活に笑って見せた。

「はぁ‥‥なかなか上手くいかないアルネ〜‥‥」
 営業時間も終わり。店の戸締りを確認しながら、麗玲ため息をついた。
「今回はいけると思ったアルが‥‥」
 店を出て、呟きながら夜空を見上げる。
「一体どうすればいいアルか‥‥」
 と、ふと店長の言葉を思い出す。
 ――食材。
「‥‥とはいえ、何に変えればいいのかわからないアル‥‥」
 これまでも、ありふれた食材を使っているつもりはなかった。
 珍味、美味はもちろん、ゲテモノ食材も使ってきた。
「馬‥‥羊‥‥猿‥‥鶏‥‥イス‥‥猪‥‥」
 とりあえず、思いつく順に食材を呟きながらぽてぽてと夜道を歩く。
 行き交う人々を器用に避けながら街路を進み‥‥気付けば、いつの間にやら街の外。
「アイヤー、うっかりしてたアル」
 ぺしっと自分の額を叩き、慌てて街へ戻ろうと――した瞬間、思いついた。
「そうアル!」
 再び、街とは反対側へ振り返り。
「恐獣アル! 恐獣の肉を使うアルー!」
 ばっと両手を広げ、暗闇に向かって叫んだ。
「そうと決まれば、早速行くアルヨ!」
 そのままひとしきり笑った後、麗玲はくるりと踵を返し、闇を照らすほどにその瞳を輝かせながら、一目散に街へと駆け出した。
 当然、冒険者ギルドに向かって。

●今回の参加者

 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb7863 フォンブ・リン(38歳・♂・ジプシー・パラ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●二人の恐獣料理人
「恐獣料理ハ私の独創テキ料理アルね。真似ハ止メて欲しいアルよ」
「アタシはアタシの頭で思いついて考えたアル。撤回して欲しいアル!」
「えーっと‥‥」
どう割り込んでいいか判らず成り行きを見守る3人の前で、操 群雷(ea7553)と見習いシェフ麗玲が飛ばす火花は更に激しくなる。
「どうしましょうか‥‥?」
「喧嘩は収めるべきでしょうが‥‥」
「楽しく見物しておけばいいと思うわぁん」
 結城 梢(eb7900)の問いに、困ったように応えるアタナシウス・コムネノス(eb3445)と、にっこり笑って言うフォンブ・リン(eb7863)。
 結果は、意外と早く訪れた。
「恐獣料理で勝負アル!」
「望ムところアルね!」
 ‥‥かくして、依頼は妙な方向に流れはじめたのだった。

●恐獣ハンティング
 メイディアより馬車で丸二日ほどの場所に、比較的大人しい草食&雑食恐竜のたまり場となっている河岸がある。
 麗玲の案内でそこへ到着した一行は、まず材料の調達を開始することとなった。
「まず食材無イと話にナラないアルね。私は草食と肉食、ドッチの恐獣の肉モ料理したいアル」
「恐獣‥‥って恐竜の事なんですね。人数も少ないですし、弱くて小さいのを捕まえた方がいいと思いますけど‥‥」
「一度に複数から狙われると怖いから、単騎にさせて確実に狩っていくべきよねぇん。あたしがダズリングアーマーを使って恐獣を誘導するわ♪」
「私は麗玲殿と行動を共にしましょう。怪我人は私が癒します。ただ、重傷以上の怪我は私にはまだ癒せませんから、注意してください」
 アタナシウスの言葉を合図に、3人が行動を開始する。
「いらっしゃ〜い、こっちよぉん。ダズリングアーマー!」
 全身をまぶしく発光させて、フォンブが恐獣の群れを分断する。同じ種でも、向かってくる恐獣、逃げる恐獣、様々だが、その辺を上手く調整して、群雷や梢の待ちかまえている場所へと一体ずつ誘導する。
「な、なんでわざわざそんな大きいのを選ぶんですか。む、無理ですよぉ‥‥」
「大丈夫アル。私抑えるアルからドンドン来サセるアルね!」
「皆さん、口にする以上のむやみな殺害はいけませんよ」
 どんっと胸を叩く群雷をたしなめるように言うアタナシウス。
「なんかみんな楽しそうアルなー。アタシも行きたいアルよ」
「ダメです。貴殿はその結界の中でじっとしてて下さい」
 更にぐるりと後ろを振り返り、麗玲に釘を刺す。
「うぅぅ、残念アル‥‥」
「貴殿は‥‥なぜ料理人になろうと思ったのですか?」
 飛び出しかねない麗玲の気を紛らわせるため、アタナシウスはそんな話題を振る。
「アタシが料理人になったわけアルか?」
「大変だわ〜。ちょっと寄って来すぎたわぁん♪」
 麗玲が問い返したその時。横手から必死そうに聞こえない声が聞こえてきた。振り向けば光り輝くフォンブの姿‥‥に、追いすがる大小十数匹の恐獣達!
「貴殿は目立ちすぎです。光量調節はできないのですか?」
「出来たら苦労しないのねぇん。あ、痛っ、痛いわ恐獣ちゃんっ! もっと優しくしてぇん」
 多方向から恐獣に小突かれるフォンブ。受け流したりはしているらしく、それなりに余裕があるようには見えるが。
「‥‥フォンブさんのあれは‥‥楽しんでるんでしょうか?」
「逆に恐獣ノ餌になてる気がするアルよ」
「まぶしいから下手に近寄れないですし‥‥神の加護を祈るしかありませんね」
 どうしようもないといった感じで呟きながら、胸の辺りで十字を切る。
「‥‥で、でも助けないといけませんよね‥‥!」
 おろおろとしながらも、梢は慎重に狙いを定め、
「ライトニングサンダーボルトっ!」
 放たれた雷光は一直線に恐獣へと向かい、確実にその体を貫いた。
 魔法による電撃で一瞬動きを止めた恐獣は、標的をフォンブから梢へと移し猛然と襲い掛かってくる。
「あら、一匹離れたわぁん♪ ありがとねみんな〜。でもまだ多いわ〜。耐えるのよ、耐えるのよあたしっ」
「一番大きなのが来たアルね」
「あれは‥‥流石に無理では?」
「‥‥わわ‥‥ご、ごめんなさい〜」
「い、いえ、これも神の試練でしょう‥‥私も微力ながら――ホーリー!」
 アタナシウスの放った魔法は、襲い来る恐獣を白い光で包み込み‥‥しかし、恐獣は速度を落とすことなく突っ込んでくる。
「‥‥全然効いてないアルね〜」
 のんびり観光気分の麗玲であるが、正直、アタナシウスの結界もプチっと一撃で壊される可能性が高いことに気付いてないのは――ジパングで言う『知らぬがなんとか』というやつであろうか。
「私に任せるアルね。伊達に鍛えテ無いアルよ!」
「ら、ライトニングサンダーボルト! ライトニングサンきゃぅっ!」
 構えた群雷を跨ぎ越し、梢を踏みつぶしそうになりながら、巨大な恐獣――ブラキオサウルスはそのままどこかへと突進していった。
 魔法の途中で打撃を受けて、奇妙な悲鳴を上げながら倒れる梢。

 ‥‥その後もなんだかんだとありながらも、なんとか食材を狩りおえた一行。
 アタナシウスに癒せるレベルの怪我で済んで幸いだったと言えよう。

●毒味パーティー
「それじゃ、対決アル!」
「自分デ食材モ狩レない見習料理家には負ケないアルね」
 早速にらみ合っている麗玲と群雷の横で、梢が口を開いた。
「私も参加してみようかな。お二人には敵わないと思いますけど‥‥」
「それがいいですね。これだけの食材、二人で使い切れるとはとても‥‥」
 どっちゃりと山のように積まれた食材に、アタナシウスが天を仰ぐ。
「どんな料理になるか楽しみだわ〜」
 そんなアタナシウスの横で、フォンブが嬉しそうに言う。
「珍しい料理を食べれてお金を貰えるなんて、ほんと、いい依頼ね〜」
「そう思える貴殿が羨ましいです」
 この依頼、アタナシウスがひたすら苦労人の位置にいるのには、筆者も同情を禁じ得ない。

 ‥‥そして、まあ、調理の描写は飛ばしておこう。
 ただ、フォンブの顔が更に生き生きとし、アタナシウスの顔が徐々に青ざめていったとだけ語っておけば、想像はつくであろう。

「出来たアルね!」
「こちラも終わたアルよ」
「あまり、凝ったものは作れませんでしたけど‥‥」
 ほぼ同時に完成した三人の料理は、まさに対照的であった。
「群雷殿の料理は、流石ですね」
 まさに華国料理。元の素材が恐獣だとはとても思えない豪華な料理が皆の前に並ぶ。
「コレが華仙教厨士ノ実力アルね」
「梢さんの料理もシンプルで悪くないわねぇ」
「臭みがあったので、香草と岩塩と卵白を混ぜたものを肉の上に釜のように被せて蒸し焼きにしてみたんですけど‥‥」
 他にも、ソテーや酒蒸しなど、色々試してみたようであるが、最終的にこれに落ち着いたようだ。
「‥‥で、麗玲殿の料理ですが‥‥」
 アタナシウスの声に、誰からともなくその料理を見‥‥そして押し黙る。
 どでんと皿に乗った恐獣の頭。丸ごと一個。どうやら口の中に料理が詰め物されているようだが‥‥なんというか、非常に威圧感があるというか、おどろおどろしいというか。
「あの‥‥ちょっと、怖いような‥‥」
「見た目がいまいちな物ほど美味しいってよく言うアルね」
「言わないと思いますよ‥‥」
 自信満々胸を張る麗玲に、ため息をつきながら言うアタナシウス。
「まあまあ、とにかくいただきましょうよ♪」
「そう‥‥ですね‥‥」
 目の前の物体にピュアリファイ――浄めの魔法――をかけるべきかどうか。そんな失礼なことを本気で考えつつ、アタナシウスは皿を手に取った。
「あ、これ美味しい‥‥」
「流石は華仙教厨士を名乗るだけありますね」
「ドンドン食べるアルね〜」
 人間の本能が自然と危険物を避けるのか、皆が群雷と梢の料理に集まる中――ただ一人、その本能が働かない男が居た。いや、パラとは元々そういう種族なのかもしれないが――
「うふふふっ♪ いくわよ〜」
 禍々しいオーラを放っている麗玲の料理を切り取り、一口含み、数秒。
 ばたり
「あぁぁっ! フォンブさんが!」
 にこやかな笑顔をそのままに、フォンブは仰向けに倒れ、動かなくなった。
「アイヤー、そんなに美味しかったアルか〜」
「そんなわけないでしょう! あぁ‥‥やはり先に浄化しておくべきでした‥‥」
「食べ物だから浄化魔法は効かないアルよ?」
「神よ‥‥これを食べ物とお認めになるのですか!?」
「いいから食べるアル!」
「むぐっ!?」
 ぱたり。
「あぁぁっ! アタナシウスさんまで!」
「アイヤー、そんなに美味しかったアルか〜?」
 被害拡大。

「はぁ‥‥美味しかったわ〜。お花畑まで見えたのよ〜」
 それはきっと臨死体験である。
「神の声が聞こえた気がします‥‥」
 それもやっぱり(略
「これでアタシが優勝アルか?」
「断トツで敗北アルね」
「な、なんでアル!? 出来るだけ攻撃力の高そうな料理を作ったアルのに! これでもまだ攻撃力が足りないアルか?」
「高すぎたんじゃないでしょうか‥‥」
 ぽつりと漏らした梢の言葉は麗玲の耳には届かなかった。

●最凶の見習いシェフ
「やっぱり、恐獣料理はダメある」
 料理対決後、麗玲は何かを悟ったかの様に口を開いた。
「負けたのもあるアルが、何より恐獣料理は唯一無二の独自料理では無くなってしまったアル」
 ‥‥言われてみれば、そうかもしれない。が、あの味は他人には真似できないのではなかろうか。
「看板料理に必要なのは世界で唯一の独自料理アルよ。アタシは新しい独自料理を考えるアル!」
「えっ? じゃあ、シェフには‥‥」
「まだしばらく見習いシェフで頑張るアル。けど、今回のことで手がかりは掴んだ気がするアルよ」
 どこか晴れ晴れとした様子で告げる麗玲。
 その笑顔のまま、とんでもないことを口走る。
「とりあえず次はモナルコス料理なんかどうアルか? 恐獣より攻撃力がありそうアル!」
「え゛‥‥っ?」
「んん〜ん♪ いいわねぇ。是非食べてみたいわぁん。でも、硬いモナルコスより柔らかいバガンはどうかしら?」
「バガン焼きとかバガン煮込みアルか? 面白そうアルね!」
「ゴーレムは四ツ足ジャないアルが‥‥お手並み拝見アルね」
「ゴーレムって、食べられるんですか‥‥?」
「‥‥いや、たべられないでしょう‥‥というか、貴殿まで、そんな‥‥」
 梢の言葉に疲れた様子で呟き、十字を切るアタナシウス。

 神よ、彼らに祝福を。
 神の慈愛こそが彼らに必要なのです。
 どうか彼らに人並みの常識をお与え下さい。