燃えろ!嫉妬の魂
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■ショートシナリオ
担当:若瀬諒
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月10日〜02月15日
リプレイ公開日:2007年02月18日
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●オープニング
●恋人達を襲う闇
「あははっ、それほんと〜? おっかしい〜っ」
「笑っちゃうだろ? それでさ、そいつ、配達に来るシフールに――」
幸せそうに腕を組んで談笑しながら、夜の街を一組の男女が歩いてくる。
「えぇーっ、そんなことしてるの〜っ?」
「あれには俺も驚いたなぁ」
晴れた夜更け。月が明るくティトルの港を照らし、冴えた光は海を銀色に染めている。
海辺から少し離れた盛り場からは、まだ人々の喧噪が響いてくる。
街中といえど、現代人が考えるほど『夜』というものは安全ではない。けれど、二人きりの時間を過ごしたい恋人達にとって、夜こそ、人目をはばからず愛を語らえる時間でもある。
リザベ領にもほど近いティトルの都。西のリザベでは死闘が繰り広げられている中、幸せなことであるが――
盛り場の喧噪が遠ざかるにつれて、騒がしかった二人も徐々に口数を減らし、唇の距離を狭めていく。
そこまでは、いつもと同じ。
だが――
平穏なはずの夜の港に、明らかな敵意と悪意と殺意とが満ちあふれる。
「え? なに‥‥?」
女は何か強烈な悪寒を感じ、不安げな顔で男にしがみついた。
なにがどうしたというわけではない。ただ、何かがおかしい。それは、ぬるま湯に慣れた現代人には感じ取れない、殺気――というものかもしれなかった。
男の方も同じ悪寒を感じているのか、女を自分の背に隠し、注意深く辺りを見回す。
だが、辺りに見えるのは月明かり照らされた家々や倉庫、係留された船といったものだけ。
変わったところなど何もないその空間の中で、しかし、女が男に抱きついた辺りを基準に、凶悪な負の感情は益々大きく膨れ上がった。
「ね、ねぇ‥‥戻ったほうが‥‥」
押し潰されそうな黒い重圧に耐えながら、女はようやく搾り出すように声を出した。
ちらりと女を振り返り、男もそれに小さく頷く。
お互い僅かに震えながら、寄り添い、肩を抱き、せめてこの『負』が爆発しないようにと、ゆっくり歩を進めていく。
「大丈夫かな‥‥?」
「だ、大丈夫‥‥お、俺が、ついてる‥‥」
女よりも不安そうな顔をしながら、それでも男の甲斐性で精一杯に強がって見せる男。女はそれで少し安らいだのか、不安な顔の中に僅かな笑みを浮かべ、しがみつく腕に温かな力を込めた。
――刹那。
彼らの正面。黒々とした影を湛えるその『闇』が、ゆらりと静かに揺らめいた。
『闇夜が悪事に染まる時‥‥』
「な、なんだあんた!」
驚く男の背後から、別の『闇』が姿を現す。
『真の漢は命をかける‥‥』
「な‥‥なんなの‥‥あんたたち‥‥」
二つの『闇』に挟まれて、怯える二人に聞こえたのは三つめの声。
『紛れ逃れて隠れても‥‥』
二人は完全に取り囲まれ、そして――
『『『正義の下に我が討つ!』』』
『闇』の声が唱和して、同時にしゃらり、と銀の刃を抜き放った。刃は月光を反射して、美しくその姿を照らし出す。
しかし、そこにあるのは先ほど感じた憎悪のみ。
三つの闇と三つの光。対照的なそれらに囲まれて、二人はただ恐怖に怯えることしか出来ず。
『『『天誅ッ!!』』』
「ぅっ、うああぁぁぁあぁ〜〜〜〜〜っ!!」
静かな港に、男の絶叫が響き渡った。
●辻斬り退治
「――とまあ、そういうわけなのよ」
「なるほど‥‥」
疲れた顔のローザの声に、彼女――ミゥは神妙な声でメモを取る。二人は冒険者ギルドに属する――いわゆる仲介人と呼ばれるギルドスタッフである。
広大な国土を持つメイという国にあって、冒険者ギルドは未だ、首都メイディアにしかまともな事務所を設置できていない。だが依頼は全国にあるわけで。全国からの情報を集め、時に自ら全国を回り、冒険者を求めている人と冒険者との仲介を果たす――また、逆に冒険者側からのニーズを聞き、その冒険者に適した依頼を探し当て紹介する――仲介人とは、そんなことを仕事にする者達である。
ローザは二十代半ばで銀髪ショート長身の、キツい顔立ちをした気の強い女性仲介人である。実力的には中堅。対してミゥは駆け出しのひよっ子であった。十六歳、金髪白皙碧眼のメイっ子で、実習を兼ねてローザとコンビを組まされた仲介人見習いである。
「朝になって気絶してる二人が港の人によって発見されてるわ。女性は無傷、男性の方は‥‥一応、無傷」
「一応‥‥ですか?」
小首を傾げるミゥに、ローザは「はぁ」と小さくため息を漏らし、
「衣服切り刻まれて素っ裸にされちゃっててねぇ‥‥風邪ひいた上に彼女から愛想つかされて意気消沈。精神的には重傷ね」
「は、裸‥‥」
顔を赤くしてメモ用の石版で顔を隠すミゥ。
「調べてみたら、似たような事件が今月に入って既に六件。被害者に共通してるのは、犯行が夜であること、被害者が恋人同士であること、毎回男だけ狙われて衣服切り刻まれたり簀巻きにされたり‥‥まあ、ひどい目に合ってるわね」
「はぁ‥‥変な事件ですねぇ」
真剣なのか適当なのか、よくわからない相槌を打つ。
「知り合いの天界人は、『ばれんたいん』とかいう邪教の儀式の日が近づいてるから、そういうのが出ても仕方ないとか言ってたけど‥‥宗教って厄介ねぇ‥‥」
ローザのほうは、心から面倒そうだ。
「ええと‥‥依頼、なんですよね?」
「官憲からの依頼よ。被害はまぬけだけど犯人の実力は確かで捕まえられないから、冒険者をよこして欲しいって。ミゥに任せるからあとお願い」
「ええっ!? わ、私ですか!?」
一方的に言い放つと、驚く後輩をあとに早くも次の依頼書に目を通し始める。
「ローザ先輩ぃぃぃぃ〜〜っ‥‥」
すがるような目で悲痛に叫ぶミゥの声は、しれっと聞こえないふりをしたローザによって無情にも切り捨てられたのであった。
●リプレイ本文
●友情
出発前。物輪 試(eb4163)はイェーガー・ラタイン(ea6382)のもとを訪れていた。依頼に不要な荷物を預かってもらう為だ。
「悪いな、こんな事頼んで」
「いえ」
イェーガーは短く応じる。ここ最近の辛い出来事が彼から笑顔を奪っているのを、試は知っていた。
「出発前の調査は友人達が手伝ってくれてる。昼前には出立するぞ」
「はい、また後で」
「ああ」
軽く手を振り、試はその場を後にしかけ‥‥くるりと上半身を振り返らせた。
「気持ちは解るが、根を詰めすぎるは良くないぞ」
それだけ言うと、試はそのまま立ち去る。
一言、それを言うためだけに理由をつけてやってきたのだと言うことに、今気づく。試の背中を見送ってから、イェーガーは空を仰いだ。
「まったく‥‥俺を心配するくらいなら、女性に気の利いた言葉の一つでもかけてやってくださいよ」
しみるほどの青空だった。
●非道
月の光に照らされながら、フェイテル・ファウスト(ea2730)とフェリーナ・フェタ(ea5066)の二人は、夜の町をゆっくりと歩いていた。
今回の作戦は囮が二組、護衛が二組、遊撃班が一組、全て二人組の十人編成である。
囮の一方はフェイテルとフェリーナ、その護衛が和紗 彼方(ea3892)と試。
もう片方の囮はアッシュ・ロシュタイン(eb5690)とリアレス・アルシェル(eb9700)、護衛はスレイン・イルーザ(eb7880)とイェーガー。
遊撃班がフランカ・ライプニッツ(eb1633)とカロ・カイリ・コートン(eb8962)となる。
「ほら、そんなに離れていると恋人同士に見えないぞ」
「う、うん‥‥」
フェイテルに腰を引き寄せられ、照れながらも密着するフェリーナ。元々、二人は夫婦である。故に、嫉妬団ことシットー(命名、試)を誘き出すには適任と、囮役を買って出たのだが――
「うぅぅん‥‥」
物陰からその様子を見つめる彼方が小さく呻く。
囮のためとはわかっているが、目の前で見せられるとやはり、嫉妬にも似た羨望のような感情が生まれてくる。おそらく、試も同じ――いや、彼方よりも強くその思いを感じているかもしれない。
「はぅ‥‥」
寄り添い歩く二人を改めて見つめ、ため息をつく彼方。
(早くシットー来ないかなぁ)
思わず呟いた直後――ぞくっと身体が震えた。
周囲に立ち込める暗い闇。
「む――」
「来た、かな」
寄り添い合ったまま足を止め、囮夫妻は慎重に辺りを見回した。隠す気のない強い殺気。
「シットー‥‥」
いつの間にか定着している名前を呟いて、周囲を警戒しながら身構える。
フェリーナも夫の陰に隠れながら、胸元に忍ばせたダーツに手をかけ――
『闇夜が悪事に染まる時』
証言と同じ、一つ目の声。
『真の漢は命をかける』
今度は横手から、続く二つ目。
『紛れ逃れて隠れても』
三つ目。証言に寄れば、襲ってくるのはこの後の唱和後。
二人もそれに備え、警戒を強め、
「天誅っ!!」
ご。
先取りした台詞は明らかにシットーとは別の‥‥というか、彼方のものだ。
更に。
「天誅ッ!!」
もう一度、同じく先取りした台詞。今度は男の声‥‥つまり、試。
『なっ、ちょっと待て! それは反則じゃ――』
「スリープ!」
抗議の声を上げたシットーの一人に、フェイテルの魔法が飛んだ。ぱたりと倒れ、寝息を立てる一人。
『くっ! せめて最後まで言わせろー!』
『そうだそうだー!』
残りのシットーは何故か半泣きの声で叫び。結局そのまま、なし崩しに戦闘が始まった。
●共鳴?
一方。
「アッシュアッシュ、ねぇアッシュ〜〜」
「り、リア! そんなにくっつくな!」
無闇に名前を呼びながら腕にしがみつくリアレスと、顔を赤くして抵抗するアッシュ。こちらは偽装カップルだ。
「恋人なんだから、くっつかないと意味がないでしょ〜?」
「それはそうだが‥‥!」
慌てるアッシュ。独り身をこじらせた男というのは、本物であれ偽物であれ恋人関係には弱いものだ。
「ねぇねぇ、今度服買って〜。ほんとに」
「ほんとにって何だほんとにって!」
からかい半分本気半分ではしゃぐリアレス。これはこれでいいカップルかもしれない。
と――
「――来たみたいだね」
腕を解き、真剣な表情に変わるリアレス。気付けば周囲には、殺気の嵐が渦巻いていた。
「この嫉妬に満ちた殺気‥‥妬み、恨み、羨み、悲しみ、そして怒り‥‥全ての恋人達、モテる男に向けられた殺意! 感じる、感じるぞ! 俺の心が共鳴しているッ!」
『くくく、よく解ってじゃないか』
よくわからない叫びに答えたのは、目の前の暗闇――シットー。
更に、別の方向からも声が響く。
『俺達の気を理解した、そこだけは褒めてやろう』
『だが所詮、お前は獣耳美少女を恋人に持つモテ男! お前はそこ止まりだ!』
よく解らないが、そこ止まりらしい。実際はそこにも到達していない辺り、立つ瀬が無い。
「アッシュはさておき、あなた達のやったことは許されないよ!」
なんとなく悲しくなっているアッシュをよそに、リアレスが叫ぶ。
『なんだ? 獣耳少女は黙っていてもらおうか』
『そうだ、これは男と男の戦いだ』
シットーは口々に返し、剣を抜き放つ。黒い体とは対照的な銀色の刀身。月明かりを反射するそれを手にして、ようやく正確な立ち位置が掴めた。
ヒュンッ
『ぅくッ』
瞬間、鋭い風切り音が駆け抜けた。音はシットーの肩へと刺さり、月明かりが飛び散った『赤』を照らす。ナイフ――いや、縄ひょうだ。
『くっ‥‥何者だ!』
叫んだ二人目に向けて、引き抜かれた縄ひょうが絶妙の軌道で襲いかかる。辛うじて避けて体勢が崩れた膝裏に、三度目の攻撃が突き刺さった。
『くそッ! 罠か!?』
彼は自らの潜んだ闇に翻弄されていた。
『!?』
背後の気配に気付き、三人目のシットーは振り向くよりも先に横へ跳んだ。
虚空を銀の光が切り裂く。
「外したか!」
不意打ちをかわされ、驚愕しながらもシットーの姿を追い、男――スレインは追撃をかけた。
「ふぅ‥‥」
どさりとその場に倒れ伏したシットーを脇に、リアレスは額を拭う。
見れば他方も片が付いたようだ。
‥‥何やら、シットーを蹴り回している馬の姿が見えるが。
「ひとまず終わりましたね」
一息ついたところにやって来たのは、イェーガー。手にした縄ひょうをしまいながら短く息をつく。
「そろそろあれ‥‥止めたほうがいいと思うけど」
何度目かの宙に舞うシットーを見やり、頬をかきながら言うリアレス。
「あ、あぁ‥‥そうですね。シュツルム、もういいよ」
イェーガーが指示を出すと、蹴り回していた馬――シュツルムはようやく止まり、傍らへとやってきた。
「よし、よくやったな」
ペット愛が垣間見える奥で、シットー達はぼろ雑巾のような姿でひくひくと痙攣していた。
そして――
「ふぅ、まったく、イェーガーさん達の方がアッシュよりよっぽど役に――あれ? アッシュは?」
消えた男が約一名。
●真敵?
シットーを縛り上げてから、三人で周囲を散策してみたのだが、結局、アッシュの姿はどこにも見当たらなかった。
「何かあっても裸に剥かれて簀巻きにされるだけだし、気にしないでいいよ」
リアレスが悪魔の笑顔で言う。
「それじゃあ、とりあえずこいつらを――」
と、スレインがシットーに近づいた瞬間。
「待てーい!」
どこからか、雄雄しい声が響いた。
「風が啼く、炎が走り、地が騒ぐ‥‥嫉妬に燃えて天が呼ぶ! 悪(バカッポォ)を倒せと俺を呼ぶ!」
言いながら、『それ』はゆっくりと明かりを浴びる。
「燃える嫉妬のニューヒーロー、嫉妬ファイヤーただ今、推参っ!」
叫び、勇ましく台から飛び降りたその姿は、まるで変装したアッシュのようだ。というかアッシュだ。
『おぉ!』
『救世主か!』
いつの間に気が付いたのか、シットー達がノリ良く騒ぎ出す。
「俺が来たからにはもう安心だ! さあ早く逃げろ!」
嫉妬ファイヤーは、颯爽と間に割って入り、
「何やってるの、アッシュ」
「なっ!?」
すぐばれた。
実際、仮面をつけて服を変えただけで、アッシュそのものだったのだが。
「お、俺はアッシュではない! 流離いのニューヒーロー、嫉妬ファイヤーだ!」
それでも必死に誤魔化そうとする嫉妬ファイヤーことアッシュ。一応ポーズをきめていたりもする。
「‥‥」
それを見て、リアレスは何かを考え‥‥
「‥‥ううん! 私にはわかる!」
ぐっと拳を握り締め、叫んだ。
「だって! だって‥‥!」
少しずつ声のトーンを落としながら俯き、拳は胸元まで下げ、やや上目遣いになり――
「だって私‥‥ほんとは、アッシュのこと‥‥」
『「『ええぇっ!?』」』
衝撃の告白に、その場にいた全員が唱和した。
「ちょ、ちょっと待てリア! 急に何を――って‥‥」
『『‥‥』』
慌てふためくアッシュに刺さったのは、シットーの痛烈な視線と、殺意。そこに弁解の余地などあろうはずもなかった。
●英雄?
『すまん! こんな初歩的な罠にかかってしまうとは』
「なに、気にするな。お前達の気持ちはよくわかるさ」
なんだかんだで誤解の解けた後。ぼろぼろになったアッシュに向かって、上半身を縛られたまま器用に土下座するシットー達。
アッシュはそれに、ニヒルな笑みを浮かべて答える。
「それよりも、早く逃げるんだ。ここは俺に任せてッ!」
『くっ、この恩は一生忘れねえ!』
「恩返し、期待してるぜ‥‥さあ行け!」
シットー達が逃げ出す。
‥‥リアレスの「なーんてね、うっそー」という言葉を聞いた後も蹴り続けた、という事実が無ければ、もう少し感動的に見えたかもしれない。
「って、逃がしたらまずい!」
「俺が行きます!」
「あ、ま、待て!」
はっと気付いたスレインの声に、イェーガーがすぐさま反応した。アッシュの制止よりも早くシュツルムに飛び乗り、逃げたシットーの後を追う。
「やむをえん、せめて残りの皆だけでも‥‥」
馬を駆るイェーガーを追うのは無理だと判断し、アッシュは再び一向に振り返り、
「シットーに寝返った、アッシュの自業自得だよね」
そこに見たのは、得物を抜き、戦闘態勢を取る二人の姿。
「い、いや、ちょっと、こっちは怪我してる上に一人なんだから‥‥」
「英雄って、満身創痍の中一人で強敵達と戦うんでしょ?」
言ってにっこり笑ったリアレスの顔が、アッシュには悪魔のように見えたという。後日談。
●脅迫?
夜の町を必死の形相で駆けるシットー。
犠牲となったアッシュの魂を胸に、アジトへ向けてひた走る!
が――
「そこまでぜよ!」
目の前に飛び出したのはカロとフランカ。夫婦のシットー退治に参戦し終え、見回りを再開したところである。
「な、なんだお前ら!」
「ぬしらを捕まえに来た正義の味方っちうところじゃ」
「こんなところにまで出やがったのか!」
まるで害虫か何かのような言い方だ。シットーにとってはその通りかもしれないが。一方、追いついたイェーガーが退路を断つ。
「あなた達の逃亡も終わりです。せめて何か主張したいことがあれば、聞いてあげますよ」
「うるせえ! そこをどけ!」
フランカに向かい、威勢良く怒声をあげるシットー。
「それでは、主張無しということで」
それを確認し、フランカは呆れたようにため息をついた。
「こんな事してもモテるようになる訳は無し、むしろ余計に女性から見放されるだけですよ」
「そうだにゃあ。嫉妬は見苦しいじゃき」
カロも頷く。
「こんな性根の人達と付き合いたいとは思いませんし、お近づきになりたくもないですね」
「こんなだからモテなかったっちうことじゃな」
言い合い、二人でうんうんと頷き、
「まあ、そういうわけで自首してください」
「どういうわけだぁぁぁっ!」
フランカの言葉に、シットーが絶叫した。
「そこまでボロクソに言われた後で従えるわけないだろ!」
「ちょっとは宥めるとか慰めるとかしろ!」
「その根性がいけないんですよ」
何か言う度、シットーは怒りに打ち震え‥‥
「余計なお世話だ!」
「話にならねえ! やっちまえ!」
遂に爆発したようだ。
殺気立つシットーを見て、フランカは小さくため息をつき、
「仕方ありません。では‥‥ローリンググラビティー!」
放たれた魔法が、二人のシットーの体をふわりと浮き上がらせた。
「な、ちょ、ちょっと待て! なんだこれ!」
叫びながら必死に抵抗するも、体はどんどんと上昇し‥‥やがて家の屋根をも超える高さまで到達する。
そして――
ひるるるるるる‥‥べち。
シットーはそのまま垂直に落下し、痛そうな音をたてて地面に激突した。
体で大の字を描いたまま、ひくひくと僅かに痙攣している。
「‥‥さて、降伏しなさい」
「脅しか!? 脅しだな!?」
「ローリンググラビティー」
「のあぁぁぁっ!」
ひるるるるるる‥‥べち。
「‥‥さて」
「く、くそぉぉ!」
恐怖に戦き、残ったシットーが闇雲に突進してくる。が、所詮追い詰められて出た突発的な攻撃だ。
「よっと」
すれ違い様、カロの出した剣の柄に打ちぬかれ、あっさりと倒れ伏した。
「やわな奴じゃき」
その前に馬の蹴りを何度も喰らっているので、仕方ない。多少、同情してしまったイェーガーである。
●大団円?
結果。逃げたしたシットーはアッシュも含めて全員再捕縛。
全員一列に並ばされ、二時間ほど続いたフランカの説教によって、すっかり生気を失っていた。
「‥‥ということなんです。わかりましたか?」
「わかりまひた‥‥」
「完璧でう‥‥」
フランカの言葉に、虚ろな目で揺れながら答えるシットー達。
「よろしいよろしい」
その反応に満足そうに頷いて。フランカは他の一行のもとへ飛んでいった。
「お待たせしました。わかってくれたみたいです」
少し離れて暇潰しやデートの続きをしていた一行のもとへやってくると、フランカは笑顔でそう言った。
「あ、う、うん‥‥」
「そ、それは何よりぜよ‥‥」
曖昧に返す彼方とカロ。視線の先には、遠目から見ても明らかに魂が飛んでいるシットー達。
「俺、行かなくてよかった」
同じくそれを見つめながら、試はこっそり呟いた。
「さて、と‥‥流石に懲りただろうし」
リアレスと彼方は無造作に歩み寄り、共に手にした包みを見せて、
「もうしないって誓った人には、私達の焼いたクッキーをあげるよー」
言った瞬間、シットー達が突然覚醒した。
「しない! 絶対しない!」
「俺のほうがしない!」
「いやいや俺のほうが!」
心なしか姿勢もよくなっているように見える。
「すっかり懲りたみたいじゃなぁ」
「人間、話せばわかってくれるものです」
「物に釣られているだけのような‥‥」
うんうんと頷くフランカの横で、複雑な表情のスレイン。
ともあれ、これでシットー達も大人しくなるはずだ。
ちなみに、アッシュには特別、黒いクッキーが渡された。
‥‥決して焦げていないので、アッシュも腹痛にはなっていない。