【宮本武蔵】五輪書
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月03日〜05月08日
リプレイ公開日:2007年05月11日
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●オープニング
京都の街中、とある高級料亭に2人の好事家が顔を合わせていました。名前は山下芳之助、高田藤太郎。2人とも事業に成功し、今は多少余裕のあるお金を趣味に回しています。
「最近何か面白いものは手に入ったか?」
「面白いと言えば、面白いかなぁ」
山下の男が重そうな包み台の上に出します。包みを開くと犬鬼の鱗、豚鬼の戦槌などが出てきました。他にもまだ何かありそうです。
「随分な代物だな」
高田は言葉を選びました。面白い、というよりは珍妙。ただの汚らしい使えないものと見る人もいるでしょう。
「どうしたんだ?」
言葉少なに高田は言います。その視線は山下ではなく小鬼の鱗などに向けられています。視線の意味を察して、おずおずと片付け始めました。
「強そうな客がいたんで面白いもの持ってきたら買ってやると言ったんだ」
「その結果がそれか」
高田は包みを指差します。山下は視線を泳がせますが、最後は諦めたように軽く両手を挙げ肯定しました。
「でもこれはまだいい方だ。極め付きはこれだ」
山下が取り出したものは書物のようでした。ただし紙ではなく、薄い木簡のようです。
「題名を見ろよ。最高だぞ」
そこまで言って思い出したかのように食事を取り始めます。高田の目は山下の口に運ばれていく料理を追いかけながら、口に入るのを確認すると書物に目を落としました。そこには五輪書と書かれています。
「確かに最高だな」
高田は書物を開き始めました。それなりに綺麗な文字が並んでいます。
「読むのか?」
山下は意外そうに見つめます。山下自身は題名を見ただけで中身は見ていませんでした。しかし高田は興味深そうに読み始めます。
「持ってきた奴を知らないからだな、体重百貫の二刀流だぞ。刀よりも張り手が似合いそうな感じだぞ」
高田は山下の話を聞きながらも、ほとんどの神経を書物の方に向けていました。
「これ面白いな、売ってくれ」
「正気か?」
山下が聞き返すと、高田は力強く頷きます。
「あぁなかなか面白いぞ。阿修羅王との戦い方などが綿密に予想、計画されている。しかし顔3面腕6本相手は辛かったと書かれているな」
「まるで勝ったような書き方だな」
山下は再び料理を一口、会話よりも料理が気になるようです。あまりの馬鹿馬鹿しさに酒にも手を伸ばし始めました。
「人が阿修羅王に勝てるわけがあるまい。天罰が下るぞ」
一方高田も真剣には考えていないようですが、料理には手をつけません。書物を読みながら何かをしきりに考えているようです。
「こいつを持ってきた奴は百貫の二刀流だったな」
「確かにそうだが、どうするんだ」
「会ってみたくなった。ちと探しに行く」
こうして高田は冒険者ギルドへ向かっていきました。
●リプレイ本文
高田は依頼を受けてくれた冒険者、日田薙木穂(eb1913)、梔子陽炎(eb5431)、本多文那(ec2195)の3名を料亭に集め会食を開いていました。目的となる男性の特徴を伝えるために、冒険者からも要望されていた山下も参加しています。
「それで問題の剣士なのだが、山下頼む」
吉田に促される形で山下は気まずそうな顔をしつつもぽつぽつと話し始めます。
「名前は・・よく考えたら聞いたことがないな。俺は『でかいの』とか『力士』とか呼んでいたな、向こうもそれで納得していたよ」
名前が分からないというのはちょっと先行きが不安ですが、見た目がかなり特徴的なので冒険者達はそれほど悲観的には考えていませんでした。それでも得られるだけの情報は得ようと山下に話しかけます。
「身の丈5尺5寸でしたな?」
日田の問いにしばらく考えた様子を見せましたが、やがて立ち上がって自分の目線から相手の身長を予測します。
「そうだな、それくらいだ。私より頭1つ小さいくらいだからな」
梔子が山下の立ち上がった姿を少し身体を引いて確認すると、自分より頭1つおおきいくらいだと確認します。逆に言うと目的の男が自分とほぼ同じ身の丈だと当たりをつけました。
「私と同じくらいの身長で百貫もあるのかしら?その人、本当に動けるの?」
梔子の意見に吉田は興味深げに山下を見つめ、見つめられた山下は何かを思い出すようにしばらく視線を空に泳がしていました。
「よく考えたら剣を扱っているところを見たこと無いな。剣ではなく竹光かもしれん、もっとも剣も爪楊枝に見えたがな」
「ということは流派も御存じないかな?」
本多の意見にも山下は首を捻るばかりです。
「まぁ刀2本帯刀してたわけだから二刀流じゃないのか。二刀流といえば二天一流以外知らないんだが、他になにかあるのか?」
今度は本多が考え込む番になりましたが、二天一流のことより爪楊枝2本を帯びている力士を想像するだけで笑いがこみ上げてきます。その笑いが伝染したのか、会食は終始和やかに進みました。
会食もやがてお開き、冒険者達は依頼人から手付金代わりに今会食している高級料亭の紹介状を渡されました。
「見つかったら私に連絡して欲しい、私もすぐに向かおう。それまでの間は何を頼んでも構わんよ」
紹介状を渡されながら、日田は吉田に話しかけました。
「それにしても高田殿、あんさんに波乱の卦が出てまんな‥‥その波乱の卦が良いものか悪いものかは判らしえへんおすが‥」
吉田は楽しそうに笑って答えます。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずだよ。もっとも欲しいのは虎の子ではなく剣の達人だけどね」
紹介書の中身を確認して、冒険者3人は料亭を後にしました。
冒険者3人はまず冒険者ギルドにやってきました。3人は早速手分けして聞き込みを始めます。
「百貫くらいありそうな侍さん知らんやろか?」
「身の丈が私くらいで二刀流らしいんだけど知らないかしら?」
「小鬼とか豚鬼とか倒しているらしいだけど、聞いたこと無いかな」
3人がそれぞれ聞き込みをしましたが、なかなかうまく情報が手に入りません。
「冒険者ではないんやろか?」
日田は進展の無さに多少苛立ちを感じつつも、受付嬢にも話を聞くことにしました。
「それほど大きな人なら一度見たら忘れないような気がするのですが、覚えがありませんね。お役に立てなくて申し訳ありません」
丁寧な口調ながらもはっきりと否定されてしまい、やるせなさを感じてしまいます。ひょっとしたらさっきの占いででた波乱の相というものはこの事ををいっているのではないかと思い始めてきました。
「しかたないわね、冒険者じゃなくても侍はいるわけだし。酒場にでも行って見ましょ」
「大きな人みたいですから、きっといっぱい食べますよ。酒場の中では有名人かもしれません」
外は日が沈みかけている頃、酒場で聞き込みをするにはちょうどいいかもしれません。3人は冒険者ギルドを後にし、酒場に向かうことにしました。
3人は夜の街へと繰り出すと再び散開、各々適当な酒場を見つけて入っていきました。
「あらお兄さん、いい身体しているじゃない。私惚れちゃいそうよ」
身体を微妙に近づけつつ、梔子は常連と思われる男性客に聞き込みを開始します。帯刀している客を中心に少し衣装をはだけさせていると、1人の客からお呼びがかかりました。
「かかったわね、大物だといいんだけど」
内心の思いを顔に出すことも無く、気のあるような表情で客によって行きます。ちょっと杯を掲げられたので酒をついでやり、返杯も受けました。
「いい飲みっぷりで」
「あなたほどじゃないわよ。飲みっぷりだけじゃなく、顔も身体も最高よ」
男をおだてて酒を飲ませ、頃合を見計らって梔子は本題を切り出しました。
「奴なら街外れの小屋に住んでるはず。金になりそうなもの見つけては街へ来て売りさばいているらしいぜ」
梔子は初めて心から微笑し、しばし男と酒を楽しんで店を後にしました。
梔子が店を出る頃には、他の2人も同じように店を出てきます。
「そっちはどうやった?」
「街の外れが怪しいみたいよ」
「僕もそんな話聞いたよ、街外れの小屋に大きな人が住んでるらしいね」
そういう本多の顔がほんのり赤くなっています。相手に付き合ったのかそれなりに飲んでいるのでしょう。しかし2人同じ情報を得られたということはかなり信憑があるということになります。3人は小屋へと向かうことにしました。
街外れの小屋には男が1人住んでいました。もう暗くなっているので男は外出を嫌がりましたが、紹介書を見せるや否や身支度を整え外へ出ていました。
「飯が喰えるんだな、早く案内してくれ。今夜は寝て空腹を紛らわせるつもりだったんだ」
男は白い歯を見せますが、顔は夜でも分かる程脂ぎっていて笑顔が似合うとはいえませんでした。百貫は言い過ぎとしてもそれなりに大きな身体を苦にしていないかのような動きで冒険者を後を追っていきます。
街に入った頃、本多が依頼人の高田を呼びに行き、念のため山下も呼びに行きました。本多と高田、山下が料亭についた時には、目的の男がすでに3人分の料理を平らげていました。日田と梔子は軽く眩暈を覚えつつも、依頼ということでかろうじて意識を保たせています。
高田が山下に男の確認をさせ、高田は自己紹介をしました。
「私は高田藤太郎。面白いものを集めるのが趣味でね、山下とも仲良くさせてもらっている。先日君が持ってきたという五輪書を買わせてもらったよ」
「ほむほむ、それはどうも。ちなみにあっしは武三と呼ばれてます」
男は食べながら話します。高田のことより今は目の前の食事の方が重要なようで手を休めることなく動かし続けていました。
「それで聞かせてもらいたいのだが・・」
一度言葉を止めて、高田は武三と名乗る男の様子を確認します。身の丈は確かに5尺5寸程、体格がよく確かに関取と間違えられても仕方が無いような姿をしています。大きな顔と不釣合いな小さな目は目の前の皿にのみ向けられ、身体つきの割に素早い動きをしています。
「あの木簡どこで手に入れた?」
武三は手を止め初めて高田の方を見ると、口を歪ませて笑いました。
「拾い物に決まっているじゃないか。この前、戦の跡地に行ったら見つけたんだわ。金になりそうだから取っておいただけ。ちなみに今まで山下さんに買ってもらったものも全部拾い物。この刀だって拾い物さ」
自慢するかのように武三は刀を軽く叩き、再び笑い始めました。しかし空気だけは冷たくなっています。日田は軽く頭痛を覚え始めていました。
「本当に波乱になってしまいましたな」
日田が溜め息交じりに呟くと梔子も本多も小さく頷きます。2人はいつの間にか料理ではなく酒に手を出していました。
お腹いっぱいになったのか、しばらくすると武三が箸を止めました。そしてやっとまともに話し始めます。
「あの木簡見つけたのは半年くらい前かな、五条の乱のときだ。戦火が広がってきて、当時オラが住んでいた家も侍がやってくるようになった。そんな侍の中に老人がいたんだよ」
何か懐かしむように小さな目をさらに小さく細めながら武三は語ります。
「老人は言ったよ。もしワシが死んだら刀と本をやろうとね、一宿一飯の礼のつもりみたいだ。3日後その老人はオラの家の近くで倒れてたさ。もう息もしてなかった。オラは墓を作って、老人の言ったとおりに本と刀を貰ったんだよ」
沈痛な表情で吉田は武三の話を聞いていました。吉田はひょっとしたら宮本武蔵にあえるかもしれないという気持ちがあったのですが、どうやら既に他界しているようです。
「といっても本は俺には読めないからな。山下さんに売ったわけだ」
武三はそう締めくくると、席を立ちました。
「ごちそうさん。また何か見つけたらもっていくよ」
そう言葉を残して武三が去っていきました。
「どう思う?」
吉田は冒険者に意見を聞きます。
「やはり波乱でしたね」
言葉少なに日田が答えました。
「死んだ老人の形見というのかしら?そんな本もってていいの?」
梔子は吉田を心配し、本多も同意します。
「墓に埋めてあげた方がいいんじゃないかな?」
そこで初めて山下が口を開きました。
「その必要は無いさ。あいつの親父なんか俺が知ってる限りで既に3回死んでる」
どうやら冒険者達は武三に担がれていたようでした。