掘れ!かおすにゃん
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■ショートシナリオ
担当:若瀬諒
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月28日〜05月03日
リプレイ公開日:2007年05月13日
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●オープニング
●穴を掘れば、そこはカオス界?
メイの国では、穴を掘ることは禁忌とされている。
それは、地下を掘り進めばカオス界に繋がってしまうという言い伝え故であり、実際に同じ大陸に「穴が開いた」メイに於いては、その言い伝えは半ば絶対的な禁忌として定着した。
が‥‥言い伝えはともかく、事実として、今のところ開いている穴はたった一つ。言い伝え通りにぽこぽこカオスの穴が空くのなら、今ごろカオスの地がカオスの穴だらけ。いや、メイ全土がカオスの穴だらけだろう。現にそうなっていない以上、何らかの理由があるはずである。
・適当に穴を掘ってカオスの穴が開く確率は、同じ事をして『燃える水』を掘り当てるほど低い
・カオスの穴を開くには、穴を掘る以外の『何か』が必要である
・カオスニアンに、カオスの穴を開きたくない理由がある
・ただ単に、カオスニアンは『穴を掘ればカオスの穴が開く』ことを知らない
一般に流布している理由は様々であるが、時々暴走するメイ人や天界人が穴を掘ってもカオスの穴が開いていないところを見ると、『適当に穴を掘ってもそうそうカオスの穴が開くものでもない』のは確かなようである。
それでも、万が一、二つめの穴が開けばメイは滅ぶ以上、メイ人は、過剰反応気味でも慎重にならざるを得ないのだろう。
さて、上に列挙した理由だが、通常、考えられるのは1〜3番目だろう。バの国の援助を受け、ガス・クドやネイ・ネイのような者がいる『賢い』カオスニアンが、メイで一般的に流布しているこの話を『全く知らない』といったことはまずあり得ない。
が、ここに‥‥4番目に当てはまる無知なカオスニアンが、いた。
「というわけで、穴を掘るぞー!」
「‥‥おー」
言うまでもなく、我らがカオスニアン幼女、アルゥである。
「まさか、穴を掘るだけでカオス界に通じるとは思わなかったなー」
桜の森の宴会で人間から聞いた話を、そっくりそのまま信じ込んでいた。
「ですけど、カオス界の前に、死体が出てくるそうですよ?」
「だから森からはなれた場所で掘るっ!」
鳥肌を立てて言う辺り、『桜の下に死体』の話も信じ込んでいるようだ。
「掘るなら‥‥ここ」
さらさらと地面に地図を描き、とある地点にバッテンを付ける少年。
「よーし、いっくぞー!」
「‥‥まあ、アルゥが楽しいなら、良しとしましょうか。もしカオスの穴が開けば、ネイ・ネイ様などに取り立ててもらえたりするかもしれませんし」
「‥‥『ショウシン』?」
「ええ。『ぼーなすあっぷ』ですよ」
いったい彼らはどこからその天界用語を仕入れてくるのか。
「‥‥がんばる」
「穴掘り、穴掘り〜♪」
少し言葉に力のこもった感じのする少年と、来落品であるスコップを握りしめ、天高く拳を突き出すアルゥ。
砂場遊びのノリで、また、はた迷惑なことを始める三人組であった。
●二度あることは三度ある
「‥‥また?」
「です!」
中堅仲介人ローザと、彼女とコンビを組んでいる新米仲介人ミゥ。
聞き覚えのある会話がまたも行われているのは、やはり冒険者ギルドの一室である。
「また『じゅんびちゆう』看板?」
「いえ、でも子供のカオスニアンを見かけたって情報があって‥‥この前の宴会の場所とそう離れてないから、多分‥‥」
「別に追い払う必要ないんじゃないかしら。被害は無いんでしょ?」
相手はカオスニアンであるが、子供である。宴会の時にちらっと見かけたが、予想以上に子供で。メイ人として複雑なものはあるが、被害が出たり、向こうから挑戦状が来ない限り、目をつむることにしたローザである。思考停止、逃げ、とも言う。
「でも、もし、カオスの穴を開こうとしてたらおおごとです!」
力説するミゥに、ローザは別の依頼に走らせていたペンをピタっと止めた。
「‥‥ねぇ? なんでいきなり『カオスの穴を開こうとしてる』なんて思ったの?」
「え?」
びくっ、と身体を震わせて、ミゥが声を上擦らせる。手をあたふたと意味無く振って、目が泳ぐ。
「や、やだなーローザさん。仲介人のカンですよっ! カンっ!」
「‥‥ミゥ? 宴会であなた、相当酔っぱらってたけど、誰と話してたかしら? 例えば、ちょっと色黒の子供、とか‥‥」
「あ、あはは‥‥やだなー、私がアルゥちゃんなんかと話すわけないじゃないですかー」
「『アルゥちゃん』って誰かしら?」
にっこり。
ローザの頭に角が生えた。
――その日、ミゥは今年一番の恐怖に襲われ、依頼の報酬はミゥの給料カットでまかなわれることになったという。
●リプレイ本文
●穴を掘り掘り三千米
「カオス界のぉ〜ためならぁ〜え〜んやこぉら〜♪」
「アルゥ‥‥それはちょっと‥‥」
複雑な表情を浮かべて佇む鞭少女ルカの側で、アルゥはせっせと穴掘りに励んでいた。
その穴、ざっと25メートル四方の巨大なすり鉢状。
いくら彼女が怪力でも、いくら恐獣達を操って手伝わせることができるとは言っても、無茶苦茶なサイズである。恐らく、元からある程度の凹みがあったのだろうが‥‥
「‥‥あの行動力だけは、僕たちも見習わなければいけないのかもしれませんね」
遠くの物陰に隠れ、クウェル・グッドウェザー(ea0447)がある意味感心したように呟く。
場所を絞った効率的な探索が当たってか、彼女たちはあっさり見つかった。宴会をした森から少し離れた、森と岩場に囲まれるようにして存在する平地である。
まあ、掘った土が山盛りになってたり、背中に土盛った恐獣が列作って行進してたりすれば、見つからない方がどうかしてるかもしれない。
「あれが噂に名高い『最萌』のアルゥ。この目で見られるなんて光栄の極みだね」
「あ、あの〜、ここでカメラを使うとシャッター音で気付かれるんじゃ‥‥」
ごそごそとデジカメを取り出した龍堂 光太(eb4257)に、結城 梢(eb7900)が声をかける。
「大丈夫。ちゃんと挨拶した後で撮るから」
それもどうかと思うが。
「むむ、それは天界の『でぢたるかめら』なる魔法のカラクリであるな? どれ、一つ拙者も――」
「いえ、ここは僕が行きましょう。あれは確か、撮られると魂を抜かれるという神秘の品。魂を抜かれるカ・イ・カ・ン♪とやらを、このトリア・サテッレウス、是非味わってみたいものです」
光太のデジカメに食いついたのは、早くもお約束になりつつあるアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)とトリア・サテッレウス(ea1716)のコンビ。今回は光太を加えて三馬鹿トリオといったところか。
「‥‥馬鹿は放っておきましょう」
「そうね」
冷たく呟く元農民、アンドレア・サイフォス(ec0993)と、同意するジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)。今回の突っ込み役はこの二人か?
「見つけはしたけど‥‥この後どうしたらいいのかしらね? あ、箒ありがとね」
マイペースにそう言って、借りていた空飛ぶ箒をクウェルに返却するベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
「どういたしまして。この後ですか。僕は正々堂々正面から話しかけて説得したいところです‥‥が‥‥」
クウェルの言葉が途中でとぎれる。その視線の先には、瞳を輝かせたティス・カマーラ(eb7898)と、にやにや笑いのサリエル・ュリウス(ea0999)。
「気付かれてない今のうちに、僕ちょっと悪戯仕掛けてみたいんだけど、いいかな?」
「自慢の罠を真似されて終わるだけの私じゃないぜ」
「‥‥止めても止まらない‥‥んですよね‥‥この人達は」
クウェルは小さくため息をついた。
●遊ばれかおす
「えっさ、ほいさっ‥‥あれ? なんか土の色が変わって来たっ!」
元気に掘り続けるアルゥの元へ、突然、謎の声が響き渡る。
『あ、あー‥‥アルゥ、アルゥ』
「だれだっ?」
「あら、何者です?」
きょろきょろと声のしたあたりに視線を向けるアルゥと、おっとりとした様子で応えつつ素早く周囲を見渡すルカ。
二人に話しかけてくるのは――岩だ。
『よく頑張りました。アルゥ、お前が望む明日の食事が何か大声で叫びなさい』
「ほえっ? え、えーっと‥‥あ、野菜が入ってないやつー!!」
謎の言葉を素直に信じ込むアルゥ。
「好き嫌いせず食べないと大きくなれませんわよ」
「ううぅぅ〜」
「それはそうと、聞き覚えのある声ですわね。そう、確か冒険者の‥‥」
『‥‥あれ? バレちゃった? あ、馬鹿はひどいな馬鹿は。一応、気をそらす役には立ってるんだし』
「え〜と‥‥」
通称、『電話中に会話をして筒抜けの図』。
ティスの『ヴェントリラキュイ』という遠隔腹話術の魔法である。
――そう。役に立っていた。これでも。
「な、なんだ? 水っ!?」
「私の真似たぁ良い度胸だったよ。報告書は読んだが‥‥テメェの舞台じゃ犬も笑わねぇぜっ!」
わざわざロバにくくりつけて運んできた樽から、水を流し込むサリエル。
普通なら、たった樽1つ分の水で効果的な水攻めなど出来るわけがないが‥‥今回の場合、相手が相手だった。
「わわっ、で、出ないとっ」
慌てふためいて穴の底から抜け出そうとするアルゥ。
‥‥ずり落ちるアルゥ。
泥まみれになるアルゥ。
「あぅぅぅ〜」
「泥まみれ幼女‥‥泥まみれ‥‥なんと卑猥な」
「‥‥泥遊びしてる子供と大差ないんじゃないかしら」
アルフォンスの言葉に冷静にツッコミを入れるジャクリーン。
「泥だらけシーンいただき!」
カシャカシャ。
ティスの『声』の反対側から、ぞろぞろと顔を見せる一行に混じり、突然現れるカメラ子僧。もとい光太。
「な、何してるんだおまえーっ」
「これ? 写真っていって‥‥一瞬で本物そっくりな絵を描いてくれる機械かな」
「本物そっくりな‥‥?」
「ほら、こんな風に」
穴の縁まで近づいてアルゥに液晶画面を見せる光太。
「おおぉー‥‥ほんとにそっくりだ‥‥! すごい!」
「だろう?」
「って、勝手にそんなことするなーっ! きっとあれだな、『しめーてはい』っていうのに使うんだな!」
「そんなことには使わないけど‥‥じゃあ、代わりにこれをあげるよ」
「あ、これは知ってるぞ。確か『かんじゅーす』ってゆーやつだろ?」
「そうそう。でも、開けるときは気をつけたほうが」
「む?」
思いきり投げて渡された炭酸飲料のプルタブに指をかけるアルゥ。
ぶしゃー!
「にゃーっ!?」
カシャカシャ
「よし! いいのが撮れたぞ」
「ううぅぅ‥‥べとべと‥‥騙したなー!」
「またしても卑猥な!」
「上がってくるならこのロープ使うといいぞ。‥‥あ、ごめん手が滑った」
サリエルが斬ったロープと共にまたもずり落ちるアルゥ。
「くくくっ‥‥あっ、また手が滑ったぁ♪」
スーパーいぢめっ子タイムに入ったサリエルが、空になった樽や周りの土を蹴り入れる。
「うーっ! もー頭きたぁーっ!」
「これはこれで‥‥激写たーいむっ!」
「空樽の頭への一撃‥‥なんておいしい。いや、その痛み、ぜひ僕も体験したいものです!」
光太やトリアも混じって手の付けられない状況――
「‥‥あなた達、まとめてここに座りなさい!!」
青筋立てたアンドレアに怒られる一行だった。
●戦闘×銭湯
「それでは約束です。私達と決闘してあなた達が負けたら、今後カオスの穴を開く為の穴掘りは止めて貰いますよ」
「構いませんわ。元々、こんなことでカオスの穴が開くとも思えませんし」
「ええっ、そうなのか!?」
愕然としているアルゥを脇に、ジャクリーンとルカが協定を結ぶ。
「こちらが勝った暁には、好きにやらせて頂きますわね」
「‥‥ところで、一人少ない気がするんだけど?」
ティスの問いに、ルカはにっこり微笑んだ。
「ディアなら‥‥ほら、あなた達の後ろに――」
「‥‥決着」
冒険者達の背後から、ぽそりと無機質な少年の声。
「しまっ――!」
――間一髪、クウェルが動いた。
「ホーリーフィールド!」
見えない結界が冒険者達を包み込む。間一髪、少年がまき散らした毒の煙が結界に阻まれて周囲に拡散していく。
「あら、失敗かしら」
「(こーほー)」(訳:流石に、同じ手に二度は引っかかりませんよ)
「(こーほー)」(訳:うむ。これが有効なのは前回、拙者も見ていたであるからな)
どこかの誰かのように、口元を完全に覆ったトリアとアルフォンスが結界の外へと出た。
「‥‥あそこまでしないとダメなのかしら?」
口元をシルクのスカーフで覆い、羽扇でぱたぱたと優雅に風を送りながら、ベアトリーセも結界の外へ。
「(こーほー)」(訳:ああっ、ベアトリーセお嬢様! ぜひ僕の頬に、その羽扇でキツイ一撃を!)
「これはこれでいいシャッターチャンス!」
カシャカシャ。
「‥‥あなた達、もう一度ここに座りたいのですか?」
ポキポキと指を鳴らしながら静かに告げるアンドレアに――ようやく、まともな(?)戦闘が始まった。
「私の相手はあなた方なのですね」
全身が鎧のような硬い皮膚で覆われた恐獣をあやしつつ、ルカが相対するのは、臨時コーホーな二人。
「(こーほー)」(訳:ええ。ぜひともその鞭をこの身に!)
「(こーほー)」(訳:しかしやはり少し息苦しいであるな)
「(こーほー)」(訳:ほんとに)
「‥‥」
「‥‥さて。その恐獣は初めてですが、その力、とくと拝見させていただきましょう!」
コーホーは止めたらしい。
「それでは、私も失礼して‥‥」
ばさ‥‥っと翻したマントの下から現れる一条の鎖。鉄の鎖に持ち手をつけただけのような無骨な代物だ。
「おほほほほ! さあ、行きなさいアンキロさん!」
びしぃっ!
「その鞭で叩くのは恐獣の方であるか」
いや、突っ込むべきはそこか?
「その笑い、それでこそ女王様! ぜひともその鞭で叩かれたい縛られたい! ‥‥ところですが、悪さはいけませんのでお仕置きですね」
「かかってらっしゃい!」
鎖鞭に叩かれてかすり傷一つ負わない鎧竜を従えて、ルカがすり鉢状の斜面を駆けてくる。
「恐獣は拙者が相手をしよう」
「任せましたよ‥‥っ!」
互いに頷くと、アルフォンスとトリアはそれぞれの相手目掛けて駆け出した。
「うーっ、あたしはあいつを倒すっ!」
びしぃっ!とアルゥが指さすのは、言わずとしれたサリエル。
「やなこった。へへーん」
「シャッターチャンスは逃しません! 彼女の相手は僕が!」
「‥‥あの、あまり挑発しないでもらえます? 多分、あの子の一撃にこの結界、保たないので‥‥」
冷や汗をかきながら小声で告げるクウェル。
「そっか。頑張れよっ。やーいやーい、悔しかったらここまでおいでー!」
「ああもう‥‥いいですよいいですよ」
精神的に中傷ダメージ、一名。
「皆さん、頑張ってくださいね。あたしは後方支援くらいしかできませんけど‥‥」
土運びを終えてか、続々と集まってくる恐獣達を目の前に、梢が結界内の皆に声をかける。
「一緒に頑張ろうね」
「二人は結界に突入してくる恐獣を中心に電撃の魔法をお願いします」
梢とティスを庇うように前に出て、援護を仰ぐアンドレア。奇しくも左右から挟まれるような形での戦闘だ。
「今回、プテラノドンはいないのかしら。後ろは平気そうだから私も援護するわ」
弓をつがえつつ、ジャクリーンもそこに加わる。
「以前見たデイノニクスに、報告書通りならイグアノドンにトリケラトプス。ここまで大きい敵が相手ですと、今の私ができるのは、せいぜい防御に徹して敵の手数を稼ぐことくらい‥‥」
経験で言えば、他の者の方が上だろう。冒険者という意味では、アンドレアは一行の中で一番の若輩と言えなくもない。だが、天性なのか、それとも覚悟の差か――彼我の能力差を冷静に計り、生き抜く術を、彼女は自ずと身につけていた。
「これが農民の限界という奴ですか‥‥!」
鍬の代わりに手にした槍と盾を握りしめ、アンドレアは迫り来る先頭の恐獣の一撃を受け止めた。
「そこの眼鏡くんっ、あなたの相手は私がつとめてあげる」
一方、ベアトリーセは一人、ディアと相対していた。
「‥‥‥‥」
無言で謎の煙を送り込むディアに、羽扇で押し返すベアトリーセ。
ぱたぱた。
ぱたぱたぱた‥‥
まあ、ある意味これも戦いか。
ぶんっ!
「くっ!」
鎧竜の、鞭のように振り抜かれた太い尾を剣で受け止めたアルフォンスは、勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされた。受け自体は出来ているため、ダメージはないが‥‥回避のできないアルフォンスにとっては厄介な敵である。一回ごとに吹っ飛ばされ、転がされていては話にならない。
「なるほど、こういう恐獣であるか」
オーラショットでもかすり傷しか負わせられない以上、重い一撃を叩き込むか、もしくは――
「うむ」
鎧竜の足下にオーラショットを叩き込み、その巨体をアルゥの掘った穴に落とし込む。
「あるものは有効利用に限るである」
ズゥン‥‥!
巨体が穴の底にめり込む鈍い音が辺りに響き渡った。
「おーっほっほっほっほ♪」
「ああっ♪ 痛い! 痛い! 嬉しい! けどちょっとまずいかもしれませんよこれは!」
オーラボディを纏っているとはいえ、流石に辛い。そろそろ救援が欲しいのだが、どこも手一杯なのか来ない。
せっぱ詰まったトリアの足に――妙な地響きが伝わってきた。
「おや‥‥まずいことをしたであるか?」
首をかしげたアルフォンスの目の前で、穴が爆発――した。
「うわ‥‥ぁ‥‥」
戦闘を止め、勢いよく立ち昇る湯柱を呆然と見ていたのもつかの間。宙へ舞った熱湯が勢いよく降り注ぐ。
「うわっちっちっちっ!」
「あっ、熱い熱い! 蝋燭どころじゃないですよこれは!」
「きゃーっ!」
「でっ、デジカメを守らないと!」
「わわっ、みんな逃げろーっ!」
戦場が災害被害現場となったのは、たった数秒の事だったという。
●戦闘終えてまた明日
「もう‥‥今度こそこんなことしちゃだめだよ」
アルゥの火傷の傷を癒しつつ、諭すように告げるクウェル。
「う〜」
それでも諦めきれないアルゥにティスがウソを吹き込む。
「穴を掘ってカオスにたどり着けるのは、自発的に掘るちびっ子みだって知らなかったの? 大人には無理なんだよ?」
「えっ、そうなの?」
アルゥがそんな嘘を吹き込まれてる一方――
「眼鏡くん。元気で仲良しなのはいいけれど、迷惑をかけるイタズラはダメですよ☆」
「‥‥(ぷい)」
「めっ! ダメなんだから」
「‥‥(ぷいぷい)」
「もーっ」
こちらはこちらで和み続け。
「平和ですわねぇ。あ、いい湯加減」
「あたしにはちょっと熱いかも‥‥あ、眼鏡が曇っちゃった」
「熱湯用意〜。ちびっ子にぶっかけていぢめっ子タイム続行〜♪」
「いい子だから静かにしてなさい」
ルカに梢、サリエルにジャクリーンは、満面に湯を湛えた温泉につかっていた。勿論、掘り当てた穴から十分離れた場所である。と、ジャクリーンが弓を手に取る。
「‥‥トリア様、龍堂様、それ以上近づいたら射抜きますわよ?」
ぴたりと止まる影が二人。‥‥まあ、何も言うまい。
「あちらはあちらで気になりますが、それはともかく、と、し、て」
「ふぇっ?」
ぴりぴりとした気配に、アルゥがびくっと縮こまる。
「悪いことをした子供には、躾です」
「えええっ!?」
「狼だろうが人だろうが‥‥カオスで、あろう、が。変わりありません。尻を出しなさい!」
「えええええええっ!?」
その日、その地に、カオスニアンの悲鳴が響き渡ったという。
そして――
「む、無念‥‥」
熱湯の直撃を受け、包帯まみれの虚無僧が一人。
彼がクウェルのリカバーによって回復できたのは、メイディア到着間際だったと言う。