トンデモ暴走考古学者

■ショートシナリオ


担当:若瀬諒

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2006年11月15日

●オープニング

●トンデモ暴走考古学者
「アトランティスとは何なのか!!」
 とある学者の研究室。
 その扉を開けるなり、男はいつもと同じように声をあげた。
 ぼさぼさの髪や伸びたヒゲにも白が混じり、相応の高齢だということが見て取れる。
「この地に住みながら、我々はこの地について何も知らないでいる! このままでいいのか!」
 大仰な手振りで言葉を続けながら、本や資料で溢れかえる雑多な室内を進んでいき、やがて気だるそうな一人の青年の前に立った。
「否! 我々は自らの住まうこの地について知らなければならない! そしてその鍵を握るのが――阿修羅の剣だ!」
 びしぃっと青年を指差し、高らかに宣言する初老の男。
 その迫力は、普通の人なら思わず身を硬くするほどだ。
 もちろん、青年もご多分に漏れず、最初は驚いていたのだが‥‥やはりこう毎日だと慣れてくるものである。
 青年は振り向きもせず、男と同じく日課となった返答をする。
「で、阿修羅の剣から何がわかるんですか?」
「阿修羅の剣の探索をしたくとも、その手がかりとなりうるような遺跡が必要だ! だが、そんな有望な遺跡はどこにもない!」
 当然のようにその質問を無視して、男はくるりと背を向けた。
 青年もわかっているのか、もう自分の役割は終わったというように近くの本をぱらぱらとめくる。
 今日こそ新発見をしたんじゃないか、などという淡い期待はさっぱりない。
「そこで私は考えた! 自分で遺跡を発見すれば調査し放題、中に入りたい放題だと!」
 普段なら、男はここで大笑いしながら研究室を出て行くのだが、今日は少し違っていた。
「これを見たまえ!」
 言って、バンッと一枚の羊皮紙を叩き付ける。
 ところどころ破け、色褪せているが、どうやら昔の地図のようだった。
「これは‥‥」
 いつもと違う行動と、物的証拠のようなものを突きつけられ、思わず青年も目を見張る。
「んっふっふっふっふ‥‥わかるかね? これは遺跡の在り処を記した地図なのだよ!」
 不気味に笑い、ある一点を指差す。
 そこには×印と共に、何か文字が書かれているように見えた。
「こ、これを一体どこで‥‥!?」
「今朝、図書館の地図コーナーで見つけてきたものだ!」
「‥‥‥‥」
 その言葉に、食いついていた青年はもう完全に興味をなくし、げんなりとした様子で机に突っ伏した。
「君もまだまだ青いな。そのようなところにこそ、真の発見は眠っているものなのだよ」
 『そういう物は調査が終わっているから置いてあるんじゃないのか』という反論をする気も最早起きず、青年は突っ伏したまま深い溜息をつく。そもそもこれじゃ、『発見』にはほど遠い。
「まぁいい。ともかく私はこの遺跡から大いなる手がかりを掘り当ててくる! 後は任せたぞ!」
 一方的に言い放ち、男はスコップ片手に大笑いしながら研究室を後にしていく。

 青年が残された地図を見て、周辺に小さな盗賊団のアジトがあると気付いたのは、それからしばらくのことだった。

●今回の参加者

 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb7850 フローラ・ブレイズ(33歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb7851 アルファ・ベーテフィル(36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国)
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb8427 ベイヴァルト・ワーグウィン(41歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

『トンデモ暴走考古学者』

●学者の財布はカラになる
「わざわざすみません、こんなところまで」
 行方不明となった学者の研究室で、青年が頭を下げる。
 研究室とは言っても普通の民家である。さほど狭くはない部屋の中には足の踏み場しかない。
「いや、気にするな。それよりも、頼みがあるのだが」
 軽く手で制し、マグナ・アドミラル(ea4868)は早速本題を切り出した。
「頼み、ですか?」
「ええ。遺跡があるという場所の地図と‥‥」
「それと、人相描きもな」
 横手から言うフローラ・ブレイズ(eb7850)の言葉に、ツヴァイ・イクス(eb7879)が付け足す。
「地図と人相描きですね、わかりました。ついでに、糧食その他も用意しましょう」
「糧食等については、こちらでも用意出来るが」
「いえ、必要な物はこちらが出しますよ」
 マグナの言葉に、青年はぱたぱたと手を振りながら懐から革袋を取り出す。
 それなりの大きなに膨らんでいるそれは、青年のものにしては渋すぎた。
「それは‥‥学者殿の物では‥‥?」
 エル・カルデア(eb8542)が恐る恐る聞くと、青年はあっさりと頷く。
「はい。不在時用の生活費財布ですね」
「いいのですか、それは‥‥」
「まぁ、今回はあの人のせいですから。自業自得ということで」
「ほっほっほ。確かに、もとをただせば学者殿の暴走が原因じゃからのう」
 青年の言葉に、ベイヴァルト・ワーグウィン(eb8427)も笑いながら頷く。
 この感じでは、今回の依頼の支払いもこの財布から出されるらしい。
「えぇと、これが地図で‥‥人相描きは、今から用意しますね」
 確認しながら机の上に丸めた地図を置くと、今度は適当な羊皮紙を手に取り、そこへさらさらと学者の顔を描き始める。
「色々出かけられる御仁なら、人相描きのビラを用意しとくといい。あと御仁に迷子札でもかけとくとかさ」
 その様子を見ながら、ツヴァイが言う。
「そうですねぇ‥‥服に大きく書いておくことにしましょうか」
「背中に直書きするのも忘れないようにな」
「それもいいですね」
「一つ聞きたいのだが」
「いっそ焼印でも‥‥と、はい、なんでしょうか?」
 何か危険なことを言いかけた青年は、問いかけたマグナへと顔を向ける。が、手は止まらない。それだけ描き慣れているのか。
「盗賊団が出るとあったが、どのような輩だ?」
「あまり酷い様なら、相応の対応も考えるけど」
 フローラもそれに続く。
「僕も詳しくは知りませんけど、最近知られるようになった盗賊団らしいです。縄張りを通る旅人を襲ってるみたいですね。小規模ながらしつこい連中で、逃げ切るのに苦労したって、知り合いの行商から訊きました」
 そこまで言って、小さく肩をすくめる。
「今のところ大した被害は出てないようですが、そのうち冒険者ギルドに依頼が来るんじゃないでしょうか」
「なるほど、な」
 話を聞いて、マグナとフローラは考えるように頷いた。
「っと、出来ました」
 人相描きを見せて青年が立ち上がる。
「上手いものですね」
 完成したそれを見て、アルファ・ベーテフィル(eb7851)は素直に感心する。
 実際それは、この短時間のうちに描きあげたものとは思えないほどの出来だった。
「そういえばみなさん、移動はどうされますか?」
 人相描きをくるくると縦に丸めながら、青年が問いかける。
「ゴーレムシップ‥‥かしらね。出来るだけ急ぎたいから、海路を取って上陸後は馬ってところかしら」
 少し考え、フローラが答えた。
 広大なメイの領土の各地で起こる依頼をこなすために、メイの国は冒険者ギルドを介する依頼に対して、様々な移動手段を無償で提供している。ゴーレムシップもその一つだ。
 海岸線沿いにしか移動できないが、その速度から長距離移動では重宝されている。
「わかりました。では、馬も手配しておきましょう。皆さん全員、馬は扱えるんですよね?」
「え?」
 誰ともなく顔を見合わせる冒険者達。確認してみると、誰一人として乗馬を正式に嗜んでいない。むろん、冒険者一般の嗜みとして『乗れ』はするが、あくまで乗れるだけだ。『駆け』させようと思うと落馬の危険性がつきまとう。
「‥‥わかりました。馬車と御者を手配しましょう」
 青年の言葉に呆れの色があったのは否めない。
「皆さんは先に港へお願いします」
「わかった」
 ぞろぞろと研究室を後にしていく一行。
 と、思い出したようにツヴァイが立ち止まり、青年のほうを振り返った。
「そうだ、縄はないか?」
「縄ですか?」
「そうだ。抵抗した時に縛り上げる」
「それでしたら、これをどうぞ」
 さらっと酷いことを言ってのけるツヴァイに、わざわざ荒縄を選んで差し出す青年もまた、酷かった。

●馬車は疾走する
 ゴーレムシップで距離を稼ぎ、その後、陸路を馬車で疾走する。船長の話では、件の学者もリザベ領行きのゴーレムシップに便乗乗船して遺跡に向かったらしい。迷っていなければ、学者は既に到着している可能性が高い。交代で見張りを立てた野営を早々に終え、今朝も早朝からの行軍である。寒さが身にしみる季節に、各々防寒具で寒さを凌ぎつつの旅となった。
「しかしホント、阿修羅の剣探索ってのは薮蛇ばっかだな」
 ツヴァイはため息混じりにぼやき、肩をすくめた。
「ほっほっほ。まぁそう言いなさるな」
 ベイヴァルトはそれをやんわりとなだめると、更に言葉を続ける。
「性格に少々難がありそうだとはいえ、学者は学者じゃ。何か面白い話が聞けるかもしれぬぞ?」
「ああ、まがりなりにも考古学者だからな」
 言い合い、軽く笑う。
 馬車は街道を外れ、荒れ地へ‥‥そして問題の遺跡へと近づいていった。

「この辺りからだな。そろそろ馬車を降りるか」
 建物の残骸のようなものが、ちらほらと見え始め、足場が悪くなってきた辺りで、マグナが言った。
 その言葉に御者が馬車を止める。急がせたために乗り心地は最悪だったが、おかげでだいぶ時間を稼げたようだった。
「学者殿が襲われていなければいいのですが‥‥」
「‥‥それ以前に、道に迷ってる可能性もあるがのう」
 不安そうなエルに、落ち着いた様子でベイヴァルトが言う。
「けれど、闇雲に動いて盗賊団と接触する面倒も避けたいですね」
「遠方は俺が探してみよう」
 ツヴァイが荷物から双眼鏡を取り出す。
「それじゃあ、私は物陰を見てくるわ。この辺りは死角が多いから」
「自分も行きましょう」
 フローラに次いでアルファも名乗りを上げ、左右の死角を二人が、そして遠方をツヴァイが双眼鏡で、それぞれ確認しながら進むこととなった。

 盗賊団を警戒しながら学者を探すことしばし。
 遺跡の中央部に来たかというところで、どこからか石を叩くような、ガツンガツンという音が聞こえてきた。
「なんだ? この音は‥‥」
 マグナが訝しげに眉をひそめ、警戒態勢をとる。
「音がするのは‥‥あちらの方ですね」
 耳を澄ませ、エルが一方を指差す。
「あっちか」
 ツヴァイが双眼鏡を目に当てたまま、前を行く二人に合図を送る。
 二人も気付いていたのか、頷いて、それぞれ別の方向から音のした場所へ向かっていく。
「学者か、盗賊団か‥‥見知らぬ恐獣、カオスニアンということもありえるな」
 マグナが考えるように呟く。
「珍しい恐獣なら、観察してみたい気もしますけどね」
 呟きに言葉を返しながら、四人は先行する二人を追うように少しずつ進んでいった。

 崩れた壁を超えると、アルファの耳に聞こえていたその音が、より鮮明なものとなった。
 壁の先にはクレーターのような窪みがあり、その中央には何かの姿が見える。
「あれは‥‥学者殿?」
 目を凝らして見てみると、それはこの場所に似つかわしくない白衣の男。近くには荷物一式に簡易テント。
 スコップを何度も地面に突き刺すその顔は、汗と砂埃と必死の形相でわかりにくいが、人相描きと似ているように見えた。まあ、この状況で人間違いもあるまい。

●学者は暴走する
「なんだ、お前たちは」
 石畳の残骸か、単に埋まった岩なのか。ともかく学者は相変わらず発掘――というか、地面にスコップを突く作業を止めないまま、一行に尋ねた。
「貴殿を連れ戻してほしい、という依頼を受けた者です」
「私をか? ふぁーっはっはっはっ! 何者であろうとも、私の偉大な研究を止めることは出来ぬ!」
 両手を広げて高らかに言い放ち、そのままの格好で豪快に笑う。
「学者殿は知らぬかもしれんが、このアトランティスでは、穴を掘る行為が禁忌とされておるのじゃ」
 笑い続ける学者をベイヴァルトが言う。
「禁忌?」
 聞き返す学者に、エルが答えた。
「ドワーフ以外がカオスの穴を空けてしまうと言うのは、歴史より証明された禁忌中の禁忌で、過去の大戦より、その脅威は明らかになっています」
 学者はひとまず笑うのを止め――しかしポーズはそのままで、耳を傾ける。
「歴史を重んじる学者殿なら、その危険性はご承知の筈。遺跡発掘なら、ドワーフの方の協力を得て行って下さい」
「穴を掘る事が許されるのはドワーフのみであるからな。その方々に会い、研究の手助け願う事が、新たな遺跡発見の近道であろう」
 と、諭すエルにマグナが続き――
「一人で掘っても良い結果は出ませんしね。協力者を募る事を薦めます」
 アルファが念を押すように付け加える。
「‥‥ふむ」
 聞き終え、学者は手を顎に当て、考え込むようなポーズに変えた。
「人は穴を掘ることが許されず、ドワーフの力を借りなければならない、ということか」
「そういうことだ」
 マグナがこくり頷く。
「掘っていいのは墓穴だけだ」
「なるほど、上手いことを言う」
 付け加えたツヴァイの言葉に感心した様子の学者。
「わかっていただけましたか?」
「うむ、理解した」
 エルの問いに、今度は学者が頷く。が。
「というわけで、私は発掘を続けるから。君たちは帰ってくれて構わんよ」
 言って、先ほどとは別の地面にスコップを突き刺し始めた。
「‥‥」
 やっぱりか、といった感じで肩をすくめる。
「私は私の手で阿修羅の剣を見つけるのだ!」
「しかし、後の障害となる事をするのは、損失ではないかと思うのだが」
 学者の言葉を返すように、マグナ。
「阿修羅の剣さえ見つけてしまえば、損失も禁忌も関係はない!」
「早々見つかるものではないのではないか?」
「だから今、こうして探しているのだよ」
 また石畳に当たり、今度は早々に場所を変える。
「この辺りには盗賊団が出没しています。一人でいるのは危険ですよ」
「そうよ。貴方程の研究者が万が一にも命を落としたら、国家の損失になってしまうわ」
 アルファに次いでフローラが言い‥‥学者の動きがぴたっと止まった。
「む‥‥確かに、そうだな」
 少し照れたような、誇っているような口ぶりの学者。
 それからしばらく、スコップを持ったまま器用に腕を組んで考え込み‥‥ぽんっと手を打った。
「おお、そうだ。君たちが護衛をしてくれれば解決だ!」
「いや‥‥そういう話じゃなくて‥‥」
「ほっほっほ。学者殿は、カオスの怖ろしさをわかっていないようじゃのう」
 呆れたように頭をおさえるフローラの横から、ベイヴァルトが歩み出る。
「いかにカオスが恐ろしき者か、わしが教えて進ぜようかの」
 言って、ベイヴァルトはにやりと笑った。

●冒険者は『説得』する
「‥‥学者殿もなかなか強情じゃのう」
「んっふっふっふ‥‥君もな‥‥」
 感心したようなベイヴァルトに、学者はぎこちなく口元を吊り上げた。
 1時間にも及ぶ耳元カオス語り攻撃――もとい説得はなかなかに威力があったようで、その額にはじんわりと脂汗が浮かんでいる。
 他の皆も多少疲れたような様子が伺えるが‥‥しかしそれでも、意地か執念か、学者は発掘作業を止めようとしない。
「仕方ないのう‥‥」
 やれやれといった感じで呟き、小さくため息をついた。
 後、びしっとあさっての方向を指差して叫ぶ。
「ああ! 盗賊が来たのじゃ!」
「む?」
 反射的に、学者は指差された方向に目を向けた。
 刹那――
 ごっ。
 酷く鈍い音が響き、学者が倒れ伏した。
「まぁ‥‥仕方ありませんね」
 倒れたままひくひくと痙攣している学者を見下ろしながら、肩をすくめてアルファが呟く。
「今のうちに縛っておくか」
 ツヴァイが縄を取り出し、学者へ巻きつけようと――した時。
 早くも意識を回復したのか、ゆっくりと学者が起き上がった。
「なっ!?」
「ほほぅ」
 驚愕するフローラと、再び感心した様子のベイヴァルト。
「如何なエルフの細腕とはいえ、これほど早く復活するとはのう」
「ふふふふふ‥‥私の魂はこれくらいでは折れぬ‥‥!」
「怖ろしい執念ですね‥‥」
 感心と驚愕が入り混じったようなエル。
 傍らのツヴァイは縛るのを止め、ため息混じりに言う。
「全く、その執念は評価に値するな」
「当然じゃ」
 ふん、と一つ鼻を鳴らす。
「評価ついでに、いいことを教えてやろう」
「二度も同じ手は食わんぞ」
 ツヴァイの言葉を学者はきっぱりと突っぱねた。
「それは残念だ。ここまで来る途中に見つけた、未発掘の遺跡なんだが」
「なぬ!?」
「その遺跡はどこだ! 私の遺跡はどこにあるんだ!?」
「そうだな、確か向こうのほうに‥‥」
 言いながらゆっくりと指を動かすと、学者もそれに釣られてゆっくりとそちらの方を向いていく。
 にやりと笑うマグナの凶悪な笑顔を見なかった学者は、幸いだったのかもしれない。何も知らぬまま、マグナのスタンアタックによって学者は今度こそ意識を失った。

●青年は役所へ行く
 学者が無事に連れ戻された後、研究室でのこと。
「あれ、これはなんですか?」
 青年が脱ぎ捨てられた学者の白衣から、革袋を発見した。
「ああ、それか。堀り頃の場所を探していたら、宝石の類が落ちていてな。拾ってきた」
「ちょっと役所まで」
「待てぃ! 何故私の宝石を持って行く!」
「落とし物を届けるからに決まっているでしょう」
「それは私の物だ!」
「断じて違います」
「ぬぬぬぬぬ‥‥言っても聞かぬなら、力づくで‥‥」
「また冒険者ギルドに依頼しますよ」
「ぬぐっ‥‥」
 青年の一言に、ぴたりと止まる学者。殴られた頭のタンコブも、縄の跡もまだ消えてない。
 遺跡発掘の野望はまだまだ消えていないとはいえ、学者にとって今回の事は辛く苦しい思い出のようだ。
「しばらくはどうにかなりそうかな」
 安堵にも似たため息をつき、恨みがましい眼を向ける学者をすり抜けると、青年は軽い足取りで役所へと向かっていった。

 尚、冒険者達と入れ違いに現れた盗賊団が、こつこつと貯めていた隠し財産が無くなっていることに気付き、八つ当たりとばかりに活動を活発化させたのはこの頃からである。