●リプレイ本文
●落下砲弾
「‥‥岩? そりゃ、探せばあるかもしれんが、何に使うつもりだ?」
「フロートシップ上からの投石用だな。砦に一つどでかい穴を空けておけば、今後の奪回に有利だろうからな」
「勿論、敵が密集した上に落とすことも考えているのである」
陸奥 勇人(ea3329)とシャルグ・ザーン(ea0827)から作戦の説明を受け、フロートシップの艦長は腕を組んで考え込んだ。
「‥‥だが、不揃いな岩を甲板にごろごろ転がしたまま戦闘機動させれば、怪我人が出かねん」
「無理なら仕方ないが、今回は打てるだけの手を打っておきたいんだ」
勇人の発言に、他の面々も頷く。装備も人員も、予想される必要量に比べて明らかに足りない中での戦闘になる。誰も口に出さないが、厳しい戦いになることは皆が予感していた。
「う〜む‥‥」
「まあ、無理なら仕方がないぜよ。その分、あたしらが頑張ればいいがじゃ」
カロ・カイリ・コートン(eb8962)の台詞に、艦長が片手を上げて制する。
「まあ待て。必要な岩は二種類。砦破壊用のどでかい岩と、カオスニアンを倒せればいい手頃な重量物‥‥だな?」
「まあ、そうなるな」
グレイ・マリガン(eb4157)が呟く。
「カオスニアン用は‥‥『あれ』でいいだろう」
艦長が顎でしゃくった先には、建材用の煉瓦が積まれていた。
「定型物だから固定もしやすい。コストもかからん。片手で投げられるしフロートシップの高度からなら十分ダメージを与えられる。‥‥まあ、うちの船員の技術で当たるかは知らんがな。間違って味方の煉瓦に当たらんよう注意しとけよ」
「わ、わかった‥‥」
人員も少ない以上、その辺が人任せになるのは仕方がない。
「でかい岩に関してもアテがある。だが、詰め込めるのは一つが限度だ。砦に穴を空けたいなら一撃で決めろ。いいな?」
ウルリス級1番艦『ウルリス』の積載量は兵員30名にストーンゴーレム三騎。向こうで20名程回収する必要があることを考えれば、本当にギリギリいっぱいである。ゴーレムが破損し、岩を投棄出来ない状況に追い込まれた場合を考慮すれば、一つ以上積むわけにはいかない。
「やるしかないわね。がんばりなさいよ!」
「任せるがじゃ!」
グレタ・ギャブレイ(ea5644)の言葉に、カロが胸をどんと叩いて応えた。
●風を裂き、地を駆ける
人々の手も借り、積み込みを終えた『ウルリス』は早々に首都を飛び立った。こうしている間も、味方が一人、また一人と斃れているかもしれないのだ。
戦場へと向かう艦の中、冒険者達は各々、戦のための準備を整えていた。マグナ・アドミラル(ea4868)やフォーリィ・クライト(eb0754)はそれぞれのペット――グリフォンやイーグルドラゴンパピーの世話をし、船員に挨拶をしてまわったイェーガー・ラタイン(ea6382)が、風詠みの心得があると思われる船員から現地の地形や風についての話を聞き出す。
「なんとかなりそうかな」
砦が近くなった頃、先行させた鷹のゾマーヴィントの様子から風を読み、イェーガーが呟く。風は強く山肌が近いために乱気流もあるが、さほど酷いわけでもない。難しい事に変わりはないが、弓が使えない程では無さそうだ。
だが、グライダーの離陸には辛いものがある。グレイは先行してグライダーを操り、偵察と伝令に向かっているが、気流の安定した場所で離陸を行えたことは、奇しくも彼の命を救ったのかもしれない。
「そろそろ到着であるな。この風の中、艦が心配であるが‥‥我が輩は我が輩の仕事を成すのみである」
視界に砦と味方の陣を捉えてシャルグが言う。
「ああ。勇敢に戦う兵士達の救出といくとしよう。カオス軍に目に物見せてくれようぞ」
「肝は俺たちが連中の注意をどれだけ引き付けられるかだな」
「そうね。派手に行きましょう」
その言葉にマグナと勇人が応じ、フォーリィが続いた。
「あたしらが派手に暴れるきに、生存者の救出は任せたがじゃ!」
「その為にも、あたし達はまず邪魔者を排除しないとね!」
「飛行恐獣は俺達の仕事ですね。地上への支援が手薄になりますが‥‥」
カロの言葉にグレタとイェーガーが応じる。
「敵の飛行恐獣がこちらに気付きました! あれは‥‥アルケオプテリクスです」
イェーガーが叫ぶ。アルケオプテリクス――いわゆる始祖鳥である。カオスニアンに餌付けでもされているのか、砦の周囲を飛んでいたものがまっすぐこちらへと向かってくる。
しかし、二匹ともこちらに来ると言うことは――
「グレイは?」
「大丈夫です。戦闘しようと思わなければ、飛行恐獣の速度ではグライダーに追いつけませんから」
つまり、彼の敵は今、風だけということだ。
「さあ!サクッとやるわよ!」
グレタが自らにフレイムエリベイションをかけ、イェーガーが大弩弓の狙いを始祖鳥に定める。
「グギャーッ!」
始祖鳥の叫び声と共に、艦上戦の火ぶたが切って落とされた。
一方、後部ハッチに待機したモナルコスの制御胞に、カロは独り、居た。
「左目が疼くぜよ‥‥。やっと、ようやっと、この時が来たがじゃ‥‥」
カロにはカオスニアンへの恨みがある。父も、母も、兄弟姉妹、そして大切な人をもカオスに殺された過去が。
「皆、見とってなあ…。山ほどそっちに送っちゃるきに。向こうで好きに料理するとええぜよ!」
カロが静かに想いを高ぶらせている間に、後部ハッチには準備を整えた冒険者が集結してきていた。
そして、荒っぽい地響きと共にフロートシップが着底する。
「よし、俺達もいくぞ!」
「「おおっ!」」
勇人の声に、シャルグ、マグナ、フォーリィ、そしてゴーレムに乗り込んだカロの声が唱和する。
彼らは鎖から放たれた獣のように、友軍を囲む敵陣の背後へと襲いかかった。
●戦う撹乱
「いくわよ! ドラグノフ!」
再び浮上したフロートシップを背後に従える形で、まず飛び出したのはフォーリィだった。
頭上を追い越し味方の陣へと向かうフロートシップの雄壮さに力を借りたかのように、更にスピードを増す。その後ろをカロの乗るモナルコス、シャルグの駆るサイラと勇人の駆る焔が続く。一人、自らの足で駆けるのはマグナだ。
「せやっ!」
フロートシップの威容に気圧されるカオスニアン達。フロートシップの上では、手の空いた船員達が思い思いに煉瓦を放り投げていた。被害はさほど無いが、混乱状態にさせるのには一役買っている。
フォーリィはそのただ中に突っ込み、名槍『黒十字』を振り下ろす。衝撃波の範囲内にいたカオスニアンが血しぶきを上げて崩れ落ちる。スマッシュとソードボンバーの合わせ技だ。
一瞬遅れてシャルグと勇人が到着し、彼女の空けた亀裂に突っ込む。
「まだまだ‥‥ヒヨッコどもには負けぬわ!」
ランスを持ち、敵陣深く――未だ体制の整っていない恐獣騎兵へとチャージするシャルグ。一撃で恐獣――ヴェロキラプトルに重傷を与え、そのまま戦場を駆け抜ける。
「人数で負ける以上、派手にかき回すのが一番である!」
一度敵陣を突き抜けると、再度、ランスを構えてシャルグは突撃した。
一方、勇人は早々に馬から飛び降り、魔槍スラウターを片手に敵兵の中へ突っ込んでいく。達人級の格闘技術に、馬は足枷になると判断したようだった。
「大型恐獣ってのは‥‥あれだな」
カロの駆るモナルコスの三倍はある巨大な姿を見上げつつ、襲いかかってくる黒き軍勢の中を突き進む。
「デカい蜥蜴の首を獲るのも一興ってな!」
勇人は、相手が強ければ強いほど燃えるタイプのようだった。
同じく徒歩で、更に鬼神のごとく戦う者がいた。マグナである。
常に複数名のカオスニアンに囲まれつつも、背後をグリフォンに任せ、当たるを幸いに片っ端からなぎ倒していく。カオスニアンの攻撃も確かにマグナに当たっているのだが、どういうわけか鎧に、盾にはじかれてダメージを与えられない。一方で、武器の重量を生かしたマグナの攻撃は、カオスニアンを一撃で粉砕し、瀕死の兵の山を築いていく。
「カオスは残らず叩き切っちゃるきに! かかってくるぜよ!」
カロもまた、モナルコスで派手に陣をかき回し、ゴーレムの威圧感を存分に見せつけていた。
本音を言えば、この場でカオスニアンを一人でも多く殺したい。だが、今のカロにはそれより優先するべき事があった。
「皆、少しばかり待ってるぜよ。あたしはもう、守るべきものを失いたくないんじゃき!」
仲間と生存者の無事――それが、カロが今回の作戦で己に課した最優先事項。
「ははっ、向こうから来たぜよ‥‥今回の大仕事がなあ!」
ゴーレムに搭乗してさえ、小山のように巨きく見える大型恐獣を目の前に、カロは身震いした。
十メートルを優に超える大型肉食恐獣――アロサウルス。
それは、武器を構えるカロに向かって、勢いよく襲いかかってきた。
●救出
「こっちだ。ロープにつかまる力はあるか?」
グレイはグライダーから降り、兵の収容を手伝っていた。予想通りというか、ほぼ全員が負傷者だ。ゴーレムがあるわけでもなく、これで何日も耐えていたのだから奇跡といえよう。
「‥‥へっ、西の守りは俺達が守ってるんだ。この程度でそうそうくたばってたまるかよ‥‥ぐうぅっ!」
「減らず口が訊けるならまだ大丈夫だな。よし、上げてくれ!」
陣のすぐ上空に停止したフロートシップから下ろされた縄が、負傷者を乗せたままするすると上がっていく。接舷も考えたが、カオスニアンに乗り込まれる危険性も考慮してこの方法となった。
「急いでください! 砦に動きが!」
「ああもう! 無理よ無理だわ。魔法は無限じゃないわけよ!」
イェーガーとグレタが悲鳴を上げる。
強風の中、始祖鳥を意外と苦戦しつつも倒し終えた二人は、今度は負傷兵の収容の間、徐々に薄くなる防衛ラインから漏れ来るカオスニアンを食い止める為に奮戦していた。
たまに射撃や魔法で捉えきれずに接敵された相手は、グレイがライトサンソードで屠っていく。
地上部隊の活躍もあり、味方兵の収容は滞りなく終わりそうだが、今度は地上部隊の回収が厳しくなってきた。
「予想より早いか。まずいな‥‥あっちには大型恐獣が二体はいたぞ」
偵察時に見たのだろう。グレイの言葉にイェーガーが応じる。
「一往復する計画がまずかったのかもしれませんね」
盆地に一度降り立った時点で、砦側がこちらの存在に気付かないはずはない。
このままでは、帰り際に砦の本隊との挟み撃ちに合う。
「いまさら計画を変えることも出来ないんだから、急ぐしかないわね」
グレタの言葉に、二人は小さく頷いて収容を再開した。
●絶えぬ雄志
「よし、撤退だ!」
最終的に、収容できた兵士は15名。可哀想だが死者まで運ぶ時間的余裕はなかった。生き残った兵士も、半数以上が重傷、動けそうな者はせいぜい5名だが、無傷の者は一人もいない。
「射撃の心得がある者がいれば大弩弓の操作を頼む」
「乗り込まれたら俺達でなんとかするしかないですね」
「魔力が空になるまで撃ちまくってやるわ!」
「む‥‥やっと撤退の合図が出たであるな」
「あら、虐殺の時間はもうお終い?」
「‥‥いや、仕舞いにはほど遠いかも知れぬな」
撤退を始めるシャルグの脇に狂化したフォーリィ、そしてグリフォンを従えたマグナが続く。
流石の彼らといえど、十倍以上の戦力差に大なり小なり傷を負っている。ヴェロキの恐獣騎兵を率先して倒しに掛かったシャルグの傷が深いのは、名誉の負傷と言えよう。4騎いた騎兵のうち3騎と戦い、2騎までをそのランスの餌食に掛けたのだ。
「グオオォォォォォォォ‥‥ッ!」
三人の背後からアロサウルスの苦悶の声が響き渡る。
大勢のカオスニアンを巻き込みながら盛大に倒れ伏す恐獣を背に、傷だらけのモナルコスと勇人が駆けてくる。どこからともなく焔が勇人に併走し、勇人が一呼吸で飛び乗ると、阿吽の呼吸で疾走を開始した。
「へっ! 倒してやったぜ!」
「いや‥‥まだ終わりじゃないがじゃ」
後方からの追っ手は、無きに等しい。
突然の襲撃に加え、アロサウルスまで倒され、士気が完全にくじけたのだろう。だが――
「おいおいおいおい‥‥あの量は反則じゃないか?」
「流石に――無理、じゃないかしら‥‥」
勇人とフォーリィの唖然とした声は、フロートシップの面々も含め、皆の総意であっただろう。
砦から吐き出される多量のカオスニアン。そして二体の大型恐獣。
イェーガーには判った。それが最悪の肉食恐獣、ティラノサウルス・レックスであると。
しかも、砦からはカオスニアンを背に乗せたプテラノドンが舞い上がり、城門からはヴェロキラプトルに乗った恐獣騎兵も続々と出てくる。
「間に合う……か?」
「無理であるな。誰かが留めねば後部ハッチからフロートシップに雪崩れ込まれるであろう」
勇人の問いにシャルグが答える。
「‥‥だな。よし。しんがりは俺が引き受ける!」
「「「なっ!?」」」
「しんがりなら、あたしがやるぜよ!」
カロの言葉に勇人が首を振った。
「モナルコスをロープでつり上げるのは無理だろう? 俺が行くさ。焔は頼んだ!」
この緊迫感ですら、彼にとっては刺激の一部なのか。
この状況に、しかしむしろわくわくとした様子さえ見せて勇人はそう告げ、独り、最も過酷な死地へと降り立った。
●結末
敵の本隊の真っ正面にフロートシップを着陸させるという事態に陥った一行は、死闘の末、地上部隊の回収と再度の浮上に成功した。
グレタが中傷を負い、そして、勇人も重傷を負いながらも見事しんがりを勤め、ギリギリでイェーガーの縄ばしごによって救われた。
浮上後、フロートシップも冒険者もボロボロになりながらも最後の落石を試みたが、艦の機動が安定せず失敗に終わった。
総評としてみれば、ぎりぎりではあったが兵の回収と生還という最低限の任務は達成し、成功といえよう。
――リバス砦の奪回はどうやら、甘く無さそうである。