集え!かおすにゃん

■ショートシナリオ


担当:若瀬諒

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月16日〜03月21日

リプレイ公開日:2007年03月26日

●オープニング

●『悪』か、否か
 カオスニアン。
 ごくごく最近まで、冒険者達の中にあって、その名は『絶対悪』の代名詞であった。
 その思いが崩され始めたのは、ここ一ヶ月ほどのこと。
 ネイ・ネイを名乗る者との『交渉』、そして、かおすにゃんを名乗る10歳ほどに見えるカオスニアン少女の出現。
 それは、冒険者の思考の中に一つの『ゆらぎ』をもたらしていた。

 彼らは本当に『悪』なのか。
 問答無用に殺していい存在なのか。

 ‥‥答えは、今すぐぽんと目の前に出てくる性質のものではない。
 悩むのもまた、冒険である。

●『敵』か、否か
 とあるカオスニアンの集落。
 集落と言っても、騎馬民族を想像させるような簡易な移動集落である。
 ぴー、ぷー。
 その集落の片隅に、いつもなら砂場で砂いじりにいそしんでいる少女が一人。口に何かを当てて息を吹き込むと、その度に「ぴー、ぷー」と音が鳴る。
(ぼーけんしゃ‥‥かぁ‥‥)
 彼女にとってそれは、仇敵の代名詞。
 カオスニアンにとって、冒険者とは不倶戴天の敵である。
 彼らさえいなければ、今頃このメイは、彼らカオスニアンが自由に闊歩する土地へ変わっていたはずだ。
 ――まあ、今でも結構自由気ままに歩き回ってはいるのだが。
 ぴー、ぷー。
 手元のそれは、とある冒険者から貰ったもの。『はーもにか』というものだと、知り合いから教えて貰った。
 優しく頭をなでてくれた金髪の騎士さんや、『はーもにか』とかのおもちゃをくれたおっきな人。変な鎧の人や口の悪い女の子や同じくらいの身長の男の子や他にも大勢。それに、告白――してきたおっきな人。
 冒険者というものと、彼女はあのとき、初めて出会った。
 色々な意味で、その衝撃は彼女にとって大きいもので――
「あら、にゃん。何をしているのですか? また砂の城でも作って‥‥」
「にゃんってゆーなー!」
 声をかけてきた少女に振り返り、彼女はがーっと手を上げながら吠えた。
 以前、冒険者へ挑戦状を出した。そこまではいい。
 覚えたての字で「かおすにやん」と書いたため、冒険者の間で「かおすにゃん」と呼ばれるようになった。誤解と知らず自分でも認めたため、そのまま広まった。それもいい。
 何故か、メイディアから逆輸入され、そのままカオスニアンの間においてさえ、少女のあだ名になってしまった現状はちょっと納得できない。
「お嫌ですか? 通り名があるのは強い証拠ですのに‥‥」
「そ、そうか?」
 どうみても通り名ではない。
「そうですわ。ガス・クドさまが『最強』で、ネイ・ネイさまが『最悪』なら、にゃんは『最萌』のかおすにゃん、というところでしょうか」
「『最幼』‥‥」
 また一人。今度はぽそりと少年の声。
「まぁ、それは追々考えるとして‥‥それよりも、行きましょうか」
「出撃‥‥」
「‥‥え?」
 両脇をガシッと掴まれて、ずりずりと引きずられていくかおすにゃんには、何のことだか判らない。
「ど、どこに?」
「もちろん、愛しきにゃんを傷モノにした冒険者達に、復讐の鞭を叩き込みに、ですわ♪」
「十倍返し‥‥」
 天界のものだろう冷徹な伊達眼鏡のその奥で、怒りの炎を静かに瞳に浮かべて少年が言う。
 一見、冷静に見えつつ、この二人、殺る気であった。
「え、えーっと‥‥」
 かおすにゃんは考える。
 冒険者とは、なんなのか。
 考えても、答えは出ない。
 答えは出ないが、やりたいことは決まっている。
 負けたのが悔しい。勝ちたい。
 やりたいことがあれば、やればいい。カオスニアンの行動原理は単純である。
「よぉーし! 仕返しにいくぞー!」
 答えは出ない。
 まだ、彼女はたった一度しか冒険者達と会ってないのだから。
『彼らを知りたい。そして、彼らに勝ちたい』
 ある意味これが、始まりであった。

●挑戦状こそないけれど
「‥‥また?」
「です!」
 冒険者ギルドの一室。
 中堅仲介人ローザと、彼女とコンビを組んでいる新米仲介人ミゥ。
 二人のやりとりは、呆れた様子のローザと、妙に気合いの入ってるミゥという、以前と似たような様相を呈していた。
「道が通れないんです。山越えの道じゅう罠だらけで村人さん困ってるんです!」
「で、前回と同じ子なの?」
「はいっ。比較的現場も近いですし、ちっちゃいカオスニアンを見た人が何名も!」
 ぐぐっと拳を握り固め、何故か妙に嬉しそうなミゥ。
「罠にかかってもがいてたら、『冒険者用の罠に勝手にかかるなー!』って怒って現れて、罠を外してくれて追っ払われたようですっ」
「‥‥色々、突っ込みたいことがあるような気がするんだけど‥‥」
 軽く頭を振って、ローさは呟く。
「そう言えば、『じゆんびちゆう』って書かれた石盤が山道の両端に置かれているようですけど」
「‥‥待ってあげるのも親心、なのかしら‥‥」
 他の情報を眺めながら、ローザがため息をつく。
 場所は岩場の多い山道で、道幅は狭いところでは2メートルもない。馬車こそ通れないが、近隣の人々にとっては大事な生活道。
 前回の幼女の他、少年と少女っぽいカオスニアンが目撃されてる。
 恐獣はヴェロキラプトルかデイノニクスと思われる騎乗用の恐獣が少なくとも二騎確認されているのみ。大型、中型の目撃談は今のところ無し。飛行恐獣は昔から時折飛んでいるので参考にならず。
 罠は落とし穴に落ちて足をくじいた者が一人、汚泥をぶっかけられた者が一人。いつの間にか気を失い、気づけば近隣の村の入り口に寝ころんでいた者一人。
「悪いけど、やっぱり今回もゴーレム貸し出せる規模の依頼じゃないわねぇ」
 またしてもゴーレム無し、であった。

【地図】
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【A】山道。左右はまばらな樹々
【B】崖沿いの道。踏み外したら転げ落ち
【C】谷底の道。左右は急斜面
【D】森の中。隠れ場所多し
【E】『じゆんびちゆう』石版
【∴】草地、道
【仝】木々
【▲】岩場(道より高い)
【△】岩場(道より低い)
 1マス100メートル程

●今回の参加者

 ea0266 リューグ・ランサー(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3096 アルク・スターリン(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 ec0993 アンドレア・サイフォス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●それぞれの想い
「何が『じゅんびちう』だ‥‥ふざけた真似を‥‥!」
 リューグ・ランサー(ea0266)が振り下ろしたトライデントの一撃が、山道の入り口にあった『準備中』看板を一撃で破壊する。
 酒場などでの噂から、今回の敵がどんな相手なのかは知っている。だが、リューグは一切の容赦をするつもりがなかった。カオスニアンは今でも、彼にとって憎き敵である。

 リューグとは別の意味で声をかけづらいのが、メイの民人、農民上がりのアンドレア・サイフォス(ec0993)である。道中の見張りや作業など、与えられた役割はきちんと行っているし、会話も交わす。笑顔も浮かべる。けれど、以前の依頼で見た彼女とは、明らかに違う。何かを無理矢理押し殺している。そんな感じだ。
「天界人に、カオスニアン。‥‥はは。そろそろ、化けの皮が剥がれてくる頃合いですね」
 出立前の酒場で、自嘲気味に呟いてワインをあおっていた彼女の姿が脳裏に甦る。

 一方――
「う〜ん、やっぱりこの間の女の子なんだろうね。ちっちゃいカオスニアンって」
「もし、何時ぞやのかおすにゃんであれば、今度こそ捕まえねば。彼女には尋ねたい事が山ほどある」
「この前ので懲りなかったのかな? こらしめてメッ!ってしてあげないとね」
 響 清十郎(ea4169)とバルディッシュ・ドゴール(ea5243)の会話である。倒すことに代わりはないのだろうが――
「おいら、最後はジャンケン勝負になりそうな予感がするんだ」
「‥‥何故だ」
 明らかに、前の二人とは流れる空気が違っていた。

「拙者からすれば線引きが難しい所であるが、悪事を働くならばこらしめねばなるまいな」
「何考えてこんな事やってんだか知らんが、村人にとっちゃ良い迷惑だろ。さっさと、とっ捕まえて説教してやらんとな」
 そう会話をするのはアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)とアッシュ・ロシュタイン(eb5690)。カオスを一方的な悪と決めつけていないのは、彼ら自身が禁忌の存在、ハーフエルフであるからだろう。
 ‥‥しかし、嫉妬界のニューヒーローであるアッシュに迷惑を説く資格があるのかは謎である。

「この前、かおすにゃんに会って、今まで知識として知っていたカオスニアンと実際のそれってイメージが違うって感じたんだよね。どっちが本当なのか、見極めないと」
「敵は全て悪と言うのも、敵は悪だから敵なのだと言うのも、戦意高揚のための方便にすぎない。私などはそう思いますが――」
 ティス・カマーラ(eb7898)の発言に応対したアルク・スターリン(eb3096)は、リューグの視線を受け、続く言葉を飲み込んだ。
 彼は、カオスニアン幼女との戦いは『暗黙の了解による試合』と認識している。逆に言えば、もし戦場で遭遇すれば、遠慮無く脳天に獲物を叩き込む。善と悪、その言葉で片づけることを良しとしないのは、やはりハーフエルフだからか。

「子供は、時に大きな相手に挑む物、幼いながら冒険者に挑む勇気、感心なものです」
「勇気というか無謀というか――しかし、カオスニアンは鬼畜の所業を躊躇わない悪鬼どもと聞いていたんですが‥‥そうとも言い切れない様子ですね」
 そして最後は、ファング・ダイモス(ea7482)とトリア・サテッレウス(ea1716)である。
「まあ、まずは仲良くなる事から初めてみましょうか。『かおすにゃん・サーガ』‥‥う〜ん、吟遊詩人として、題材に不足はありませんねえ」

 まあ、十人十色、である。

●わな、わな、わな
「さて、それでは作戦通り、僕ら新規組が村人の振りして罠に引っかかっておびき寄せる作戦で行きましょうか」
「拙者も了解したである」
 トリアの声にアルフォンスが頷く。
「それでは私も‥‥(こーほー)」(通訳:では参りましょう)
 薬物を警戒し、布で口と鼻を覆ってからヘビーヘルムをかぶるアルク。今回もそれか。
「おいらが村で聞いた感じだと、直接傷を受けるような罠にかかった人はいなかったみたいだけど」
「狩猟で設置する程度の罠なら、俺でも解除できるだろうな」
 清十郎の報告にアッシュが頷く。順当に解除をするなら、ファングやアッシュが才長けているが――
「相談しているところ、悪いが」
 皆の頭一つ上から、バルディッシュが声をかける。
「ん?どうかした?」
「既にあの二人、突っ込んでいるのだが‥‥」
 ‥‥指さす先には、ずいぶん小さくなったトリアとアルフォンスの背中があったと言う。

「あ、罠発見! わー」
 どーん。
 鮮やかに落とし穴に引っかかるトリア。
「む、なんと鮮やかな引っかかり方。拙者も負けてはいられぬな。よし、ここへ‥‥おや?」
 藁のようなもので覆われて、どうみても落とし穴と思われた場所に立って、首をかしげるアルフォンス。
「ここではなかったのか。ある意味、心理的な罠に引っかかってしまったな。拙者、まだまだ修行が足り――ぬおっ?!」
 歩き出したアルフォンスの足がずぶっと沈んで、顔面からダイヴしそうになる。
「むむっ、本気で引っかかってしまうとは。これはうっかりしてしもうた」
「あぁっ、そっちの罠もいいですねぇ‥‥よーし、僕ももっと『いいの』にかかりますよー!」
「拙者も再度‥‥ぬおおっ?! ま、またうっかり本気で引っかかってしもうた!」
「う〜んまだまだ足りませんね。ここは一気に二つ行きましょうか」
 どーん。どーん。
「なんと。二連続とはまた新境地であるな」
「はっは! 次は三連鎖です。さあ、僕と一緒に、暴いておやりなさいドルバッキー♪」
(それにしてもこの男、ノリノリである)
 ビクッと震えてつぶらな瞳でご主人様を見、哀願の表情でいやいやをした後、決死の覚悟で突っ込んだドルバッキー(猫)、君の雄志は忘れない。たとえ、一瞬にして泥まみれの茶色い猫に成り果てたとしても。
「‥‥何故か、たまに、妙に底意地の悪さの垣間見える罠が紛れ込んでいるように思えるのだが」
 ぐっちょりと両手についた気持ち悪い泥をぬぐいつつアルフォンス。

「随分楽しそうだなぁ‥‥」
 呟いたのは清十郎だったか、ティスだったか。

●遭遇
 そんなこんなで彼ら二人が前線を突き進み、距離を置いてファングとアッシュが見逃した罠の発見、更に後続の清十郎のソニックブームやリューグのオーラショットで破壊したりしながら進むこと、わずか数分。
「あーっ!!」
 道の脇、岩山の上に現れた一騎のカオスニアン
「せっかくの罠になにやってるんだー!」
 頭に怒りマークを三つも四つも付けて叫ぶのは誰であろう。デイノニクスに乗ったカオス幼女であった。
「ああっ、こっちも、あっちも――うー! あれなんかすっごく時間かかったのにー!」
「それはなんとも‥‥すまなかったであるな」
 泣きそうな彼女に、思わずそう言ってしまうアルフォンス。
「許さない。手伝えっ」
「は?」
「もう一度作るの!」
「‥‥ええと、どうしたらよいものかな」
「まあまあ、お嬢さん。とりあえず、僕と一緒に罠にかかりませんか?」
「へっ?」
「さあ、めくるめく恍惚の痛みの世界へ♪」

 トリアが両手を拡げた直後――その脇を銀光が駆け抜けた。
「わわっ!?」
 慌てて避わした幼女の足下に突き刺さったのは、一本のナイフ。
「冗談はそこまでにして貰おうか」
「だ、誰だっ!」
 振り向いた先で、岩陰から完全に戦闘態勢のリューグが姿を表す。
「‥‥やれやれ。もう少し引っ張りたかったんだが」
「(こーほー)」(通訳:まあ、それぞれ思うところもあるでしょうし)
「仕方あるまい」
「あれが噂のカオスニアン‥‥ですか。あれが」
 アッシュ、アルク、バルディッシュ、思い詰めた表情のアンドレア‥‥そして残りの全員が顔を出す。
「あ、あ、ああーっ! こーほーと、バルたんっ、おいらたんにあといっぱい! ってことは‥‥冒険者っ!?」
「いや、拙者ただの村人であるが」
 まだ言うかアルフォンス。
「‥‥できれば僕も別扱いにしてほしかったな〜」
 まあ、でかい連中に埋もれているんだから仕方ない。忘れられてるわけじゃないと思うぞ、ティス。

●にゃん、改め‥‥?
「なんでなんでーっ! そんなの反則だ!! まだ挑戦状送ってないんだぞー!」
「黙れッ!」
 すぐに緩みかける空気を一喝して、リューグが追い払う。
「冒険者に挑戦状を送りつけた『かおすにゃん』なるふざけたカオスニアンはお前のことだな!」
「ちがぁ〜うっ!」
「悪いが、俺は容赦をするつもりは――なに?」
「もうちゃんと覚えたんだからっ! 『かおすにゃん』じゃなくって『かおすにあん』ってきちんと書けるんだぞ!」
「くっ、どこまでふざけた‥‥」
「とゆーことでっ!」
 無い胸を張って、彼女は答えた。

「これからは『ようじょ』と呼べっ!」

 空白の数秒間が過ぎた。
「(こーほー)」(通訳:‥‥まあ、それはそれでアリでしょうが‥‥)
 ――絶対、彼女に吹き込んだ人物がいる。そうに違いない。
「やはり、名前を知りたいですね♪」
「名前っ? だっ、騙されないぞ! 『ヒョウタン』の中でお酒にされてたまるかー!」
「あらアルゥ、まだ信じていたんですか? その話」
 突然、横手からかかった声に、冒険者はぎょっとした。距離にしてわずか数メートル、そこには、土埃を巻き上げながら立つ二人組がいた。
 アルゥよりは年上だろうが、それでも若い二人組。人間換算で十代半ば位と思われる少女と、十一、二歳に見える少年が一人。少年はヴェロキラプトルに騎乗している。勿論、カオスニアンだ。
「え? もしかしてあの話‥‥うそ?」
「いやですわ。お茶目な冗談です」
「同じ‥‥」
 くすくすと笑う少女に、少年が突っ込む。

 そんな会話の中、アッシュは一人、素早く指先に視線を落とした。
「ぴくりとも動かないのか」
 石の中の蝶――そう呼ばれる魔法の指輪。
 少なくとも、彼らはデビルではないということか。

「アルゥ‥‥アル‥‥『アルたん・サーガ』‥‥うん、悪くないですね♪」
「それは拙者のサーガであるか?」
「(こーほー)」(通訳:いえ、私でしょう)
 トリアの発言に、アルフォンスとアルク。本人達は真面目なのだろうが‥‥。
「‥‥アルゥたん・サーガですかね」
 正直、題材を根本から間違っている気がしなくもない。
「私達の活躍も歌って頂けるのかしら?」
「勿論ですよ鞭のお嬢さん♪ その鞭を使って頂けるのなら、それはもう是非♪」
 トリアの腰にぱたぱたと振れる尻尾が見える気が。
「そう。でも、残念ですわ。前回、アルゥを傷モノにしたお礼をしっかり叩き込まないといけませんから、しばらくしたら歌えない身体になっているかもしれませんし」
「つまり、戦闘開始――と言うことで宜しいですか?」
 氷点下、とも言える冷たい声で訊ねたのはアンドレア。
「ええ♪ 準備も整いましたしね」
「な、に‥‥?」
 直後、ぐらり、と冒険者達の身体が傾く。襲うのは強烈な眠気。土埃に微かに混じる、香のような匂い。
「十倍返し‥‥」
 戦いが始まった。

●乱戦
「やたっ♪ いっくぞー、てやーっ!」
「あっ、アルゥ! 待って」
 慌てた様子の声を背負い、一直線に突っ込んでくる幼女。その手に握られているのは前回と同じく、巨大な鎚。挙動は単純だが、そのパワーは脅威の一言である。体勢の崩れた冒険者達に向かって、薙ぎ払いの一撃――
 ギィンっ!
 その一撃を巨大な盾が遮った。
「な‥‥っ!?」
「(こーほー)」(通訳:予感的中、といったところでしょうか)
 一人、影響を受けていないのはアルクだ。口元を覆う布のせいだとすれば、これは――薬物か?
「ああっ、こーほーなんで!? ふぁ‥‥あ、あれ? なんだか眠く‥‥」
 ごしごしと拳で目を擦ってあくびをするアルゥ。おいおい‥‥
「‥‥せっかく風下にならないようにしましたのに。アルゥったらいけずですわ」
「仕方ないから中止‥‥」
 少年が革袋の口を閉じると、風から匂いが消える。

「薬物使いですか。厄介ですね」
「罠‥‥しかも毒とは、卑劣な真似をするようになったものだ」
 体力の低い者が座り込む中、流石と言うべきか堂々と立つ、ジャイアントの二人。
 そこに、心外そうな顔で突っ込むアルゥ。
「な、そもそも最初にこういうの使ってきたのはそっちだろー!」
「む‥‥?」
 確かに前回、冒険者は彼女に対し、罠を仕掛けている。
「‥‥まあ、村人の生活道を塞いで迷惑をかけているだけで十分、説教の理由になるな」
 眠気を振り払うように頭を振りながら、アッシュが呟く。
「この前も村の人、にらんでたっ!」
「むむ‥‥」
 これも事実である。畑は後で元通りにしてから帰ったが。
「う、う〜む」
 唸るバルディッシュ。
 そういわれると立つ瀬がない。
 ある意味、冒険者の『真似』をしただけなのだ。
「そうですか。冒険者の真似ですか」
 ゆらり、とアンドレアが立ち上がる。
「また、『冒険者』。冒険者、冒険者と‥‥あなた達カオスニアンはそればかり。まるでメイには冒険者とカオスニアンしかいないような口振り‥‥」
 ゆらりと殺気立つアンドレア。
「あらあら、怖い顔ですわね」
 突き刺さりそうな殺気に、しかし涼しい顔の鞭少女。
「あなた方がメイを蹂躙したからこそ、今があるというのに。踏みにじった人々を無視して、冒険者、冒険者‥‥」
 アンドレアは農民の出である。
「私が何故冒険者になったのかご存じですか? あなた方が私の村を焼いたからなんですよ?」
 初めて吐露する彼女の内心。
「冒険者があなた達にとって脅威なのは事実でしょう。
 ですが、民人の思いを――
 私の――七年前にお隣の姉さんを奪われた悲しみを。
 四年前に若衆を五人も殺された憎しみを。
 ‥‥二年前に‥‥村を丸ごと焼かれた恨みを。
 この涙を――
 無かったことのように語るのは‥‥赦せない」
「私が襲ったわけでもない村のことを言われても困りますねわね。知人を冒険者に殺された経験なら、私にもありますけれど」
 一触即発の雰囲気。
 ――が、そこに。

「撤退‥‥」
 不意に少年が割って入った。少年はそのまま鞭少女の腕を掴むと、ヴェロキの背に引っ張り上げ、アルゥに向かって駆け出しつつ、指を咥えて口笛を鳴らす。
「っ! 待ちなさい!」

「ほへ?」
「むっ?」
「(こほっ!?)」
 アルゥと対峙しつつも、どうしたものかと矛を収めていた面々は、同時に駆けてきた少年の方を向き。
「あれ、どうした――のぇぇ!?」
「む!?」
 次の瞬間、デイノニクスがアルゥを咥え上げると、一気に岩場を駆け上がり、距離を取る。
「む、待て! 二人(の尋問)の邪魔をする者は何人たりとも許さん!」
 バルディッシュの毎度の誤解発言が空に響く。
「勝負はまた今度‥‥」
「は、離しなさい! ディア!」
「準備不足‥‥あとルカが本気になると危険‥‥」
「ふぁ‥‥眠い‥‥」
 声だけがどんどん遠ざかる。
「くっ、逃げるな!」
 リューグが自慢の馬術で馬を駆り、岩場の上に駆け上がる。
「あんたは追わなくていいのか? カオスニアンは仇なんだろう?」
「‥‥もう私は、冒険者ですので」
 アッシュの問いに、様々な想いを込めてアンドレアが呟く。
「まあ、一応追い返しはしたし、依頼は達成なのかな」
「‥‥罠を外せば、な」
 戻ってきたリューグが憮然と言う。
「ふむ、結局追わなかったのか? 貴殿は」
「知らん! ティス、響、前回仕掛けた罠の概要を教えろ」
「あ、うん。ええとね‥‥」
 怒りをぶつけるように、見つけた罠にオーラショットを叩き込むリューグ。
 彼らは敵、しかし子供だ。
 だが、だからといって見逃していいのか。彼らのようなのが、未来のガス・クドになるかもしれないのに。
「俺もまだまだ甘い‥‥」
 オーラショットを叩き込まれた罠がまた一つ、破壊された。

●結末
「そう、ともあれお疲れ様」
 結局、冒険者総出で罠を撤去すること半日、山道は平和を取り戻した。
「‥‥ところで、あなた達二人は何故泥だらけなのかしら?」
 自らの身を挺して罠を作動させまくった功労者であるトリアとアルフォンスに、周りの目は、結構冷たかったという。