雪霞の殺人鬼

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月13日〜01月18日

リプレイ公開日:2007年01月17日

●オープニング

 男は夜半過ぎに何かが落ちる物音で目が覚めました。
「何だ、一体・・?」 
 ドサッという重量感のある物音、男は不思議に思いましたが前日降って積もった雪が落ちたのだろうと寝ぼけた頭で考えました。
「そういえば今日は大事な取引がある。早く眠らねばな」
 そんなことを呟きながら男は冷えた身体を温めるべく布団にもぐるのでした。

 そして翌朝。男、丹波小太郎は取引に行くべく店の戸口を開けると、そこには死体がうつ伏せで雪の上に横たわっています。死体のそばの雪は血を吸ったのか赤く染められています。
「これはどういうことなのか・・?」
 小太郎の頭には夜半に聞いた物音がよぎります。
「誰かがこの死体をここに捨てた?」
 そこまで考えて小太郎は店の小僧に役所まで走らせます。今の状況では小太郎が犯人第一候補に間違いありません。自分の身の潔白を証明するためにも早めに行動に移るべきだと直感が訴えます。
 しかし既に遅かったようです。小僧が店を出ようとするときには役人が3人すでに店の前まで来ていました。
「丹波屋、お主に殺人容疑がかかっている。奉行所まで来てもらおうか」
 小太郎は悪あがきと思いつつも時間を稼ごうと先に死体の検分をするべきと主張します。
「確かにおぬしの言うことも一理あるな。ではどれ」
 役人はうつ伏せになっていた死体を仰向けにします。死体の顔を見て小太郎は青ざめます。その表情の変化を役人は見逃しません。
「知り合いだな」
「いや、その、これは・・」
 小太郎は何か言い逃れが出来ないものかと視界をさまよわせていましたが、しばらくすると観念したように肩を落とします。
「私の店の前の番頭です」
 小太郎は諦めたように呟きました。こうなれば腹の中を探られるのも致し方ありません。
「この死体はまだ若いようだが、何かやったのか?」
「二重帳簿で私の店の金を博打につぎ込みましてね。それでクビにしたんです」
「丹波屋は米問屋としてそれなりに繁盛しているだろう?となるとこの男が使い込んだ額もそうとうなものになるんじゃないか?」
「えぇまぁそれは、店が傾きかけました」
「それでこの男を殺したと?」
「それは違います、お役人様。私はクビにはしましたが、殺しまではしていません」
「しかしなぁ。丹波屋、辺りを見てみろ」
 役人に言われて小太郎は辺りを見渡します。昨日の雪が積もって綺麗な雪化粧です。
「綺麗なもんだろう」
「確かに綺麗ですが、それが何か?」
「綺麗すぎて足跡が無いんだよ」
 再び小太郎は見渡します。2,3近所から足跡が出て行っていますが、こちらに来ているのは役人達の足跡だけです。
「つまりお前の店で殺害して道に捨てた、そう考えられんか?」 
「しかし私は殺しは・・」
「あとは奉行所で聞かせてもらおう」
 小太郎は死体と共に連行されるのでした。 
 

 

●今回の参加者

 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9215 雷 真水(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9572 間宮 美香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0701 雪 奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 神島屋七之助(eb7816)と雪奈(ec0701)は丹波屋とその近所へと聞き込みに行きました。始めは前番頭の話から切り出していましたが、聞く人聞く人すべてが嫌な顔をします。
「丹波屋の前番頭さんについて聞きたいのですが・・」
「今度は何?彼に貸したお金の額?通っていた賭場の場所?それとも女?」
 あからさまに嫌な顔をされるので神島屋も雪奈も疲れてしまいました。
「よほどの嫌われ者だったんですね」
「お金の使い方を間違っています」
 雪は視線を地面に落とし唇を噛み締めました。頬を熱いものが流れていきます。神島屋は視線を外し雪にそっと手拭を差し出しました。
「ありがとう‥ございます‥」
 雪は手拭を受け取ります。
「それは宝手拭といって仏の加護が得られると言われています。きっとあなたにも御利益があると思いますよ」
 神島屋は照れたように言いました。
「そうですね、いつの日にか私にも幸せが訪れるはずですしね」
 2人はしばし見つめ合い、そして再び聞き込みに向かうのでした。

 間宮美香(eb9572)は丹波屋の周辺を丹念に探すことにしました。死体の足跡が無かったことのトリックを暴くためです。しかしそのためには情報が足りません。
「将を得るためにはまず馬からですね」
 一口にトリックと言ってもいろいろなものが存在します。そしてそのトリックを解き明かすためには少しでも多くの情報が必要になります。トリックを使った時間、天気、共犯者の有無などです。
「まずは時間からですか」
 時間に関して小太郎は夜半と漠然としか記憶していません。そこで他にもあたりましたが誰も知らないと首を振るばかりでした。
「夜半過ぎまで雪が降っていたのは間違いありません。しかしいつ降り止んだのかまではさすがに分かりません」
 それがみんなの意見でした。
「となると、雪が止んだと仮定をして何か手がかりを探した方が良さそうですね」
 雪が止んでいなかったとすると、誰でも犯行は可能になります。いつまで降っていたかは奉行所やギルドでも調べられるものです。間宮は今自分にしかできないことをやることにしました。
「妥当なところで塀を伝わっていく、次点でロープを縛り付けてといったところでしょうか」
 しかし、そんなトリックを証明をするようなものは見当たりません。
「トリックを使ったことを証明するために使ったトリックを探し出すというのも何か変なものですね」
 愚痴をこぼしながらも雪が妙に減っている場所、溜まっている場所などを探すことにしました。

 雷真水(eb9215)は魔法のアテを探して冒険者ギルドに来ていました。
「さすがにここなら何か手がかりがあるだろう」
 特に知り合いがいるわけでもないが、何とかなるだろうと気楽に考えていました。現に受付で話をするとその場にいた何人かのウィザードが案を練ってくれました。
「空を飛ぶ魔法ですか?」
「そう、空を飛ぶ魔法。足跡をつけないのが目的だからそんなに高く飛ばなくてもいいんだ」
「いくつかありますね。レビテーション、ファイアーバードあとはリトルフライも使えそうですね」
「その中で他人にもかけられるのある?」
 ウィザード達はしばらく考えて首を横に振りました。
「他人を空に浮かせる方法をお探しなのですか?」
「そういうわけじゃないけど、1人で殺人と魔法を使いこなせるのなら厄介な相手じゃんか」
「それはそうですね。他に忍術でも空を飛ぶことは出来るでしょうが‥。ならば発想を逆転させてみてはいかがですか?」
「発想を逆転‥ねぇ。つまりいかに足跡を残さないか、じゃなくいかに足跡を消すかってことね」
 雷は予想外の展開に思わず笑みをこぼします。
「それなら犯人の手口がわかりそうじゃん」

 神島屋と雪の聞き込みの結果前番頭の住まいが判明しました。
「どうやら番頭時代に作った愛人がいて、今でも通わせていたようです」
「しかし愛人の両親が前番頭を良く思っていなかったので娘の後をつけ彼の居場所をつきとめていたのです」
 4人は明らかに進展しつつも、テンションが上がりません。
「つくづく嫌な奴じゃん、その番頭」
「ですね」 
 気乗りはしないながらも手がかりを見つけたまま放置するわけには行きません。4人は前番頭の住まいに向かう場所に向かいました。

 そこは住まいというにはあまりに悲惨な状態でした。
「これは住まいというより前住まいっていうべきですね」
「前番頭の前住まいですか」
 家の中は荒れ放題になっています。前番頭もそれほど綺麗好きではなかったのかもしれませんが、それにしても酷い状態です。
「金目の物を徹底的に探した跡とみるべきでしょうね」
 間宮は何か手がかりになるようなものを探します。もし強盗が入ったとしたら足跡等が残っているかもしれません。他の3人も手伝います。
 そんな作業中、1つの手裏剣が投げ込まれました。

「それ以上探さないでいただきたい。後は我々の仕事だ」
 家の前では一人の男が立っていました。刀を持っていますが粗末な身なりからすると浪人崩れといたところでしょうか。
「悪いねぇ、でもこっちも仕事の都合っていうのがあるじゃん」
 雷は韋駄天の草履を使い、一気に浪人との間合いを詰めます。浪人は迎え撃つのではなく、同様に間合いを詰めに走ります。
「もらったよ」
 雷の拳が浪人を捕らえようとした時、浪人は急加速します。敵の急な動きについていけず、雷の拳は空を切りました。
「やるじゃん」
 雷の横を通り過ぎた浪人はそのまま神島屋に狙いを定めます。武器を携帯していないところから魔法使いだと判断したようです。
「自分の不運を呪いな」
 浪人は横薙ぎ一閃、抜刀術を繰り出します。加速に加え体重を乗せた刀は風を切る音と共に神島屋を襲います。何とか回避しようとする神島屋ですが、いかんせん速度が違います。しかしそこに間宮が割って入り込みました。自分の愛刀を鞘から半身出した状態でかろうじて受け止めました。
「抜刀術ですか、これで何人の人の命を奪ってきたんですか」
 浪人は不適に笑い
「知らんな、そんなこと」
 と言いのけます。浪人の刀を見れば血と脂が浮いています。明らかに人斬りの刀です。
「この国の未来のためには貴公のような人は必要ないのです」
 間宮は刀に力をこめますが、浪人も黙ってはいません。鍔迫り合いに持ち込まれました。
 浪人と間宮が力比べをしている隙を突いて雪は忍者刀を取り出し、浪人に組み付きます。神島屋はスリープの詠唱に、雷は万が一の逃亡に備えます。
「人斬りなんて物騒なことしないで、私といいことしませんか」
 雪は忍者刀を浪人の首に突きつけながら男を口説き始めます。
「ぜひお願いしたいものだが、まずはその物騒なモノをしまってほしいものだ」
 浪人はまだ余裕の表情を見せます。まだ切り札があると判断した雷は警戒を強めます。
「物騒なモノといわれましても、あなた様に逃げられては私も立つ瀬がありません」
 雪は浪人の耳元で言葉をささやき、スリープの詠唱完了の時間稼ぎをします。同時に浪人の懐に手を入れ、証拠となるものを探し始めました。
「逃げる?この状況で?」
 浪人はさらに力をこめます。すると浪人の身体はオーラに包まれました。
「誰が、逃げると?俺か?それともお前らか?」
 浪人の顔から笑顔が消え、冷酷な表情になります。しかし次には苦悶の表情へと変わりました。
「間一髪、でしたね」
 神島屋のスリープが効いたようです。浪人は鬼のような形相のまま眠りについていました。
「やっかいな奴だったねー、さっさと簀巻きにしちまおうじゃんか」
 雷はやられた鬱憤を晴らすかのように浪人を簀巻きにしていくのでした。

 浪人は簀巻きにされても殺害の動機などは一切話しませんでしたが、前番頭の借用書を持っていたためそのまま御用となりました。
「これでよかったんですよね?」
 雪は自信なく尋ねます。
「一応私達は目的を達成しました。丹波屋さんの嫌疑も晴れるでしょうから一安心と言っていいでしょう」
 神島屋は言いますが、やはり引っかかる部分はあるようです。
「しかし、さきほどの浪人が実行犯だとしても裏で糸を引く者がいたようなきもします」
 間宮もやはり何かひっかかっているようです。
「そりゃそうだろーね。あたしの調べじゃ共犯がいる可能性が高いってことになってるんだぜ」
 雷は断言します。
「ただこれ以上はあたし達の仕事じゃない。上の仕事ってやつさ。酒でも飲んで任務達成を祝おうじゃないの」
「お酒だけは勘弁してください、私泣き上戸なんですよ」
 雪の言葉に3人は笑うばかりでした。