除夜の鐘を守れ

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月06日〜12月11日

リプレイ公開日:2006年12月09日

●オープニング

 とある新月の夜のことです。京都内の寺の住職(56)が鐘を突きに外へ出かけたところ、住職の目には鐘の周りに何人か人が集まっているように見えました。
「近所の子供達でも来たのだろうか、こんな寒い中良く遊ぶことよ。お茶でも出してあげようか」
 そう思いつつ住職は鐘に近づいていきました。しかし鐘に近づくにつれ、影の大きさが子供のものでは無いことに不信感が募っていきます。
「ぱっと見、身の丈6尺近くあるだろうか。こんな時間に何の用だろう」
 さらに住職が近づくと、相手も住職に気がついたようです。影はその場から一斉に退散しました。さすがにおかしいと思った住職は急いで鐘付堂へと向かいます。
 そこでは住職が見たものは降ろされかけていた鐘でありました。
「大晦日までもう間もないというのに、とんでもないことをする輩がおるもんだ。きっと神罰が下るだろう」
 住職は本堂へと戻っていきます。ふと思い至って足を止めました。
「神罰が下る前に説教でもしてやるのが、せめてもの情けだろうか」

 

●今回の参加者

 eb0924 鷹瀬 亘理(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb9560 オウカ・エル(20歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

五百蔵 蛍夜(ea3799

●リプレイ本文

 寺の本堂への廊下で住職が寺男数人と冒険者用の布団を運んでいる最中、東雲八雲(eb8467)が話しかけてきました。
「お仕事の途中申し訳ないが住職、先日見たという人影について少々お聞かせ願えないだろうか?」
 住職は寺男に指示を出し、布団運びを再開させました。寺男の後ろにはいつの間にか鷹瀬亘理(eb0924)がお手伝いを始めています。
「私が見たのは4,5人くらいだろう。しかしお堂の下には何人か控えていたかもしれません」
 住職の話に東雲は少し思案顔になりました。控えを含めると7、8人ぐらいになりそうです。
「どこか抜け道みたいなところがありませんか?」
 いつの間にか話しに加わっていた神島屋七之助(eb7816)が住職に尋ねます。住職は思わず苦い顔になりました。
「私が先日見かけた人影は正面入り口から帰りました。正面はいつ何時誰でも駆け込めるようにといつでも開いているのですよ。他にも裏口はありますが、そちらは狭いので鐘は通らないでしょう」
「確かに進入だけなら裏口を使うこともできますが、鐘を持ち帰るとなるとどうしても手は限られてきますね」
 東雲と神島屋の2人はまず正面以外に鐘を運べそうな所が無いか調べることにしました。

 一方その頃本堂では、寺男に混じって既に手伝いを始めていた鷹瀬の他、榊原康貴(eb3917)、朝霧霞(eb5862)の2名が集まり相談をしていました。
「寺男さんたちに協力を要請してきました」
 鷹瀬は家事を手伝いつつ寺男から情報を収集しているようです。
「となると、とりあえず昼間は大丈夫だな。ちょっと眠らせてもらうぞ」
「そうですね。私も夜に向けて準備させていただきます」
 榊原、朝霧の2人は夜に向けて準備を始めました。2人に向けて鷹瀬が寺男からの伝言を伝えました。
「このお寺には子供が遊びに来るらしいので、多少寝苦しくともよろしくお願いします、だそうです」
 2人は軽く手を振り鷹瀬を見送りました。鷹瀬は自分の仮眠時間までもうひと働きしに外へ出かけていきました。

 その日の夕方、5人は作戦会議と情報交換を始めました。
「敵が来る位置はバラバラだとしても、帰りは正面が本命ですね」
 朝霧を中心として会議は進んでいきました。
「そうだな、正面にも一人配置するか」
 榊原の意見に皆が賛成、最終的に鐘付堂そばに2名、本堂に2名、正面に1名という配置に決まりました。
「問題の鐘付堂の付近を見てきたが、子供が何人か遊んでいたぞ」
「それが何か問題なのですか?」
 東雲の発言に朝霧が疑問を挟みました。
「子供が不思議なこと話していてね。『やっぱり鐘あるよ』など盗まれそうになったのを知っている節がある」
 今度は鷹瀬が言葉を挟みます。
「私も似たような話聞きましたよ。草むしりを装って罠を仕掛けていたら、『盗まれなくてよかったな』とか『あの大きな人なら鐘ごと持てそうだしな』と話していましたね」
「子供達が何か知っているのかもしれませんね。相手は6尺もの大男、目立つのは間違いないですし」
 朝霧の意見から、明日朝霧・榊原の2人で子供達に聞き込みをすることになりました。
 また、東雲からの報告で近くの寺では似たような事件は起こっていないようです。
「それでは今日の見張りにつきましょう」
 5人はそれぞれの持ち場につき、一晩を過ごしました。

 翌日、前日の話し合い通り朝霧と榊原は手分けして子供達に聞き込みをしました。日が一番高くなる頃、2人は合流してお互いの情報を交換、行き着いた結論は
1、大男達は浪人
2、現在橋の下で生活中
ということでした。
「大方予想通りといったところか」
「ですね。目的に関しても鷹瀬さんや神島屋さんの予想通り戦で金属の相場が上がったのに乗じて鐘を銅として売るのでしょう」
 朝霧が一息ついて再び話し始めました。
「それともう1件。関係があるのか分かりませんが、近くの商店で台車が盗まれたそうです」
「微妙なところだな」
「そうですね。大男達が台車を使って鐘を運ぶ可能性があると伝えておきましょう」
 2人は寺への帰路に着きました。そろそろ交代の時間のようです。
「あとは彼らの住処をどうするかってことだが」
「本職に任せる方がいいでしょうね」

 朝霧、榊原と交代で鷹瀬、神島屋、東雲が活動を開始しました。隠密調査の専門家である鷹瀬が彼らの住処を調査、東雲が台車を盗まれた商店の聞き込み、神島屋が鐘の見張りにつくことになりました。 
 鷹瀬は大男達が生活しているという橋まで来ると思わず感嘆の声を上げました。一つは見晴らしがいいため隠密しにくいこと、これは大男達が警戒しているからでしょう。そしてもう一つ、この年の瀬の寒い時期に川辺の吹きっさらしでよく眠れるなという驚きの混じった感情でした。
 近くの柳の木に身を隠しつつ鷹瀬が様子を伺うことにしました。身の丈6尺ほどの男が台車の上で寝そべっています。その周りには2,3人が控えていました。
「今夜の襲撃に備えて寝ておいた方がいいんじゃないか?」
「こんなに寒い中寝ると凍死するぞ」
「違いねえ、いっそのこと木材かっぱらって家でも建てるか?」
「侍が大工の真似事するなんて世の末だぜ」
 鷹瀬は「鐘を盗むのも世の末だろう」と心の中でツッコミを入れつつ寺へと戻っていきました。

 鷹瀬が戻る頃には東雲も商店から戻ってきていました。神島屋と相談しているようです。
 食事をしていたのでしょう。手元には住職からの差し入れと思われる握り飯がいくつか置いてあります。
「そちらはどうでした?」
 鷹瀬が声をかけると、東雲は鷹瀬に握り飯を一つ差し出しました。
「住職達からの差し入れだ。せっかくだから食べながら話しをしよう」
 鷹瀬は食事の用意に間に合わなかったことを後悔しつつ、差し出された握り飯を受け取りました。
「俺が行った商店では確かに台車が盗まれたようだな。また最近食料も盗まれているらしい。大男達の仕業だと考えれば筋は通る」
「台車でしたら大男が布団代わりにしていましたよ。ちょっと狭そうでしたけど」
 東雲、鷹瀬の話を聞いて、神島屋はおもむろに頷いた。
「となると、台車に細工をしたいところですね。台車は正面入り口を通るはずですから、正面の見張りの人が細工をするのがベストですね」
「いいアイディアですね。台車の車輪と入り口の柱をロープで結びますか」
 いつ起きたのか、朝霧が神島屋のそばに立っていました。榊原もすでに起きているようです。
「となると、正面は鷹瀬さんにお願いするのが妥当でしょうね。鷹瀬さんお願いできます?」
「わかりました。あともう一つ話がありまして、大男達の話によると襲撃は今日のようです」
 全員に緊張が走りました。
「それじゃきっちり準備しないとな。見張りは正面入り口に鷹瀬殿、鐘付堂そばに朝霧殿と神島屋殿、後詰として本堂に私と東雲殿。これでいいか?」
 榊原の発言に全員が頷き、それぞれ準備に取り掛かります。

 それぞれが配置についた後、神島屋は空を見上げました。月が出ていることに一安心します。魔法が上手くいくように心の中で祈ります。
 神島屋の詠唱に備えて近くに朝霧が待機、こちらは夜闇に紛れるため黒い服を身に纏っています。本堂では榊原と東雲が待機。榊原はいつでも飛び出せる態勢で構え、東雲はグラビティーキャノンの詠唱に備えています。
 正面入り口では縄ひょうの感触を確かめつつ、鷹瀬が聞き耳を立てています。
 そして月も傾きかけた頃、足音と車輪の音が聞こえてきました。近づいてくる足音の数は4つほど、しかし別の方向からも足音が3つほど聞こえてきます。恐らく裏口からも進入するのでしょう。
 正面組が台車を引いて鐘付堂まで来ると、裏口組も合流。寺の明かりが消えているのを確認してきたようです。
 そしてそのまま正面組が鐘付堂に上がり、裏口組が見張りに立ちました。
 始めに神島屋がスリープを試みます。早めの詠唱の甲斐あって敵に気付かれずに眠らせることに成功。これを確認して朝霧が小太刀(峰打ち)で見張りを一人気絶に、鷹瀬がスタンアタックで最後の見張りも気絶させることに成功しました。
 続いて神島屋はもう1発のスリープの詠唱を開始、標的は頭と思われる6尺男です。朝霧は本堂とアイコンタクト、鷹瀬は台車と正面の柱を縄ひょうを結び付け、念のために近くに手裏剣を巻きびし代わりに立て始めています。
 一方、鐘付堂では6尺男が母屋を気にしつつ、手下と鐘を取り外しています。幸か不幸か2度目のためコツをつかんでいるようで作業は意外とスムーズです。
「よし、はずすぞ」
 6尺男が再び母屋に視線を向け、住職が出てこないことを確認。そして手下とともにはずした鐘を受け止めようとした時、
「月の精霊よ力を貸してくれたまえ、スリープ」
 詠唱が完了していた神島屋のスリープが発動、6尺男は眠りにつきました。そして、そのまま手下と共に鐘の下敷きです。
 この好機に、東雲がグラビティーキャノンを発動。下敷きになったため起きた6尺男を始め手下どもにダメージを重ねます。
 さらにグラビティーキャノンのせいで鐘が鳴り響き、6尺男どもの聴覚にも大ダメージを与えました。
 グラビティーキャノン発動を確認して、榊原が鐘付堂に突入。朝霧、鷹瀬も続きます。
 鐘に潰されるという情けない姿のまま6尺男と仲間達は捕まってしまいました。
 鐘の音が響いたためか住職も起きてきたようです。犯人達の情けない姿を見て唖然としました。
 冒険者と住職で鐘をどかし、住職は犯人達を本堂へと連行させました。どうやら新たな寺男にするようです。
 冒険者達は外された鐘を付け直し、罠を回収し、鷹瀬の作った早目の年越し蕎麦に舌鼓を打ったのでした。   完