死者に咲く花

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月06日〜05月11日

リプレイ公開日:2007年05月14日

●オープニング

 京都の東側、郊外に古びた寺がありました。黄泉人との戦乱の舞台にもなっており、寺はあちこちが破壊されています。床は腐り、柱は朽ち、かろうじて原型を留めている程度です。今となっては夜露を凌ぐことしかできません。
 一方で植物達は再生を始めています。踏まれ、切られ、荒らされたはずの植物でしたが、今では根付き新たな芽をつけています。
 その中に1本、まだ幼い若木があります。桜の若木です。樹齢1年から2年といったところでしょうか。まわりの木々とは隔離されたかのように1本だけぽつんと植えられています。

 1人の僧が寺に一番近い村へと向かいます。名は木下公準、この先の古びた寺でかつて修行していた僧です。
「村長はいらっしゃいますか?」
 村人は驚いたようですが、やがて笑顔をほころばせます。
「木下様、御無事だったのですね」
「健康だけが取柄ですからね。昨年はお世話になりました」
「昨年・・もう1年になるのですね」
 木下の師、高岡総仁は寿命で昨年亡くなりました。自然を愛し、自然の中で死ぬことを希望していました。黄泉人騒動の際も寺からの退去を最後まで拒み、木下や村の人々が強引に連れ出しました。しかしそれが高崎の寿命を縮めたことも否めません。
 せめて最後は師の望んだ通りにと思い、長年過ごした寺の庭に死体を埋葬。墓標として桜を植えたのでした。
「村長は自宅にいらっしゃるはずですよ。案内しましょうか?」
「そうですね、お願いします」
 木下は1年振りに村を見回ります。この村にも高崎の遺志が引き継がれています。自然を愛し、自然と共に生きる心。その証拠として、村には桜が植えられています
「あの桜も思い出ですね」
 村人もしみじみ語ります。
「桜は美しい。しかし桜で食べていけるわけでもない。村人の多くは反対しましたからね」
 それでも桜が植えられたのは、『生きている時に生きていることを実感しなければ、それは生きているという意味が無い』という高崎の言葉によるものでした。
「人は食べていかなければ生きてはいけない、しかし生きているとは食べることだけではない」
「木下様も随分板が付いてきましたね。高崎様みたいでしたよ」
 村人は木下を見上げています。木下は照れたように顔を隠していました。
 やがて村長の家が見えてきます。木下にも見覚えのある家です。
「ここまでで十分ですよ」
 木下は村人に礼を言い、家の中に入っていきました。

 村長は家で息子と話し合っていました。険しい表情をしていましたが、木下を見るなり笑顔で迎えます。
「お久しぶりです。木下様」
「こちらこそお久しぶりです。御無沙汰して申し訳ありません」
 ひとまず挨拶が終ったところで木下が本題を切り出します。
「師の1周忌を行おうと思います。派手にする気はありませんが、行くのなら皆さんでどうでしょう」
「・・」
 村長は言いにくそうにします。息子が代弁しました。
「あの寺に何者かが住み着いたようなのです」
 木下が息子の方に向き直ります。息子は服を脱ぎ出しました。背中に円形の傷跡、円形の中には所々さらに深くえぐれている部分があります。
「先日友人達と狩りに出かけた時、寺の近くで襲われました。金属鎧をまとい、鉄球のようなものを持っていました」
 木下は顔をしかめます。木を育てるためにあまり金属は使いたくない、そういっていた師の話を思い出します。
「よく御無事で・・」
 息子が辛そうな顔をします。
「いや無事じゃないのです。逃げ遅れた仲間の1人が、金属鎧に捕まりました」
「人質ですか?」
 人質を取るということは何らかの要求があるということです。しかし要求されそうなものが思い浮かびません。
「お金や食料が要求されたのですか?」
「いや。今のところ何の要求もありません。だからこそ薄気味悪いです」
 村長は深呼吸します。
「しかし人質は救出しなければなりません。親御さんも救出を訴えてきました」
「私が見た限り敵の数は4人。鉄球持ちと巨大な槍と斧の合体したようなものを装備した者、あとは弓兵と魔法使いのようでした」
「・・強そうですね」
 淡々と木下はいいます。単なる表面上の強さだけではなく、場所の問題もあります。師の墓標を血で染めたくは無いのです。
「しかし、この話は村で解決せねばなるまい」
 高崎様の教えは、引きついた者達で守る。少なくとも数の上では村の方に歩があります。
 そこに1人の村人が走りこんできました。
「ジーザス教を名乗る奴らが押しかけてきた。人質を返して欲しければジーザス教徒になれと言ってきている!」

 村長1人がジーザス教徒の前に進み出ます。村長は最悪ジーザス教に鞍替えすることもやむをえないと考えていました。
 ジーザス教を受け入れることは苦痛です。しかし人命と引き換えにするわけには行きません。表向きにはジーザス教を受け入れても、隠れて仏教を信じることもできるのですから。
「私が村長の羽田順一郎だ。話を伺いましょう」
「話はしたつもりだったんだが、まぁよかろう。ジーザス教を受け入れてもらいたい」
 魔法使いと思われた宣教師が、流暢とまでは言えないものの会話には支障の無い程度にはジャパン語を話します。体つきも良く村長を見下ろす形になっているため、傍から見ればどうしても脅迫しているように見えてしまいます。
「その前に人質を返して貰おう」
 村長が言うと、宣教師の後ろに控えていた鉄球持ちのドワーフと斧と槍の中間の武器を持ったジャイアントが村人を連れて宣教師の横まで進み出ます。
「この通り人質は無事だ。そちらもジーザス教を受け入れる意志を示して欲しいものだな」
 どこか鼻にかかる口調で宣教師は言います。
「具体的には何をすればいい?」
 村長は考えます。ジーザス教の寺のようなものに参拝する、ジーザス教にお金を納める、そのようなものだと予想していました。
 宣教師は言います。
「この街で大事にされているという桜の木を全て切ってもらおう。あとこの先にある寺の桜もな」
 村長は思わず呻きます。そんな村長の態度が予想通りだったのか、ジーザス教の4人は嘲笑を浮かべています。
「こいつから聞いたんだけど、あんたたちは大層桜を大事にしているんだろ?それを切るくらいの覚悟は示してもらわなきゃね」
 村長は思わず人質となっている村人を見ます。村人はすまなそうに視線を下に落としています。
 人命は大事にしたい。しかし桜も大事である。村長はひとまず時間を稼ぐことにしました。
「ここには木を切る道具が無い。京都まで往復する時間をいただきたい」
 宣教師達は声を上げて笑います。笑いを堪え切れなかった様子です。
「俺のハルバートを貸してもいいが、使える奴はいないだろうな」
 再び宣教師達は笑います。そして宣教師は手で村長を下がらせました。

「総、ギルドまで行ってもらえるか?」
 村長は家に戻り木下と息子に事の成り行きを話します。
「あいつらを倒すのですね。しかし私達だけでと話をしたではないですか」
「無理だ」
 村長は首を振ります。
「幸一の倅から村の事を聞きだしているようだ。試しに話しをしてみたが、村の人口や高崎様に関することまで聞き出している」
「こちらの手の内が読まれているということですか。それで冒険者を」
「仕方あるまい。最悪高崎様の墓標を切り倒すことになるが、村人にはさせたくは無い」
 辺りを沈黙が支配します。静かな肯定でした。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

伊東 登志樹(ea4301)/ 風斬 乱(ea7394

●リプレイ本文

 太陽がまだ東にある内から冒険者達は依頼人である村長の息子、総とともに村へと向かいます。移動時間を使って冒険者達は村の情報を総から聞き出し、作戦を練り始めます。
「問題は人質じゃな」
 小坂部太吾(ea6354)は前方と総の顔を交互に確認しながら話します。他の冒険者も同意しました。
「だが木を切るのは単なる無謀だろう?あたしが言うのもなんだけどね」
「夜襲が一番でしょうか。相手の武器を考えると屋内で戦う方がいいでしょうね」
 クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)と皆本清音(eb4605)の発言を受けてか、話し合いは夜襲の仕方を中心に展開していきます。傍から見ていた総も木を切らずに済みそうで多少安心しました。
「となると寝る場所の確保と宣教師達がねぐらにしている寺の内部構造が知りたいだよ」
 郷地馬子(ea6357)の言葉を受け、総が多少変わっているかもしれないと前置きをおいた上で詳細を語り始めます。
「寺は大きさ10坪ほど。入り口は正面の障子のみで同時に2人入られるはず、宣教師達のハルバートでしたっけ?それと鉄球が振り回せるかどうかは判りかねますが」
 話を聞きながらレティシア・シャンテヒルト(ea6215)がファンタズムを詠唱、発動させ寺の内部と周辺を実体化させます。
「こんな感じかな?」
「そうですね」
 久しく魔法を見ていなかった総は苦笑交じりに答えます。カラット・カーバンクル(eb2390)は気になって総を見つめましたが、総は笑って「なんでもないです」と答えました。どことなく寂しげな視線にカラットは何となく事情を察し、話題を元に戻しました。
「問題は宣教師の魔法と灯りですね」
 話題は再びファンタズムで作られた立体図に移ります。総は思い出しながら付近の木の様子などを少しずつ語り、レティシアが再度修正してファンタズムを詠唱しなおします。
「宣教師がどんな魔法使えるか覚えてないか?」
 クリスティーナは言いますが、総は首を横に振るだけしかできませんでした。
「敵も自ら手の内を晒すほど愚かじゃないということじゃろう」
 小坂部が助け舟を出し、話を先に進めます。
「あとは火の問題じゃな」
「ある程度地形は分かっているし、目を慣らしておけば潜入はできると思うわよ。罠や見張りがあると問題だけど」
 皆本の意見に冒険者達は考え込んでしまいました。
「あたしが夜目利くし、罠も解除できるからそっちは問題ない。問題は見張りのほうだな」
 隠密行動万能を持つクリスティーナとカラットが罠解除に挑戦ということで罠に関しては落ち着いたものの、見張りがいる場合は多少問題があります。
「できれば最低1人は捕獲したいしのう」
「そうですね。他にもジーザス教が起している事件があるようですし」
 レティシアはサポートに入ってもらった風斬乱(ea7394)からのシフール便を広げつつ確認します。どうやらきな臭い気配はあるが、正体がつかめていないようです。
 それからの道のり、冒険者達は見張りの対処法に頭を悩ませつつ村を目指していきました。
 
 到着翌日の夜明け前、東の空がかすかに明るさを取り戻そうとする頃に冒険者達は寺の近くの草むらの中で様子を伺い、見張りの有無を確認します。
「予想通りだな」
 ハルバート持ちが寺の正面玄関前に立っていました。
「では、カラット殿とレティシア殿が寺の裏口に回って人質の安否と寺の内部構造の確認をお願いするのじゃ」
「「了解」」
 カラットとレティシアが移動するのを傍目に、クリスティーナは自分のロングボウに矢を番えます。ハルバート持ちがカラット、レティシアの2人に気がついてしまった場合に備えてのことです。殺気感知、優良聴覚まで駆使して状況の把握に全力を尽くしますが、どうやらハルバート持ちは2人に気付かなかったようです。
「第一段階成功だべな」
 次の段階へ向けて郷地はひとまずストーンアーマーの詠唱に備えます。皆本は提灯に火をつけようかとも考えましたが、東の空が白け始めています。ペットの黒吉に預け、他のペットのところまで下がらせました。
「問題はこれからじゃな」
 小坂部は1人呟き、カラット・レティシア組からの反応を待つことにしました。

「良一、起きてる?」
 無事寺の裏手に回ったレティシアがテレパシーで人質となった幸一の倅に呼びかけます。何度目かの呼びかけの後、やっと反応がありました。
「明け方近くに襲撃した甲斐があったね」
「は?」
「いや、こっちのこと。それより中の状態教えてくれる?」
「分かりました。私は寺の玄関から見て奥の左隅、隣に人間宣教師がいます。入り口の左右に鉄球持ちと弓エルフが控えています。皆寝ているようです・・」

 待機していた小坂部達の下にムーンアローが飛んできました。
「戦闘開始だ」
 挨拶代わりにクリスティーナがダブルシューティングで矢を放ちます。しかしハルバート持ちは器用に回転させ両方の矢をミサイルパーリング、見事防いで見せます。
「そこまでは予想済みじゃよ」
 続いて暇を与える隙を与えず小坂部は片手で印を結びファイアーバードを高速詠唱、ハルバート持ちに突入します。ストーンアーマーとブラックボールを発動させておいた郷地と皆本が小坂部の後に続きます。
「・・・・」
 ジャパン語では無い何かを一言二言を呻くとハルバート持ちはガード+カウンターアタックで反撃、ハルバート持ちはカスリ傷を負いますが小坂部は中傷を負ってしまいます。すぐさまリカバーポーションを飲んで小坂部は戦線に復帰します。
「まだだべ」
 続いて郷地の金属拳が炸裂、すでにAPを使い果たしたハルバート持ちは反撃できずに再びカスリ傷。さらに皆本のディザームでハルバートを落としてしまいます。
「今こそ好機ですね」
 フレイムエリベイションの巻物を使用し正面の様子を伺っていたカラットが、寺の裏側から正面に回りこんで寺の中に進入。ここで打ち合わせ通り人質となっている良一が飛び出してくる手はずになっていました。しかしカラットの目に映るのは良一が2人、1人が先行している形で2人とも寺から飛び出ました。

「どうなってんのよ」
 思わず皆本が愚痴をこぼします。しかし目の前のジャイアントが落としたハルバートを拾おうとしているので、ハルバートを蹴飛ばし再びカウンターアタック対策のフェイントアタックEXを使用。見事に決まりましたが再びカスリ傷です。
「何て堅いんだべ」
 郷地も再び間合いを詰めますが、カラットの叫び声が響きます。
「どっちを助ければいいのです?」
「両方固めちまえ」
 クリスティーナは再び矢を番え、シューティングPAEXでハルバート持ちを狙いながら言い放ちます。
「抵抗した方が敵に決まっているさ」
 一理あると判断したカラットはアイスコフィンの巻物を取り出して、2人共に発動させます。
「ごめんなさい、しばらく待っていてくださいね」
  
 ハルバートを落としたジャイアントは郷地の金属拳を回避したものの、クリスティーナの矢を避けきれず中傷を負います。
「1人あがりね」
 皆本がロープを取り出しジャイアントをしばりあげ無力化。小坂部、郷地、皆本の3人が寺の中に侵入します、続いてクリスティーナが入ります。
「ようこそ」
 片言のジャパン語とともに鉄球が3人を襲いかかります。しかしそれは予想済みの行動、防御に徹した3人が鉄球を受け止め、体力のある小坂部と郷地が鎖を掴みます。
「力比べじゃ負けないだべ」
 その時、郷地に何も無いところから矢が飛んできました。
「小癪な」
 インフラビジョンで姿を消していたエルフが射撃と同時に姿を現します。再び矢の準備をさせる前に皆本が接近、ディザームを狙います。
 この場面で真っ先に動いたのは鉄球ジャイアント、郷地の力が弱まったと見るや否や鉄球を再び力任せに手元に引き寄せました。
「力だけではなく早さもあるじゃと」
 思わず手を離した郷地に対し、小坂部は鉄球の鎖を左手で掴んだまま右手で印を結びバーニングソードを発動。徐々に大きくなるジャイアントの顔に一撃を入れます。
「じゃが経験不足じゃな」
 
 一方残るエルフは自衛用にファイアーウォールを高速詠唱、矢の装填の時間を稼ぎに走ります。しかしブラックボール発動中の郷地が炎の壁の中に突入、その勢いのままエルフに殴りかかりました。
「これで終わりだべ」
 遅れて駆けつけたクリスティーナがエルフにシューティングPA、レティシアからのムーンアローも届きエルフの動きを止めました。その後、小坂部とカラットがプットアウトで鎮火させます。

「残る問題はこれだけね」
 冒険者達はレティシアのペット、ペガサスのミューゼルにリカバーをかけてもらい治療。その後2つの氷棺の前で頭を突きつけていました。
「上半身だけ溶かして黒吉に臭いを嗅がせるわ」
「そのあとで聖印をとりあげるだべ」
 ゆっくり半刻程かけて2人の良一の氷の上半分を溶かし、尋問を開始。臭いまでは誤魔化せない様で宣教師が判明しました。郷地が聖印を取り上げます。
「聖印が無くとも我らの思いは消えん。我らもいずれや神と同化するのだ」
「同化できないようにそのまま凍っておくといいわ」
 心酔者だとわかると皆川が多少呆れたように言い放ちます。しかし次の瞬間、宣教師の顔が青黒く変色していました。
「毒か」
 小坂部が宣教師の口を強引にあけると、奥歯に何かが引っかかっているようです。しかし口の中はすでに変色済み、手遅れだと判断した小坂部は苛立ちを隠そうともせず手を離しました。
「他の奴らは?」
 寺の方を見ると近くで炎が上がっています。エルフが片手だけ自由を取り戻し、ジャイアント2人も巻き込んでファイアーウォールを唱えたようです。

「彼らも来世で桜を愛せればいいのだが」
 一部始終を聞いた村長はそう感想を漏らしました。村長は宣教師達の武具を預かり、彼らの墓と寺の手直しを冒険者とともに最後まで手伝いました。