黒河童
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月21日〜09月26日
リプレイ公開日:2007年09月29日
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●オープニング
神聖暦千と二年と九の月、江戸のとある河川にて河童達が会議を開いていた。議題は最近やってきたと見られる新参者の河童の処遇だった。
「あんなのは河童じゃねぇ。見かけもやり方も河童道に反する」
一人の若い河童が発言した。河童道というのがどんなものなのかは大いに疑問が残るところだったが、一部の河童(特に若い衆)からは賛同の声が上がっている。
「きゅうりが貰えなかったからって人間の子供を殺して喰らう奴を俺は仲間とは認めない」
事の発端は三日前、見慣れない河童がやってきたことに始まる。
黒い鱗に覆われたその河童は当初きゅうりを恵んで欲しいと言って来た。外見上異なるもののきゅうり好きには悪人はいない、それが河童道だったこともあり黒河童にもきゅうりを恵んだのだった。
それから次の日、そしてその次の日も黒河童は現れた。
いつしか当然きゅうりがもらえるものと考えているのではないか?そう考えた一人の河童が黒河童にきゅうりを渡すのを拒否、すると黒河童は実力行使に出てきたのだった。
「きゅうりが貰えないからといって、仲間に殴りかかる奴にはきゅうりは渡せない」
そしてその後、人間の子供が殺されたと言われている。死体は内臓が引きずり出された無残な姿で、犯行現場からは例の黒河童が逃亡するのが目撃されていた。
「あの黒河童、根本的に我々とは違うのかも知れんな」
一人の老河童が呟いた。河童は空腹になっても人間を襲って食べようとはしないはずである。
河童達は調査を含めて黒河童の討伐をギルドに頼むことにした。
●リプレイ本文
黒い鱗の河童、通称黒河童の存在は冒険者を悩ませていた。依頼のきっかけとなった子供の殺害以後、黒河童の姿を見たものがいなくなったからだった。
「‥‥やはり罠じゃないのか?」
今回の依頼に関し、聰暁竜(eb2413)は一つの疑問を感じていた。黒河童を陥れようとする罠の可能性も拭いきれなかったからだ。
そこで冒険者達はひとまず黒河童の情報を求めて丸一日市中を駆け巡っていた。しかし目撃情報が得られることは無かった。
「黒い鱗となれば目立つはずだがな」
二日目、西中島導仁(ea2741)の目覚めは良くはなかった。ペットのフェアリー如月にグリーンワードを使ってもらったが、それでもまともな目撃情報は得られなかった。
分かったのは未だに子供の殺害が続いていることと最近河童の活動が活発化しているということだった。
「暴走しなければ良いが」
カイ・ローン(ea3054)の話によると、河童は犯行現場によく顔を出しているらしい。カイの見解では「自分達でも犯人探しをしたいと思っているのだろう」ということだったが、これに関しては異論もあった。
「妖か悪意を持った人間が河童に変化し河童の評判を落とそうと企んでいるか」
鑪純直(ea7179)も黒河童犯人説よりも他の可能性を考えていた。一つが変化説、そしてもう一つが魔に落ちた河童がいるという説だった。
「魔に落ちた河童が普通の河童の振りをしている、だったな」
西中島が空を仰ぐ。そこには蝿が一匹飛んでいた。如月が蝿の後を追うようにひらひらと空を舞いあがるのを西中島は軽く制した。
「現行犯しか無いな」
既に飛鳥祐之心(ea4492)が胡瓜売り役、日向大輝(ea3597)が子供役として囮役を演じている。弓を使うアイーダ・ノースフィールド(ea6264)とルンルン・フレール(eb5885)もそれぞれの護衛として行動を開始していた。
「問題は決め手だな」
犯人を決定付ける確たる証拠、それを求めて西中島は二日目も京都の街を駆け巡っていた。
更に一日経過した三日目の夜、ついに犯人らしきものが尻尾を出した。
日向に一匹の河童が声をかけてきたのである。
「胡瓜・・・・モッテるな」
どことなく違和感のある言葉だった。無理やり標準のジャパン語を話しているような、そんな印象を日向は感じていた。
「胡瓜‥‥モッテルだろ。ダセ」
日向は怯える様子を見せながら視線を遠くに向けた。その視線の先にはルンルンが物陰に隠れて弓を構えている。
運が良ければ胡瓜売りを終えた飛鳥と護衛のアイーダも身を潜ませてくれていることだろう。
「早くシロ。コロスぞ」
日向の後ろには小さな小川が流れている。月は出ているものの、水中に逃げられれば追いかけるのは至難の業になるだろう。
それでも手傷を負わせれば、犯人判別の手がかりにはなるはずだった。
「おじさん、怖いよ」
一応抵抗を試みる日向。しかし河童は体格にものを言わせて日向を押し倒しにかかった。
「ダセってイッテんだろうが・・」
河童の右腕が大きく振り上げられた。しかし振り下ろされることは無かった。
河童は右肩を抑えたまま小川へと逃亡していた。小川のそばには血のついた矢と血のついていない矢が一本ずつ転がっている。おそらく一本は命中したということなのだろう。
そんなことを日向が考えていると、二つの足音が近づいてきた。ルンルンとアイーダだった。
「大丈夫ですか?」
心配そうにルンルンが尋ねる。日向は笑顔で大丈夫と答えた。
「こう見えても鍛えているからな」
それを聞くとルンルンも一安心したのだろう、小さなため息をついている。その横ではアイーダがまだ深刻そうな表情を浮かべていた。
「慌てて駆けつけたためはっきりとは見ていないが‥‥犯人は、河童ね?」
「俺の見間違いじゃなければだがな」
「しかし‥‥」
今回の一連の騒動は黒河童の仕業か、黒河童を陥れる罠だと見られている。そしてその両方に深く関与していそうな河童は冒険者達が交代で見張ることにしていた。
「一旦みんなと合流しよう。犯人は手傷を負ってる、それが決め手になるはず」
「そうですね!」
元気にルンルンが日向に同意した。
依頼四日目、冒険者達は朝から水場を中心に捜索に入った。前日一矢報いたはずの河童が治療をしていると考えたからだった。
昨夜、変装を解き面を装着中だった飛鳥と合流した日向、アイーダ、ルンルンは他の冒険者とも合流し河童の数を確認して回った。
数箇所に分かれる河童の群れをすべて回ったことで判明したことが、昨夜抜け出した河童は存在しないということだった。
サポートで入った早瀬さよりが初日に調べた河童の数とも相違は無く、ここ数日で河童の数が増えたということも無いらしい。
「となると、やはり何者かの変身や変装の線が強いか」
聰は言う。しかしどことなく違和感を感じた鑪は言葉を挟んだ。
「黒河童はどこへ行ったのだろうか?」
依頼人の河童達は確かに自分達より一回り大きく、黒い鱗の河童を見たという。しかし今、捜査線上には黒河童の姿は浮かんでこない。
「‥‥黒河童が変装しているのか?」
「可能性はあるわね」
カイの呟きにアイーダが敏感に反応した。
「胡瓜を貰えなかった恨みに変身して子供を殺す。河童の評判は地に落ちるわ」
「でも一回見つかってますよ?」
ルンルンが質問する。アイーダはしばらく考えて答えた。
「よく分からないけど、始めは食欲しか考えていなかったのかもね。二回目以降は知能をつけたんじゃないかしら」
「‥確かに食欲優先という印象はあったね」
実際に襲われた日向が語る。それが何より説得力があった。しかし問題点が無いわけでもない。
「‥つまり同じ手は二度使えないという事になるな」
西中島が呟く。
「だが問題はあるまい。敵がまだ何者か分からぬが変身したとしても傷が癒えることは無いのだ」
聰は冷静に分析する。そして全員で右肩に傷のある者を探したわけだが、その日見つけることはできなかった。
犯人は逃げたのではないか?
三日目を終了し、そんな楽観的な考えが冒険者達の中に無いわけではなかった。
しかしその夜、再び犯行は起こった。やはりまた水辺で子供を狙ったらしい。
そこで四日目、冒険者達は再び総出で水周りを中心に捜索を開始した。
「念のため、ブロムに水の中の捜索もさせてみよう」
カイのペットであるスモールストーンゴーレムに水の中を歩かせるように命令を出した。
「あとは河童達にも見知らぬ河童がいないか頼んでおくか」
西中島の提案で河童達も捜索に協力してくれている。もちろん手出し無用という条件の下でだった。
そして夜、一匹の河童から連絡が入る。見知らぬ河童がいるということだった。
「ついに尻尾を出しやがったな」
何度と無く兜と面の装着をする羽目となった飛鳥はすでに黒河童に敵意を抱いていた。
「仁義ってもんを教え込んでやらぁ」
そして飛鳥が駆けつけたときには他の七人はすでに揃い、西中島が河童に啖呵をきっているところだった。
「どんなに上手く隠そうが、犯した悪事はいつか必ず白日の下に晒され、犯した罪に見合った報いを受ける。人それを『応報』という‥‥」
「貴様‥何者‥」
「お前に名乗る名前はない!!」
高速詠唱でオーラパワーを発動させる西中島。河童の方も今のままでは不利と感じたのか、変身を解いた。
それは河童より一回り大きな、黒い鱗を持った生物だった。
「河童さんよりむしろリザードマンさんに近いです」
ルンルンは分析する。
「胡瓜を食べるってとこだけ河童さんと一緒なのかもしれません」
「なるほどな」
聰が構え、拳を放つ。
「―しかし外見が酷似している以上弱点も同じと見た」
狙いは黒河童頭頂部の皿。黒河童も狙いを読んだが、如何せん聰の動きが速過ぎた。
「――食わねば生きてゆけぬのは生ある者の宿命、だがしかし貴様はやり方を間違えた」
頭を抑え逃亡を試みる黒河童、しかし水辺にはカイのブロムが待ち構えている。
「逃がさん」
鑪がフェイントアタックEXを放つ。与えたダメージこそ少なかったが、黒河童の精神を削ぐには十分だった。
「水中に逃げても無駄だからね。お天道様が許しても、私が許さないんだから」
ルンルンは巻物を取り出し、いつでも発動させられる体勢に入っていた。
諦めた表情の黒河童。しかし西中島は万一のことを考え防御の姿勢を崩さない。
そして次の瞬間、黒河童は蝿に姿を変えて逃亡したのだった。
「待ちやがれ」
飛鳥がソニックブームで蝿を狙う。アイーダも矢を放つがあまりに小さく、そして逃げる的に当てることはできなかった。
「水中封じたら、次は空中か‥」
唸る飛鳥。
「皿割ったから当分悪さはできないだろうが、妙に悔しいな」
「同感ね」
アイーダも同意する。
「変身能力を持った河童みたいな奴がいるなんてね」
「そもそも本当にあれは河童か?」
聰が言葉を挟んだ。
「奴の右肩が治っていた。矢傷は一日二日で治らん。薬を持っていたか或いは‥‥狐狸か魔か、今となっては分からないが」
日向が静かに頷く。
「何者であれ、これに懲りてくれればいいがな」
最後にカイが襲われた子供の治療をし、冒険者達は帰路に着いた。