迷え!!大捜査線

■ショートシナリオ&プロモート


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2006年11月24日

●オープニング

京都近郊の村の村長宅に一人の青年が転がり込んできた。
「村長、大変です、鼓がなくなっています」
「なに、そんな馬鹿な事があるか。あの鼓は村の御神宝だぞ。あれが無くては村祭りが出来んでは無いか」
「おっしゃることはごもっともですが、無いものは無いのでして。神社の方までご足労願えますか?」
 1週間後に控えた村祭り、いわば収穫祭に向けて村の者は準備を始めていた。料理の材料を揃えようとするもの、踊りの練習をするもの、楽器の練習をするもの、それぞれ自分の役割を果たすために頑張っていた。そして鼓を担当しているのが村長宅を訪れた村長の息子、平一郎という男だった。

 2人が祭りの会場でもある神社に来ると、確かに誰かが侵入したであろう足跡がいくつか残っている。本殿の扉も開いた状態だ。2人が恐る恐る本殿に足を踏み入れると祭り上げられている御神宝の箱が空いており、中に入っているはずの鼓が無くなっていた。村長は崩れるように倒れこんだ。

 平一郎は父である村長の看護に専念、何人かの友人を集め犯人捜索を依頼した。村のみんなに心配をかけたくないということで鼓が無くなったこと、村長が倒れたことは口外無用ということにしてもらった。捜査は足跡追跡から開始、人数は大人で2,3名、村はずれの森へと続いていた。
「あの森は村人なら誰も近づかない迷いの森だろ?」
「とかいいつつお前、ガキの頃入ったじゃないか?」
「入ったことは入ったんだけど追い出されたんだよ」
「誰が追い出すんだよ?誰も住んでないはずだぞ」
「でっかい木のバケモンだった気がするんだよ。用件を聞かれて遊びに来たと答えたら怒られたんだ」
 友人達からの報告を受け平一郎が考え込んでいると、村長が目を覚ました。平一郎が捜査状況を伝えると村長の顔がみるみると赤くなっていく。
「早く犯人をひっとらえい。犯人は鼓の価値を知っており、あの森には村人は誰も近づかぬと知っている人物、つまりこの村の者かこの村の出身者だろう。犯人を見つけ次第打ち首にしてくれる」
「ちょっと、村長。いきなり打ち首はやりすぎ‥‥」
「知らんわ、そんなもん。村の者が犯人ならば、ワシは切腹ものじゃぞ。ワシが死ぬのに、犯人が死なないとはおかしいではないか」
「まだ村長の切腹も決まったわけじゃないでしょ。それより誰が迷いの森に入りましょう?村人は誰も入りたがろうとしませんが」
「冒険者に頼むという手があるぞ」

●今回の参加者

 eb4548 村上 惟柾(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6467 立夏 洋平(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb8618 ラファエル・クリストファー(22歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9106 残月 亨(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 鼓が無くなって数日経ったある日の夜、長老の息子、平一郎からの依頼を受け3人の冒険者が村長宅に集まった。
 捜査に協力できるようにと平一郎の友人も集まっている。しかし村長の姿は無かった。
 平一郎が冒険者に村まで来てくださったねぎらいと事件の概要を説明した。
「‥といった感じです」
 残月亨(eb9106)は腕組みをし考え、一つの疑問を発した。
「迷いの森というのは具体的にはどのようなものでしょう?」
「それが判っていれば自分達で何とかしてるって」
 平一郎の友人の一人が答えた。言葉には棘が含まれている。目で平一郎が制した。
「申し訳ありません。自分達がしでかした不始末を他人様にお願いすることに皆多少の不満を感じています。加えて祭りの日までそれほど時間があるわけでもありません。焦りも感じているのです」
「では迷いの森にどのような生物が住んでいるか噂程度でもいいので聞いたことがある方はいらっしゃいませんか?」
 立夏洋平(eb6467)は相手の感情を逆撫でないよう言葉を選びつつ話しかけた。
 すると、一人の青年が恐る恐る話をしてくれた。
「噂っていうより死んだ爺さんの話なんだが、それでもいいか?」
 洋平は無言で頷く。周りのものも青年の話に耳をそばだてた。
「俺がガキの頃、爺さんがあの森について話してくれた事がある。なんでも爺さんが若い頃に入ろうとしたことがあるらしいんだ。日照りの年だったらしく、作物も不作で食べるものが無かった。そこで森の中なら何か食い物があるだろうと入ったらしい」
 青年は一区切りいれて再び話し始めた。どことなく怪談話をしているような不思議な雰囲気になっていた。
「今思えば爺さんが何を目当てにしていたのかは分からない。木の実や果物だったのか、それとも動物の肉だったのか。とにかく爺さんは森に入ろうとした。そして奥に行こうとすると何故か森の入り口に戻されてしまったらしい」
「父の話では飢饉の時には今までに何人かの人が森に入ったようです。みなさん似たような感じで入り口に戻されてしまうようですが」
 平一郎が付け加えた。
「木魂ですかね」
 残月がつぶやいた。村上惟柾(eb4548)も神妙に頷く。
「あの森はいつ頃から迷いの森と呼ばれたのですか?」
 残月は自分の答えの確証を得たかった。木魂が関わってくるとなると多少面倒なことになると判断したからだ。
「俺の死んだ爺さんが若い頃にはもう迷いの森と呼ばれていたらしい。少なく見積もっても5、60年前からは呼ばれていたと思う」
 残月は自分のモンスター知識をフル稼働させた。村上も植物知識を反芻した。木魂ことトレントは樹齢100年を超える木々が知性を持ったもの、存在していてもおかしくは無い。立夏が不安そうな表情で2人を見つめた。
「何か困ったことでもあるのですか?それとも犯人の狙いでも判ったのですか?」
「前者ですね。木魂は森への侵入者を拒みます。私達が森に入られるかどうかという問題があります」
 残月の言葉に村上が付け加えた。
「もう一つ疑問があるのじゃが、何故犯人達は森へ侵入できたんじゃろう?もちろん森の中で迷っている可能性もあるとは思うが」
 3人は考えたが犯人の目星も立たない。実際に森に行ってみるしかないだろうという結論に達した。最後に平一郎から鼓の特徴を教えてもらい、その場はお開きとなった。

 翌朝、馬を平一郎に一時預け、非常食など足りないものを補充し3人は森へ向かった。確認することは3つ、?犯人はまだ森にいるのか ?森はどの程度の広さなのか ?犯人はまだ鼓を持っているのか の3点。村上がサンワードで?を確認、他の2人で犯人の足跡の確認しつつ?と?の確認を行った。
 日が一番高くなる頃、1度3人は集まり意見を交換することにした。まずは村上のサンワードの結果だが、はっきりしたことは言えなかった。
「思ったより森が深くてのう。日の光が届かない場所が多いようじゃ。この森にはいるようじゃが、だいたいの場所までしか特定できんかった」
 とりあえず目的の鼓は森の中にはあるらしい。それだけでも十分状況は進展している。次に足跡追跡の結果なのだが、こちらもはっきりとしたことは言えなかった。時間が経っているため、足跡が残っていなかったのだ。
 実際に森に入って確かめるしかない。
 3人は筆記用具等を準備し、森へと入っていった。

 森の中は想像通り視界が悪かった。そこで忍び歩きが出来、土地勘のある村上が前衛に、次に残月、殿に防御力には自信がある立夏が立つことにした。アニマルなどに奇襲を受けないよう用心しつつ、かつ迷わないように目印をつけつつ地図を描いていくのは思った以上に重労働だった。
 しかし何度か目印をつけた場所に戻りつつも何とか前進しているらしいということが唯一の救いとも言える。しかし無理は禁物ということで早めに寝ることにした。

 夜は何事も無く過ぎていった。多少拍子抜けした感はあるが、無駄に体力を消耗する必要が無かったのは幸運でもあった。
「木魂に受け入れられたのでしょうか?」
 残月は疑問を口にする。目標には近づいていると思われるし、アニマルに襲われることも無かった。ひとまずは受け入れられていると考えてもいいだろう。
「今は受け入れられている、と考えた方がいいでしょうね。鼓を回収した後、長居をするようならわかりませんが」
 立夏はそう口にした。あくまで犯人逮捕という条件のもと、木魂に受け入れられているという考えだった。

 しばらく進むと物音が聞こえ始めた。鼓を叩いている音だった。犯人達のものだろう。
「では偵察に行ってまいります。みなさんはここで準備をお願いします」
 村上はそう言うとインビジブルの詠唱に入った。透明になって敵の動向を探り、隙あらば奇襲をかけるという作戦だ。
 5分後、村上が戻ってくる。鼓の音はまだあたりに響いていた。
「犯人と思われるものたちを見つけたんじゃが‥‥奴らは一体何をしたいのじゃろう?」
 村上にはよく分からないといった感じだった。
「具体的に犯人は何をしていたのですか?」
 残月が助け舟を出す。
「主犯格だと思われるものが鼓を叩いておった。今でも音が聞こえるじゃろう?多分本人は演奏のつもりなんじゃろうて」
「森の中で鼓の練習していると?」
 今度は立夏が口を挟んだ。
「練習といえば練習なんじゃろうが、今度の祭りでは鼓は平一郎殿が担当するのじゃろう?練習する意味がわからん」
「他の人は?」
「他には2人いたようじゃった。装備を見る限り盗賊関係じゃろう。周囲を警戒しておったよ」
 3人が押し黙った。犯人の意図が不明である。立夏は準備していた日本刀を鞘に戻した。
「ここで立っていても仕方がない、犯人と交渉に行きましょう。今犯人は鼓を持っている状態、奇襲をかければ鼓にも傷を与えかねません。加えて盗賊が2人、周囲に罠を張っている可能性もあります」
「人質ならぬ鼓質じゃのう」
 3人は鼓の音のする方へ足を運んでいった。

 3人はあえて正面から犯人達と対峙した。罠に注意して歩いては行ったが、鳴子、虎鋏の他、乾燥した枯葉を敷き詰め忍び歩きが出来ないようにも工夫されていた。しかし正面だからこそ罠が少なかったかもしれない。
「鼓を返していただきたい」
 立夏が単刀直入に話しを切り出した。戦闘になるかもしれないと覚悟した。しかし返ってきた返答は意外なものだった。
「分かった、返却しよう。我々の仕事も終わったところだ」
 そして犯人達は鼓を立夏に渡し、村の方へと戻っていった。冒険者3人は一瞬あっけに取られたが、あわてて犯人達を追いかけた。
「あなた達の目的は何なのですか?」
 やっとのことで犯人に追いついた冒険者達が当然とも言える疑問をぶつけた。主犯格は振り返えらずに答えた。
「木魂を落ち着かせるためさ。何度か村人が勝手に侵入し、荒らそうとしたから木魂もストレスが溜まっているようだったんでね」
「それで鼓を盗んだのですか?」
「今から返しに行くんだけどね」
 微妙に食い違う発言を繰り返しつつ、冒険者と犯人達は村へと帰りついた。
「悪いが村長の家まで案内してくれないか?森はともかく街中は不案内でね」
 犯人達の節操の無い振る舞いに立夏は腹を立てたが、村上が抑えて犯人達を案内した。
「先ほどの話しぶりからすると、まるで森で育ったようじゃのう?」
「そういうことになるかな、飢饉の時に森に捨てられたんでね。どうしてここまで育ったのかは疑問だけどな」
 主犯格の話によれば、子供の頃に食い扶持を減らすため森に捨てられたらしい。村のことはかすかに覚えている程度、今は浪人の真似事をやっているとのことだった。森へ帰ってきたのは、正月も近いということで帰省をしようかという軽い気持ちだったようだ。
 しかし帰ってきてみると森の様子がおかしい、そこで村のご神宝と聞いた事のある鼓の音でも聞かせれば機嫌がよくなるかと思ってのことだったようだ。
正直どう判断すればいいのか分からなかった。あとは村と森との問題である。
「鼓は取り戻しましたから、あとは村長と平一郎殿に委ねたほうがいいでしょうね」
 それが3人の判断だった。

 その後、村長宅で村と森のあり方を協議、森への不可侵、鼓の貸し出しなどの約束を交わした。そして冒険者も交えた宴会が夜遅くまで行われた。   完