リバス砦奪回作戦
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■ショートシナリオ
担当:若瀬諒
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月26日〜01月02日
リプレイ公開日:2007年01月03日
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●オープニング
●落ちた砦
メイの国は大きく三つの領地に分けられる。
サミアド砂漠の南東、首都メイディアを含むステライド領。北部全域を覆うセルナー領。そして、サミアド砂漠の南西‥‥カオスの地と直接国境を接するリザベ領である。
カオスの地とリザベ領、この2つの地は天然の防護壁とも言える山脈によって隔てられており、山中に作られたリバス砦はまさに、山を越えてくるカオスニアンを迎え撃つ最前線基地であった。
このリバス砦が大規模なカオス勢力の襲撃に落とされたという情報が入ったのが半月ほど前。
アリオ王の決断により、急遽フロートシップ1隻とモナルコス1騎が派遣され、生存兵の救出を行ったが、未だ砦を奪還できてはいない。
●奪還作戦
「今回は救出劇ではない。メイの国の総力を挙げて、リバス砦の奪還を行う!」
集った冒険者達へ、説明に当たる騎士が声を張り上げる。
「救出部隊からの報告によると、砦のカオス勢力本隊は、最悪の大型肉食恐獣であるティラノサウルス・レックスが2体、ヴェロキラプトルの恐獣騎兵が2個群、プテラノドンの恐獣騎兵が1個群。雑兵も未だに100名近くを擁する大部隊である」
ごくり、とつばを飲む冒険者達の前で、騎士が言葉を繋ぐ。
「だが、こちらも前回とは異なる! 輸送船を用いて100名を超す兵とゴーレムを送り込み、本格的な冬が到来する前に片を付ける!」
ここ最近、リバス砦にも初雪が降った。寒波も到来しており、今を逃せば砦を奪い返すのは春まで待たねばならなくなる。
「敵に時間を与え、砦の防備を増加させるわけにはいかない。今回で砦を奪還する!」
魔法による予知によると、砦周辺の天気は徐々に荒れそうで、気温は低く風は強く、吹雪の可能性もあると言う。
現地までの移動には2隻のフロートシップが用いられるが、天候の状況から戦闘に参加出来ない可能性が高く、また、砦周辺で唯一フロートシップの着陸が可能であった盆地には、着陸妨害用の杭が数多く立てられたとの報告がある。
つまり、今回は「空」を使うことが出来ないのだ。
フロートシップの使用は主に山麓まで。そこからは地上を行軍し、リバス砦を叩くこととなる。
今回、稼働するゴーレムは3体、うち冒険者達に貸与されるゴーレムはモナルコス2体。その2体で冒険者が行うことは、ただ一つ。
「君たちに依頼するのは、砦の奪還でもなければ、カオスニアンの掃討でもない。ただ一つ、2体のティラノサウルス・レックスの撃破。君たちにはこの戦闘の勝敗を決める最重要任務、それだけをお願いしたい!」
●リプレイ本文
●雪中行軍
「今回は自分がモナルコスで行かせてもらおう」
「あたしも乗らせてもらうがじゃ」
グレイ・マリガン(eb4157)の言葉にカロ・カイリ・コートン(eb8962)が即座に続く。
百名を超す兵と共に雪中行軍をしている最中の会話である。
「ええっと‥‥そうなると僕はどうしたらいいかな‥‥」
二人の言葉に、龍堂 光太(eb4257)が困ったように呟いた。
今回、貸与されるモナルコスは二体。しかしてゴーレム乗りは三人だ。
「まあ、妥当なところではカロさんと光太さんかしらね」
三人の話し合いを端で聞いていたスニア・ロランド(ea5929)が口を開く。
「そうですね。ティラノサウルス・レックスの攻撃にはゴーレムといえど気をつけた方がいいでしょうし、『避けられる』方が何かといいでしょう」
スニアの発言にイェーガー・ラタイン(ea6382)が補足する。
グレイは格闘能力に秀でているが、回避は苦手である。そして自慢の格闘能力も、モナルコスの反応速度ではだいぶ落ち込んでしまう。総合的な力を考えた場合、グレイが降りて白兵組に回った場合が一番、このパーティーの戦闘能力が高くなるのだ。
「うむ‥‥」
前回、リバス砦がらみの作戦に関わったときは、グレイはグライダーでの伝令役や味方兵の救出に力を注いだ。
だが、やはり内心ではゴーレムを駆って戦功を立てたい。彼の目的は手柄を立て、自分専用のゴーレムかグライダーを手に入れる事なのだ。
「‥‥仕方がないな。だが、何かあればすぐ交代して貰おう。いつでも動かせる準備は出来ている」
グレイの言葉に、カロと光太は小さく頷いた。
「話は終わったかい?」
「本隊に連携の話はつけてきた。後は俺達次第だ」
話し合いを終えた彼らに、羊とゴーレムの着ぐるみが話しかけてくる。まるごとメリーさんを着たパトリアンナ・ケイジ(ea0353)と、まるごとばがんくんを着た陸奥 勇人(ea3329)だ。
「おぅ、さっすが、お二方はいいもんを持ってるがじゃのう」
「‥‥えーと‥‥どう突っ込んだらいいんだろうな」
「深く考えるとしなくてもいい苦労をするわよ」
反応に困った光太に、スニアはそう返したのだった。
●出撃準備
「さて、そろそろですね」
遠方にリバス砦を確認して、イェーガーが小さく気合いを入れる。
『では、そろそろ交代した方が良いな』
名残惜しそうにグレイがゴーレムから降り、光太と交代する。ここまでの行軍は、ゴーレムを歩かせる事くらいは可能な数名の兵を向こうで用意してくれたこともあり、彼ら三人との交代で乗り継いできた。
不意打ちに備える意味もあって完全に任せる事は出来なかったが、それなりに消耗は抑えられている。
「向こうの合図と共に突撃するぞ。連中に、ティラノをぶつける相手は俺達だと見定めさせないといけないからな」
「わしらの目標はティラノのみである!」
勇人のかけ声にマグナ・アドミラル(ea4868)が呼応する。一見クールな瞳の奥に、溢れんばかりの気合いが感じられた。
「さぁて、あたしの大好きな戦争の始まりだ。バケモノ相手じゃ生身のあたしに出来ることは限られてるが、その限られた中で与えられた役割を可能な限り完璧にこなすのが傭兵ってもんさ。それ、あんたも活躍するんだよ、へりおん!」
死闘を目の前にうきうきと呟き、ペットの鷲を天高く舞わせるパトリアンナ。暗雲たれ込める強風の空には、既にイェーガーのゾマーヴィントとグリフォンに乗ったスニアが舞っている。
「‥‥荒れそうですね‥‥」
天を見上げて、イェーガーがぽつりと呟いた。
戦の末か、天候か‥‥つられて空を見上げる一行の目に、雪が舞い降りてきた。
●死闘開始
「突撃ィィィーーーッ!」
本隊の合図と共に、距離を離して行軍していた冒険者達も突撃を開始する。
先陣を切るのがカロと光太の駆るゴーレム二騎に、マグナ、勇人、そしてグレイの近接組。
少し離れてパトリアンナとイェーガー、上空にスニアの射手が続く。
「流石に、この空は厳しいかしらね‥‥」
強風の中、貴族の嗜みとして覚えた乗馬の技術でこらえながら、スニアは戦場を眼下に見下ろしていた。突然の進撃に、砦で騒がしく人影が動いているのが見て取れる。どうやら、籠城戦などという消極案に持ち込むつもりはないようだ。‥‥いや、そういった思考を未だ持たないのか。カオスニアン達は早々に城門を開け、打って出てくる。
「上等ね」
雪も舞っている。このまま吹雪になれば飛んではいられないかもしれない。
「早めに決着が付けばいいけど‥‥」
スニアの呟きは強風にかき消された。
(T・rex‥‥トカゲの暴君。いつかは、と思っていたけれど、こんなに早く対峙する機会が来るとは思わなかったな‥‥)
制御胞の中で、光太は一人思いを巡らせていた。
日本人なら誰もが知ってる肉食恐獣。
(あんなのに生身で立ち向かう彼らは本当に凄いね。知らないで立ち向かうなら無謀だけど、陸奥さんもマグナさんもグレイさんも、一度あれと対峙しているんだから)
一度見れば、それだけで意欲を失いそうな凶悪な暴力の結晶がこちらに向かってくる。ゴーレムに乗ってすら震えが来ているのに、彼らは生身なのだ。
(僕も‥‥負けてられないな)
ゴーレムの巨大な腕で、ギガントアックスの柄を握りしめる。勇人が持ってきたもので、本来ゴーレム用の武器だという。出発前に振ってみた感じ、多少強度に不安はあったが、威力は十分。
「大丈夫? 逃げるなら今だよ〜」
「ここで逃げられるわけないだろう? 戦う前から負け犬はごめんだよ」
妖精――ルシエラの言葉に光太はそう返し、力強く次の一歩を踏み出した。
『メイが国の鎧騎士、カロ・コートンが推して参る!』
カロは雄叫びを上げながら先陣を切って突撃していく。
『この左目の借り、一時も忘れたことはないぜよ!』
カロは吠えつつモナルコスを駆る。
「カロ、突出するな! 本隊と足並みを揃えるぞ」
『わかっているがじゃ』
自制はきちんと働いている。半分は本心、そして残りの半分はティラノを自らに惹き付けるための過剰演技だ。
この言葉、この口調、勇人と二人、以前にアロサウルスを倒した二人組だと気付いてくれれば、それでいい。敵の目は確実にこちらに向かう。
――果たして、砦から吐き出された後、まっすぐこちらへと向かってくる二匹の大型恐獣。
「慌てなくても相手はそら、出てきたぞ」
『ああ、よーく見えるがじゃ!』
勇人、カロ、マグナ、イェーガー、グレイにとっては記憶に新しい光景だ。あの時は絶望の象徴、しかし今回はあの時と違う。
「カロは左を頼む! 龍堂は右だ! まずは左のティラノを倒すぞ!」
『任せるがじゃ!』
『わかりました!』
「大物退治だ。気合入れて行くぜ!」
「『「おおっ!」』」
勇人の声に冒険者達の声が唱和し、対抗するようにティラノサウルスも咆哮を上げる。
「グオォォォォォッ!」
大地を揺るがすような咆哮と共に、死闘が始まった。
●一撃必壊
『なっ、速い――!?』
モナルコスのギガントアックスが空を切り、カロが驚きの声を上げる。
予想よりも更に素早い。これでも、基本の体さばきはモナルコスの限界近くまで出している自負がある。なのにその斧は大きく外れた。
「うおおおーっ!」
動揺するカロの脇から、勇人が武器の重さを生かした攻撃を仕掛ける。大きく振り抜いたそれはティラノの足を深く切り裂く。
「よっしゃ! ‥‥いや、浅いか?」
浅くはない。確かに深く切り裂いた。
だが、モナルコスの三倍を超える巨大な恐獣にとって、この程度では僅かに動きを鈍らせることしか出来ない。
弓隊の第一射目も強風に煽られ、ティラノの皮膚にめり込んで僅かな傷を与えるだけに過ぎない。
「グオォォォォォッ!」
そして、ティラノの反撃――
『くっ、かかってくるがじゃ!』
十分に警戒して避けたはずの一撃。だが――
メキッ!
嫌な音が響いた。
『んなっ?!』
カロのモナルコスに、深々とティラノの牙がめり込んでいる。しかも――そのまま軽々と巨大なモナルコスが持ち上げられ、振り回される。
「嘘でしょう‥‥?」
「おいおい‥‥あたしらは悪夢を見てるんじゃないだろうね‥‥?」
巨大なゴーレムが赤子のように持ち上げられ、うち捨てられる様子に、イェーガーとパトリアンナは思わずそう口にしていた。
あっという間。
数十秒前までは無傷だったその機体は、あっという間にボロボロにひしゃげてしまっている。
「こりゃあ、やばいね。イェーガー、あんたあっちの騎手を落としな! あたしの弓じゃ無理だからね」
長年の傭兵生活の賜物か、パトリアンナは即座にイェーガーに向かって叫んだ。弓がティラノに大して訊かないこと、光太の駆るモナルコス一騎でもう一方のティラノサウルスを抑えられるはずがないと一瞬で判断したのだ。カロの身の心配――そんなものはしても無駄だと判っている。死ぬときは死ぬ。生きているときは生きているのだ。戦場で戦いを一瞬でも忘れたら――その時は自分に死神が微笑むのだ。
「わかりました」
その声に、イェーガーも素早く対象を切り替える。彼も数々の修羅場をくぐってきているレンジャーだけのことはある。
「しっかり狙っておくれよ。あんたの周りはあたしが守るからね!」
「期待してますよ‥‥っ!」
ギリギリと引き絞った弓から、魔力の乗った矢が放たれる。
――その弓、三百歩撃ちと呼ばれる魔法の品。その名の通り、三百歩先の槍の穂先にも当てることが出来ると言われる逸品だ。
イェーガーの放った矢は、ティラノの騎手目掛けて宙を切り裂いていった。
「こいつは‥‥アロサウルスどころじゃねぇな。大丈夫か、カロ!」
『‥‥‥‥』
返事はない。だが気を取られている暇もない。それが戦場だ。
モナルコスをここまで破壊したティラノの目が自分に向かっているのを感じて、勇人は身震いすると共にぞくぞくするのを感じた。
逃げることは出来ない。時間もかけられない。素早く倒して光太を助けに行かなければ、向こうもカロと同じ目に遭うのは確実だ。
「期待してるぜ‥‥マグナのおっさん‥‥」
影のように姿を消し、どこかで必殺の一撃の機会を伺っているジャイアントの戦士の名を呟きつつ、勇人は自らの獲物を上段に構えた。
「よっしゃ、来い! バケモノ! アロサウルスと同じ目に遭わせてやるぜ!」
「グォォォォッ!」
ティラノは巨大な体躯に似合わぬ素早さでその牙を突き立てようと迫ってくる。まるで傷など負ってないかのような素早さだ。
「くっ!」
達人の域に達したと自負する勇人ですら、下手すれば――いや、下手をしなくても噛まれかねない鋭い攻撃。それをギリギリで受け流しつつ重い一撃を食らわせるが、二度に一度は避わされる。まるで傷を受けていないような素早さだ。
「へっ、遅いと俺だけで倒しちまうぞ‥‥」
減らず口を叩くが、一撃食らえば大怪我は免れない。大技を狙おうにも、自分に攻撃が集中してる為に隙が出来ない。むしろ、だんだんと追い詰められていくのを感じていた。
「時間かけてる暇はないんだ!」
武器での受け流しを捨て、体捌きに掛ける。三度に一度‥‥いや、二度に一度は食らいかねない大博打。襲いかかってくる敵の勢いをそのままに、重さを乗せた一振りで振り払う。
「陸奥流……後の先――っぐ、しまっ‥‥ぐあああっ!」
ティラノの鋭い牙が身体に食い込む感触がはっきりと伝わってくる。このまま、先ほどのモナルコスのように持ち上げられたら、死ぬ――
そう思った、直後――
ズバッ!
何かが、裂ける音がした。
「『暗殺剣・影薙ぎ』を受けよ!」
遅れて耳に届く、マグナの低い声。
「グギャアァァァァァァツ!!」
首を大きく切り裂く斬馬刀の一撃と共に、ティラノの身体が大きく傾き、倒れる。
「‥‥くそ、遅いぞ」
「確実に当てられる時を待っていたのだ。恐らく‥‥わしの実力でもあれだけの大技、二度に一度は避けられていたであろう」
「するってぇと、二度目は無理ってか?」
自前の重傷まで行った傷をポーションで癒し、勇人が訊ねる。
「まあ、残り一体、なんとか――」
「二人とも――危ない!」
上空からのスニアの叫びは遅かった。
瀕死の重傷を負いながらも、今だ死なないティラノが大きく口を開け――
ズシャァッ!
『やられっぱなしじゃぁ、メイが国の鎧騎士の名がすたるぜよ‥‥』
背後からのモナルコスの一撃に、今度こそティラノはその息を止めた。
死闘の中、吹雪はますます強さを増していく。
「どういうこと‥‥?」
上空で見ていた彼女にはわかった。騎手が何かをしたのだ。途端、ティラノが傷を忘れたかのように立ち上がって襲ってきた。
傷が癒えたわけではない。現にその後の一撃で息を絶っている。だが――
「何をしたの‥‥カオスニアンは‥‥?」
そもそも、この寒さの中で恐獣が普通に動いていること自体がおかしいのだ。戦場の混乱に紛れて消えた騎手は、もはや誰だか判らない。一面の白い世界で、黒いうねりが一つの生き物のように味方の軍を襲っていく。
「これが、私達の敵――」
スニアは、ここに至ってようやく、この世界への月道が開いた理由を理解できた気がした。
一方――
「ぼーっとしない! 来るよ〜」
「わかってる。耳元で騒がないでくれ‥‥」
光太は運良く――本当に運良く、傷だらけの機体で今だに持ちこたえていた。徐々に距離を狭め、精密さを増していくイェーガーの援護と、もう一人――
「辛いならいつでも代わるぞ」
『わかってるよ、もう! キミをさしおいて乗ってるんだ。限界まで頑張るさ!』
なにげにグレイをさしおいて搭乗しているプレッシャーが効いていた。つくづく苦労性な青年である。
「右! あたっちゃう〜」
「‥‥くうっ!」
流石に幸運も続かず、ティラノの一撃はモナルコスの左肘から先を盾ごと軽々と食いちぎった。
『こんな‥‥こんなところで死んでたまるか〜っ!』
「同意だな」
「当然である。まだまだ生きて貰わねばな」
「あたしの死に場所はこういう場所だと決めてるがね」
『まだまだ、なんとか動けるぜよ〜!』
絶望に落ちかけた光太の耳に、続々と仲間の声が届いてくる。
「‥‥なんとか、耐え切れましたね」
「結局、ゴーレムには乗れずじまいか」
もはや‥‥負ける気はしなかった。
●崖砦奪還
二匹目のティラノは、警戒されての集中攻撃でマグナが怪我を負いつつも連係プレイで見事撃破。主力を失ったカオスニアンは見事に逃走、リバス砦を奪回することが出来た。
だが――
「ああも見事に逃げられたら、大して痛手を与えられてないのではないのかしら」
スニアは呟く。
この統率の取れ具合と、それでいて、未知の深淵を覗くかのような得体の知れなさ。
ガズ・クドだけではない。カオスニアン自体が『こう』なのだ。それを、彼女達はひしひしと感じ始めていた。