囚われの盲目少年
|
■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月30日〜02月04日
リプレイ公開日:2007年02月07日
|
●オープニング
「お姉さん、誰?」
京都郊外の長屋に1組の親子が住んでいました。しかし母親はすでに他界、子供は先天的に盲目です。盲目ということで少年は基本的に家から出られません。そんな家の中で少年は普段感じない人の気配を感じました。今父親は外出しています。それに何となく女性の様な気がします。目の見えない少年は手探りで女性の居場所を探し出しました。
「お姉さん、何しに来たの?ここには僕以外誰もいないよ?」
それでも女性は答えません。
「あ、分かった。新しいお医者さんだね。よろしくお願いします」
少年は女性がいると感じた場所に一礼します。少年にとって医者は身近な存在でした。母親の分まで幸せになってもらいたいと考えた父親は何とか少年の目を治せるように八方手を尽くしているからです。
女性は困惑した表情を見せ思わず、少年に対し手を差し出します。
気配を感じた少年は差し出された手を強く握り締めました。
「握手だね」
女性の手を少年は両手で握り締めます。すると何故か泣き出してしまいました。
「お姉さんの手、まるでお母さんの手みたいだよ」
少年は3年前に母親を病気で亡くしました。当時から目の見えなかった少年にとって母親の思い出は母親の手そのものでした。床に伏せった状態で差し出された母親の手を少年は毎日のように握り締めていました。母親が他界した後も父親に止められるまで手を握り締めていました。
「お姉さんのこと、母さんって呼んでもいい?」
返事はやはりありませんでした。
そこに父親が帰ってきました。
「おーい、小助。誰か来てるのか?」
「あ、うん。新しいお医者様だよ」
父親は不審に思います。そこには確かに女性がいました。しかし糸を吐いています。人間ではありません。
「どうしたの、お父さん?きちんと挨拶しなきゃ」
「あぁそうだな」
表面上は冷静を装いつつも父、大作の心は困惑を極めていました。
●リプレイ本文
「どうぞよろしくおねがいします」
大作はそういうしかなかった。小助は女郎蜘蛛を医者だと信じ、母親の面影を感じています。目が見えていないから、といえばそれまででしょうが、小助の目は見えない以上仕方ないというべきなのでしょう。
冒険者達としては小助は助けたい、しかし戦闘には合わせたくない、そして小助の思い出を潰したくはない。かなり複雑な状況に立たされていました。
「まずは女郎蜘蛛と話してみますか」
宿奈芳純(eb5475)はテレパシーの詠唱に入ります。
「最悪即戦闘になるかもしれませんね」
クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)は弓を構え、ユナ・クランティ(eb2898)はスクロールを広げ、西天聖(eb3402)はオーラパワーの準備に入ります。
瓜生ひむか(eb1872)は小助の気を紛らわせるためにも落ち着かせるためにもテレパシーをすべきと判断し、詠唱を開始しました。
大作は戦闘に巻き込まれないよう離れたところで息子の動向を見守ることにしました。
「まあ、とりあえず小助さんが女郎蜘蛛に食われる、という事態だけは避けてみましょう」
宿奈の交渉が始まりました。
「あなたはその少年をどうするつもりですか?」
女郎蜘蛛はそう驚いた様子もなく、宿奈と交信します。
「血をいただく」
女郎蜘蛛は更に糸を吐き出し冒険者達を威嚇します。近づけないようにするつもりでしょう。
「ならば私の血をあげます」
宿奈も譲歩の様子を見せます。最悪スリープを使ってでも女郎蜘蛛を小助から引き離すつもりですが、女郎蜘蛛の油断が誘えれば何よりです。
「では両方いただく」
「子供の血の方がおいしいでしょう?先に私から食べてはどうでしょう」
宿奈に血の味はわかりませんし、飲み比べたこともありません。しかし、ここはカマをかけてみました。
「それもそうじゃな」
女郎蜘蛛は納得したのか宿奈に近寄ってきます。冒険者達はやったと思いましたが、女郎蜘蛛も一筋縄ではいきません。小助に糸を巻きつけて逃げられないようにしたのでした。
女郎蜘蛛が家から出ると瓜生はストーンウォールのスクロールを開いて念じ、女郎蜘蛛と小助の間に壁を作ります。瓜生はそのまま小助を救助しようとしますが、糸はかなりきつくなかなか解けません。小助は苦しそうにしています。
瓜生は小助とテレパシーで話をします。普通の会話は出来そうにない小助でしたが、テレパシーには答えます。
「お姉さんはだれ?さっきのお医者様のお手伝いさん?」
多少困惑した瓜生でしたが、これはある意味好都合かもしれません。小助の話に合わせる事にしました。念のため香を焚き染めておきます。
「お姉さんも何だか懐かしい感じがするね」
小助はやっと開放された右腕を瓜生に差し出します。瓜生はその手を強く握り締め、糸が解けるまで離さないのでした。
女郎蜘蛛はストーンウォールの様子を見て怒り狂っています。どうやら自分が騙されたと感じたのでしょう。標的を宿奈に定め、糸を吐きます。
何の武器も持たない宿奈に糸の防ぎようはありません。そこでオーラエリベーションも発動させた西天が割って入り、オーラパワーを纏わせた小太刀で糸を断ち切ります。
「悪いがしばらく眠ってもらいたいのじゃ」
西天が攻撃に転じようとしますが、既にその場所にいません。
「西天さん、上です」
ユナの声に西天は上を見ます。そこには女郎蜘蛛が舞っていました。手足を完全に伸ばし、10m近い全長を活かして西天に襲い掛かります。さすがに逃げようとしても女郎蜘蛛の長い手足からは逃げられそうにもありません。
「伏せろ」
クリスティーナの矢が女郎蜘蛛を襲います。シューティングPAEXで放った矢が女郎蜘蛛の目の1つを潰します。女郎蜘蛛は何とか着地をしますが、同時に西天を襲うことまではできません。着地で一瞬硬直するところをユナがマグナブローで狙い撃ちします。そこに西天が追い討ちをかけます。
「無駄な殺生はしたくないのじゃ。小助殿のこともある。ここは引いてくれぬじゃろうか?」
西天は交渉を望みました。宿奈にテレパシーで伝えてもらいます。
「小助の半径200m以内に入らなければ見逃そう」
クリスティーナも条件をつけます。それも宿奈に伝えてもらいます。
一方ユナはシャドウバインディングのスクロールを使って女郎蜘蛛の動きを封じます。念のためクリスティーナが弓を、西天が剣を構えています。交渉というより脅迫に近いところもありますが、仕方ないでしょう。
「こちらの条件は以上です。どうでしょう?」
宿奈は女郎蜘蛛を見ます。1つの目をやられ、動きを封じられた女郎蜘蛛に抵抗する余地はありません。素直に条件を飲もうとするとき、制限されていた動きが一瞬緩みました。これを好機と見た女郎蜘蛛は動きを封じていた原因と見えるユナに糸を吐きます。油断していた冒険者達は阻止する術がありませんでした。
「しまっ・・」
気付いたときにはユナは糸に巻かれていました。縛られながらもふと空が見えます。太陽が雲に隠れていました。
「あれのせいなのですね」
しかし恨み言を言っても始まりません。西天が糸を切りますが、その間蜘蛛は逃げ出します。クリスティーナがダブルシューティングEXを使い、宿奈がムーンアローを発動させ、女郎蜘蛛の足を鈍らせます。その間糸を切ってもらったユナがスリープのスクロールを使用。見事女郎蜘蛛の動きを止めたのでした。
すべてが終わった頃、瓜生が戻ってきました。
「ごめんなさい、まかせっきりにしてしまって」
「思ったより大丈夫だ。そちらはどうだ?」
クリスティーナの返事に瓜生は大作の長屋を指差します。
「疲れちゃって寝ちゃったみたいです。糸は全部解きましたし無事みたいですよ」
「それは何よりです」
実際に糸に巻かれたユナの言葉には重みがありました。
「とりあえずこの女郎蜘蛛は私と宿奈で処分しましょう」
西天は言いますが、声のトーンが落ちていました。
「小助殿の方、よろしくお願いします」
宿奈は西天と厳重に縛られた女郎蜘蛛を運んでいきます。
「さて、小助さんをどうしましょうか」
ユナは言いますが、困った表情をしています。いい案が浮かばないのでしょう。
「今寝ているんだろ?寝ているのをわざわざ起こすのは無理というか無茶というか無策というか無謀というか」
自分のことを棚にあげてクリスティーナも思案顔です。
「では置手紙にしましょうか。私が香を焚き染めましょう」
そこで3人は文面を考え、瓜生が香を焚き染めたのでした。
小助が起きたのは冒険者が帰った後でした。大作が小助に手紙を読んで聞かせ、小助はその手紙を宝物にしたのでした。