先祖の墓でつかまえて

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月04日

●オープニング

 京都外れの村、1組の夫婦が息子の無事を祈り神社にお参りに行っていました。
「私達の息子が無事京都にたどり着けますように」
 夫婦には子供を育てるだけの十分な蓄えがありませんでした。そこで息子を京都の町で大工をやっている知り合いに預けることにしたのでした。
 そんなある日、京都から文が届きました。文字のそれほど読めない夫婦は長老の家を訪ねることにしました。
「長老。御迷惑おかけしますが、この文を読んでいただけますか?」
「ふむ」
 長老は文を震える手で受け取り、そしてゆっくりと読み始めました。
「お前達、子供を京都に行かせたのかね?」
 父親は力なく頷きます。父親失格といわれた気がしたからでした。
「子供が京都についていないらしい」
 夫婦に衝撃が走ります。京都の町までは子供の足でも半日あれば届くはずです。やはり親失格なのかもしれません。
「ひょっとしたら先祖の墓に入ったのかもしれんのぅ」
「墓、ですか?」
 妻は聞き返しました。この村に来てまだ6年、詳しくは知らないからでした。
「この村には長老が代々入る墓がある。大した物は入っていないため墓泥棒はいないらしいのじゃが埴輪が住んどるらしい」
「埴輪、ですか」
「そう、埴輪じゃ」
「数は?」
「不明じゃ」
「私達にできることは何かありますか?」
「救援を呼ぶことじゃろうな」
 

●今回の参加者

 ea8595 甲賀 銀蔵(70歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb7152 鳴滝 風流斎(33歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9201 鳳 爛火(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb9215 雷 真水(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9829 神子岡 葵(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0300 アーク・ブライトアイ(22歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0923 飛鵡呂 京之介(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

大宗院 鳴(ea1569)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ カイト・マクミラン(eb7721)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814)/ ソフィーヤ・アレクサシェンコ(ec0910

●リプレイ本文

「人命救助でござるか。細心の注意が必要でござるな」
 甲賀銀蔵(ea8595)の呟きに答えるように鳴滝風流斎(eb7152)が言います。
「確かに厄介でござるな。埴輪もいるようでござるし」
「ではまず墓の場所や中の様子を長老に聞きにいきましょう」
 神島屋七之助(eb7816)が提案すると、神子岡葵(eb9829)も1つ提案します。
「悠太君の背丈や着ていた着物なども聞いておきたいですね」
「どちらも必要な情報ですね」
「だったら3人ずつで分かれるとしますか」
 鳳爛火(eb9201)、雷真水(eb9215)の発言を受けて、6人は班分けをしました。悠太を探し出す救出班が神島屋、鳳、神子岡の3人。墓を調べ、中で待ち構えていると思われる埴輪を陽動する陽動班として甲賀、鳴滝+ワン太夫、雷が担当することになりました。

 救出班は依頼人でもある悠太の両親の家を訪ねました。家では悠太の両親が冒険者の到着を今か今かと待ちわびていました。
「わざわざこんなところまでありがとうございます」
 両親はお茶を出そうとしますが、鳳がやんわりと断りました。
「時間が無いのでしょう?早速で申し訳ありませんが本題にうつりましょう」
 この言葉に両親は落ち着きを取り戻したようです。
「何からお話したら言いのでしょう?」
「ではまず、悠太君の身長や服装を教えていただけますか?」
 神島屋の言葉に両親は頷いて、1着の着物を持ってきました。青のなかなか立派な着物です。しかしところどころ切り抜かれています。
「これは?」
 神子岡が聞きましたが、着物をよく見ると分かりました。切り抜かれている部分をまとめていくと小さな着物が作れそうです。
「これを手直しされたんですね?」
 神子岡が言い直すと両親は頷きます。
「えぇ、私が昔着ていたものです。妻に手直ししてもらいました」
「それがこんなことになるなんて」
 父親の方は何とか威厳を保とうとしていますが、母親の方は泣き崩れています。
「この着物お借りしてもよろしいですか?他の仲間にも見せたいですし」
 鳳の申し出に両親は頷きます。
「大丈夫です。お子様の死装束にはさせませんから」
 こうして救出班は家を後にしたのでした。

 その頃、陽動班は長老の家を訪ねていました。中では長老の他、何人かの老人が集まっていました。
「我らに聞きたいことがあるのじゃろう?答えられる限りのことは答えよう」
 鳴滝は忍び笑いをします。長老の相手をするのは意外と疲れ・・いや、難儀するものだと考えていたからです。
「埴輪の弁償も依頼内容でござるしな」
 長老に聞こえないように言うと、雷も声を出さずに笑います。しかし甲賀は笑いません。甲賀にとって、笑うのを耐えることも修行だからです。
「墓の地図などはござろうか?」
 甲賀の言葉に老人達は首を横に振ります。
「墓の場所の地図はありますが、中の地図はありません」
「墓荒らしを防ぐためってことかい?随分厳重だね」
 雷の言葉を聞き流し、長老は続けます。
「先祖の霊を守るため、出ることは考えられていないのだ」
「つまり死ぬために入る墓だということでござろうか?」
 老人達は頷きます。
「中での世話は埴輪がすることになっているらしい。詳しいことはワシも知らんのじゃ」
「では埴輪の数も?」
「うむ、知らん」
 だったら壊した埴輪の数もばれないのではござろうか、と考えた鳴滝なのでした。

 お互いの情報交換を終了後、冒険者達は長老の地図を元に墓の場所まで行きました。墓は思ったより簡単に見つかります。古墳のようです。
 墓に入る前、甲賀が何かを探し始めました。鳴滝も続きます。疑問に思った神子岡が2人に尋ねました。
「何を探ししているのです?」
「子供の足跡です」
「悠太君がここに入ったという確証は無いでござるしな」
 そう話しているうちに甲賀が足跡を発見しました。
「これで確定ってやつね」
「では扉を開けましょう」
 鳳の言葉に6人は墓の扉に手をかけます。扉は思ったよりすんなりと開きました。
「意外とあっけなかったですね」
 神島屋が呟きます。それは皆同意のようです。
「では行くとしましょ」
 雷が1歩前に出ます。それに甲賀と鳴滝も続きました。
「私達陽動班が先に侵入するでござる。救出の方よろしくお願いするでござる」
 甲賀が松明に火をつけます。餞別と言って長老が渡してくれた松明でした。
「そちらもよろしくお願いします」
 神島屋は言うと両親から預かってきた生地を渡しました。
「その生地から悠太君の着物を作ったそうです。採寸などもしたでしょうから悠太君の匂いもついているでしょう」
 鳴滝は生地を受け取り、ペットのワン太夫に匂いを覚えさせ、中に入っていきました。 

 陽動班が進入して数分後、救出班も墓の中に入っていきました。中は閉め切っていたせいかかなり埃っぽく、また狭いものでした。神島屋がランタンを持ち先頭に立ち、神子岡、鳳と続きます。
「陽動班はうまくやってくれているんでしょうか」
 神島屋は言いますが神子岡も鳳も分かりません。
「埴輪には遭遇していないので上手くいるのじゃないかしら?」
 神子岡はいいますがどこと無く残念そうです。
 しばらくいくと分かれ道がありました。神子岡はブレスセンサーを唱えます。
「右に3つ、左に1つですね」
「ならば左に行くべきでしょうね。右側は陽動班でしょう」
 鳳の判断に3人は同意、右に曲がります。神島屋がテレパシーを試みようとしますがどうやら必要なさそうです。しばらく行くとそこには悠太君らしい人物を発見しました。
「悠太君だね?お父さんとお母さんが心配していたよ」 
 神島屋が手を差し出すと、悠太は手を取り立ち上がります。
「助けに来たよ。大丈夫?動けるかな?」
 そういいながら鳳は悠太の着物についた埃をはたいてあげます。
「大丈夫、じゃないと思う。予定通りに京都につけなかったし」
 神子岡は悠太にポーションを差し出します。
「まずは自分の怪我を心配してね」
 悠太はポーションを受け取ると一気に飲み干しました。怪我をしていたというより、喉が渇いていたのでしょう。
「ところで、埴輪って見なかった?」
 神子岡は興味津々でききます。悠太が地面を指差しました。そこには焼き物の破片のようなものがあります。
「埴輪かどうかわかんないけど、上から降ってきたよ」
 3人が上を見ると、小型の埴輪が降ってきました。
「伏せて」
 神島屋が言うより先に埴輪の割れる音が響きます。
「弁償・・仕方ないですね」
 鳳は残念そうに言います。神島屋は陽動班とテレパシーを試みます。そして神子岡は不信な音を聞きました。
「なんだか物音が聞こえません?足音というより物と物がぶつかり合うような音・・」
 神子岡が奥を指差すと、数体の埴輪がやってきたのでした。
「ここは一旦撤退して陽動班と合流しましょう」
 神島屋が言います。どうやら陽動班もそれほど遠くない位置にいるようです。鳳が悠太を連れて、神島屋が埴輪の破片を回収しながら、神子岡が動く埴輪に未練を持ちながら撤退するのでした。

 神島屋のテレパシーを受けて陽動班も脱出を試みます。しかし前も後ろも埴輪に挟まれていました。
「絶体絶命でござるな」
「とはいいつつ楽しんではござらぬか?」
 甲賀の言葉に鳴滝は言葉を挟みます。壊してはいけないといいつつ埴輪を壊しているのです。
「先ほどまでのおまえらしくないじゃん?ここに来る前に何か変なまじないでもされたんじゃねーの?」
 甲賀は大宗院鳴(ea1569)の顔をふと思い浮かべましたが、すぐに打ち消しました。
「これも修行でござろう」
 確かに修行かもしれません。忍者という職業上、頭上から埴輪が降ってきたり、不意打ちで埴輪が体当たりしてきたりしても見事な回避を見せました。
 しかし、その結果あるのが足元の破片です。
「まぁ仕方無いじゃん。不可抗力ってやつだし」
「そうでござるな。目的を達成したら、それ以上を望まないのが成功の秘訣でござる」
 ワン太夫も一声鳴きます。主人に同意しているのでしょう。
「それじゃ強行突破と行きますか」
 雷は鉄扇を取り出し、出口へ駆けて行きます。甲賀、鳴滝もあとに続くのでした。 
 
  脱出した冒険者達はひとまず村に戻り、翌日再び墓を訪れていました。破壊した埴輪の補充のためです。
「やはり、老体に依頼はきついでござる。まだまだ、修業が必要でござるな」
 甲賀がいいますが、悠太がフォローします。
「でもおじいちゃんいなかったら僕死んでたかもよ?」
「悠太殿の場合、無茶が過ぎるでござる。積極的に行動する事は悪いことではないが、己の実力にあった行動をしないことは愚かなことでござる。もっと修業をすることを薦めるでござる」
 村に戻った冒険者達は追加でいくつか依頼を受けました。1つは埴輪の補充、2つ目に墓掃除と参拝、最後に悠太の京都までの護衛でした。
「埴輪の数も思ったより少なかったので良かったでござる」
 ゴールド・ストーム(ea3785)、ソフィーヤ・アレクサシェンコ(ec0910)が埴輪を安く仕入れていてくれたおかげで大事には至りませんでした。
「破壊した埴輪も村に持ち帰りましたからね。長老が何とかしてくれるでしょう」
「そうですね、これで万事解決です」
 冒険者達は墓にお参りをして去ろうとしますが、神子岡がなかなか動こうとはしません。
「神子岡?おまえ忘れ物でもしたか?」
 雷の問いに我を取り戻した神子岡はいきなり先頭に立ってその場から離れようとします。
「さっさと、ここを離れるわよ」
 しかし内心は何とか1家に1体埴輪をおきたいと妄想をかきたてているのでした。