シフール便での脅迫状

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月17日〜03月22日

リプレイ公開日:2007年03月23日

●オープニング

「俺はお前を許さない、どんなことがあっても、未来永劫に決してだ」
 青年は思わず目を覚ましました。辺りはまだ暗く、肌寒ささえ感じます。
 ふと障子の揺れる音が聞こえました。青年は思わず身構えます。影が見えません、新月なのでしょうか。
 しばらく待ちましたが気配がありません。障子は時折揺れています。
「風か」
 青年は大きく深呼吸します。額にうっすら汗をかいていました。
「寝なおすか」
 と言っても一度起きてしまった以上、なかなか寝付くことも出来ません。青年は酒を取りに行きました。生暖かい酒なぞ旨いものではありませんでしたが、汗ばんだ身体には程よい寝酒になるでしょう。青年は杯を取り出すことなく酒を飲み、軽く酔いが回ったところで満足したように寝床へ向かっていきました。

「お手紙ですよ〜」
 翌朝、青年のもとに1通のシフール便が届きます。開けると何かが地面に落ちました。
「毛髪?」
「みたいですね」
 何本かの髪が白い紙で束ねられているものでした。つやのある綺麗な髪です。束ねやすくするためか曲げられているのではっきりとした長さはわかりませんが、女性のものであることは間違いないでしょう。
「それじゃ私はこれで」
 シフールは帰ろうとしますが、青年が首根っこを押さえつけました。
「この手紙の主は誰だ?」
「知りませんよ、私は。別のシフールから頼まれただけですから」
 シフールは必死に逃げようとします。青年の異様な雰囲気に気付いたのか、声が上ずっていました。
 しかし青年は「そうか」と呟き、シフールを解放しました。
「手荒な真似をしてすまない。これからもよろしく頼む」
 青年の言葉が終わる前にシフールは逃げ出していました。

 青年の家からしばらく離れた裏路地でシフールは呼び止められます。
「何か聞かれたか?」
「手紙の主は誰か、と」
「何と答えた」
「知らない。別のシフールに頼まれただけだ、と」
「上出来だ」
 刀で一閃。次の瞬間、シフールの首と胴が切り離されていました。

 

●今回の参加者

 ea8794 水鳥 八雲(26歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ザグ・ラーン(eb2683)/ 備前 響耶(eb3824

●リプレイ本文

「じゃヤグモいきまーす」
「よろしくおねがいします」
 玄関から水鳥八雲(ea8794)が出てきました。待ち合わせ場所を見てくる予定です。しかし出発を見送る顔が神妙なので、辛気臭くなってしまいました。水鳥は踵を返し、青年のもとまで大股で歩きます。
「あなた、高橋隆一郎といったっけ。なんでそんな顔してるのよ」
 水鳥は高橋を指差しながら叫びます。明らかに怒っているのですが、高橋には何故彼女が怒っているのか理解できません。
「あなたの顔見てると白けるのよ。こっちは死ぬかもしれない場所に行くの。せめて笑顔で送りなさいよ!!」
 水鳥は高橋の頬を引っ張ります。
「水鳥さん、痛いんですけど?」
「あなたの顔見ている方が痛いの!!」
 水鳥の言わんとしている事がやっと分かったのか、高橋の表情が緩みます。それを見て安心したのか、水鳥も手を離しました。
「やればできるじゃない」
 水鳥は高橋の肩を叩き、再び出発します。
「もう2度とボケなんかやらないからね。じゃ改めて、ヤグモいきまーす」 
「宜しくお願いします」
 今度こそ水鳥は出発します。高橋は軽く手を挙げて見送りました。水鳥も納得の表情で出発します。
 水鳥が見えなくなった頃、シフール便の調査に行っていた鷺宮吹雪(eb1530)が複雑な表情で戻ってきました。

 鷺宮の報告を六条素華(eb4756)、宿奈芳純(eb5475)とともに高橋も聞きます。鷺宮の表情からあまりいい報告ではないと察したのでしょう、3人とも沈痛な表情をしています。重い空気が場を支配しました。
「結論から言います。配達に来たシフールさんは殺害されていました」
「・・っ」
 沈黙が流れます。薄々予想していたこととはいえ、実際に聞くとやはり衝撃があるものです。
「死体は首を一刀両断、即死でしょう。犯人は不明だそうです」
 淡々と流れる鷺宮の言葉を六条が引き継ぎます。
「口封じ・・ですか?」
「今は多分としか言えませんね」
 答える鷺宮の表情にも曇りが見えました。
 宿奈はそっと高橋を見ます。高橋は肩を押さえ震えていました。
「心当たりはありますか?」
 宿奈の言葉に高橋は首を振ろうとして止めます。
「無い・・といえば嘘になります。おそらく鬼頭でしょう」
 高橋を憎む男、鬼頭。以前の名を捨て鬼と名乗った男。
「その鬼頭という男、調べた方がよさそうですね」
 六条も高橋を見ます。依頼人の意思をを確認するために。
「あなたにとっても辛いことになると思います」
 高橋はただ静かに頷くだけでした。
 
 翌朝、水鳥と六条が戻ってきました。2人の報告を聞くため、全員が集まります。
「じゃ、まず私から。しょーじき、向かうのは止めといたほうがいい気配ぷんぷんね」
 水鳥の話によると、待ち合わせ場所にはすでに無数の罠が仕掛けられているとのこと。そんなところにわざわざ行くのは死にに行くのと変わらないとまで水鳥は言いました。
「最後はあなたに任せるけどね」
 ここで一旦水鳥の報告は終了、引き続き六条が報告に入りました。
「せめて私のほうはいい報告だといいのですが」
 そう前置きされて始まった報告は予想に反することなく悪い報告でした。それでも予想できた分だけマシとも言えるでしょう。
「知り合いにも手伝ってもらって裏が取れました。鬼頭と名乗る青年が京都の闇の中で暴れているようです。初報告が1年ほど前、あなたの事件の直後ですね」
 高橋は俯いています。宿奈が高橋の肩を叩きます。六条も気付いたようで付け加えました。
「あなたを非難するつもりはありませんよ。ただ・・」
 軽く深呼吸をして続けました。
「生かしてはおけないでしょう」
「同意だえ」
 いつもの落ち着いた口調を忘れた様に鷺宮が言い捨てます。
「目的のためには手段も方法も選ばない、快楽犯罪者です。引導を渡すべきでしょう」
 六条は高橋を見ます。昨日と同じ表情で。
「行くしか無いでしょう。私の撒いた種です」
 水鳥は諦めたように溜め息をつきます。
「まあ最終的にはその過去とやらと対峙しないとなんの解決にもならないんだろうけど…一つ聞いていい」
 水鳥も高橋を見ます。こちらも昨日と同じ表情で。
「なんで自分1人で全部背負い込もうとしてるの!!」
 水鳥が再び高橋の頬を引っ張ります。
「何のために私達がいると思ってるの。おまけ?ついで?柿の種?」
「なんで柿の種なんです?」
「30点ね」
 それでも水鳥は満足したのか、手を離します。
「すべてが終ったらツッコミの基本を教えるから覚悟しておきなさい」
 高橋は軽く舌を出します。
「観念すべきですよ」
 宿奈にまで言われて高橋は両手を上げたのでした。

「昨日見た限りだと、ここから先は罠の山。私が先行させてもらうよ」
 水鳥が前を行きます。暗殺者の強襲も考えて六条が殿。鷺宮と宿奈が両翼を担い、それぞれブレスセンサーとテレスコープを詠唱。付近の様子を確認します。
「この辺りに人の気配はありませんね」
「鬼頭さんと思われる方も既に待機中のようです」
 その名の通り、鬼の面を被った男が1里ほど先にいるようです。
「みなさん、宜しくお願いします」
 高橋も今は日本刀を持ってきています。刃渡りは3尺程、意外と言うべきかわずかに血を吸った跡がありました。
「あなた、戦闘経験は?」
 優男に見える高橋にそれほど戦闘経験があるとも思えません。しかし高橋は不敵に笑います。
「一応先の戦乱の生き残りです。逃げてばかりでしたけどね」
「あなたらしいわ」
 しかしそれでも自衛ぐらいはできるということでしょう。鬼頭1人が相手なら時間稼ぎはできるかもしれません。
「足元気をつけて」
 水鳥が皆に注意を促します。鷺宮が足元を見ると、黒土に隠れるように黒い糸が張られていました。
「鬼頭さんってもともとの職業は何です?」
「侍です。細かい作業は苦手なはずなんですけどね」
 鷺宮はふとシフール殺害の1件を思い出します。首を一刀両断、京都の街中での凶行。豪快さの為せる技ともいえるでしょう。
「その割には随分手の込んだことをやるのですね」
 糸を跨ぎながら宿奈が言います。高橋もはっとします。
「そういえばそうですね。鬼頭らしくない」
「ところで・・」
 最後尾の六条も糸を跨ぎながら言います。
「彼の昔の名前は?」
 高橋は一瞬の逡巡を見せましたが、やがて答えました。
「立花です」
「鬼とは似つかわない名前ですね」
 だから名前を捨てたのか、六条にも何かが見えたような気がします。
「しかし今の彼が鬼であることには変わらない」
 高橋の言葉はどことなく冷たいものでした。

「さて、団体さんのお出ましね」
 目で見える範囲に2人、ともに帯刀しています。しかし何人隠れているかは分かりません。鷺宮が再びブレスセンサーを詠唱、敵の数の確認を試みます。
「近くに3人控えていますね」
 鷺宮は言うや否やストームの詠唱準備、しかし宿奈が手で制止します。
「私達は鬼頭殿との面会を所望する。ここを通していただきたい」
 どこからか苦笑が漏れます。姿を現していた2人が近寄ってきました。
「高橋って男はいるか?そいつだけなら通っていいぜ」
 下卑た目で2人は冒険者達を見ます。厳密には宿奈以外の3人に視線が向いています。
「下衆が」
 鷺宮が小さく呟きます。しかし表情だけは安心したような顔を作ってみせました。
「彼が高橋殿です。お願いできますね」
 宿奈が高橋の背を押します。心配した高橋が冒険者一同の顔を見まわしましたが、全員が笑顔で送り出しました。
「私達なら心配無用。あなたにはあなたにしか出来ないことをやるべきです」
 水島が笑います。違和感を覚えた高橋が続いて鷺宮、六条を見ますが同じような笑顔を浮かべています。なぜか高橋には背中に冷たい物を感じました。
「よっ・・宜しくお願いします」
 逃げるように高橋は消えていくのでした。
 
 高橋は待ち合わせ場所で鬼頭を見つけます。念のため警戒はしましたが、罠や待ち伏せは無さそうです。
 わずかに安心して高橋は話しかけます。
「鬼頭、何故こんな手の込んだ真似をした」
「その名で呼んでくれるな、友よ。俺とお前は長い時間を共に過ごしてきたじゃないか」
 鬼頭は仮面を外します。高橋にとっては見慣れた立花喜一の顔がそこにはありました。
「そしてお前のその腕で俺を殺してくれ」
 立花は高橋の手を取り、自分の刀を握らせます。まだ状況を理解できないでいる高橋は為されるがままに刀を握らされ、抜刀してしまいます。
「後を頼む」
 立花は高橋の手を取ったまま、刀を自分の首筋に当てます。そして大きく振りかぶりました。
 その時高橋の目には夕子の姿が見えました。立花の前に立ちはだかり守ろうとする幻影、それも今度は殺す方の立場で。思わず高橋は躊躇いました。
「赤刃、行け!!」
 怒号と共に六条の忍犬、赤刃が駆けます。一陣の風となった赤刃が刀を握る高橋、立花両氏の手に体当たり。刀を手放させます。続け様に宿奈がムーンアローを高速詠唱、刀を吹き飛ばすことに成功します。
「お仲間から全て聞かせていただいたました」
「死んで夕子と一緒になるんですやて?」
「高橋さんにはこの世で死ぬまで悩み続けろですって」
 3人の女性が鬼頭の前に立ち塞がります。状況を理解できない高橋は宿奈に救いを求めますが、彼は高橋の肩を叩くだけでした。
「人が恋することはいいことですえ。ですが幽霊となって苦しめ続けるというなら容赦しませんわ」
 鷺宮が鉄扇を構えます。横には縄びょうを構えた水鳥とエリベイション使用中で両目が赤い六条が立っていました。
 諦めたように立花が立ちます。水鳥は鳥爪撃を撃ちたい衝動に駆られつつも何もせず、立花に仮面を返しました。
「あなたは永遠に鬼頭なのよ」
 こんな男に拳を振るってはもったいないと思い留まったのでした。代わりに縄びょうで鬼頭を捕縛、そのまま奉行所に連行するのでした。