ご、ご、ごぶりんだー!

■ショートシナリオ


担当:若瀬諒

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月19日〜11月26日

リプレイ公開日:2006年11月27日

●オープニング

●一般人と冒険者の関わり
 現在の冒険の依頼人は、その半分は一般人である。
 王宮に足を運ぶのは気が引けるから、多くはその領地の領主(騎士領主から分国領主まで)を介して、依頼は発せられる。
 もちろん最初は、理解の範疇に無いので依頼そのものが無かった。だが口コミでその威力(?)が広まり、認知され、そして「もしかしたら‥‥」と思って足を運ぶ者が出始めたのである。
 そして成果と依頼は雪だるま式に増えて行き、このごく短期間で冒険者ギルドは、メイの国全土に至るほどの認知を受けた。
 まさに、『口コミ戦略』である。
 もっとも、悪評も無いではない。天界人は、アトランティス人のタブーである『地面に穴を掘る』を平気で行うし、強力なパートナーであるペットを連れている場合もある。いろんな意欲が高まりすぎて、何かと『やりすぎて』しまう事もある。
 まあ何でも『ほどほどに』、がいいのだが、世界の違いから来るメンタリティの違いはしょうがない。すまない、許せ、ゴメンだ。
 しかし冒険者は、真実優秀な守護者である。特に弱い者たちにとっては、まさに『英雄』なのだ。
 現在、冒険者は国レベルという枠を離れ、地域密着型の依頼も受けるようになった。報酬の無い依頼を受ける非常に善良な冒険者もいるぐらいで、まさに『人々の味方』となりつつあるのである。


●ご、ご、ごぶりんだー!
 ゴブリン退治というのは、冒険者ならよく通る道である。というか、一度ならず二度三度と通り、ホブゴブリン、オーガ、さらにその上へとパワーアップしてゆくものである。多分。
 今回は、とある山での出来事である。

「あ、あれは……まさか、まさかまさかまさかぁ〜っ!」
 山に猟師達の悲鳴が響き渡る。
 一つの山の南と北、南は猟師で北はゴブリン。
 昨年、どこからともなく移り住んだゴブリン二匹と熾烈な縄張り争いを繰り広げた彼らであったが、実りの秋の今、まさかこんなことになっていようとは。
「ど〜して一夏超えただけで、こんなに増えてやがるんだぁ〜っ!」
 わらわらわらわら、南側に現れたゴブリン、その数、十匹以上。
 げにすさまじきはゴブリンの繁殖力。
「てめぇ、ここは俺たちが先祖代々狩りをしてきたシマなんだ! お前らなんかにくれてやれるかよぉぉぉっ!」
「ま、まて、ヤス! こいつらはお前じゃ敵わな………………ヤ、ヤスーッ!!」
「わ、わかぁ……どうか……シマを……(がくっ)」
「く、くそぉっ! あいつらぁ〜〜!」
 ヤス=テッポウダマ(21)のあっさりとした無念の敗北(死んでないのはヒミツだ)は、猟師の若頭、ギンジ(35)の怒りに火を付けた!
「サブ、留守を頼む」
「へいっ」
「俺ぁ、街へ行く。街へ行って強い先生を探してくる……!」
「へいっ」
「猟師のプライドにかけて、ゴブリン一家ごときにシマぁ取られるわけにはいかねぇんだ!」

 プライドがあるのか無いのか、こうして彼は、最近評判の冒険者ギルドを訪れたのだった。

 なお、彼らはとある天界人からはこう指導されているそうだ。
 冒険者を呼ぶときは、「先生、お願いします」と言うこと。
 ……それじゃただの悪役じゃないかというツッコミは却下である。

●今回の参加者

 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8427 ベイヴァルト・ワーグウィン(41歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8985 暁 幻二(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9107 ラヴィニア・クォーツ(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

ガンバートル・ノムホンモリ(eb3327

●リプレイ本文

●先生、ささどうぞこちらへ
 何事も問題なく――1人、保存食を忘れた人はいたが――冒険者達が辿り着いた山は、鬱蒼とした樹々に覆われた豊かな山であった。
「お待ちしておりやした。あっしはこの山を仕切ってる猟師のギンジと申しやす。どうぞお見知りおきの程を」
 片膝を立て、片方の拳を地面について頭を下げる。
「なんか昔の時代劇みたいですね」
 皆の後ろで、結城 梢(eb7900)が苦笑いを浮かべる。とはいえ、これが通じる相手は限られている。梢はきょろきょろと周りを見渡し、唯一話の通じそうな暁 幻二(eb8985)に話しかける。
「ふ‥‥つまりオレ達は悪役の用心棒というわけか。クックック、腕が鳴るぜ」
「えーと‥‥」
 何か違うだろう、と思ったのは筆者だけではないはずだ。多分。

●あっしらの戦
「という次第でして。くううっ、面目ねぇ‥‥」
 とりあえず猟師達の小屋へとやってきた冒険者達は、そこでギンジから事の詳細を改めて聞いていた。
「あっという間に10匹以上か‥‥それにしてもゴブリンの繁殖力はすごいな」
 スレイン・イルーザ(eb7880)が感心したように呟く。
「この山は先代から引き継いだ大事なシマ、本来ならあっしらの手で守らにゃならんところ。しかし、もう、あっしらの手では‥‥」
 くううっ、と男泣きに泣いて、ギンジは冒険者達に頭を下げた。
「お恥ずかしながら、先生方の力をお借りさせていただきたく!」
「任しとき!」
 まっさきに反応したのが女鎧騎士のカロ・カイリ・コートン(eb8962)だった。
「シマを守るために‥‥おんしら、まっこと、メイ男子の鑑ぜよ! 大丈夫だにゃあ! ヤスが仇、必ず取っちゃるきに!」
 依頼人の態度に何か通じる物があったのか、なにやら一人、非常に盛り上がっている。ちなみに依頼の時も伝えてあるが、ヤスは生きている。むしろこの小屋にいる。隅っこでいじいじしてるのは内緒だ。
「とはいっても、行くのは明日かしらね」
 女鎧騎士ラヴィニア・クォーツ(eb9107)の言葉に、ベイヴァルト・ワーグウィン(eb8427)が頷いた。ぢぢい言葉で語る、既に暦年齢で百歳を超えているエルフである。
「そろそろ日暮れじゃて。明け方に攻めた方がよかろうよ」
 そもそもゴブリンというものは、夜行性というわけではない。だが、人より夜目が利く関係上、人と相争うような行動の際には、夜を好んで行動する場合が多々ある。ここでもまた同じく、猟師達との縄張り争いの関係上、自らに優位な夜に活動し、昼は暗い洞窟で寝ているのだろう。ならば、昼に洞窟を襲うのが手っ取り早い。
「それで、ギンジさんにお願い事があるんだけどいいかな?」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)が満面の笑顔で口を開く。
「夜の猟は暫く控えて欲しいんだけどいいかな?」
「お? おう‥‥夜の山に踏み込んでまで狩りをすることはまず無いが‥‥」
 笑顔の圧力、というものは存在する。フォーレのそれは間違いなく裏のない天然物なのだが、ギンジはびみょ〜にのけぞっていた。
「それと、この山の地理についてお聞かせ願えませんか?」
 ラシェル・カルセドニー(eb1248)が訊ねる。
「ゴブリンの洞窟の場所と、あと、水場の場所も‥‥」
「そうそう。退治するときに火を使いたいんだけど、いいかな?」
「延焼が心配じゃて、火消し役を頼まれてくれんかの」
「ぬしらも待ってるだけでは暇じゃろ? そこでギン若よ、チィとぬしらに手伝うて欲しいがじゃ」
「ですけど‥‥この方達を連れて行くのは危険ではないでしょうか? ゴブリンの数は多いようですし、万が一のことがあったら――」
 ラシェルの提案も一理ある。だが‥‥
「しかし、これは元々あっしらの戦。先生方に頼むとはいえ、あっしらがここでぬくぬく待っているわけにはいきませんぜ」
 やはりというか、ギンジ達は来る気満々のようだ。
「まあ、人手も案内も必要じゃて。どれ、彼らはわしが守るとするかのう」
 ベイヴァルトはそう言ってにんまりと微笑んだ。

●恵みの山
 翌日――
「それじゃ、この子達をお願いするわね」
 ラヴィニアは残る猟師達にペットの世話を任せ、小屋を出た。一向と共に山に出るのはギンジとサブ、二人だけだ。危険性と、冒険者達の手で守れる人数を考慮した結果でもある。

「先生方、そろそろです」
 警戒しながら山の中を進むことしばし。ゴブリン達が棲み処にしているという洞窟が近づいてきたところで、ギンジが口を開いた。
「いやはや、流石は恵みの山、といったところかの。あちこちで呼吸が感じられるて、ブレスセンサーでは探し辛うていかんわい」
「あ、こういうときはブレスセンサーするんですか? それじゃ、あたしも――」
「ほっほっほ、気にせんでいい。多分わしのが使い慣れてるからの。っと、これは――なんじゃ、鹿かの?」
 梢との会話の途中でさっと茂みの奥を見やったベイヴァルトは、拍子抜けのように肩を落とす。少なくともゴブリンではない。
 そうしているうちに、前方の薮が割れてフォーレとサブが顔を出す。
「ただいま♪ 今のところ、見張りもいなければ出入りもないよ」
 サブと共に先行し、洞窟の偵察をしてきたフォーレが報告する。
「ぐっすり寝ているのでしょうか?」
「もぬけの殻、って可能性もあるわよ」
 ラシェルとラヴィニアが不安そうに言葉を交わす。
「ふおっふおっふおっ、その心配は無用じゃの。現れおった。大きめの呼吸が十以上‥‥こっちの方角にの」
 ベイヴァルトが指さしたその先に、洞窟がその口を大きく開けて待ちかまえていた。

●先生、お願いします!
「それじゃあ、まずはあっしが行かせていただきやす」
「え、ギンジさん?」
 戦闘に参加しない。そう決まったはずのギンジの発言に、誰もが耳を疑った。一人、カロを除いて。
「これぁ、あっしらの戦争なんです。口火くれぇは切らせてくだせぇ」
 ゆらり、と立ち上がり、洞窟へと歩き出したギンジの雰囲気に、誰もが固唾をのんだ。事態の収束を全て冒険者に頼むしかなかった男の、最後のプライド――
 ギンジは大きく息を吸い――そして大声で叫んだ。
「先生っ、お願いしますっ!!!」
「「「いきなりそれかいっ!!」」」
 思わず誰もが突っ込んだ。
「どぉれ。おどれらゴブリンども‥‥人間様を、舐めたらいかンぜよ!」
 ‥‥訂正。ノリノリだった約一名を除く。まあ、言うまでもない。
「くっくっく‥‥待ちかねたぞ、この時を。オレの炎で全てを焼き尽くしてくれるわ!」
 もとい、もう一人、我が道を行く奴がいた。
「いくぞ‥‥マグナブロー!」
 幻二の詠唱と共に、洞窟の入り口を塞ぐように、地面からマグマの炎が吹き上がる。
「えっ‥‥も、もう? ら、ライトニングサンダーボルト!」
「もう初めていいのでしょうか‥‥? シャドウボム!」
 釣られた梢とラシェルの行動で、なし崩し的に戦闘が始まってしまった。

「グオオァァァァッ!」
 悲鳴と共に、洞窟にいたゴブリン達がわらわらと洞窟から現れる。それなりの怪我は負っているものの、倒れる様子はない。見た目は派手だが、まだ一撃で屠るほどの威力はなかったようで、火柱の大きさも相まって数匹を焦げさせただけにとどまった。
 しかしそれでも、手負いには変わりなく。真っ先に飛び出た焦げゴブリン達は、梢とラシェルの追撃によって瀕死に追いやられた。
「オドレラ、ドコノしまノモンダッ!」
「キサマッ、ギンジ!」
「カチコミだぁーっ!」
 その後ろから、続々と出てくるゴブリン達。総数は、6。いや、7、8‥‥まだまだいるようだ。

「ゴブリンの言葉がわかるというのは便利ですねぇ‥‥」
「私もそー思うよっ!」
 のんきに喋るラシェルへ向かってきたゴブリンを縄ひょうの一撃で援護しつつ、同じジ・アースからの来落であるフォーレが応える。ゴブリン達オーガ族の言葉は、身振りと唸り声で伝える単純なものだ。だが、それでも言葉である以上、精霊の地アトランティスでは人にも理解できる言葉として認識される。生粋のアトランティス人には判らない感動だろう。
「でも何故か、ギンジさん達と同じ口調に聞こえます」
「なんでだろうねぇ」
 ‥‥きっと精霊の気まぐれである。
 ちなみに、この戦いで一番余裕があったのはきっと、彼女たちであろう。

「カチコミじゃー!」
 一方、メンバーの中で一番楽しんでいたのは、間違いなく彼女であった。
「一家の頭はいずこにかある? 大将首はいずれか! タマぁ取っちゃるきに!」
 カロの振るうサンソードは確実に狙ったゴブリンへと当たり、傷を与えていく。回避の方は多少おぼつかないが、気合いと流れは間違いなく彼女にあった。
「おおっ、流石は先生!」
 その姿はまさに、用心棒。
 そのカロの影で、ラヴィニアとスレインが逃げ出そうとするゴブリンを地味に殲滅していく。地味だが確実な仕事が彼らの周りにゴブリンの死骸を積み上げていった。

「しかし、これはまた‥‥ちと辛いのう‥‥」
 ギンジとサブを背後に抱えつつ、近づいてくるゴブリンをライトニングサンダーボルトで屠っていたベイヴァルトが声を上げる。
「で、嬢ちゃんは大丈夫かいのう?」
「は、はい‥‥なんとか‥‥頑張ります!」
「そうか。期待しておるぞ」
 初めて観たゴブリンに驚愕したのもつかの間、たどたどしくライトニングサンダーボルトを打つ後輩風ウィザードに、ベイヴァルトが笑いかける。実際問題、高ランクのライトニングサンダーボルトをしばしば高速詠唱で打つ彼の魔力はそろそろ底を尽きかけてきていた。
 そもそもゴブリンというものは、雑魚の代名詞である。弱いのは勿論であるが、何が雑魚かと言えば『ちょびっとの傷でも逃げ出してしまう』からこその雑魚の代名詞である。常ならば、重傷にもならない傷で逃げ出してしまうゴブリン。しかし、今回は違う。冒険者達が唯一の出入り口を完全に塞いでいる以上、逃げ道はない。死ぬまで突撃してくるのだ。
「ちぃと作戦をしくじったかのう‥‥」
 苦笑いを浮かべるその顔は、けれど、どこか楽しそうであった。

「くっくっく‥‥オレの炎に耐えるとは、ゴブリン共もなかなかやるな」
 不適に笑いながら、暁は木刀を片手にマグナブローを放つ。
 が。格闘の心得のない木刀は当たらず、こちらを超える数のゴブリンに、焦るあまりの高速詠唱マブナブローは発動失敗。その中でも何とか手負いのゴブリンを叩き伏せたのは行幸と言うべきか。

●大将はあえなく‥‥
 結局――最後は消耗戦の様相を示してきたものの、人数が揃っていたこともあり、なんとか殲滅することが出来た。魔力は枯渇、軽傷を負った者も多数。
 まさに、窮鼠猫を噛むというやつであろうか。
 洞窟にいたのは計12匹。ギンジに確認してもらった限りでは見逃しも無いようである。
 ちなみに、カロが探していた大将首であるが‥‥また見事に、入り口近くでこんがり焼けこげた姿で発見された。彼女の落胆は、言うまでもない。