消えた琵琶法師

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月09日〜03月14日

リプレイ公開日:2007年03月15日

●オープニング

「ちょっと待ってくれよ、まだ契約期間はまだあと3日もあるんだぞ」
 京都の酒場でのこと、閉店した店の中で2人の男が話し合いしていました。店主らしい人間と琵琶をかかえたパラです。
「だったらこれでいいだろ」
 パラは財布を机に投げ捨てます。ドスンという音が室内に響きました。
「・・金の問題じゃないんだ。お前さんの弾き語りを聞きに来る客も結構居るんだ」
「それが嫌なんだよ」
 パラが琵琶を背負いなおします。
「俺はただ聞かせるために弾いているんじゃない。更なる語りのために弾いているんだ」
 弾き語りを聞いた人が更なる語りを提供する、それがこのパラの考える琵琶法師像でした。
「今の俺の弾き語りじゃ誰一人心を揺さぶれない。だから更なる英雄譚と俺自身の修行のために旅に出るんだ」
「修行といっても聞かせる相手がいなければ修行にはならんだろ」
「人間だけが音楽を理解するじゃない。動物でも、妖怪でも耳は持っているんだから」
 人間は露骨に嫌な顔をします。
「お前、死ぬつもりか?」
「それならそれでいいだろう。その時は俺の力量不足だったと後悔するだけだ」
 これ以上話しを続けても無駄だと感じたのか、パラは店主に背を向けます。
「待て、まだ話しは終っていない。戻って来い、戻ってきてくれ」
 しかしその声に答えるものはいませんでした。

●今回の参加者

 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

天城 月夜(ea0321)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ 草薙 北斗(ea5414)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ フォックス・ブリッド(eb5375)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

 依頼人でもある店主の酒場で4人は店主を交え作戦会議を行っています。
 吟遊詩人のパラが最後に残した不穏な言葉
「人間だけが音楽を理解するじゃない。動物でも、妖怪でも耳は持っているんだから」
 これが酒場の店主を悩ませていた原因でした。 
「勇敢といえば聞こえはいいけど、無謀とも取れますね」
 鷺宮吹雪(eb1530)は問題のパラに遭遇したとき、何と説得しようか頭の中で巡らせています。
「その違いは紙一重ちゃうん?」
 鷺宮夕妃(eb3297)が口を挟みます。それも真実なのでしょう。出されたお茶をおいしそうに飲んでいます。
「問題のパラさんの特徴を教えてほしいだわ。名前ぐらい分かるとありがたいだわさ」
 ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)に店主は不信な眼差しを向けます。シフールの小さい身体が頼りなく映ったのでしょう。ヴァンアーブルは竪琴を取り出しました。
「わたくしもアーティストなのだわ」
 軽く弦を指ではじき、感性の赴くままに弾いて見せます。店主は驚いた顔をしていました。
「教えていただけるじゃろうか?」
 磯城弥魁厳(eb5249)が強い調子で店主に尋ねます。我を取り戻した店主は納得したかのように語り始めました。
 
「パラで身の丈と同じくらいの琵琶を背負っいる。エトピリカと名乗っていた」
 更に吹雪が店主からの話をもとに学問万能を使って似顔絵を作成、全員に配ります。
「エトピリカを知っている人もいるでしょうしね」
 琵琶法師という職業上、見たことがある人も多いでしょう。京都の街は人が多いのは事実ですが、要所を押さえれば見つかる可能性は高いはずです。酒場、ギルド、飛脚。加えて人海戦術に出ればそう難しいことではありません。翌朝には有力な手がかりが見つかりました。
「全身黒づくめの男と鞍馬の山に入っていった」

「嫌な予感がするのだわ」
 ヴァンアーブルはうなだれています。
「鞍馬山ってなにかおるん?」
 無邪気に聞いてくる夕妃にヴァンアーブルが低い声で答えます。
「天狗がいるって聞いたことがあるのだわ」
「天狗ですか」
 それを聞いた吹雪、磯城弥の表情もゆがみます。名前は聞いたことがあるのでしょう。
「天狗って強いんか?」
 夕妃の頭にはいくつも疑問符が浮かんでいます。吹雪が諭すように語り始めました。
「日本に存在する希少な存在・・と聞いたことがあります。好戦的と聞いたことはありませんが」
 吹雪がヴァンアーブルの方を見ます。ヴァンアーブルは静かに頷きました。
「詳しいことは流石にしらないのだわ。でも人間を襲ったという話は聞いたことは無いのだわ」
 よく分からないものの住む山、好戦的ではないというのがせめてもの救いでしょうか。
「とはいえここで手をこまねいているわけにもいかんじゃろう。虎穴に入らずんば虎児を得ずじゃ」
 磯城弥の言葉はもっともなことです。4人は覚悟を決めて山へと向かうのでした。

 山は静かでした。木々の梢も鳥の囁きも何も聞こえない、不気味なほどの静けさです。
「ここが鞍馬山なん・・?」
 まるで悪の巣窟に行くかのような響きです。
「地図上ではそうですね」
 答える吹雪の言葉にも自信なさげです。山の立ち上らせる雰囲気に異質なものを感じたのでしょう。
 山のふもとまで近付くと1件の小屋がありました。煙が出ています、炭焼き小屋でしょうか。
「ちょっと寄って行ってはどうじゃろうか?」
「なんか情報も入るかもしれないのです」
 反対意見が出ることなく、4人は小屋へと向かいます。かすかな希望を抱きつつ。

 小屋に近付くにつれ、何か音色が聞こえてきます。
「この音は・・琵琶ですよね?」
 確認するように吹雪が他の3人の顔を見渡します。自然と足が速くなっていました。
「確かに琵琶なのです。ひょっとしたらひょっとするのです」
 急ぎ足で小屋へと近付きます。
「声が聞こえるんやけど・・」
 琵琶の音に混じって声が聞こえます。詳しくは聞こえませんが男の声のようです。
「弾き語りでしょうか?」
「多分そうじゃろう、しかし誰に聞かせとるんじゃろうか?」
「1人で練習しているだけなのかもしれないのです。あるいは一緒に目撃された黒づくめの人かもしれないのです」
「黒づくめってセンスおかしいんやない?」
 3人は顔を見合わせます。夕妃の言うことには一理あります。黒づくめというのは無闇に人の注目を集め、記憶させてしまいます。もちろん夜に行動するのなら話は別でしょうが、昼間街中を忍装束で闊歩する忍者がいれば目立つことこの上ないでしょう。
「今議論しても仕方ありませんね」
 4人は現実を直視しました。目の前の小屋、中から聞こえる琵琶の音、漏れる歌声、今までの情報を総合するとこの小屋にエトピリカがいる可能性が高そうです。
「目標が目の前にいる。まずは取り戻すための努力をしましょう」
「じゃな。まずは何人いるのか知りたいところじゃ」
 磯城弥はペットの忍犬ヤツハシ、ナラヅケとともに足跡調査に入ります。鷺宮親子、ヴァンアーブルは少し離れたところで見守ります。敵の奇襲も考慮して詠唱の準備も怠りません。
 しばらくすると磯城弥が戻ってきました。
「どうやってんや?浮かない表情してるけど」
 何と言おうか悩んでいた磯城弥でしたが、意を決したように話し始めました。
「1つや2つの足跡だと思っとったんじゃが、かなり複数の足跡が出たり入ったりしておる」
「それでは現在の人数ははっきりしないということなのですね?」
 ヴァンアーブルの言葉に磯城弥はただ頷くしかできませんでした。
「曲が終るのを待って正面から入るべきじゃろうな。その方が説得はしやすいじゃろう」
「できればエトピリカさんとだけ会いたいところですね」
 黒づくめの男がエトピリカのそばにいるとなると説得が妨害されかねません。しかし、どうやればエトピリカを1人にできるのかという問題があります。そして何よりの問題・・
「エトピリカさん自身が納得してついて行っているというのがやっかいなのです」
 エトピリカと話す機会を得られたとしても、彼が逃げ出すなり黒づくめの男に援軍を求める可能性もあるのです。
「だったら1人にしてしまえばいいんやないの?」
 夕妃が1つ作戦を提案しました。

「お義母さんのブレスセンサーで小屋の中の人数を確認、エトピリカさん以外を片っ端から眠らせるんや」
 夕妃の案は単純明快です。エトピリカが1人になるまでスリープなりシャドウバインディングなりで他のものの動きを封じるというものですから。
「悪くは無いわね。でも特攻とどこが違うのかしら?」
 吹雪の口元は笑っています。しかし目は笑っていません。夕妃は思わず小さくなりました。
「となると目視じゃろうな」
 目で確認した上、対象以外が小屋を出て行くのを待ってスリープまたはシャドウバインディング。同時に小屋を近付くものにはストームなどで牽制、その間にエトピリカと接触を試みるということになりました。
「では早速行くべきじゃな」
「ええ時間との勝負でしょう」
 潜入役は忍者磯城弥と説得役ヴァンアーブル、足止め役は鷺宮親子。もし数で攻められるような事があれば全滅は必至。結果は神のみぞ知るという状況です。
「御武運を」
「そちらこそ、なのです」
 短い挨拶を終え4人はそれぞれ持ち場へ移動、夕妃は戦闘に備えフレイムエリベイションの巻物を使用します。
 空は赤く染まり始めていました。
 
 疾風の術でヴァンアーブルを連れて急速接近した磯城弥は、天井裏で蝙蝠の術を使用していました。突入するタイミングを図っています。
「人数はおそらく2人。1人はエトピリカ殿じゃろうから、眠らせるべきは1人だけじゃな」
 一端蝙蝠の術を解除、ヴァンアーブルと打ち合わせをします。
「では歌が終わる瞬間を狙いますです」 
 琵琶の音が一層激しく響きます。終わりが近付いているのでしょう。
 ヴァンアーブルと磯城弥は目を合わせ意思を確認、そのまま室内へと降下しました。相手が驚いている内にヴァンアーブルが落下の反動を利用し、片手を挙げてスリープを高速詠唱。エトピリカ1人にすることを成功します。磯城弥が早速事情を説明します。
「手短に説明させていただくのじゃ。街に戻っていただきたいのじゃ」
「嫌です」
 エトピリカは驚いた様子もなく、ただ淡々と答えています。
「私は私の歌を聞くものにだけ歌いたい。少なくともこの場所は私の目的のためには最適の場所だ」
 ぱしっ
 ヴァンアーブルの平手が飛びます。
「無謀すぎるなのです。指を怪我して弾けなくなったらどうするなのです」
 ヴァンアーブルが一気にまくし立てます。しかしエトピリカの表情は微動だにしません。
「俺を怪我させたのはアンタが初めてだ。ここでいろんな者相手に弾かせてもらったがな」
 ヴァンアーブルは思わず固まります。確かにエトピリカには数日間といえど、この山麓の小屋で暮らした実勢があるのです。
 そこに鷺宮親子が押しかけます。
「拙いわ。何かまでは分からないけど、大群が押し寄せてくるみたい」
「お客様ですね。準備しないと」 
 急ぐ吹雪のよそにエトピリカは相変わらず淡々と答えます。
「キミね。状況分かってるんか」
 夕妃の口調も荒々しくなっています。手には巻物まで準備されているようです。
「あなた方の熱意と実力は分かりました。では1つお願いがあります」
 急ぐ冒険者にはエトピリカの口調は厭らしくさえ聞こえましたが、とりあえず今はエトピリカの出方を待つしかありません。
「昔、死者と封印にまつわる伝承を耳にしたことがあります。しかし時代の流れのせいか随分ぼやけた話になっています。そこであなた達に調べてもらいたい。死者と封印、それが一体何を意味するかを」
「それがわかれば京都の街に帰るのじゃな」
 エトピリカが頷くのを確認して、冒険者4人は小屋を後にします。スリープとストームの餌食となった黒づくめの男達を超えて。