【華の乱】家康死亡説と鬼の出現

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月24日〜04月29日

リプレイ公開日:2007年05月02日

●オープニング

 江戸の街の一部に不穏な噂が流れていました。源徳家当主、家康公はすでに他界しており、今の家康公は影武者だという噂です。
「先の上州騒乱は家康公らしからぬ失態だった」
 人の口に戸は立てられぬと言いますが、噂にしてはかなり悪趣味な部類に入るでしょう。江戸の民も無粋だと感じてはいます。しかしそれでも噂が広がる背景には自分達の生活が懸かっているからでした。家康公の影武者風情に江戸の街が治められるのかという問題です。
 江戸の街の生活は悪くはありません。栄えている部類に入るでしょう。しかし治安がいいかといわれれば素直に肯定できないのが実情です。江戸は1年半前放火により壊滅寸前まで追い込まれたことを未だ誰も忘れることは出来ませんでした。
 しかし今、江戸の街は見事再生を果たしました。その影に家康公の力があったことは否定できません。その家康公がいなくなった今、同じような危機に晒されたとき再び江戸は再生できるのでしょうか?
 誰もが自問し、その答えが出せずにいました。いや、出せても口にすることが出来ずにいました。
「そもそも家康公が死んだ噂自体が間違っているのではないか?」
 噂の真相は定かではありません。謁見さえ許されない者が家康公の真偽を確かめることはできませんし、謁見が出来たとしても真偽を確かめることは困難を極めるでしょう。
 しかし、それがかえって人の心理を掻き立てています。分からないこそ人は考えてしまうのです。

 噂の真相を確かめられぬまま、無闇に時間は過ぎていきます。そんな中、江戸の民にも家康公が戦の準備をしているのでは、という気配を感じるようになりました。食料や武器防具を集める人が増えてきたからです。
「これはまずいのではないか?」
 先の戦乱で家康公は敗北を喫しました。これは家康公が本物であろうと影武者であろうと変えがたい事実です。再び江戸が焼かれるかもしれないという心配が拭い切れません。ついには夜逃げをするものが現れたのでした。

 そんな不安を心の中に押し留めながら、1人の男がギルドを訪れました。
「夜逃げを手伝っていただきたいのです」
 内容が内容のためか男は周囲を気にした様子で話し始めます。
「私には妻とまだ幼い子供2人がいる。このまま江戸で朽ちることはできないんだ」
 男は大きな身体を震わせ、強く拳を握り締めていました。心の中には家康公の死亡、江戸大火の再現という2つの不安が押し寄せています。
「しかし夜逃げといわれましても具体的には何をすればよろしいのでしょう?」
 受付嬢は男の真意を知って知らずか務めて冷静に対応します。
「ひとまず西へ逃げようかと思います。しかし江戸の西には廃屋に住み着いた鬼が住んでいるようなのです」
 男の話によると、何人かの仲間がすでに夜逃げを決行、しかし鬼のために失敗したとのことでした。
「鬼と言っても子鬼戦士が数匹いる程度のようなのです。しかし我々には対抗手段がありませんし、何より運ばなければならない荷物があるのです」
 おこがましい依頼、男は自分でもそう感じていました。しかしプライドより守るべきものがあるのだと自分に言い聞かせます。
「食料はこちらで用意します。子鬼戦士さえ倒していただければ十分ですのでよろしくお願いします」
 男は受付嬢に対し頭を下げたのでした。
 

●今回の参加者

 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec0244 大蔵 南洋(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

 依頼人はひとまずギルドで冒険者と落ち合うことにしました。依頼人の出発前に鬼を倒す。この冒険者達の案を依頼人はいたく気に入りました。襲われる心配が格段に減りますし、依頼人の子供にもできれば戦闘を見せたくは無かったからです。
「代わりと言っては何ですが、ひとつ教えていただきたいことがあるのです」
 御門魔諭羅(eb1915)の言葉に依頼人は身構えました。しかし聞かれそうなことは1つしか思い当たりません。
「どこから家康公の死亡という噂が出たのですか?」
 御門は依頼人を見つめます。他の冒険者達も耳を傾けました。意を決したように依頼人は語り始めます。
「正直私には死んでいても生きていてもどちらでもいいのです。ただ。今の情勢を見れば見るほどおかしいと感じませんか?」
 依頼人は冒険者1人1人の顔を見ます。話している依頼人の顔にも不安の色が浮かんでいました。
「今回の戦は新田対源徳、上杉、武田、伊達の連合軍です。数の上で連合軍が負けるはずがありません」
 冒険者達は頷きます。そこまでは誰もが感じていることです。しかし前回の二の舞になることを誰もが恐れていたのでした。
「新田には真田がいる。そこが問題なんじゃないか」
 鷹城空魔(ea0276)の言葉を待っていたかのように依頼人は言います。
「真田は新田の部下ですか?」
 冒険者達は息を呑みます。真田は本来武田の部下です。それが敵と見方に別れている。何かあると考えてもおかしくはない。
「おかしいと言うより、何かがあると考えるべきですね」
 伊達和正(ea2388)も言います。頭の中に勢力図を思い描きますが、源徳と新田以外をどう見るべきか判断できませんでした。
「まさかと思いますが上杉、武田、伊達全てが裏切る可能性も」
 陰守森写歩朗(eb7208)は頭の中に最悪の展開を描いてしまいました。上杉、武田、伊達全てに裏切られれば、源徳の逃げ道は随分と絞られてしまいます。
「ちょっと待て、皆のもの。そうやって混乱させるのが新田の策略ではないのか」
 上杉藤政(eb3701)の言葉で一時的にその場は収まりました。しかし忘れられるわけではありません。ふと大蔵南洋(ec0244)は別の意味で嫌な予感を感じていました。
「新田の細作と考えること自体が間違っているのではないか」
 真田が動いているとすれば武田からの命令だと考えるべきですし、あるいは伊達が江戸の状況を調べるために細作を放っている可能性もある。
「まるで釈迦の掌で遊ばされているようだな」
 依頼人と冒険者はギルドを後にしたのでした。

 噂の出所には気になるところが多々あります。新田が流したのか、伊達が流したのか、それとも武田が流したのか。一応真実と言う可能性も無くは無いですが、冒険者達は流言だと考えていました。
「情報収集行ってきます」
 御門と上杉は任務に関する情報を収集するために聞き込みに向かいます。鷹城と陰守は下見、伊達と大蔵は引越し手伝いという役割分担でしたが、死亡説に関しては気になるところがあったため期待を込めて2人を送り出しました。

 冒険者ギルド、酒場、寺田屋など聞き込みをしていくと、噂は聞いたことがあるが信じている人は少数のようです。死亡説はあまりに突飛な発想だと言うことでしょう。
「でも気になることはあるんだ」
 酒場の主人の話では、最近妖魔の出現が多くなっているということ。
「最近というのは具体的には?」
 出された日本酒を一口含み、上杉は尋ねます。横では御門が出されたお茶を眺めています。
「伊達が来た頃じゃないか?その辺りから随分と客足も減っていったからな」
 御門が酒場を見渡します。まだ日が高いと言うこともあるのでしょうが、御門と上杉以外には2、3人しか客がいません。その客の顔もどこか陰鬱そうで酒を楽しんでいる様子はありませんでした。
「といっても強いのから弱いのまでピンキリだ。何者かが扇動しているんじゃないかって噂もあるぞ」
 どことなく眉唾物の情報でしたが、2人は主人に礼をいい酒場を後にしました。

 翌日の夜、冒険者達はすでに問題の小屋のそばまで到着していました。照らし合わせたように駿馬や韋駄天の草履、セブンリーグブーツなど高速移動手段を持っていたことは幸運だと言えるでしょう。
 先行して下見に行っていた鷹城と陰守が状況を説明します。
「小鬼戦士が3匹、見張りとかは特に立てていなかったな。余裕だと思うけど一応気をつけてね」
「建物自体は扉1つに窓1つ。比較的しっかりしていましたが、わざわざ屋内で戦う事も無いでしょう。やはり予定通り屋外に誘き寄せて戦うべきでしょうね」
 屋外は木々が多少生えているが戦闘には支障はないだろうというのが2人の見解でした。
「今は留守中に仕込んでおいた鬼毒酒で酒盛りの模様。しばらく待てばいい感じに酔いが回るでしょう」
 全員の意志を確認し、散会しました。

 鷹城とインビジブルを発動させた上杉が屋根の上へ、伊達、御門、陰守、大蔵が忍び足で小屋に近付きます。中からは呑気な騒ぎ声が聞こえてきた。
 御門は隠れながら窓から室内を確認します。下見通りすっかりできあがった小鬼戦士3匹が舞をやるかのように踊っています。
「鬼の台頭ですか」
 死亡説について聞き込みをしてみると、奇妙な話がありました。妖魔が江戸を襲おうとしているのです。ギルドの方にもいくつか依頼が来ていました。
「ここもいきなり現れたという話でしたし」
「そうですね。しかし今は任務ですよ」
 いつの間にか伊達が御門のそばに立っていました。御門がしばしあっけにとられたように伊達を見ていると、伊達はそっと微笑みかけました。御門は外套で窓を覆い、作戦開始を告げるように壁を叩き始めました。
 同調するように伊達、大蔵も壁を叩き始めます。外の様子を確認できず混乱した小鬼戦士が逃げるように外へ飛び出してきました。
 外には陰守が仕掛けておいた罠が待っています。尖った小石を敷き詰めるなどして小鬼戦士を混乱、建物から遠ざけることを目的としてます。しかし2匹は小屋から離れたものの、1匹は小屋の中へと戻ってしまいました。
「月影の調べよ、彼の者を眠りへと誘え」
 小屋に戻った1匹に窓のそばに控えていた御門がスリープを詠唱、ひとまず無力化させます。小屋から離れた2匹には屋根の上に控えていた上杉が油をかけ、鷹城が火遁の術を詠唱。燃える小鬼戦士たちに伊達がオーラショットを放ち大蔵がパワーチャージを使用しながら間合いを詰めます。大蔵のスマッシュが炸裂し、鷹城と伊達が間合いを詰めたときには大勢が決定していました。

 小屋を完全な形で手に入れた冒険者達は、依頼人達の休憩所として提供することを決めました。軽く掃除をした後、伊達と大蔵が引越しの手伝いに戻ります。荷造りが終っているのか気になるところでしたが、陰守清十郎(eb7708)がサイコキネシスの巻物で保持したこともあって既に完了していました。
 子供達に陰守から預かってきた韋駄天の草履を履かせ、早速移動を開始します。 
「荷駄にも韋駄天の草履の効果があればいいんですけどね」
 ゴーレムなどに効果の無い韋駄天の草履、歩く分には効果が発揮するでしょうが台車を押しながらではどうしても速く走ることが出来ません。大蔵は自分の馬にも荷物を載せ、依頼人と伊達、大蔵が台車を押すのを手伝います。
「西で何をなさるのです?」
 伊達が道すがら依頼人に聞くと、しばらく間をおいて返事が返って来ました。
「とりあえず生きてみようと思います」
 依頼人のどことなく悲痛な表情に伊達も大蔵もそれ以上何も聞くことが出来ませんでした。

 小屋に着いたころには既に夜は明け、東には太陽の姿がはっきりと確認できるようになっていました。
「あれは太陽ですよね」
 依頼人が言うと、冒険者は一斉に押し黙ってしまいました。東には江戸があり、今その江戸の街の上に太陽が燃えている様に見えます。その様子はどうしても大火を連想させてしまうのです。
「すみません、変なこと言ってしまいまして」
 空気を察したのか依頼人が咄嗟に謝ります。
「心配するなって江戸は俺たちが守ってやるから」
「あなたはあなたの生活を守ってください。幸運を」
 鷹城と陰守が強く宣言します。依頼人は多少驚いたようですが、すぐに笑顔に戻りました。
「折角です、ここで最後の晩餐と洒落込みませんか」
 伊達が芋がら縄と奈良漬をバックパックから取り出します。
「いいですね。私がお湯を沸かします」
 陰守が調理場へと向かうと、依頼人の奥さんも手伝いに走ります。
 お湯が沸くまでの間、旅の安全と今後の生活を祈って御門が占いを行い、上杉が身を落ち着けるように忠告します。依頼人は真摯に2人の言葉を受け取っていました。
 ご飯の気配を察した子供達が目覚め、しばらく大蔵の顔に警戒していました。しかし顔が怖いだけだと分かると緊張を解いたようで、最後の晩餐はしめやかに行われたのでした。