山賊親分の墓作り
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月28日〜02月02日
リプレイ公開日:2007年02月05日
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●オープニング
「ワシはもう終わりのようじゃ。金治、銀二、後はよろしく頼む」
「おやかたーっ」
「まだ行かないでくれー」
そんな2人の叫びはもう親方には届きませんでした。狭い室内には二人の嗚咽が響きました。
2人が親方の寝室を出ると、10数名の子分達が兄者の登場を待ちわびていました。
「兄者達、親方は?」
「親方は無事で?」
金治と銀二は首を横に振ります。山賊の住処である洞穴全体に山賊達の嗚咽が響きました。その様子を見て金治銀二はもう泣くまいと決めたのでした。
翌日、金治銀二は子分達に親方の墓を作ることを宣言しました。
「さすがじゃ兄者達」
「今までに無い墓を作ってやるのじゃ」
子分達は異様な盛り上がりを見せます。親方に命を救われた子分達は今こそ自分達のやるべきことを見つけたかのように興奮しております。
「そこでだ、弟者達よ」
金治と銀二が子分達に呼びかけます。
「墓の作り方を知っているものは前に進み出てくれ」
子分達の興奮が一気に冷めました。誰も前に出ようとはしません。
金治と銀二も苦い顔をします。彼らはこの事態を予想していました。彼らの多くは戦乱等で親を失った孤児だからです。世間というものを知らないのでした。彼らの辞書にある言葉は仁義のみです。
「それではお前達、悪いがカンパを頼む。知り合いの墓職人を呼んでくる予定だ」
金治と銀二は子分達の前で頭を下げました。子分達は申し訳なさそうにしています。
「兄者達、頭を上げてください。兄者達に頭下げられては我らは、我らは・・」
子分達は一斉に泣き出しました。
「我らの蓄えをすべて出します。最高の墓をつくりましょうぞ」
山賊達は固く握手するのでした。
●リプレイ本文
「ではまず・・死者を埋葬・・しましょう」
日向陽照(eb3619)は僧侶ということもあって葬儀の指導をします。金治、銀二が代表して親方を抱えて山を登ります。
「まあ、その前に亡骸のお清めをしてあげようかね〜」
トマス・ウェスト(ea8714)はピュアリファイを唱えます。
「死者に対する餞だ〜。そんなに気にするな〜」
「はっ、ドクター。ありがとうございます」
「気にするな〜。ところで何人か人を貸してもらえないか〜」
「苗木を運ぶのですね」
トマスのペット、鈍器丸の背には若々しい苗木が積まれています。金治、銀二は子分を手配して苗木を運ばせます。
「結構な苗木をありがとうございます」
「親方も喜ぶはずです」
金治、銀二は男泣きをみせますが、トマスは気にした様子もなく言いました。
「君たちが雨風から凌いでこれたのも親分君のおかげだろう〜。ならば恩人の墓を野ざらしには出来ないね〜。墓を社で囲ってしまってはどうだろう〜」
日向もトマスの方を向いてにたーりと笑います。山全体を墓にするという案に納得しているのでしょう。
「・・・死者を丁重に弔うつもりなら・・・・形より誠意を・・・」
「もちろんですじゃ」
「我々は一生この墓を守っていくのじゃ」
こうして埋葬は滞りなく済んだのでした。
「さて次は墓作りだな」
田崎蘭(ea0264)は日向とラスティ・コンバラリア(eb2363)を呼び集めます。
「埋葬までは済んだことだし、次は本格的に社作りと行こうか」
3人は知識を総動員させ図面を引きます。石材工作の不得手さや建築に関しても素人であることからかなり辛いものになりそうです。
「ひとまずはこんなもので良いのではないでしょうか」
ラスティが言います。言葉だけを取ると侮辱のようにも聞こえますが、2人はラスティの真意を把握します。
「・・問題は形よりも誠意・・これから子分達が作り上げられるように・・余地を残してあげるべき」
田崎、ラスティも頷きます。きっと子分の誰かが設計士になってくれるだろうという期待を込めていました。
そこにロイドがやってきます。
「1つ提案があるんですがいいです?」
ロイド・リーゲス(eb9690)は三下口調で3人の出方を伺います。
「なんだ?墓作りの提案か」
田崎がロイドに話を促します。
「個人的な意見で申し訳ないんですが、あまり社を豪勢にしないほうがいいかと思うんですよ」
ラスティと日向もロイドを不思議そうな顔で見つめます。
「理由をお聞かせて願えますか?」
ロイドは植物知識を活かし、苗木の育て方を説明しました。
「周りを石で固めすぎると日照的によろしくないんですよ」
ロイドの言うことは尤もです。今はまだ小さな苗木の状態でも、大きく育った樹木の状態でも日の光が届くようにしなければなりません。
「・・もう一度考え直しますか」
田崎はどぶろくを取り出し、口にします。あたりはいつしか夜になり冷え込んできました。
「冷えてきたけど、もうちょっと頑張りますか」
4人の話し合いは深夜まで及びました。
翌日から本格的な墓作りが始まりました。トマス、日向、ロイドが整地を指揮、ラスティが測量の仕方を指導、田崎が山で木材調達、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は川原で石材回収に向かいます。
その中でも問題になったのは木材と石材の調達でした。墓を作るためにそれなりの数の木材、石材が必要なわけですが、山賊である彼らは本格的な材料集めをしたことはなかったからです。
ラスティはこうなることを事前に予想し、必要な長さのロープを準備しておきました。こうすることで随分と手間が省けます。また準備する段階でも何人かの山賊を集め、どうやって長さを測ったのかを教えていきました。こうすることによって、もしロープが切れてしまった場合も自分達で対処できるようにしておきたかったからです。
現に調達に行く段階で、ラスティが作ったロープは山賊たちの手によって何本か複製されていました。自分達で考えて最善の策をとったのでしょう。
しかし求められている材料を探すこと、切り出すこと、運ぶことはまた別の問題でした。
木材に関しては長さ、太さだけではなく、年輪の多さや保存状態も関係していきます。長さや太さだけなら外見から判断できますが、年輪の状態となるとある程度知識が必要になります。田崎は雑学知識を働かせながら一本一本の木を見極め、よさげな木を山賊たちに切らせていきます。
「よーし、そこだ。鋸班、切り方始め」
木材回収班は、防寒具さえ身に纏わずどぶろく1本で寒さをしのぐ田崎の強さに子分達はいつしか心酔していました。
「ほら、切り方まじめにやりな。日が暮れちまうよ」
鋸班が木を切っている間、他の子分達が木を運びます。今回はそれなりの数の丸太が必要になるため切る方だけではなく、運ぶほうも一苦労です。
ラスティもロバのディンガで運ぶのを手伝いますが、予定通りに運び終わるのはやはり日が暮れる頃でした。
「お疲れ。でもこれぐらいでくたばったら親方に申し訳ないんじゃないの」
労いをしつつ檄を飛ばす。田崎はアメと鞭を見事に使い分けていました。
一方の石材回収班もシルフィリアが投げキッスを使いながら子分でもを奮い立たせます。
「ほらほら、親方の恩に報いたいんだろ。もう一働きしようじゃねーか」
「姐さん、了解です」
いつしかシルフィリアはシル姐さんと呼ばれていました。
川原で磨かれた石や使えそうな大き目の石を見つけては子分を呼び、子分の手際のよさを見極めていました。
「何人か目ぼしいのがいるねぇ。他の冒険者とも相談して職人にしてあげるか」
中には呼ばれてもいないのに石を勝手に持ってくる者、それとなく自分をアピールする者もいます。そして墓にふさわしい石を探し出してくるものまでいました。シルフィリアは子分達の将来を考えると自然と笑みがこぼれるのでした。
日程的な問題もあり、社は東屋のようなものになりました。山の休憩場所でもあり、木々の生育も妨げないという皆の意見をまとめた形のものです。
日向が法要をしめやかに行います。金治、銀二を始めすべての子分が参列、親方に対して最後の別れを告げました。
「これだけの人数食わしていくのに已むに已まれずの山賊業だから、無闇に人を傷つけるような事はしようとしなかったんだってね」
シルフィリアが呟きます。何とはなしに葬儀を見守っていた田崎が答えます。
「皆これからはまっとうな職につきたいみたいだしな。何人か舎弟にしようかとも考えているよ」
「あたいも何人かチェック済みだよ」
2人は緊張感漂う笑みを浮かべます。隣ではロイドが墓の出来に満足していました。
葬儀が終るとトマスが山賊たちに語りかけます。
「山自体を大きな墓所と考えれば、これほど立派な墓はないだろう〜。この親分君の山で血を流させるのはどうかと思うから、君たちが余計な争いを起こさないよう山道を見張っていくことだ〜。君たちはこの立派な墓の墓守なのだ〜」
「ドクター」
こうして子分達はドクターを敬愛するのでした。そして1人の子分が言います。「ギターが似合いそうな御仁だ」と。
その後、何人かが山を降りるということで金治、銀二が送別会も兼ねて軽い酒の席を設けました。
田崎のきっぷのよさにしびれ、トマスの話に耳を傾け、ラスティの三味線に心洗われ、シルフィリアの様子に惑わされ、日向と今後のことを相談し、ロイドと苗木の話に花を咲かせました。
そして何人かの者が金治、銀二に挨拶をしていきます。シルフィリアの説得もあり、新たに山を降りると決意した者達でした。
そこで金治、銀二は日向との相談の上で来年のこの日にまた集合をかけることにしました。
「お前達の気持ちは良く分かった。設計図を描きたいもの、測量士を志すもの、石工、木工、樹医いろいろいるようだ。ちなみに俺、金治は僧侶になる。銀二は猟師となり山に歩道をかけるつもりのようだ。だから皆のもの、1年後、また集まって更なる墓作りを続けようぞ」
冒険者達の耳にはいつまでも金治の言葉が響くのでした。