魔鏡

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2007年10月04日

●オープニング

 鏡の組み合わせにより鏡の中に浮かぶ世界を変化させる、それが魔鏡だ。
 作成には当然特殊な技能が必要となる。単なる鏡職人では持ち合わせることのない、特殊な技能だ。

 神聖暦千と二年と九の月、一人のパラが京都を訪れていた。一人の鏡職人を探すためである。
 しかし不思議なことに夜には牢屋に入れられていた。
「なんで俺が牢屋に入れられなきゃいけないんだよ」
 牢屋で叫ぶパラ、しかしその叫びは空しく響くだけだった。

 その夜、パラは牢屋の中で横になり、昼間の事を思い出していた。 

 京都に来たパラはいくつかの酒場を経由して、とある場末の酒場に来ていた。
「・・いらっしゃい」
 酒場に入ると、店の奥から酒場の親父が声をかけてきた。しかし親父はパラを知らなかったのか、場違いな子供が来たという感じだった。
「・・お使いか?」
 この一言にパラはいい印象は受けなかった。
「喧嘩売ってるんだな?」
 パラは刀に手をかけてみる。すると、親父は多少態度を改めた。
「冷やでいいか?」
「人を探している」
「・・」
「こいつを知らないか?」
 パラは懐から藁半紙を取り出すと、親父に見せた。
「この辺りで鏡職人をやっていると聞いた。見たことないか?」
 親父は藁半紙を受け取ると一度確認し、懐にしまった。
「何するんだ?」
「・・営業中だ」
「だからどうした?」
「知らん、帰れ」
 その後、パラは酒場を追い出された。不服に感じたパラは親父に暴力を振るい、役人の御用になっていた。

「なんで情報収集にはそんなに金がかかるんだ」
 愚痴をもらすパラ、既に路銀は尽きていた。
「なんで酒場に行く毎に頼まなきゃならんのだ」
 そんなこんなでパラの京都一日目は終了した。 
 
 翌日、パラは無事釈放された。
「やっと開放か」
 実際のところは街中での、被害者もいない喧嘩を調べるほど役所も暇ではないというだけだった。
 そしてパラを待っていたのはまだ残暑厳しい中、黒一色の服装でかためた男だった。
「初めまして」
 恭しく頭を下げると、黒装束の男はパラの返事を待たずに本題を切り出した。
「鏡職人を探していると聞きましたが、見つかりましたか?」
「答える義務は無いな」 
 しかしパラの答えを無視するように黒装束の男は袋を取り出した。手のひら大の袋だった、妙に膨らんだ印象だった。
「どうせ見つかってないんだろう?」
「答える義務は無い」
「意地を張っても見つからんぞ」
 そして袋をパラに握らせた。パラが中身を確認すると、結構な額の金子が入っている。
「施しは受けん。俺は鏡職人さえ見つければ金が返ってくるんだ」
「それまでの資金が無いのだろう。冒険者ギルドに行け、七日ほどで見つけてくれる」
「・・・」
 パラは半信半疑のまま一人ギルドへと向かっていった。  

●今回の参加者

 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

李 双槍(eb0895)/ 小 丹(eb2235)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ 陽 小娘(eb2975)/ 円 旭(eb4683

●リプレイ本文

 依頼が開始されたある夜のこと、事件の発端となった場末の酒場には珍しく多くの客が押し寄せていた。客も酒場の親父も随分親しげに話している。顔見知りのようだ。
「俺達全員集めて、何かやろうっていうのか?」
 一人の客が親父に酒の追加を頼むついでに尋ねる。すると親父は唇の端を釣り上げて苦笑交じりに答えた。
「客除けだよ。先日のパラみたいに、誰かまた嗅ぎまわっているらしいからな」
「何だよ。俺達はこの店の番犬か?」
 客が一斉に笑った。しかし何者かの扉を開ける音と同時に、場の雰囲気は笑いから緊張へと変貌する。
 酒場の窓にはカンタータ・ドレッドノート(ea9455)明王院浄炎(eb2373)の姿が映っていた。

 翌日、宿へと戻ってきた二人は疲れた表情を見せていた。
「どうした?二日酔いには見えないが」
 心配した白翼寺涼哉(ea9502)が二人に声をかける。しかし二人は首を横に振った。
「あの親父さん、何か知っていると思うのですが、何度頼んでも教えてくれないのです」
「どうやら単純にパラの無礼に怒ったと言う訳ではなさそうだ。何かあるのは間違いないが、調べるのは骨が折れそうだ」
「‥ふむ」
 白翼寺が唸った。
 陽小娘(eb2975)の調査では問題の酒場にはパラの客も来るという話だった。当然大人のパラの事も知っているはずである。
「ギルドの反応はどうです?」
「雅か。鏡ならともかく魔鏡は基本的に出回らないらしい。もう少し探りを入れると言っていたが、正直難しいかも知れんな」
 将門雅(eb1645)は現在商人ギルドに当たっている。しかし市場規模が極めて小さいらしく中々当たりをつけるのが難しいらしい。市場規模が小さければ逆に欲しがる人を特定しやすいというのが将門の弁だが、時間がかかる可能性が高かった。
「円殿の方は?」
「昨日一人と面会の約束を取り付けたそうだ。今頃会っている予定だな」
 円周(eb0132)は蒐集家方面から探りを入れている。目的のものが魔鏡であるため、まずは光物の愛好家に当たる予定だった。
「拍手兄弟に頼むという手は‥」
「‥チャームか。悪くは無いが、難しいかもしれんな」
 拍手阿義流(eb1795)、拍手阿邪流(eb1798)の二人の内、兄の阿義流はチャームを使うことができる。第一印象を良くするチャームは交渉には有効だが、人前でいきなり詠唱を開始すれば警戒されることだろう。今現在二人は酒場の親父について調査中、その結果を待とうということで話はまとまった。
「‥しかし」
 思い出したようにカンタータが呟いた。
「あの酒場の親父さんはどうして私達の来店を予想していたんでしょう?」
 しばらくの沈黙の後、白翼寺が答えた。
「人脈だろうな」
「人脈?」
「甲が乙に何かを尋ねれば、乙は当然甲が尋ねたがっているものが分かる。拍手兄弟が誰かに酒場の親父の事を尋ねれば、その誰かは拍手兄弟が酒場の親父の事を調べていることが分かる」
「まさか‥」
 カンタータが声を上げる。 
「その誰かが酒場の親父さんに調べている人がいることを伝えたと」
「だろうな。小娘が直接向かった時には客が多かったという話は聞いていない」
「となると、依頼人のパラの時も親父はパラの来店を知っていたのか‥」
 明王院が呟いた。
「こうなってくると厄介なのは黒装束ですね」
「‥だな。親父に悟られずに親父を調べるために、パラをけしかけたということなのだろう」
「まずは宿奈と合流だな」
 宿奈芳純(eb5475)は現在黒装束の行方をペンデュラムで占っている。しかし不調なのか、それとも黒装束が頻繁に場所を変えているのか未だに行方はつかめていないらしい。
 三人は黒装束の行方を追う宿奈と合流することにした。

 商人ギルドと蒐集家を当たっていた円と将門はほぼ同時に一つの結論を得ていた。京都にいた鏡好きの男の話だった。
 その男は特に好んで収集するわけではなく、ただ鏡を見てはその神秘さを感じていたらしい。
「鏡の魅力に取り付かれたのは分かるが、金が無いのは致命的だったな。故人を悪く言うつもりは無いが、金が無ければ蒐集家は続けられない。あんたもそう思うだろう?」
 それが円の聞いたある蒐集家の話だった。
 一方、将門の聞いた話はある民芸品店の女性定員の話だった。
「昔、細工の鏡が無いかって聞きに来た人がいたよ。無いこともないって答えたら喜んでくれてね。それで私はとっておきの鏡を倉庫の奥からとってきたのさ。だけどいざ見せたら違う、これじゃないとか言ってたよ。私の苦労も知らずにさ」
 半分以上愚痴が混ざってはいたが、鏡自身に細工を施したものを探していた人がかつていたらしい。今では見なくなったが、風の便りでは亡くなったということだった。
 そして円と将門に拍手兄弟が合流、探し当てたのがあの酒場の親父だった。

「厳密には酒場の親父の更に親父だけどな」
 阿邪流は言う。どうやら酒場の親父の親父、所謂酒場の祖父は光の秘密に興味を持ち実際に鏡を作る旅に出たということだった。そして旅の途中拾った子供を養子として育てているらしい。
「そして結局手先が器用ではなく鏡職人の道は諦めたようです」
「息子が酒場をやっているんやから、そうゆうことやろな」
 ある程度事件の全貌は見えつつあった。だが始めは人相書きを奪われたことに端を発した任務が複雑になっていくことに阿邪流は多少の不満を感じていた。
「やっぱ人相書き奪うだけじゃだめなのか?」
「ここまで来て引き下がる?」
 阿義流が試すように問いかける。諦めたように阿邪流は笑った。
「んじゃついでに黒装束の野郎どももぶっ飛ばすか」
「まだ殿方とは決まっていませんけどね」
 円の鋭い意見に阿邪流も笑うしかなかった。

『例のパラは予定通り冒険者を雇った模様。予想通り例の酒場の主人が彼の職人の関係者のようです』
 京都某所、黒装束が手紙をしたためていた。
『まだ彼の職人の様子は不明なため話が聞けるかどうかは分かりませんが、時を見て接触を試みる予定です』
 そこまで書いて、黒装束は筆を置いた。
「そろそろ時間か」
 フードを被り、黒装束は京都の人込みの中へと紛れ込んでいった。

 カンタータ、白翼寺、明王院と合流した宿奈は、ペンデュラムを取り出し祈りを込める。するとペンデュラムは場末の酒場を示した。
「どういうことでしょう?」
「‥‥示している通りでしょうね」
 カンタータの質問に宿奈は漠然とした答えしか返せなかった。
「行くしかないということだな」
 その後、道中で冒険者達は無事合流。全員で酒場へと向かうことになった。

 酒場に着いたのは、まだ日の高い時間だった。当然開店しているわけも無いのだが、店には一人の客がいた。
「‥あいつは」
 黒装束の人物だった。
 急いで中に入る冒険者達。しかし黒装束は特に驚いた様子を見せず、一礼した。
「あなた方にも申し訳の無いことをしました」
「‥どういう意味ですか?」
 円が尋ねる。すると黒装束の男は懐から聖印を取り出した。
「ジーザス教のものです。このような姿をしてはいますが、世間的には白と呼ばれる方に属しています」
「ジーザス教?」
 続いて白翼寺が尋ねた。
「例の村、マリアという少女の絡みか?」
「完全に否定はできません。あの時の鏡はここにいらっしゃる店主の弟さんが作ったものですから」
「‥弟?」
 明王院の射抜くような視線が酒場の親父を捕らえるが、親父は遠くを見つめていた。
「まぁいい。それであんた達は弟に何の用なんだ?事と次第によっては多少手荒な扱いになるぞ」
 白翼寺が視線に殺気を込めた。同調するように拍手兄弟も戦闘体勢を整える。
 しかし黒装束は殺気を受け流した。
「弟さんに一言お詫びをと思いまして」
「詫び、でっか?」
 将門が聞き返すが、それを親父が遮った。
「ここで話すより実際に見たほうが早い。会わせてやろう」
 
 親父の案内した場所は店の地下だった。酒の貯蔵に使っているのか、多少ひんやりしている。
 その地下の隅に一人の男がうずくまっていた。猫背で小さく身体を丸め、酒を飲んでいる男だった。
「この人が、まさか?」
「俺の弟だ。血は繋がっていないがな」
「‥そいなら弟さんも養子ってことか」
「親父は結婚していない。子供を名乗る奴は大勢いるが、誰一人本物の子供じゃない。全員拾い子だ」
 弟は冒険者達に気づいてか、軽く頭を下げた。
「ただ、俺とコイツだけは特に手先が器用でよくしてもらった。俺は料理を作るし、こいつは鏡を作る。親父が鏡好きなのは知っているんだろ?」
 冒険者達は静かに頷いた。
「親父はもう死んじまったが、生きている間に魔鏡ってのを見せてあげたいっていうのがコイツの夢でな。ある日、旅に出ると行って出かけて行ったよ」
「‥そして酒に溺れて俺は帰ってきたんだ」
 自嘲気味に笑いながら弟が答えた。
「懐かしい顔もあるな、何の用だ」
 黒装束は答えない。そこでカンタータが依頼の事を話した。
「そのパラは記憶にあるな。兄貴、頼む」
 弟が言うと、親父はカンタータに金を渡してくれた。
 これで依頼は完了していた。しかし場の空気は限りなく重く、誰も動こうとはしない。
 
 黒装束が動いたのは半刻程経ってからだった。
 すでに弟は痺れを切らし、親父に酒を要求。宿奈も酒代を持つということで、場を鎮めようと努めていた。
 そしてやっと黒装束が言葉を発した。
「あの時は申し訳ない」
「気にするな、俺もアンタも若かった。それだけだ」
「しかしあなたはもう歩くことさえできないと聞いています」
 白翼寺が親父、弟両方の顔色を伺い、そして弟の足をみる。そこには痩せ細り、微妙に震えている棒のような足があった。よく見ると、杯を持つ手も同様に震えている。細かい作業はおそらく不可能だろう。
「何があった?」
 白翼寺の問いに弟は軽くため息をついて答えた。
「魔鏡には天使も悪魔も宿るということだ」
 そして、店の開店時間と共に冒険者と黒装束は地下を後にした。