謎の飼い猫
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:7人
サポート参加人数:6人
冒険期間:02月04日〜02月09日
リプレイ公開日:2007年02月10日
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●オープニング
「にゃ〜」
「けっ猫かよ」
深夜の京都、底冷えの寒さの中で男は1匹の黒猫と会いました。普通の猫よりは少々大きめでしょうか。
「おめぇなんかにゃ用は無いんだよ」
男は猫を蹴り飛ばそうとします。しかし猫は賢いようで見事避けました。
「ちっ、俺は猫にも馬鹿にされんのか」
男は猫を相手にするのを止め、再び歩き始めます。すると猫も男についていきました。
「お前、俺を馬鹿にしてるだろ?」
猫は首を傾げます。
「猫の癖に人間様みたいな真似しやがって」
再び男は猫を蹴ろうとしますが、またしても猫に避けられます。
「勝手にしろぃ」
男はそう吐き捨て再び歩き始めます。猫はさも当然のように男についていきました。
「帰ったぞ」
男は家の玄関を開けます。すると猫も一声「にゃ〜」と鳴きました。
「お前も帰ってきたって事かよ」
男は半ばあきれながら猫を家の中に入れてあげました。猫は玄関をくぐり、男の服で爪を研ごうとします。
「俺の服で爪を研ぐなよ。ただでさえ薄いのに更に薄くなるだろうが」
男は猫を抱きかかえ上げ、調理場に向かいます。猫は肉球で男をぽふぽふ殴っています。
「はは、殴られてるのか遊ばれているのか分からんな」
男は器用に猫を頭に載せ、夜食の準備をしました。
「まぁ夜食って言っても大したものじゃないがな。今まで調理場に立ったことなかったからな」
自分用に大根1切れ、猫用に大根4分の1切れを炊いてみました。1人と1匹のささやかな歓迎会です。
「いただきます」「にゃ〜」
人間と猫は思い切り大根をかじります。そしてお互い顔を見合わせました。
「これは半生だな」
「にゃ」
「俺の名前は作治だ。おまえはたまと呼んでやろう」
こうして男と猫の共同生活が始まりました。
数日後、近所の者達は男を虚け者と囃し立てました。
「あやつは嫁子の代わりに猫を選んだらしい」
「人間より猫に好かれる変わり者じゃ」
中には男を人間に化けた妖怪と言うものまで現れました。しかし男は別段変わった様子はありません。
「俺は絶対嫁子を取り戻すからな」
いつしか猫にそう語りかけるのが日課となっていました。
ある日、男が畑仕事をしていると一人の武士が通りかかりました。身なりはそれなりによさそうです。悪くないところの家の出なのでしょう。武士の後ろに1人の女と女の子供と思われるものがついていました。
「俺の娘もあのぐらいの年だったな」
「にゃ?」
猫が答えます。仲のよくなった猫はいつしか畑仕事も見学に来るようになっていました。
「あの娘さんだよ。ほれ、あそこ」
男が子供を指差します。すると子供の着物の隙間から火傷の跡がみえました。
男が沈黙したのを不思議に思ったのか猫が男を肉球でぽふぽふします。
「あ、あぁ、すまねぇ、なんでもねぇ」
男は仕事を早めに切り上げ家に帰りました。
その日の夜、男はどぶろくを煽りながら猫に話しかけました。
「俺の娘にも火傷の跡があったんだよ。この辺にな」
右腕の前腕あたりを指差しながら男は話し続けます。
「今日見た娘にも同じような火傷があった。ひょっとしたら・・」
そこまで言っておきながら男は酒瓶を一気に傾け床に入ります。
「武士様に喧嘩を売ってもしょうがないからな」
そして夜は更けて行きます。
翌朝、男は少し遅めに目を覚ましました。
「おはよう。朝飯はもうちょっとまってな、今作るから」
生あくびをしながら猫に挨拶します。すると猫は前足に傷を追っていました。
「おいおい、どうした。近所の猫とでも喧嘩したのか?」
男が傷跡を見ると鋭い刃物で切られたような跡があります。猫の爪かと男は始め思いましたが、傷は1つだけのようです。
「物騒だな、あんまり夜中は出歩くなよ」
「にゃ〜」
今度こそ男は調理場へ向かおうとしますが、玄関が勢い良く叩かれます。
男が玄関をあけると、そこには昨日見た女と子供が立っていました。
「今日未明、私の夫が殺されました。何か知りませんか?」
男は唖然とするばかりでした。
●リプレイ本文
冒険者達はまず依頼人に話を聞くために、殺害現場でもある武家屋敷を訪れました。
「そうですね、皆さんには話しておくべきでしょう。おさと、調理場の掃除お願いできる?」
子供は素直に返事をして、退室しようとします。その時ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が席を立ちました。
「わたくしも掃除のお手伝いをさせてもらうだわ」
「でも・・」
女はヴァンアーブルを止めようとしましたが、結局止めませんでした。
「それでは火傷の跡の消し方を伝えてくれるじゃろうか?」
西天聖(eb3402)の頼みを承諾し、ヴァンアーブルは去っていきました。
それから女は自分の知っている限りの事を話しました。女は逃げた影が怪しいと感じているようです。
「奉行所にも相談したのですが、自分に出来ることはやろうと」
「それで聞き込みの手伝いを?」
神木祥風(eb1630)が言います。女は首を縦に振りました。
「しかし、それではあなたも殺されるかもしれないわよ?」
緋神那蝣竪(eb2007)はさらっと怖いことを言います。
「確かに怨恨の可能性はあるのですよ」
斑淵花子(eb5228)が答えます。
「死因はともかく首にある穴、生命力を吸われたような跡、4つ足の影。もっと調べる必要がありますです」
「まずは被害者の刀を見せてもらえやすか?」
笠原留吉(eb5596)は女に言います。女は現場に冒険者を案内することにしました。
シーナ・オレアリス(eb7143)は他の人に付いて行きながらも嫌な予感が捨て切れません。神木がそっとシーナに話しかけます。
「あなたは犯人に心当たりがあるのですか?」
「状況的にはあります。しかし現実的には薄い可能性です」
2人は前を行く仲間を追いかけました。
ヴァンアーブルは子供と歌を歌いながら掃除をしていました。
「お名前は?」
「おさとです」
「お母さんは?」
「おはつです」
「お父さんは?」
「・・どっちの、ですか」
おはつは掃除の手を止めヴァンアーブルを見つめます。ヴァンアーブルは一瞬バツの悪そうな顔をしましたが気を取り直して答えます。
「今のお父さんよ。武士なのでしょう?」
「はい。切れないものは無いと言っていました」
それは誇張なのか、真実なのかヴァンアーブルには分かりません。しかし切れないものは無いということはオーラ魔法の使い手かもしれません。
「いろんな人に頼りにされてて、自慢のお父さんなんだ」
人望があると言うことでしょうか?
「でも死んじゃった・・」
今はこれ以上聞く事は難しそうです。掃除を済ませ、ヴァンアーブルは皆と合流したのでした。
「ここが殺害現場ですか」
緋神は思わずそう呟きました。死体は既に奉行所が片付けたのでしょう。しかし、畳や柱に多数の刀傷があります。戦闘があったのは間違いないでしょう。
「確かに酷い出血なのです」
淵斑もしみじみと言います。天井まで赤い染みがあります。
「私が気付いたときには既にこの有様でした。そしてその辺りで物影が動くのを見たのです」
女は塀の一部を指差します。高さ7尺といったところでしょうか。超えようと思えば超えられる高さです。
シーナは現場以上に女の動向を観察していました。女が犯人だという可能性も考えています。
「問題の刀はどこにありやす?」
笠原が言います。それらしきものが見当たらないのです。
「奉行所じゃろうか?」
西天の疑問に女は頷きます。
「死体が片付けられているのであれば凶器も片付けられていておかしくはないですね」
神木は言いますが、何かひっかかるものがあるようです。シーナも目を細めています。
「凶器に何か付着していたものがないか覚えていやす?」
「そうですね、血ぐらいしか思い浮かびませんが」
女は思い出そうとしているのか冒険者から目をそらします。
「血ですか・・それだけだと何とも言えませんね」
そんな女の異変に気付かず笠原は1人唸りました。
「これは?」
緋神が1本の黒い毛を手にしました。髪の毛にしては太め、糸にしては短すぎです。
「獣の体毛だと思いますです」
淵斑が緋神の持つ手をまじまじと見つめながら言います。
「犯人は獣じゃろうか?」
「実行犯は獣でも、真犯人は飼い主という考えもありますわね」
いつのまにかヴァンアーブルも寝室に来ていました。
「おつかれさまです、そちらはどうでした?」
「なかなか利発な子供で掃除楽しかったのだわ」
シーナとヴァンアーブルは目配せをします。そして二人は微笑み合いました。
その後、冒険者達は近所の聞き込みと作治の家への訪問へと移りました。作治は最近猫を飼い出したということで一応注意しておいただけ、と女は言います。
「だけ、と言われても困るんでやす」
聞き込みの結果から作治は酒乱だと判明しました。そのせいで嫁子に逃げられ、農業に従事するのも忘れ、今は猫を飼って何を考えているのか分からないとまで言われています。確かに一番怪しそうです。
そこで一旦サポートの人に聞き込みを任せ、冒険者達は作治の家へと向かうことにしました。
「今までの話を総合すると一応準備した方がよさそうなのです」
作治の飼う猫はたまという名前のようです。多少大きい以外にはこれと言った特徴はありませんが、女の見たという影もたまくらいの大きさだそうです。しかし神木が言うには猫のようなデビルでグリマルキンというものもいるようです。
淵斑は石の中の蝶を借り受け、作治の家へと向かいます。他の冒険者も続きました。
「・・ということです」
作治の家を訪れた一行は作治から知っている限りの話を聞きます。しかし、多くの冒険者は2割ほどの注意をたまに向けていました。1人緋神だけは作治の話に引っかかりを覚えます。
「もし嫁子が帰ってきたら、この人は何をするのかしら?」
今はまともそうに見えます。たまを飼う事で改心したのかもしれません。しかし、たまがもしデビルで、デビルに願いをかなえてもらうことになったら・・。
緋神はそこで思考をとめました。ふと気付くと淵斑がたまに接近を試みていました。
「この子がたまなのですね。抱いてもいいでしょうか?」
作治に断りを入れた上で淵斑はたまに近づきます。しかし何かを察したのかたまは逃げ出してしまいました。神木もこのように舌打ちします。ディテクトアンデットを唱える機会を失ってしまったからです。
「おかしいな、普段逃げたりしないのに」
作治が呼びますが、たまは結局帰ってきませんでした。
作治の家から帰る途中、冒険者達はやはりたまが怪しいと睨んでいました。決定的な証拠がありません。しかし抱こうとした時の様子は誰が見てもおかしいものです。
そこにフィーネ・オレアリス(eb3529)が現れました。
「たまが石の中の蝶に反応しました」
フィーネはたまの逃亡も考え戸口に隠れていたということでした。
「これで確定でやす」
冒険者達は夜再びたま(推定グリマルキン)を探すことにしました。
冒険者達がたまを見つけたのは郊外の墓場でした。しかし、たまは以前見た姿ではありません。猫というより豹のようです。
「あれがたまですか?」
訝しがる緋神に神木とシーナは肯定を告げます。そこで試しに暗器である風車を投げつけてみます。完全に不意をつき、たまの傷口を狙った一撃です。しかしたまに変化はありませんでした。
「たまかどうかはともかく、化け物であることに間違いはなさそうですね」
続いてヴァンアーブルとシーナが詠唱を開始します。しかし発動する瞬間たまは大きく後ろに後退しました。
「逃がしませんわよ」
たまの行動を退却と見た2人でしたが、魔法はたまの手前で弾かれてしまいます。
「ホーリーフィールドですね。おそらくあの墓石を目印にしているのでしょう」
神木はたまの前にある墓石を指差します。墓石を物理的にも魔法的にも盾にするつもりなのでしょう。しかも今回は逃げると見せかけることで魔法の来る位置を絞ったようです。
その間たまは何かの魔法を詠唱しています。黒い光につつまれて魔法が発動、一番手前にいた笠原目掛けて黒い光が飛んで行きます。笠原は中傷を負いました。
「ディストロイだわ」
完全にたまペースです。
「完全にたまに誘い込まれたということじゃろうか」
回復のために一時後退した笠原に代わり西天が前に出ます。淵斑も西天に続き墓石を目指します。
「しかし盾が分かれば壊すまでなのです」
西天のオーラパワー込みの刀と淵斑の太刀が唸ります。墓石ごと結界を破壊しました。しかし、たまもこのタイミングを外しません。刀を振り下ろした隙を突いて西天に牙を向きます。
「さすがじゃ」
西天も一時後退、ポーションを飲んだ笠原が再び前に出ます。緋神も疾風の術を使い、かく乱を謀ります。
「今度こそ」
ヴァンアーブルとシーナは再び詠唱開始、神木もホーリーを詠唱します。しかしデビルに対し絶対命中のホーリーはともかく、スリープとアイスコフィンはなかなか決まりません。相当高い抵抗値を誇っているようです。神木はホーリーを唱え続けます。
負けじとたまも詠唱に入ります。しかしディストロイとは違うようです。
「ロブライフですか・・」
神木の生命力が吸われ、たまが回復していきます。神木はポーションを手にしました。
「いい加減、凍ってください」
ここで3度目の合唱、ついに眠った上に氷漬けにしたのでした。
「ところでどうやってたまは日本に来たんでやす?」
独力で来た可能性はあります。しかしそうではない可能性もあるのです。
「さすがにそこまでは調べられないわね」
「しかしまだ不可解な点はあります」
残った獣の毛、おはつの行動・・
「私はたまがおはつに魔法を使ったんだと思いますよ」
フィーネの推理。それはたまが魔法でおはつを操り、夫の止めを刺したというものです。
「普通に調べたら、おはつが犯人になるのでしょう」
冒険者は敢えて真実を調べようとはしませんでした。