流行り病の特効薬
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月29日〜04月01日
リプレイ公開日:2007年04月03日
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●オープニング
京都のとある家に仲の良い兄妹がすんでいました。兄8歳、妹6歳の兄妹です。しかし2人の両親は既に他界、今は親戚のおばさんの家で過ごしています。
2人はおばさんに好かれようと何事も一生懸命に取り組みました。衣食住すべてを提供してもらっているので、その分の手伝いはやろうと子供ながらに考えていたのです。
おばさんはこの熱心な兄妹をいたく気に入りました。何でもやってくれるので自分は何もしなくていいぐらいです。
そんなある日、妹が病で倒れました。熱があり、咳もでます。食欲もあまり無いようです。
おばさんは苦く思いながらも妹を医者に診せました。医者は流行り病だと診断します。
「おかゆのような食べやすいものを食べながら3日も安静にすれば元気になりますよ」
医者は言います。この医者の診断に兄は喜びましたが、おばさんは怒っています。
「それじゃこの子の3日分の仕事はあたしがしなきゃなんないのかい」
医者は驚いてしまいました。しかし、そんな医者の思いを知らないおばさんはさらにまくし立てます。
「あんた医者なんだろ。1日で治すような薬もってんじゃないの?ほら、さっさとだしなさいよ」
おばさんは医者に襲い掛かります。懐に何か隠し持っていると考えたのか、医者の服を剥ぎ始めました。
さすがに医者も抵抗します。兄もおばさんを止めにかかりますが、おばさんはものともしません。万事休すと思った医者は思わず嘘を言ってしまいました。
「小鬼の爪の垢を煎じて飲めばすぐ治るそうです」
ほとんど半狂乱で叫んだ医者の声でしたが、おばさんを止めるのには効果があったようです。
「本当に治るんだろうね」
今度は胸倉をつかんでおばさんは医者に聞きます。医者には嘘と言える勇気がありませんでした。
「よし、じゃお前。小鬼探しに行って来い。ただし明日の日暮れまでだ。少しでも遅れたら2度と家には入れないからね」
おばさんはいつの間にか兄のことをお前と呼び、妹のことをあんたと呼ぶようになっていました。8歳の子供に小鬼討伐を命じたのです。
「一発で治るように山ほど垢をとってこい。ぐずぐずするな、さっさといけ」
おばさんは怒鳴り散らし、兄の服を掴み、外へと投げ飛ばします。こうしてろくな身支度もさせてもらえぬまま、兄は小鬼討伐に行くのでした。
●リプレイ本文
当面の問題は兄のてがかりと妹の確保、この2点に絞った冒険者達はまず親戚のおばさんにあたることにしました。念のため直に会って確認したいというシャーロット・プラン(eb2687)が変装し、接近を試みることにしました。
「大丈夫でしょうか?」
イアンナ・ラジエル(eb7445)はシャーロットの身を案じています。当のシャーロットは何食わぬ顔で変装を続けています。
「危険はありますが、できれば見返りも大きいですよ」
「確かにな。運がよければ兄の服も手に入れることが出来るかも知れん」
李猛翔(eb7352)と鴻刀渉(ea9454)はいいます。しかし危険な賭けであることには変わりません。
「別に無理はしませんよ。相手の出方を確かめるだけですから」
財布の中身を確認しながらシャーロットはおばさんの家へと向かいました。
おばさんは家の前を掃除していました。シャーロットはおもむろに近付いて声をかけます。
「こんな時間に精が出ますね」
突然声をかけられたおばさんでしたが、愚痴のこぼし相手が見つかったと判断したのか饒舌に語ります。
「ウチのが寝込んじまってね、しかたなくやってんのさ。最近の若いもんは身体が弱くて困るよ」
心の中では反吐を吐きながらも、シャーロットはおくびにも出しません。相手に合わせてしばらく話し込みました。やがて兄妹の話も出てきます。
「流行り病なんてのもどうせ嘘でしょ。子供は辛くなるとすぐ嘘を言いますから」
「まぁ確かにそういうのもいますからね。だったら眠っているというソレを譲ってくれ」
シャーロットは財布を取り出し、相手に2枚の金貨を見せ1枚を投げ渡します。その様子を見たおばさんは知恵を働かせます。
「実はソレ、兄がいるんですよ。1人1両、2人で2両でどうです」
相手に聞こえないようにシャーロットは舌打ちします。怒りを堪えもう1枚の金貨を投げてやります。
「まいどあり」
おばさんは玄関を開け、シャーロットを中に案内します。
「ソレが霞、兄が徹。服もおまけにつけてあげるよ」
おばさんは得意げに笑います。シャーロットはおばさんを見ることなく霞の布団まで歩き、彼女を抱きかかえます。
「それで兄の方は?」
「兄は今出かけていまして、明日の夕方には戻ってきますよ」
おばさんはいつの間にか揉み手になっています。シャーロットは兄妹の衣服などを手早く集めまとめます。
「まいどあり」
2枚の金貨に頬を摺り寄せおばさんは言います。シャーロットにはもう何も言う気力がありませんでした。
シャーロットが持って帰ってきた徹の衣類を元に徹捜索に入ります。ちょっと気になることのあるシャーロットは応援に来てくれた水鳥八雲(ea8794)に調べ物を頼みました。
「俺達が先行します。後からついてきてください」
ペットの柴犬3匹とシフールの李、イアンナが先に出発します。鴻とシャーロットは念のため徹の行きそうな場所を回りながら後を追います。
「8歳の子供が小鬼を見つける手段を知っているとは考えにくい。今小鬼の爪の垢と自分の命を天秤にかけつつ、突破口を探しているだろう」
小鬼と言えどいつでも存在するわけでは無く、子供にやられるほど柔でもない。そこまで理解しているなら、まだ近くにいるかもしれない。
「推論だけどね。行ったり来たりした子供の後を追うのと、目的地を押さえるのでは同じくらいの時間でいけると思うの」
シャーロットは自分の柴犬に言い聞かせつつ、李とイアンナに託しました。 4人は約束を交わしつつ、別々の道を進みます。
「それで、あんたがあの子の保護者なの?」
京都の街外れ、4人が行き着いた先には1件の家があります。どうやらここで徹は匿われているようです。
「あんな服装で外に出させるなんて、あんた人の心あるの?」
家のおばさんと思われる人は冒険者達相手に説教を始めます。親のあり方、子供のしつけ方、親と子供の接し方などなど。頭の痛くなる話ではありますが、どことなく嬉しくもあります。
「申し訳ありませんが、私達は徹君を助けに来たのです」
李は言いますが、おばさんは信用しません。
「あんた達が保護者の息がかかっているかもしんないだろ」
頑固さもいいですが、ここまでくると面倒でもあります。そこでイアンナはひとつの考えが浮かびました。
「では、徹君を引き取っていただけませんか?」
他の3人はイアンナを見ます。初めて聞いたときは驚きましたが、確かにいい意見のような気もします。おばさんも驚きましたが、やがて笑い出します。
「いいじゃない、その考え気に入ったわ。徹君に会ってく?」
4人はやっと安堵の表情を見せ、家の中へと消えていきました。
冒険者4人は徹と会った後、保護してくれたおばさんに事情を説明し霞を迎えに行くことにしました。
すでに日が傾いていましたが、一刻も早く通ると霞を会わせてあげたいと思ったので足早に京都に帰ることにしました。
「もう1つ、あの医者も気になる」
鴻は医者に金を握らせて妹の面倒を見てもらっています。しかしあの医者は場の雰囲気に流された前例があります。
「今更あのおばさんが来ると?」
李は首を傾げますが、シャーロットは否定できずにいます。イアンナはシャーロットに尋ねます。
「しかし今更霞さんを返してもらうなんて虫が良すぎませんか?」
そうはいうものの金を受け取ったときの親戚のおばさんのあの態度、イアンナにも思うところはあるようです。
「急いだ方がいいだろうな」
同じ頃、医者の家には親戚のおばさんが来ていました。厄介になっている自分の娘を返して欲しい、そういう言い分です。「はい」と言えば冒険者を雇ったことを問い詰められ、「いいえ」と言えば踏み込んでくる。医者は沈黙するしかありません。
「早く帰ってきてくれ」
医者は心の中で願いますが、現実は甘いものではありません。おばさんの怒号が夕闇の中を飛びます。
「早く返しなさいよ、この泥棒が!」
おばさんの張り手がとびます。回避が不可能と判断した衝撃に備えますが、無傷で済むはずがありません。その場に倒れこみます。
「奥、見させてもらうよ」
「や・・め・・」
医者がおばさんの足を掴みます。おばさんは汚いものでも見るかのように医者を一瞥、足蹴りします。
「ふん、医者の分際で他人の家庭に首突っ込むからよ」
奥に入ろうとするおばさん、しかし足元に仕掛けられている紐を見つけることができずに倒れ臥します。
「こしゃくな真似を・・」
「それはこちらの台詞です」
李が縄びょうを使いおばさんを拘束、さらに抵抗の意志を示したところでイアンナがグラビティーキャノンを初級で発動させます。
「こんなことで猟師スキルが役に立つとはね」
罠を仕掛けた李自身もどこか嬉しそうでもあり、悔しそうでもあります。
「使われないことが一番でしたからね」
遅れて鴻とシャーロットも到着、おばさんがいたことには驚きというより落胆といった表情です。
「ほんと馬鹿につける薬はないわね。子供を平気で売り払い、必要になったら取り戻しにくるなんてね・・寒い時代だと思わない?」
シャーロットは水鳥に頼んでおいた調べ物の結果を読み上げます。
「今日のお買い上げは反物、襦袢、帯、帯紐、下駄しめて2両だそうですね」
おばさんは視線だけで抵抗の意志を示しますが、李とイアンナに抑えられています。一方、医者は鴻の肩を借りてやってきます。
「どこまで墜ちれば気がすむのです」
「人攫いに言われたくはないね」
確かに冒険者のやったことは傍から見れば人攫いです。鴻は思わず舌打ちします。
「悔しそうだね、でも本当のことだろう」
どこか嬉しそうに、どこか楽しそうにおばさんは笑います。
「あんたらは犯罪者、あたしは被害者なんだよ。さぁ分かったら霞を返しな」
「そ・・それは・・」
「それはできない相談です」
鴻が断言します。医者が続けて話します。
「あなたも霞さんと同じ病に犯されています。今の状態では霞さんの容態にも関わります。それでしばらく霞さんを隔離させていただきます」
「はぁ?」
おばさんの顔に疑問の色が浮かびますが、李とイアンナがおばさんを連れ出します。
「あなたがいると霞さんのためにならないってことですよ」
李は見えないように笑います。イアンナもそっと微笑みました。
再びおばが悪知恵をつける前に、翌朝には霞は冒険者とともに徹のもとまで移動しました。念のため霞にはヒーリングポーションを飲ませています。
「あのお医者さんもよくやってくれました」
「評価を変えないとね。場に流されることもあるが、場を変える能力もある」
鴻は昨夜の一幕を思い出しながら微笑みます。今まで超えた修羅場の中でもまた一風違うものだとしみじみ感じていました。
「この1件で変わったってことでしょう?お医者さんも徹さんも霞さんも」
「俺たちもな」
やがて徹の匿ってもらっている家が見えました。いい匂いがしてきます。
「宴ですかね?」
養子縁組の宴かもしれませんが、ちょっと気が早い気がします。
冒険者が家に入ると、保存食の作成が行われていました。
「実を言うと、僕今日子鬼を倒しに行く予定だったんですよ。それで保存食準備してもらってたんです」
徹が笑顔で冒険者と霞を受け入れます。
「でも要らなくなっちゃいましたね。皆さんもらってくれませんか?」
冒険者は顔を見合わせましたが、結局受け取ることにしました。
「ありがとうね。おいしくいただきます」
イアンナは笑顔で保存食を受け取ります。
「それとこれをお願いします。三途の川の渡り賃だそうです」
徹は笑顔で言います。言葉の意味はわかっていないのでしょう。しかしそれは子供が持っているべきものではないはずです。
「預かっておくよ。徹君には必要ないはずだから」
この子達の笑顔は守らなければならない。それがこの依頼で冒険者の得た最大の報酬なのかもしれません。