依頼人討伐依頼
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■ショートシナリオ
担当:若瀬諒
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月26日〜07月02日
リプレイ公開日:2007年07月05日
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●オープニング
――ドジで間抜けで仕事が遅くて持って来る依頼はことごとく変なものばかりというギルドのお荷物的存在ミゥ・アーク。仕事上は特にこれといって良い点は見受けられない彼女だが、なんとそんな彼女をさらってくれという依頼が舞い込んだ! これはミゥを切り捨てたいギルド関係者の陰謀か、はたまたどうしようもなくダメな相手を見るとうっかり恋に落ちてしまう好色的世話好きか!――
「自分でそこまで卑下してれば世話ないわね」
ナレーション調で叫ぶミゥに、ローザは呆れたような視線を送った。
「ううぅぅ‥‥だってさっき「ちょっぴりドジなギルドのマスコット的存在」って言ったらぐーで殴ったじゃないですかぁ〜〜〜‥‥」
「当然よ」
当然だ。
「ぅぅぅぅぅ‥‥」
その場にうずくまり、床に「の」の字を書きながらめそめそするミゥ。嘘をつくのはいけないので、仕方が無い。
ついで‥‥ではないが、先ほどミゥが言ったことも真実だった。
つまり、「ミゥ誘拐依頼」だ。
これは実際にギルドの依頼受付へと持ち込まれ、一時は正式な依頼としてギルドに張り出されていた。流石に現在は当人であるがミゥが気付き――ローザから言われるまで知らなかったのだが――ひとまず掲示板からは撤去されている。
「だいたい、受付係の人もなんでこんな依頼を通したんですか!」
「特に問題無いと判断したんじゃない? それか、個人的にミゥをさらってほしかったか」
「うぅぅぅ‥‥受付係の人めー!」
「どうでもいいけど、名前呼んであげなさいよ」
ちなみに、元の依頼内容は「景色の良い場所を見つけたので、彼女にも是非見せてあげたい。でも直接誘って見せるよりも、急に見せて驚かせた方がトキメキ度急上昇間違いなし。なので彼女を眠らせるなり気絶させるなりして場所がわからないようにして、指定する場所まで連れて来てほしい」というものだった。
これだけでも十分怪しい気配はするのだが、そこは百戦錬磨の受付係。これよりも怪しい依頼を多数経験しているため、これくらいは大丈夫だと判断したのだろう。
「まぁ、撤去されたんだからいいじゃないの」
「よくありません!」
呆れ気味に言って資料へ目を落とすローザに、ミゥはずいぃっと顔を迫らせた。
「このままでは私の気が治まらないんですー!」
「根に持つわねぇ」
気持ちはわからないでもないが。
「それで、具体的にはどうするの?」
やれやれとため息をついてから、ミゥへと向き直り尋ねる。会話を交わす度に呆れ度合いが増している感じだ。
ミゥは相変わらず顔を近づけたまま、
「私が逆に、その依頼人を捕まえる依頼を出します!」
目には目を、ということだろうか。弱気で通っているミゥにしては強気な思いつきだが、それが怒りの大きさを表している。
「って、それは結構だけど、お金はあるの?」
「私が出すんですか!?」
「当たり前よ」
声を上げるミゥに対して、冷静に頷くローザ。
出さないつもりだったのか。
「そ、そこはほら‥‥可愛い後輩のためと思ってローザ先輩が‥‥」
「はぁ‥‥まぁ、私と全く無関係なことでもないけれど‥‥」
「ですよね! ね!」
隙を見たり、と鼻先がくっつくほど近づくミゥ。
「‥‥仕方ないわね」
近すぎるミゥの顔をぐいっと押し返して、ローザは深くため息をついた。
「いいわ、私も出してあげる」
「さっすがローザ先輩! 頼りになる〜♪」
「私が二割で、ミゥが八割ね」
「ローザ先輩いぃぃぃぃ〜〜‥‥」
「ともかく、まずは情報を集めましょうか。出来ることはしておいた方が、依頼としてもやりやすいでしょうし」
「大丈夫です!」
ローザの言葉を遮って、ミゥはまた顔を近づけながら叫んだ。
「既に私が色々と調べておきました!」
「ミゥが?」
意外な言葉が続き、ローザの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「こういう時だけは早いわねぇ。普段はさっぱりなのに」
「任せてください」
ふふん、と何故か得意げなミゥ。
「普段からそれくらいしなさいって言ってるのよ」
「それは無理です!」
めごす。
自信満々言ったミゥの顔に、ローザの裏拳がめり込んだ。
「うぅぅ‥‥冗談ですよぅ‥‥」
実際無理そうだし。
「纏めると‥‥目的は、ミゥ誘拐依頼を出した依頼人を捕まえること」
言いながら、ローザはかりかりとメモを書き込んでいく。依頼書の作成だ。
「生存は必須として、会話が出来ないような大きな怪我もダメね」
「あ、尋問は私がやります! どうしてあんな依頼を出したのか、直接聞きたいですし」
妙にやる気満々で挙手をする。
「尋問はミゥで、他には‥‥あ、いいことを思いついたわ」
顔を上げて、ローザはぽんっと手を叩いた。
「いいこと?」
「ミゥ、あなた囮になりなさい」
「ええぇ?!」
さらりと言った言葉に、驚愕するミゥ。
「相手はあなたを誘拐したがっているのよ。あなたが囮になればほいほい出てくるに違いないわ」
確かに一理あるが‥‥だからといって、ほいほい囮になる人はいない。
当然ミゥも例外ではなく、力いっぱいに首を振りながら、
「い、嫌ですよ! そんな危ないこと!」
「我慢しなさい」
「出来ません!!」
「そうすれば早く済むのに」
「そ、そうだとしても、そんなのダメです! 依頼人は私なんですから!」
依頼人という力でごり押しした。やはりというか、相当嫌らしい。
「仕方ないわねぇ‥‥それじゃあ、『ミゥを囮に使わないこと』と」
「はい! それは絶対条件です!」
「えぇっと、囮に使わない指数20くらいの気持ちで‥‥」
「絶・対・です!」
「はいはい、わかったわよ」
本気で書こうとしていた手を途中で止めて、仕方なくといった感じで書き直す。
「他には何かある?」
「うーん‥‥私を囮に使わないで、犯人を捕まえられれば文句は無いです」
割と適当な依頼人だ。
「それじゃあ、後は相手の情報を入れて‥‥」
と、ローザは何かを思い出したように顔を上げた。
「そうそう。囮に使われないとしても、同行するくらいは覚悟しなさいよ?」
「ぅ‥‥そ、それは‥‥」
「わかった?」
「まぁ‥‥危なくないところまでなら‥‥」
笑顔で言ったローザの奥に何か恐ろしいものを感じ、ミゥは渋々頷いた。
●リプレイ本文
●作戦準備
「よし、こんなものだろう」
ミゥの髪を軽く撫で、アリオス・エルスリード(ea0439)は大きく頷いた。
誘拐依頼の犯人にミゥだとわからないようにするため、アリオスが変装をさせていたのだが‥‥
「ありがとうございます、アリオスさん」
くるりと振り向いたミゥは普段の地味な有り合わせとは違い、丁寧に揃えられた小奇麗な服に身を包まれていた。
青や白を基調とした爽やかな色合いで統一され、薄めの化粧がその爽やかさと落ち着きへと変えていく。
流石、アリオスが数時間をかけただけあって、その姿だけを見れば「清楚な街の美少女」のようだ。
「これならわかりませんね」
「ああ、同じ者が二人いると思われることもないだろう」
こくりと頷き返すアリオス。今回、犯人を誘き出す手段として囮を使うことになったのだが、当のミゥがそれを嫌がっているため、背格好の似ているフルーレ・フルフラット(eb1182)がその身代わりとなった。
今は別室で、ミゥに成り済ますための変装をしている。
「おお、こちらの準備は出来たようじゃな!」
大声を上げてやって来たのは御多々良 岩鉄斎(eb4598)。片手に持っている剣は、ミゥに変装するフルーレから預かったものだろう。
「ふぅむ、変えれば変わるものよのぅ」
ミゥの姿をじっくりと見て、腕を組みながら感心する岩鉄斎。服を着替えて化粧をしただけではあるが、これはもう変装と言っていいかもしれない。
「ふふふー、私だってやれば出来るんです」
言われて何故か、得意げに胸を張るミゥ。
ミゥのやったことと言えば、眠らないように目をしっかり開いておくくらいだったのだが。一度寝かけて椅子から落ちそうになったのは秘密だ。
「うぅむ、御見逸れした」
そんな事とはつゆ知らず、岩鉄斎はただただ純粋に感服する。
「得意げなドジっ娘というのもいいな‥‥」
そんな光景を眺めながら、アリオスは何やら呟きながらうんうんと頷いた。
「っほー、とてもミゥとは思えんのお」
変装をしたミゥの姿を見て、カロ・カイリ・コートン(eb8962)は驚きの声をあげた。
「確かに、これなら間近でじっくり観察されない限りは大丈夫だ」
その隣で同じく感心しながら頷いているのは、フィーノ・ホークアイ(ec1370)。天界の物らしい服を纏った姿はなかなかに目立つものがある。
「そんなに変わりました?」
「そりゃあもう、ぱっと見ただけなら落ち着きがあるように思えるくらいじゃあ」
「まともである風を装うことが出来ておるな」
「そ、そうですか? ふふふー」
褒められたのが嬉しいようで、くるくると回ってみせるミゥ。‥‥本当に褒められているのかどうか突っ込みたい人もいるだろうが、本人がとても楽しそうに回り続けているのでこれでいいのだろう。
「しっかし、なにゆえミゥなんじゃろうなぁ」
回るミゥはさておいて、天井を見上げながら「うぅむ」と唸る。
回りながらもその声は聞こえたのか、ミゥは背中を向けてぴたりと止まり、半回転して二人の方へ向き直った。
止まった瞬間僅かに慌てた辺りを見ると、二人の方を向いて止まったつもりだったのだろうが――細かいことなので突っ込まないでおく。‥‥書き留めるが。
「実は最初の依頼通り、私のことが好きだったりとか」
「うーむ‥‥」
指を立てながら自信有り気に言うミゥを、カロは唸りながらじっくりを見つめて、
「可愛い事は可愛いが、つるんぺろんの絶壁娘‥‥」
「はぅっ‥‥!」
ぽつりと呟いた言葉は、見事にミゥを一刀両断した。
ミゥ自身も自覚している‥‥というか、自覚せざるを得ないほどなので、もう泣くしかない。
「おお、そうじゃ!」
ふと、項垂れるミゥを見ながら、カロが思い出したようにぽんっと手を叩いた。
一応ミゥも涙目のまま顔を上げる。
「これが天界で言う所の『萌えの需要』とか言うヤツか! そうであろう、鷹の眼!」
言いながら向き直ったのはフィーノの方。鷹の眼、というのがフィーノの愛称か何かのようだ。
突然ではあったが話を振られたフィーノも大きく頷きを返し、
「うむ、『萌えの重力』とやらにひかれたに違いない。やはりどこの世界にあっても『萌え』というものは――」
「え、えーっと‥‥?」
よくわからない単語の応酬に、首を傾げるばかりのミゥ。
ひとまず「知らない方がいい内容」だと理解したのか深く追求はしなかったが、どこか不安げな表情を見せている。
「ああ、ミゥよ。コヤツはあたしの友であるのじゃが、大の天界かぶれでな。それで、こんな奇天烈な格好をしちょる」
言いながら、未だ何やら力説しているフィーノの首元にある布――ネクタイというらしい――をぐいぐいと引っ張った。
「あぐぐぐぐぐ」
首を締められたフィーノは、奇妙な体勢になりながら何とかカロの腕を解く。痛いやら息苦しいやらで大変そうだ。
「は、はぁ‥‥」
「なになに、ちょいと妙な奴じゃが、心配することはないぜよ」
まだ不安の解けない、というかどうしていいやらわからないミゥに対して、軽快に笑ってみせるカロ。
反面、フィーノは隣で項垂れている。
「その引っ張り方は首が絞まるとあれほど‥‥」
下から半眼で見上げるフィーノに、カロはぱたぱたと手を振りながら笑顔で謝る。これでも仲がいいのだろう。きっと。
「あ、え、えっと大丈夫ですか‥‥?」
「ん?」
まだ不安な表情は残したままだが、それでも心配になってかミゥはフィーノに向かって一歩を踏み出し、
「なんだか苦しそうだったので――にあっ!」
どこで躓いたのか、というかどこで躓けるのか、ミゥは一歩踏み出しただけで大きく体勢を崩した。
スローモーションのようにゆっくりと流れる時間。その中で、ミゥの体は垂直から斜めへと、確実に傾いていく。
このままでは確実に転ぶ。転べば正面から床に激突することになる。そうなれば、顔面強打は免れない。とても痛いことうけ合いだ。
ミゥはなんとか転ぶまいと、必死に空中へ手を伸ばして‥‥
がしぃぃっ
「なっ、のがっ!」
びたーん!
刹那、何故かフィーノも一緒に転んだ。
‥‥というか、ミゥがネクタイを掴んだせいで引っ張られただけなのだが。とんだとばっちりだ。
「流石ドジっ子じゃなあ」
床に突っ伏す二人を見下ろしながら、カロは改めて感心しながら呟いた。
「見れば見るほど、誘拐される理由がわからんな」
「全くだ。容姿も人格も能力も優れていない。それほど執着するべき人物だとは思えん」
「人並み外れたトジが特徴と言えば特徴か」
三人から少し離れ、首を捻るのはランディ・マクファーレン(ea1702)とケヴィン・グレイヴ(ea8773)。
なかなか酷い言われようだが、事実は事実。ここにローザが混ざっていても強く同意しただろう。
と。
「あ、ランディにケヴィンー」
考え込む二人のところに、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)がぱたぱたと駆け寄ってきた。
「二人で何してるのー?」
首を傾げながら覗き込むように顔を近づける。
「ああ、犯人の目星をつけていたところだ」
「世の中には妙な趣味を持つ者もいるというが、俺には全く理解出来ん」
ミゥの方を向いて軽くため息をつくケヴィン。視線の先にいる当のミゥは、何も知らずに盛り上がって‥‥突然口を押さえて痛がりだした。舌を噛んだらしい。
「まぁ、確かにねー」
やはりここにも、同意する人一人。
「ともかく、相手の予測はしておいたほうがいいだろう。正否はわからないが、何も考えずに行くよりもいいはずだ」
「うーん、犯人かぁ‥‥」
ランディの言葉に、腕を組んで悩み出すフィオレンティナ。
考えを巡らせる、ということばをわかりやすく体現しているのか、天井を見上げながらぐるりぐるりと頭を動かす。
「あ」
と、しばらくそうして悩んだ後、ぱっと何かを思いついた。
フィオレンティナはまたずぃっと顔を近づけて、
「実はお父さんとかお兄さんとか親戚とかそういうセンは無い?」
「親兄弟が心配して、ということか?」
「やり方は荒っぽいけど、そういう家系なのかも」
荒っぽいどころじゃない。
「残念だが、それは無いな」
割って入ったのはケヴィン。目線はミゥに向けたまま、言葉を続ける。
「家族には最近会ってきたそうだ。娘の無事を確認しながら、わざわざ誘拐を目論む必要もないだろう」
「それなら家族関係者のセンは無いのかなー。そうなると、やっぱり根性無しな変態さんの仕業だね!」
またしばらく考えて、指を立てながら言うフィオレンティナ。そのまま自分の言葉に頷いて、
「ほら、ミゥを好きになるくらいだし?」
「特殊な趣味趣向であることは間違いないな」
「あとは、戦闘能力が気になるところだ。魔法を扱うのなら対策を立てたいが――」
すっかり「犯人は変態」ということで纏まったようだ。
「お待たせして申し訳ないッスー!」
声と共に、バタンっと部屋の扉が思い切り開け放たれた。
全員がそちらへ目を向けると、そこには慌てて部屋へ入ってくるミゥ‥‥ではなく。ミゥの服に身を包んだフルーレの姿。
「いやぁ、ちょっと手間取ってしまったッスよ」
苦笑しながら、どこか照れたように頭をかく。
「私の服、どこか問題がありました?」
きょとんとして首を傾げるミゥ。
二人とも背格好が似ているため、服のサイズに問題は無い‥‥はずなのだが。
「え、えぇっと、それは‥‥」
問われてフルーレは口ごもり、ついっとミゥから視線を逸らすと申し訳なさそうに口を開いた。
「胸回りがちょっときつくて‥‥息苦しくないように調節を‥‥」
「‥‥」
しばし沈黙。
「‥‥ううぅぅ‥‥」
後号泣。
「ああぁっ、やっぱり!」
「泣かない泣かない、これから成長するって」
「そ、そうッスよ! ミゥさんはこれからッス!」
床に「の」の字を書きながらいじけるミゥを、どうにか宥め励ますフィオレンティナとフルーレ。
ミゥは涙目のまま二人の姿をじぃっと見上げ‥‥
「ほんとですか‥‥?」
「ホントホント」
「お二人に負けないくらい‥‥?」
「それはもう、恐ろしいほどに!」
両手をいっぱいに広げながら言うフルーレ。そんなに巨大化しても嫌だ。
「頑張ります‥‥」
何をどう頑張るのかわからないが、ともかく二人の励ましで立ち直ったらしい。
まだ若干涙目だが、すくっと立ち上がり何かを決意したように拳を握り固める。
「脱・絶壁宣言!」
ここまで失敗しそうな宣言も珍しい。
「ま、まぁ、とにかく準備も整ったところで、そろそろ出発するッス!」
「はい!」
あさっての方向を指差しながら、力強く頷くミゥ。
「私の明るい未来に向かって、出発!」
本来の目的を忘れていそうだが‥‥あまり深く気にしないほうがいいだろう。
「ようやく出発、か」
「ころころと面白い娘じゃ」
「元気なことは良いことじゃき」
「ねね、ランディは誰が犯人だと思うー?」
「ギルドの転覆を図る輩‥‥にしては狙いが小者過ぎるな」
「『萌えの重力』にひかれた天界人‥‥じっくりと話を聞かねば成るまい」
意気揚々と部屋を後にするミゥに、三者三様の反応を見せながらついていく一行。
「劣等感を抱く姿というもの良い」
その最後尾で、アリオスは一人満足そうに呟いた。
●移動もタダでは終わらない
出発からそれほどしないうち。なんとなしにバックパックの中を調べていたカロは、重大なことに気が付いた。
「なー!」
「ど、どうかしましたか!?」
突然頭を抱えて叫ぶカロに、ミゥが駆け寄っていく。
「まさか、自分が犯人だったということに気付いてしまったとか!?」
「いや、流石にそれは突飛過ぎるっちうか‥‥」
格好はそのままでぽりぽりと頭をかくカロ。急にそんな脈絡の無いことを言われても困りものだ。
ひとまずコホン、と咳払いをして気を改める。
「まぁ、なんじゃ。保存食を忘れたことに気付いてなあ」
ミゥの奇行があったお蔭か落ち着いた口調で言うカロ‥‥だが、これはなかなか大変なことだ。
出発してそれほど時間が経っていないとはいえ、今から引き返して買ってくるわけにもいかない。
「うぅむ、どうしたもんかのう‥‥」
「保存食のことなら、心配いりませんよ〜」
腕を組んで悩むカロに、ミゥはのほほんと言いながら自分のバックパックを広げてみせた。
「ほら、私が予備の保存食を持ってますから」
「おぉ、さっすが依頼仲介人見習いじゃ!」
中に入っていたのは、数人分程の保存食。今のカロにとって、これほど助かることはない。
「えっと、1日分で6Cです」
と。続いたミゥの言葉に、違和感を覚えた。
お金を払うのは仕方が無いとして‥‥
「‥‥6C?」
「はい」
いい笑顔のミゥ。
「高い気がするんじゃが‥‥」
「ローザ先輩からの伝言で、『保存食を忘れた人には予備を売ってあげること。ただし通常より高めに。商売商売。』とのことです」
バックパックの中に書かれた文字を笑顔のまま読み上げる。
「らしいにはらしいが、悪どい商売しとるのう‥‥」
呆れたようにカクンと首を折りながら呟くカロ。
そんな呟きを聞いてか聞かずか、ミゥはビシッと力強く指を立て、
「しかもなんと! この依頼中に売れた分は私のお小遣いにもなるんですよ〜♪」
きらきらとした光も見えるほど嬉しそうな笑顔だ。
「あたしとミゥの仲じゃき、なんとか4Cくらいに!」
「普通に買うより安いじゃないかっ! それに、お小遣いのためにもまけられないんです!」
カロが手を合わせて値切るが、ミゥは両腕で大きく×の字を書きそれを拒否。
生活が苦しいのか何か欲しい物があるのか、意外とケチだ。
「ミゥの扱い方を心得てるというかなんというか‥‥仕方ないのお」
どれだけ押してもダメだろうと悟ったか、渋々とお金を払うカロ。
普段は弱気のミゥだが、こういう時は妙に気が強い。
「毎度あり〜。お小遣いお小遣い♪」
保存食を渡してお金を仕舞いながら、うきうきと小躍りするミゥ。
その様子を少し離れて見ていたフィーノがぽつりと。
「全額取られそうだの、あれ」
「あたしもそう思うじゃき」
言葉に、カロと同じく全員が頷く。光景が目に浮かぶようだ。
「あ、他の人も保存食が欲しかったら言ってくださいね〜♪」
そんな懸念には一切気付かず、笑顔で手を振りながら言うミゥ。
戻った後のことを考えるとなんだか可哀想にも思えてくるが‥‥ともあれ。他に保存食忘れは無く、ローザ商法の被害拡大は免れた。
「ところで」
ミゥによるお小遣い大作戦(失敗予定)が落ち着いた頃、ケヴィンがぽつりと呟いた。
「あの二人は何をしているんだ?」
視線の先に目をやると、そこにはミゥとフィオレンティナの姿。
フィオレンティナは何やら熱い様子で身振り手振りを交えながら話し、ミゥがそれを熱心に聞き入っている。
「ミゥへ何かを教えてくる、と言っていたが」
答えるランディも、視線は二人へ向けたまま。
盗み聞き‥‥というわけではないが、先ほどから届いてはいた声に耳を傾けてみると、
「それで、捕まえたらこー、ばしっと言うんだよっ」
「ばしっと‥‥ですか?」
「そうそう、例えば‥‥変態! とか、無能! とか」
「なるほどなるほど」
「犯人に精神ダメージを与える練習か」
「そうらしいな」
言い合って納得するランディとケヴィン。それほど間違っていない気はする。
「なかなかどうして容赦の無い娘じゃな」
その後ろで、岩鉄斎は僅かな末恐ろしさを感じていた。
●いざ洞窟
「ここが犯人のいる山ですね!」
山へ入る道の前で、ミゥが叫ぶ。
村人からの情報が正しければ、この山を登った先にある洞窟の中に犯人がいるはずだ。
「では早速――」
「いや、ここは俺が先行しよう」
と。山道へ入ろうとしたミゥを制し、ケヴィンが一歩前へ出た。
「その方が何かあった時に動きやすいだろう。ヴェントリラキュイで連絡する」
言うが早いか、山へと入っていくケヴィン。
先行する者の危険は増すが、罠等にはかかりにくくなる。相手が何を仕掛けているかわからない今は有効な手段だ。
犯人が洞窟にいなかった場合も考えればなおさら良い。
「俺達も行くぞ」
先行するにしても、大きく離れすぎては連絡がつけられなくなってしまう。ランディの言葉で、一行は洞窟を目指して山道を進み始めた。
「‥‥」
先行したケヴィン。
何か物音がすれば隠身の勾玉も利用して、見落としが無いようにと慎重に進んできたが‥‥拍子抜けするほどあっさりと目的の洞窟へ辿り着いてしまった。
道中には罠も伏兵もなく、犯人だと思われる者の姿も見ていない。
加えて言えば、洞窟周辺や内部にもそのような気配は無い。
「‥‥」
それでも念のためにと慎重に、気配も物音も消して洞窟の入り口へ近づいていく。
幸い入り口周辺はそれほど見通しのいい場所ではなく、近辺に誰もいない今、どこかから狙撃されるという心配もない。
静まり返る森の中。聞こえてくるのは、時折鳴く鳥の声くらいだ。
ケヴィンは入り口の端から僅かに顔を出し、洞窟の中を覗き込む。
そこにはやはり気配は無く、微かな音も聞こえない。暗がり故か人の姿も見て取れず、少なくとも入り口付近は完全に無人だった。
スクロールで唱えておいたヴェントリラキュイで、後方の味方に状況を伝え、ケヴィンは他の者が到達するのを待った。
ケヴィンからの連絡を受け、全員が合流後。
ミゥがかなり疲れた様子でぐったりとしているが、山歩きについて来られただけでも上出来だ。ついでに、ほとんど喋れないような状態なので声から変装がバレることもない。
「さて、ここか」
全員が揃えばこそこそと隠れる必要もなく、堂々と入り口の正面に立つ一行。
道中での打ち合わせによって、ミゥを誘拐してきた悪党集団という振りをしているが‥‥どちらにしても、依頼を受けた冒険者であることに変わりは無い。
「‥‥あ、あの、岩鉄斎さん‥‥」
気絶した風を装いながら、岩鉄斎の肩に担がれたフルーレがこそこそと話しかける。
「ん? なんじゃ?」
「頭がくらくらしてきたんスけど‥‥」
足と頭を下にした「∩」のような状態で担がれているフルーレ。山道を歩いている間も「見られているかもしれないから」ということでずっとこの状態だったため、頭に血が上ったのだろう。
とはいえ、ここでフルーレを降ろすわけにもいかず‥‥
「もう少しじゃ。辛いかと思うが、我慢してくれ」
「うぅぅ‥‥了解ッス‥‥」
かなりへろへろの様子で、フルーレは仕方なく気絶したミゥの振りに戻った。
下手をすれば本当に気絶してしまいそうだが、あと一歩、なんとか頑張ってもらうしかない。
「ともあれ、中へ入るぞ。入れば向こうから出てくるかもしれぬ」
言ってフィーノは、悪の首領っぽい演技をしながら先陣を切って暗がりの洞窟へと入っていった。
「依頼主よ、依頼の通りに娘を連れてきたぞ!」
洞窟へ入るなり、奥へ向かって呼びかけるフィーノ。
声の反響からしてそれなりに広い空間のようで、依頼にあった待ち合わせ場所はここのようだが‥‥確かに人の気配が全くしないというか、実際に誰もいないらしい。
「しかし真っ暗じゃなあ」
「こう暗くては何も出来んな」
確かにこのままでは身動きが取れない。
ランディがバックパックから何かを取り出し、フィオレンティナに手渡す。
「えっと‥‥こうかな?」
カチリ、という音と共に、フィオレンティナの目の前が明るい光に照らされる。手にしているのは懐中電灯。
「むむ。流石天界グッズ、便利だの」
フィーノが物欲しそうな声を上げる中、フィオレンティナはぐるりと一通り洞窟内を照らし‥‥奥へ行く通路のうちの一本に、人の姿を確認した。
●前門の虎、後門には狼ばっかり
「お前達が依頼を受けた冒険者か?」
灯りに照らされ、先に声を発したのは二十代後半に見える男だ。細身で、分厚い書を片手に細い目でこちらを見やる。
「娘を渡してもらおうか」
「せっかちな奴だの」
答えも聞かずに引渡しを要求する犯人に一言残しながら、フィーノはちらりと岩鉄斎へ視線を送った。
「‥‥」
その意味を理解して、こくりと頷く岩鉄斎。フィーノの前に割って入り、担いでいたフルーレを出来るだけ静かに地面へ寝かせた。
一見すると本当に気絶しているようにみえる。むしろ本当に気絶させられた場合より重症のように見えるが、きっとこれも演技だ。幸い、暗さのお蔭で顔色もよくわからないし。
「今は気絶しておるが、しばらくすれば気が付くだろう」
言いながら、またちらりと岩鉄斎の方へ視線を送るフィーノ。岩鉄斎は小さく頷くと、懐中電灯の光の輪の外へと下がる。その岩鉄斎の影に隠れてランディが密かに壁際へと移動し、密かに男の背後へと回り込もうと動く。
「ふむ。流石だな。では確認させて貰おう」
「おっと、まあ待て。そう慌てるな」
暗がりの中とはいえ、近づいてまで欺しきる自信はない。
フィーノはフルーレに近づこうとする犯人を制して時間を稼ぐ。
「なんだ? 金のことなら心配いらんぞ」
「何、誘拐ついでに少し助言をと思ってな」
「助言?」
犯人がフードの奥で眉を吊り上げるが、気にせずフィーノは言葉を続ける。
「こういうものは第一印象というものが大切だからの。男らしくドンと構えば好感度あっぷだ」
「む、そ、そうか?」
意外と素直に聞き入れてそれらしいポーズを取る犯人。‥‥もしかして本当に恋心が原因なのだろうか?
その後も仁王立ちやら振り向き気味やら、言われるままにポーズを変えていく犯人。その間に一人、二人と姿を消す冒険者達。
「これならばどうだ?」
「悪くは無いが‥‥やはり、問題はその服だの。清潔感のある服のほうが好まれるぞ」
言ってびしり、と犯人の服を指差した。
犯人も自分の服を引っ張りながら、その汚れ具合を確認し、
「確かにそうだな。では、着替えてこよう」
自ら納得するように頷くと、もうすっかり疑わず――言っていることは正しいが――踵を返してすたこらと着替えに戻っていく。
先にあるのは最初に出てきた通路だろうか。フィオレンティナはあえてその先を照らそうとはせず‥‥
ごっっ!
「にがああああ!」
姿が闇に消えたところで、洞窟内に鈍い音と犯人のものらしい悲鳴が響き渡った。
次いで、ごろごろと転がりながら戻ってくる犯人。半泣きの顔で左足の脛辺りを押さえている。
「安心しろ、峰打ちだ」
じゃーん。
声と共に灯りに照らし出されたのは、暗闇に紛れて洞窟の奥へ回ったランディ。犯人の足を打ったのは、手にしているの鞘付きの刀だろうか。
「くっ‥‥裏切ったか!」
「裏切りも何も、最初から味方ではないぜよ」
じゃじゃーん。
続いて照らされたのはカロ。片手に剣を構えながら、別の通路の前で不敵な笑みを浮かべる。
「わしらの受けた依頼は、貴殿を捕らえることじゃからな」
じゃじゃじゃーん。
更に別方向からは岩鉄斎が照らし出された。自身曰く戦闘力は低いらしいが、その体格はそれだけで十分に威圧感があり、正面から戦おうという気を起こさせない。
‥‥ちなみに、照らすのと一緒に「じゃーん」と効果音を入れているのはフィオレンティナ。口で言っているだけだが、無闇に楽しそうだ。
「そういうわけで‥‥」
フィーノはコホン、と咳払いをし、にこりと微笑んで、
「いっつしょーたいむだの♪」
●目覚め
夕陽が山肌にかかる頃――犯人は全身傷だらけのままロープでぐるぐると縛られていた。
傷だらけとはいっても致命傷には程遠い打撲傷ばかりなので、依頼条件としては問題無い。
「っはー‥‥自由に動けるっていうのはいいことッスね〜‥‥」
格好はミゥのままだが、ようやく気絶役から解放されてぐぐぅーっと背伸びをするフルーレ。寝かされている間に体調も回復したようだ。
「あ、あなたが犯人ですね‥‥!」
対してこちらは本物のミゥ。やはり犯人を前に緊張を隠せないのか、どこか腰が引けている。
「ほら、ミゥ。ばしっと言ってやれー」
「は、はい‥‥っ」
フィオレンティナからぽんぽんと肩を叩かれ、促されると、ミゥは自分を鼓舞するようにぐっと拳を握り締め‥‥
「こ、根性無しの甲斐性無し!」
「げふっ」
犯人は精神に重傷ダメージを受けた。
「あ、そっちじゃなくて、普通の尋問のほうをね」
「え、あ、そ、そうだったんですか?」
ぱたぱたと手を振るフィオレンティナに、慌てるミゥ。何か勘違いしていたようだ。
「えー‥‥コホン、では改めて。どうして私を誘拐しようなんて考えたのですか?」
一度咳払いして気を取り直し、ミゥが尋問を開始した。
「釈然としないが‥‥そこまで聞きたければ教えてやろう」
何故強気なのかはわからないが、ともかく話を聞かないことには始まらない。
「実は私は、『不幸力』の研究をしているのだ」
「『不幸力』?」
反復しながら、聞き慣れない言葉に揃って首を傾げる。
ただ訝っているだけだが、それでも反応があったことに喜んだのか、犯人は嬉々としてまくし立ててきた。
「そうだ! 世の中には幸福と不幸、そして幸福な者と不幸な者が存在している! たまたまお金を拾う幸福者がいれば、たまたまお金を落とした不幸者がいるのだ!」
「まぁ、そうじゃな」
「だがしかし、幸福者が生涯幸福というわけでも、不幸者が生涯不幸というわけではない! 幸福の後には不幸が、不幸の後には幸福がやってくる!」
「それはどうなんスかねぇ‥‥」
ぽつりと漏らすが、犯人は自分の理論展開に夢中で聞こえないようだ。
「つまーり! 不幸者の持つ秘めたる幸福! それを私は『不幸力』と名付け、日々研究に勤しんでいたのだよ!」
縛られながらも胸を張り、堂々と言い切った。
‥‥まあ、因果律を狂わす魔剣が存在する以上、因果律の研究としては、ある意味無駄ではないのかもしれないが。
「胡散臭い話だ」
「真実味がないねー」
「全く下らん」
「ぐっ‥‥ま、まぁとにかく、そういう研究をしていたのだ」
「でも、その研究のためにどうして私を?」
「ぅ、む‥‥初めはそのつもりだったのだが‥‥」
言葉に、犯人はどこかバツが悪そうに視線を逸らし、
「依頼を出してから、ドジと不幸は違うということに気付いてな」
「「「遅っ!」」」
全員の声が唱和した。
「取り下げようかとも思ったのだが‥‥その娘のことを思い出したら、なんだかこう、胸の奥が熱くなってきて‥‥」
「あ、恋しちゃったんだ?」
「ち、違う! 決してそんなものではない! 断じて!」
フィオレンティナの言葉に声を荒げる犯人。回転してしまうかというほど首をぶんぶんと横に振る。
「私も嫌ですけど、そんなに否定しなくても‥‥」
否定されたらされたで哀しい、未だ恋人のいないミゥである。
「とにかく、こう‥‥自分の足につまずいて転ぶ姿とか、前から来た相手を避けようとして別の相手にぶつかる姿とか‥‥落とした果物を拾おうとして、別の物を落とす姿とか‥‥そういう姿を思い出していたら、なんだか意味も無くじたばたしてしまって――」
「なるほどな」
犯人がそこまで一気に言ったところで、ずいっとアリオスが進み出た。
何かを理解したように頷き、犯人の肩を軽く叩いてくるりと振り向き、
「俺が言うことではないかもしれんが‥‥どうやら、犯人も改心しているようだ」
「か、改心してるんですか?」
「ああ。行動には問題があるが、心は純真だ」
言ってうんうんと頷くアリオス、そして犯人。何か相互理解があったようだ。
もっとも――
「‥‥俺には理解出来んな」
「同感だ」
残りの一行は、ケヴィンの言葉に同意した。
●飲み過ぎ注意
結局、「官憲に引き渡したら、誘拐の理由を聞かれた時に私が恥ずかしい思いをする」ということで、二度と誘拐を目論んだりしないようにと約束を交わすだけにとどまり、事件はひとまず決着を迎えた。
犯人曰く「この感情について深く研究していく」と、アリオスと堅い握手を結んでいたが――。
「つまりあの男は『萌え研究家』なるものになったということかの?」
「う゛〜っ、複雑です‥‥」
「ともあれ一件落着っ、お酒飲んで美味しい物食べて気分を晴らそうー。ね、ミゥ!」
フィーノの呟きに何とも言えない顔をするミゥの頭を軽く叩きながら言うフィオレンティナ。
場所は冒険者酒場である。
事件解決記念に飲もうということになったのだが‥‥
「はれひれ〜‥‥」
ガシャーン
「こっちに来たぞ! 逃げろー!」
「ひれほれ〜‥‥」
ドカンガシャーン
店中に響き渡る、鬼気迫る声と何かが倒れたり割れたりする音。
一行はあえて見ないようにしているが、その原因は他でもないミゥだった。
「‥‥まさか、コップ一杯であそこまで酔うとはのお‥‥」
「まさか、あれが天界で言う『酔拳』と言われるものでは‥‥」
「近寄ることも出来ぬ‥‥」
言うカロと岩鉄斎の額には、何かのぶつかったようなアザ。当たった物がイスだったかテーブルだったかは覚えていないが、いずれにしてもミゥを止めに入ってついたものだ。
「ほれはれ〜‥‥」
ガシャンガシャーン
おぼつかない足取りで歩き、つまずき、ぶつかり、転び、壊し。一歩を踏み出すごとに店内の物が破壊されていく。
怪我人がカロと岩鉄斎の二人だけというのが奇跡だ。
「はぁ‥‥」
ちらりと一瞬ミゥの方を見て、全員がため息をつく。
そんな中、ただ一人。
「ドジっ娘は良いものだ」
アリオスだけが、何故か幸せそうにミゥの姿を見つめていた。