父と子と
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月21日〜01月26日
リプレイ公開日:2007年01月28日
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●オープニング
葦原辰一は夕日の沈む丘の上で一人静かに座っていました。横には大きな石があり、「辰五郎ここに眠る」と刻まれています。
「夕日はきれいだな、おっとー。人の住む世界とは大違いだ」
辰一は誰にというでもなく話しています。近くで鳶の鳴く音が聞こえてきました。
「俺ももちろん夕日の世界にはいけないんだけどな」
辰一は地面に大の字になり、全身で空気を受け止めます。寒いはずの空気がどことなく心地よさげに辰一の頬を撫でます。
「さてと、行くか」
けだるそうに、しかし各個たる決意を持って少年は立ち上がり父の墓標に別れを告げました。
「それじゃ行って来る。もし失敗したら、またあの世で稽古つけてくれ」
少年は自分の身体には不釣合いなほど大きな太刀を携え、京都の町へと降りていきます。
少年に京都の町の記憶はほとんどありません。あるのは2,3の強烈な画像。旅の途中で泊まった宿屋が何者かに襲われた画像、母が少年をかばい殺害される画像、父が泣きながら少年を担いで逃げた画像。どこをどう逃げたのかも少年の記憶の中では曖昧になっています。ただ父の死も宿屋襲撃の際に受けた傷が原因だと少年は薄々気付いていました。
町へ降りる途中、少年は1件の木こり小屋を訪ねました。
「おっちゃーん、いる?」
小屋の中にはいかにもたくましそうな男性がいました。しかし年には勝てないのか、所々白髪も混じっています。男は少年の井出達を見て、すべてを悟ります。
「そうか、いくのか」
「これだけは譲れないんだ。あと、今までありがとうございました」
少年は一礼し小屋を後にします。安藤恭一、少年にとって唯一の味方でした。時に食料を分けてもらい、時に共に狩りをし、そして父の墓作りを手伝ってくれた人物でもあります。
「これで思い残すことは無いな」
少年は山を降りていきます。15の夜のことでした。
●リプレイ本文
神島屋七之助(eb7816)は占い師に扮し辰一が来るのを待っていました。
「ここには来ると思うのですけど」
神島屋の選んだ場所は御所のそば、10年近く前のこととなると一人で調べるには辛いものがあります。そこで御所の図書寮を使うだろうとよんだのです。
「神島屋、あれじゃないかな?」
神島屋1人では見落とす可能性もあるのでハクオロゥ(eb5198)も客役を演じつつ一緒に探しています。こうすることによって辰一を探し、かつ他の客を寄せ付けないという作戦です。
「確かに不釣合いな刀ですね」
少年の身長は5尺ほどでしょうか、一方刀は3尺近くあります。3尺の刀は珍しいものではありませんが、あの少年には長すぎでしょう。現に少年の後ろには鞘が描いたと思われる軌跡が残っています。
「それじゃちょっくら行って来るよ」
ハクオロゥは席を立ち少年に聞こえるように言います。
「ありがとう、占い師の人。探し人が見つかったよ」
少年の目が光ります。つかつかと神島屋に近寄り、占いを頼みました。
神島屋とハクオロゥはアイコンタクトを交わし、ハクオロゥは頴娃文乃(eb6553)、風の鬼若(eb9217)の待つ寺へと向かいます。
一方神島屋は少年、辰一の話を聞きつつ説得を試みるのでした。
「説得はどうだった?」
頴娃の言葉に神島屋は首を横に振ります。
「意志が固いですね。まるで仇討ちのためだけに生きてきたかのようでした」
その言葉に鬼若も辛そうな表情です。
「何とかしてやりたいな」
「その通りです。御所での調べものが終ったら探し物が見つかるようにとここの寺で参拝することを勧めましたので来ると思いますよ」
神島屋もどことなく悔しそうな表情です。
「では一旦私は安藤さんに連絡してきます。あとはよろしく頼みますね」
「任せときな」
3人は神島屋を見送り、ハクオロゥは頴娃と鬼若に辰一の特徴を伝えるのでした。
辰一が寺を訪れたのは日の傾き始めた頃でした。
「あの子かな?」
「うん、彼が辰一だね」
頴娃はハクオロゥに確認した後、辰一に話しかけます。そばでは鬼若が寺男に扮し掃除に見せかけ聞き耳を立てていました。
「少年、何かあったのかな?随分思いつめた表情をしているようだけど。例えば何か『覚悟』を決めた人みたいに」
辰一は突然声をかけられて驚いたようでしたが、何か思いついたのか冷静を取り戻しました。
「さすがお寺だね。参拝に来る人の考えていることもお見通しなんて」
「そんなことはないよ。ただキミだけが一際目立っただけのこと」
頴娃の言葉を謙虚で信頼できるととらえたのか、辰一は仇討ちの話をし始めました。
少年の話に適度に相槌を打ちつつ頴娃は聞き役に徹しました。そして少年の話が終わった後、説得を試みます。
「でも血を地で贖うだけが全てじゃないよね。キミに父や安藤さんがいるように、相手にも家族がいるはずだよね?」
「そのとおりだと思う。だから相手の家族が俺を恨むのなら全員相手にするつもりだ」
頴娃の頭に神島屋の言葉が過ぎります。神島屋の言ったとおり、少年は仇討ちのためだけに生きているという印象です。自分の仇討ちだけではなく、相手の家族の仇討ちまで考えています。
「だったら何があっても生きなさいね。相手の家族のためにも」
辰一は頴娃に一礼し、本堂に向かいました。ハクオロゥが辰一の後を追います。
「どう思う?」
頴娃が鬼若に尋ねますが、鬼若は渋い表情をします。
「子供だけに情にかられて仇討ちに走ったかと思ったが、あれでは説得は難しいな」
「あたしも同感、仇討ちのアフターケアまで考えてるなんてさ」
ハクオロゥは辰一が宿をとったのを確認し、付近の宿をとりました。その後他の3人とも合流します。
「辰一はどこまで気付いているのかな」
「どうしたんだ?」
頴娃の独白に鬼若が反応します。
「なんであんな場所の宿屋をとったのかなと思ってね」
頴娃の言葉にハクオロゥも反応します。
「そういえばそうだなぁ。この宿屋、さっきの寺とも距離あるし」
「あの宿屋こそが辰一さんの母親が殺害された宿屋だそうです」
神島屋が言いますが、他の3人の顔には疑問符が浮かんでいます。
「何故知ってる?」
「安藤さんが教えてくださいましたよ」
神島屋が安藤に報告に行ったときに教えてくれたことでした。
「あの人も不思議な人だな。何でそこまで知ってるんだ?」
頴娃は更に疑問を感じます。
「辰一さんの父から聞いたそうですよ」
神島屋は答えました。安藤は狩りにでも行くのか青龍刀のような大きな刀を手入れしつつ答えたのを思い出します。
「それなら納得か」
鬼若はそう言うと寝床の準備を始めます。
「明日も早い、休めるときに休もう」
念のため見張りを1人常時置くことにして4人は休むことにしました。
翌朝、辰一は宿屋の主人と話して出発しました。
「特に変わったところはないよね?」
「何だか手紙もらっていたな。辰一の泊まっていた部屋に泊まると手紙がもらえるようだ」
ハクオロゥに鬼若が答えます。読唇術を使って宿屋主人と辰一の会話をよんだのでしょう。
「手紙?何なんだろうね?」
頴娃も疑問に感じます。
「では主人に話を聞いてみますか?部屋も見せてもらいたいですし」
そこでハクオロゥが尾行、頴娃が主人と交渉、神島屋と鬼若が部屋の検分に行くことにしました。
「なんだか物騒な部屋だな」
「そうですね」
辰一が泊まった部屋には刀傷とおぼしき傷跡がかなりの数にのぼります。
「いくつか大きな傷がありますね」
宿屋に強襲に来た所から考えると忍者だと考えていましたが、忍者の得物にしては大きすぎます。
「相手は何者なんでしょうか?」
「忍者だと思う。手裏剣の跡がある」
鬼若が指差します。そこには確かに手裏剣の刺さったと思われる跡があります。
「確かにおかしいな」
鬼若も言いますが、神島屋は別のことに引っかかります。そして気付きました。
「まずい、辰一さんがあぶない」
鬼若はあっけにとられますが、神島屋の様子は尋常ではありません。神島屋が外へ出るのについていきます。
外に出る途中、2人は頴娃に会います。どうやら主人との話しも終ったようです。主人にお礼を述べ、頴娃も2人の後を追います
「そっちは何か分かったの?」
頴娃は走りながら2人に話しかけます。
「私の予想ですが、安藤さんがまだ何か隠しています」
「安藤」というキーワードから鬼若は先ほどの宿屋で見た傷跡を思い出します。忍者らしからぬ傷、安藤の体格、辰一への態度、そして今回の依頼これらの内容から導き出される答えは1つです。
「今回の黒幕は安藤さんか?」
「まさか?」
頴娃は疑問の声をあげますが、どことなく感じる部分があるようです。
「とりあえず向かうことにしましょう。定時連絡もありますし」
安藤邸のそばまで来るとハクオロゥが居ます。
「3人ともどうしたの?」
ハクオロゥにはまだ全貌がわかりませんが、頴娃、神島屋、鬼若は頷きあいます。
「辰一さんが来たのはいつ頃?」
「ついさっきだけど・・」
ハクオロゥが答えるや否や3人は安藤邸へ入ろうとします。その時、安藤邸の玄関が開きます。急いで4人が隠れると中から武装した辰一と安藤が出てきました。
「どういうこと?」
状況の理解できないハクオロゥに3人は説明します。ハクオロゥの顔はどんどん青ざめていきます。
「つまり、安藤さんは辰一さんにとって仇でもあり、代理の父親でもあるってこと?」
「そういうことね、ちなみに手紙は辰一が泊まった部屋に初めて泊まった日本人に渡して欲しいと大柄な男に頼まれたと宿屋の主人は言ってたね」
「ちょ、ちょっとちょっと」
あまりにも目まぐるしく変わる状況にハクオロゥはついていけません。しかし4人の目の前で繰り広げられようとする死闘は止めなければならない気がします。
「まずは2人の戦い止めるよ」
ハクオロゥは今始まらんとする2人の戦いに割って入ります。矢を番え、間合いを計る2人の間に打ち込みました。
辰一と安藤の視線がハクオロゥに注がれます。
「ちょっと待ってよ、2人とも。何で2人が戦う必要があるのさ?」
ハクオロゥの叫びに安藤は構えていた青龍刀を下ろし、辰一の方を見ます。一方辰一は悔しそうな顔をしつつも目は真剣です。
「辰一さん、あなた何をしようとしているか分かってるの?」
煮え切らない辰一の態度に頴娃も飛び出します。
「安藤さんはあなたの第2の父親みたいなものだろう?」
神島屋と鬼若も姿を現します。
「あなたは安藤さんを殺してどうするつもりなのですか?」
「殺した罪に苛まれるのは自分だぞ」
辰一の顔が渋いものになります。そして何とか言葉を紡ぎ出します。
「それでもおっとーの仇を討ちたいんだ」
「それで父さんは喜ぶの?」
頴娃の言葉に辰一はさらに渋い顔です。
「喜ぶもなにも、あれは超えなきゃならない壁なんだ」
叫ぶや否や辰一は安藤に襲い掛かります。しかし鬼若がそれを食い止め、神島屋がスリープを詠唱します。鬼若が辰一を止めている間に詠唱は完了、無事眠りに陥れました。
ひとまず辰一を落ち着かせようという意味でスリープは効果的でした。眠った辰一を4人と安藤は辰一の父の墓標まで運びます。
「最後には父親の言葉を聞かせるべきでしょうね」
辰一を父親の墓標の前で下ろします。そのはずみで辰一が目覚めました。
「ここは・・」
そこまで言って辰一も気付きました。目の前に父の墓標があります。
「おっとー」
「父は何と言っている?」
鬼若の言葉に辰一は涙を流しながら答えます。
「安藤さんを許してほしい、と。そして安藤さんに息子が迷惑をかけた、と。」
丘の上では冬の太陽が6人を優しく包むのでした。