●リプレイ本文
「随分と大胆な手だったな」
1人の男が3人の男を前に呆れたとも感心したともとれる表情を呈した。
「犯行予告と人相書きを使った指令書とは恐れ入った」
「今は御大もいらっしゃっているからな。俺達自体も情報操作の一部に過ぎないさ」
中島幸之助は第3の男の国本での偽名、何度も死んで何度も蘇っているため不死身とも数人単位で使いまわされている名前とも言われている曰く付きの名前でもあった。真の中島幸之助を隠すためとも言われているが、末端構成員である4人には詳細を知らされていない。
「ま、とりあえず今回の中島はこいつだ」
それは目も鼻も口も刻まれている精巧な細工物だった。
捜査1日目の夜、空には月が浮かび雲はひとつありませんでした。ライル・フォレスト(ea9027)は徹夜スキルと優良視力スキルを駆使し、馬小屋の周りを確認しています。
「しかし怪しいもんは何一つねーじゃん」
犯行予告を気にしてか何人かの貴族が馬小屋に警備を雇ってはいるが、それはすでに確認済みでした。昼の内にアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が初の流鏑馬で的を同時3枚割の快挙を成し遂げ、それを見た貴族や大会関係者が挨拶をしに来てくれたからでした。おかげでアイーダは大会に参加、壬生天矢(ea0841)は愛馬黒華を囮としてもぐりこませることに成功し、ライルは馬廻りとして潜りこませて貰える事になりました。
「あんなもの当たったうちにはなりませんよ」
アイーダが言うには的に命中したのは1本、他の2本は左右に1寸ずつづれていたらしい。今も挨拶回りを兼ねて流鏑馬のコツを聞きまわっています。
また磯城弥魁厳(eb5249)がベアータ・レジーネス(eb1422)の助けも借り不審人物、罠の確認を行ったが怪しいところは見られませんでした。
「となるとやっぱ外部犯の仕業だろうな」
決め付けるのは捜査の幅を縮めてしまいます。それは分かっていたが時間の無駄ではないのかとライルは感じるようになっていました。そんなとき1つ動く物体がライルの目に止まります。
石ではない、大きさは人間の拳ほど。それほど早くはなかったのでライルは注意しつつも手に取ってみました。それはどう見てもただの粘土の塊でした。
一方、市内での情報収集は別の意味で困難を極めました、情報が多すぎてどれが本物か判断できなかったからです。壬生は図書寮やギルドを中心に中島という名前を調べていました。華の乱で源徳は江戸城を奪還されるという、最悪に近い形で敗北を喫しなした。この時期に源徳の名前を使うということは貶めるのが目的だとみるべきでしょう。しかし源徳家に中島のという名前は確かに存在し、中嶋まで含めるとそれなりの数に昇ります。源徳家の仕業では無いとは断言できませんでした。
「1度情報を交換した方がいいかもしれんな」
しかし困難を極めたのは神木秋緒(ea9150)備前響耶(eb3824)も同じだった。サポートで入った来生十四郎(ea5386)、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)からは祭り関係者の怪しいところの出入りは無いものの、祭りに合わせて路上生活者の数が増えているという話でした。
「長州訛りだったらありがたいのですけどね」
長州訛りが存在しなかったわけではありません。しかし祭り目当てか他からも流入しているらしく、今回の1件が長州藩の仕業だと断定できる証拠にはなりませんでした。
「しかし1つの鍵にはなる」
備前の言う通り、少なくとも外部犯の線が濃くなったと3人は考えていました。
「加えて、馬泥棒が出るなら便乗しておこぼれを貰おうとしている輩がいるようだ」
冷静さを保とうとしている備前だったが、機嫌のあまりよくないことが言葉の端々から感じられました。
「犯人はそこまで考えて?」
「可能性はある」
やってくれる、壬生も神木もそう感じずにはいられませんでした。しかし1つの可能性に行き着き備前を見つめました。
「気を悪くしないでもらいたいが、あんたも犯人の情報に踊らされていないか?」
同じことを感じた神木も備前を見つめていました。それに対し備前は軽く手を挙げ静止の意を示しました。
「自分の言いたいことは向こうも情報収集に長けているということだ。今の現状では後手後手に回っている」
「確かにそうね」
その事実は拭えません。調査を開始からまだ2日目ということもありますが、犯人の姿が一向に見えそうで見えないというのが3人の実感でした。
「気になったのですが・・」
しばらく考えた上で神木が再び口を開きました。
「誰か来賓が来る可能性はあるかしら?例えば斎王代の方とか」
「調べてみた方がよさそうだな」
「では俺がアイーダ、ライル、磯城弥に連絡してこよう。今朝、磯城弥が避難経路を提案していた、何かに仕えるかも知れん」
3人は流鏑馬会場へと向かいました。
神木はアイーダから粘土細工を受け取り丹念に調べましたが、思い当たるものはありませんでした。
「藁人形などなら聞いたことがあるのですけどね」
「ではこれが不完全体の可能性は?」
ライルの問いに神木は答えられませんでした。可能性はあるとみるべきでしょうが、犯人の目的が神木には想像がつかなかったのです。しかしそれは神木だけではありません、誰一人考えが及びませんでした。
「では一旦人形の件はおいておくとして、そちらの用件は?」
「そうだったわね。実は犯人が犯行を前倒しする可能性が出てきたの」
「なんじゃと!」
驚く磯城弥に壬生から話を始めます。
「中島孝之助という名前、長州藩の一味が好んで使っているようだ」
驚く間を与えず、備前が続けます。
「10日ほど前、斎王暗殺計画を長州訛りの連中が語りあっていたらしい」
「斎王って、今から視察に来るんじゃなかった」
アイーダの問いに神木は首を縦に振ります。
「まさかとは思うけどね。この暗殺計画を機に貴族の懐を狙おうっていうこそ泥さんもいるみたい」
「やってられないじゃん」
しかし愚痴るより先に体が動きます。前もって確保しておいた避難通路に貴族を誘導させに向かいました。
貴族を避難させ、馬小屋の周りには馬と冒険者6人だけが控えます。全員が武器の確認を行い、磯城弥が蝙蝠の術を詠唱しました。
「・・何か来るようじゃ」
はっきりと断言できませんが何者かが向かってきているようです。
「私は源徳家家臣中島孝之助、良馬貰い受ける」
夕日を背に現れた中島と名乗る男は正々堂々とでもいうのか、名乗りをあげ一歩一歩馬小屋の方に歩いてきます。
「人相書きの男じゃん」
ライルが背後に回りますが、中島は全く止まる様子を見せません。一歩一歩確実に馬小屋の方へと歩いていきます。
「俺は眼中にないっていうのか」
ライルは中島の首筋にスタンアタック+ポイントアタックで中島の首筋を一閃、確実に捉えました。
「手ごたえなさすぎねーか」
確実に首筋に当たりました。しかし敵は声1つ灰へと変わっていきます。
「あちゃ、失敗したか」
灰が話し始めます。思わずライルが身構え、アイーダが矢を放ちますが灰は話すのを止めません。
「折角刀に葵の紋まで仕込んだのに見てくれなきゃ悲しいぞ。俺の力作だったのに」
はっはっは、周囲に笑い声が響きます。アイーダがオーラセンサーを発動させましたが、どうやらうまく効果を発揮しないようです。
「お前達の目的は?」
「とりあえずジャパンの統一ってことでよろしく」
虫唾の走るような話し方、備前は冷静に音源を探りますがやはり灰から聞こえるようです。
「ヴェントリラキュイじゃ。今回援護に入ってもらったベアータ殿が使えたはずじゃ」
磯城弥が仲間に伝えます。全員で発動者の索敵に入りますが、ヴェントリラキュイの音源が変わりました。
「君達は」「私達の」「相手を」「している」「暇は」「無いだろう」
木に草に馬に冒険者の口まで借りて、犯人は声明を発表し続けます。
「まもなく」「暴動が」「起きるのでは」「無いのかな?」
音源が少しずつ馬小屋から離れたものに代わっていきます。敵が逃げるつもりなのでしょうが、誰も動けませんでした。
「暴動を抑える方が先でしょうね」
苦々しく思いつつも、冒険者達は大会入り口や避難場所付近、馬小屋警備に当たりました。
「結局暴動さえも嘘だったじゃねーか」
ライルは大会の様子を遠目で観戦していると、アイーダが愛馬クランにまたがって入場してきました。
大会当日、念のため警備についている冒険者達でしたが、暴動の気配はありません。昨日の暴動もどうやら嘘だったようです。
「しかし効果はあった」
大会の様子を眺めながら備前は呟きます。
「昨日の騒動で貴族達は全て無事に片付いたと信じてくれた。おかげで今日は好成績が続出している」
そんな話をしているとアイーダはついに3枚同時割を成功させます。見た目の影響もあってか客は惜しみない拍手を彼女に送りました。
「まだ今日の夜の心配はあるが、多少敵の尻尾も掴んだ。それで良しとするべきだろう」
「そうかもしれねーな。今回の件で多少貴族と顔見知りになれたわけだしな」
そこに1人の男が走ってきてます。手には財布、後ろには壬生と神木が追いかけてきています。
「スリかひったくりか、祭りも悪人にとっては悪事の種にしかならんな」
「しかしこの程度で済んでよかったと思うべきだろう?」
壬生と神木に捕まって、男は観念したように財布を差し出します。神木が中身を確認すると、そこには石しか入っていませんでした。再び壬生に締め上げられ、男はやっと本物の財布を差し出しました。
「それでも予定外の事が起こるものじゃ」
疾風の術で磯城弥が現れ、4人に助けを求めます。
「アイーダ殿が退場口で大量のナンパ男に捕まってしまったらしい。大会運営の円滑に行うためにも追っ払ってもらえないかと主催者がお困りのようじゃ」
5人は退場口に走っていくのでした。