熊と入れる温泉宿

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2007年01月24日

●オープニング

 京都から少し離れた温泉街で熊が発見されました。
 発見したのが旅館の主人であったため、とりあえずは大きな問題になりませんでした。
 発見した旅館、河野旅館の主人はすぐに他の旅館とも連絡を取り合い、熊退治のためお金を出し合い冒険者を雇おうと考えました。連絡を取り合った結果、他にも目撃例が2件あり熊退治の方に話は傾きかけました。しかし1件の旅館が反対を唱えます。
「熊は本来縄張りを持っている。その縄張りに勝手に入ったり、熊を刺激したりしなければ襲ってくることは無い」
 そう言ったのは橘旅館の主人でした。主人は入り婿で以前は狩人だった人です。熊の習性を知っていてもおかしくはないと他の旅館の主人達も感じます。
「しかし、実際にお客様が襲われてからでは遅いのですよ」
 実際に熊を目撃した河野旅館の主人はもはや半狂乱です。
「だからこそ集客効果も狙えると思えませんか?自然の熊を目撃できるチャンスなのですよ」
 話し合いは平行線をたどるばかりです。退治するにしろ、客寄せにするにしろ早く動くべきなのに事態は進展する気配を見せませんでした。
 そこで妥協案として専門家たる冒険者に意見を聞こうということになりました。


 

●今回の参加者

 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb4891 飛火野 裕馬(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

若宮 天鐘(eb2156)/ 明王院 未楡(eb2404)/ 玄間 北斗(eb2905

●リプレイ本文

 飛火野裕馬(eb4891)は現場に到着するや否や女中や女将達に声をかけ始めました。
 飛火野が女性を物色していると、一人落ち込んでいる女性を見つけました。。
「キミのような女性が物思いに沈むのは世界にとってもったいないことやわ」
 飛火野が優しく微笑みかけると女性は一度飛火野の方を見つめ、そして再び視線を雪原に戻しました。
「あなたは何のために温泉に来られたのですか?」
「キミに会うために来たんですねん」
 飛火野は即答しました。女性は困ったような失笑をこぼします。
「出会いのため、休息のため、治療のため、みなさんそんなところなのでしょうか」
 女性は一礼し、その場を去ります。そして橘旅館の門をくぐっていったのでした。

「熊とは入れられる温泉というコンセプトはいいと思いますです。しかし、本当に大丈夫ですか?」
 斑淵花子(eb5228)は橘旅館の主人に正面から尋ねました。
「羆さん、人里に近くにいるようですけど、まだ冬眠してないのですか?」
 便乗して瓜生ひむか(eb1872)も質問します。
「熊は縄張りを作る生き物。自分から縄張りを拡張することはありませんから、人間から襲わない限り襲ってきませんよ」
 磯城弥魁厳(eb5249)が口を挟みます。
「いや、ワシも一応熊も飼ってはおりまするゆえ、熊の可愛さは分かっているつもりではございますがの」
 そう前置きをして続けます。
「しかし襲ってきてからでは遅いのじゃ。何か策はあるのじゃろう?」
 冒険者全員は橘の主人を見ます。
「問題は熊ではなく人間の方にある。不用意に近づかぬよう注意するぞ」
「他には?」
 黄桜喜八(eb5347)が合いの手を入れます。橘主人のやり方はまだ十分ではないと感じているのでしょう。
「あとは客の本能に訴える。自分から死地に行くものはおるまい」
 橘主人のいうことには一理ある、と誰もが思いました。進んで断崖絶壁から飛び降りようとすると自殺志願者だと思われるでしょう。
「しかし、餌を与えようとする客はいるのではないでしょうか?」
 瓜生は言いますが、橘主人は首を横に振ります。
「あなたは風呂に食料を持ち込みますか?」
 瓜生は思案顔ですが、他の3人は当然という様子です。人間と河童の違いでしょうか?
「他にも匂いや魔法を使って隔離できればと思っていますよ」
 ここまで沈黙を守ってきた乱雪華(eb5818)も話し合いに参加します。
「人間には人間の事情があるように、熊にも熊の事情があるでしょう。普通でしたら冬眠しているこの時期に熊が動いているというのは空腹でとても危険な状態だとは考えられませんか?」
 橘主人は腕組みをして答えます。
「その通り、熊には熊の事情があるだろう。だからこそ空腹を癒して帰ってもらいたいものだ。そうすれば安全だろう?」 
 そこまでで橘主人との会合は終了しました。

 一方その頃、西天聖(eb3402)、宿奈芳純(eb5475)の2人は他の旅館の主人達と話し合いをしていました。
「参考までに皆の意見を聞かせてもらいたいのじゃ」
 西天が微笑しながら言うと、主人達はぽつぽつと話し始めました。
「正直羆を見たときは何も考え付かなかったが、観光名所にするという手に全面的に反対する気はない」
「しかし、客の安全は保証されるのか?」
 宿奈も1つ問題提起をします。
「そもそも何故熊がこの時期に出没したのでしょうか?」
 主人達は再び静かになってしまいました。 
「この地域の狩人が山に入ったとかじゃろうか?」
 西天の助け舟に1人の主人が反応しました。
「そういえば先日山の中で小規模ながら雪崩が起こったそうです。狩人の仕業かどうかはわかりませんが」
 それだ、2人の冒険者は同時にそう叫びました。

 冒険者達は情報交換後、問題の羆を探すことにしました。
「まあ、なんで熊がこのあたりに出没するのか、人を襲うつもりなのか、などは当の熊に聞いてみますか」
 宿奈の意見に皆賛同しました。しかし問題は当の羆が今どこにいるのかということです。人間が無闇に近づいていいのだろうかという問題もあります。
「確かに相手は野生の熊じゃ。しかも危険極まりない状態と来ておる。隠密技能も駆使するつもりではあるが、先にペットを行かせた方がいいかも知れんな」
 磯城弥の案は正しいと皆が直感します。しかし同時にペットが一番の危険に晒されることになることも皆気付いてしまいました。
「チャームの効果範囲内まで入ればいいのじゃ。それほどの危険はあるまい」
「何だかプレッシャーを感じるのですが気のせいでしょうか?」
 チャーム担当の瓜生は軽く貧血を感じています。飛火野はそんな瓜生を支え元気付けます。
「失敗を恐れんなや。俺がキミを守るさかいな」
「私(あたし、わし、おいら)達じゃ(だ、です)」
 全員による総ツッコミが見事決まりました。

 結局羆を見つけたのは磯城弥と黄桜の忍犬達でした。しかし見つけたといえまだ距離があります。チャームの範囲内まで入るためオーラエリベーションを使用中の西天、猟師技能を使う飛火野、隠密技能を使う磯城弥、黄桜の4人で距離を詰め、淵斑、乱がいざというときのための後詰に入ります。
 始めに宿奈がテレパシーを試みます。
「この時期、熊は冬眠しているとうかがってますが、なぜ貴方は未だに起きていらっしゃるのですか?」
 始めは混乱した様子を見せた羆でしたが、すぐに我を取り戻しました。
「言葉が分かるんだな、貴殿達。それで人間は話し合いをするときに武器を使用するのか?」
 羆は唾液したたる牙をむき出しにし、遠吠えをします。今仲間を呼ばれたら交渉どころではなくなると察した宿奈は皆に武装解除を伝えました。
「その通りやな」
「確かに話し合いに武器は不要だ」
「私も魔法を解くべきじゃろうな」
 西天、飛火野、磯城弥、黄桜は言われたとおりに武装解除、忍犬達の武装も解除しました。
 羆はなおも武装解除を求めます。宿奈は淵斑、乱にも武装解除を伝えました。
「見えていないはずですますよね」
「野生の動物、侮りがたしです」
 羆の鋭敏な感覚に驚きながら淵斑と乱は武装を解除しました。
 この様子に瓜生だけは素直に喜んでいます。本物の森の動物に出会えたことに至福の喜びを感じているようです。
「これでよろしいですか?」
 宿奈の言葉に羆は口を閉じました。場は一瞬安心感に包まれます。そんな中、すこしづつ距離を詰めていた瓜生のチャームが発動しました。
 チャームが成功し、羆の目は穏やかになりました。瓜生はすぐさまテレパシーを詠唱、宿奈と交渉役を交代します。
「今日は羆さん、私はひむかです。羆さんの名前を知りたいです」
 微笑んで瓜生が尋ねます。羆との話し合いは友好的に進みそうです。
 一方、役目を終えた宿奈はさすがに疲れた様子を見せます。淵斑と乱が宿奈の元まで駆け寄りました。
「お役目おつかれさまですますよ」
「さすがにお疲れのようですね」
 ねぎらいの言葉をかけてもらった宿奈は大きく深呼吸をし、無意識の内に強く握しめていた両手を開けます。そこまでやってやっと安心したのでしょう。汗が噴出してきました。
「今まで人間に敵意を向けられたことはありますが、野生動物に敵意を向けられると半端じゃないですね」
 宿奈は呼吸を整えつつ言います。
「熊は牙と爪で武装していますですが、おたくは丸腰、襲われれば重傷にはなりますですからね」
 淵斑が話している間に、乱は手拭を取り出し宿奈の汗を拭きます。汗が凍ってしまうと後々面倒なことになります。
「お二方ともありがとうございました。もう大丈夫です」
 宿奈が落ち着いた時には、羆と瓜生の話し合いも円満に終わりを迎えようとしていました。羆は森の奥へと帰っていきます。
「やっぱり食糧不足が問題のようです」
 瓜生は皆に伝えます。
「あとは冬眠できる場所が減ってきているという問題もあるようです。山の中に人の手が入ってきているということでしょう」
「人の手?旅館の関係者のことや?」
「おそらくそうでしょうね。山菜や川魚をとりやすいように道を作ろうとしていたんでしょう。そのせいで雪崩なんかも起こりやすくなったんだと思います」
 瓜生は羆からの話を自分の考えを加えつつ説明しました。
「となると次にするべきは餌場の確保と寝場所の確保じゃな」
 西天の意見に皆賛同しました。

 まず食料の確保ですが、こちらは明王院 未楡(eb2404)、玄間 北斗(eb2905)の2名がすでに手配済みでした。しかも人間の匂いがつかないように細心の注意まで払ってある。
 次の問題はどのようにして食料を羆に渡すかです。
「川魚に関しては実際に川を引きましょう。動物は死骸のまま放置、木の実は木々の周りに蒔いておきましょう」
 そう言ったのは橘主人でした。
「食料を与えることには賛成です。しかしただ与えるだけでは餌付けしているのと変わらない。なるべく野生に近い形で渡すことにしましょう」
 皆賛成しました。普通に渡しては匂いをつけないように注意を払った意味も薄れてしまいます。
「それに今回の件は私にも問題がありますからね」
 そして最後の問題は冬眠用の寝床の確保。これには磯城弥、黄桜、乱が立候補しました。
「最後は忍者らしいことさせてもらうだ」
 こうして橘主人を含めた9人は簡単な土木工事を始めたのでした。

「なんだか戦闘していないのに疲れた気がしますですよ」
 淵斑は土木工事でかいた汗を温泉で流しています。この温泉も冒険者達の手で一部改良を加えられました。自分達の手で作った温泉はまた格別でしょう。
「そうですね。しかしスリープに成功しましたし、熊さんも一安心でしょうね」
 瓜生も湯船につかりながら自分達の改良した山を見つめています。
「あとの問題は騒がしいアチラですか」
 乱が目配せをすると、淵斑、瓜生も頷きます。
「せーの」
 息を合わせて投げ込まれた桶に男湯は阿鼻叫喚となったのでした。