家出少女と親の愛

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月27日〜06月01日

リプレイ公開日:2007年06月03日

●オープニング

 京都の街の裏通り、そんな場所に少女が1人迷い込んでいました。高そうな着物、調えられた髪、どこから見てもにつかわない少女です。何かあると踏んだみすぼらしい身なりの男が少女に話しかけます。
「お嬢ちゃん、こんな所で何か探し物かい?」
「無礼な。私は反物屋大杉が息女、お宮なるぞ。このような所に用などあるはずがなかろう」
「それは失礼しました」
 言葉とは裏腹に男は黄色に変色しかけたむき出しの歯を見せて笑い、全く反省の色を見せません。しかし言葉の上ではお宮の機嫌を取ろうとあくまで下手に出ます。
「それでお宮お嬢様は何故このような所にいらっしゃったのでしょう?」
「あ、足が・・足が勝手に向いたのじゃ。下々の生活を知ることも必要じゃと思ってな」
「それは殊勝な心がけでございますぞ。しかしここから先はあぶのうございます。念のためこちらに署名していただけますかな」
 男は木簡のようなものを取り出します。お宮は不思議そうにそれを見つめました。
「それは何じゃ?」
「身を守るお札のようなものにございます。こちらに髪の毛数本と署名していただけると、きっと霊験あらたかな神々がお嬢様を守ってくださいますよ」
 ほほう、お宮は感心したように男を見つめ、言われるがままに名を書き、髪を挟みます。
「では私めはこれを神社に奉納してきましょう」
「うむ、頼んだ」
 お宮は男を見送ると、独自の判断で更に奥へと進んでいきました。
「あれ?お嬢?どこ行った?」
 男が戻ってきた頃にはお宮は既に姿をくらましていました。

 次の日、反物屋大杉にはシフール便で脅迫状が届きます。
「娘は預かった。返して欲しければ明後日の夜までに金20両を用意しろ」
 御丁寧に娘の筆跡と娘のものと思われる髪まで付いています。大杉家は上から下まで大混乱に陥りました。
「なんでお前がもっとしっかり監視していなかったんだ」
「そういうアンタこそ娘のこと放っておいて、毎日反物ばかり見つめているじゃない」
 主人夫婦は責任を押し付け合い、それを止めようとする店員や世話役はとばっちりを受けてしまいます。中には役所に訴えようというものまで出てきました。しかし今の主人夫婦の様子を知られては客商売をしている以上一大事となります。あまりお上の息のかかったところに頼りたくないという気持ちも正直あります。
 そんなところに再びシフール便が届きます。
「娘は預かった。返して欲しければ3日後日の夜までに米10俵を用意しろ」
 今度は娘の署名はありません。しかも前のものと比べて随分と文字が汚く別人の筆跡のようです。
「何で1日に2通も脅迫状が届くのよ」
「俺が知るわけ無いだろうが、だいたいこれもお前の監視がしっかりしていないからで・・」
 このままでは埒があかない、そう判断した店員が冒険者ギルドへと相談に駆け込んだのでした。
 

●今回の参加者

 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 ec2719 トゥ(36歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec2882 サジン(33歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec2892 原田 新八(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502)/ 白翼寺 花綾(eb4021

●リプレイ本文

 春の陽気が桜と共に散り去り、花の代わりに新緑が芽を付け日差しが強くなっていく中、反物屋大杉は夏用に薄着の着物を求めるお客様がちらほらと敷居を跨いでいました。
「いらっしゃいませ」
 サポートの白翼寺涼哉(ea9502)と娘の白翼寺花綾(eb4021)が店に入ると金持ちの匂いを嗅ぎつけたか主人自らが揉み手で近付いてきます。
「娘に似合う柄を探そうと思いまして」
「かわいらしい娘さんで。私にもちょうど同じくらいの娘がいるのですよ」
 店内には客が2名と店員が3名、主人の妻らしい人物は見当たらず店の奥へと続く扉は真新しい板張りの扉に南京錠がかけられていました。
 涼哉が店内を見回すと店員の1人が彼の視線に気付き、外回りの仕事へ行きますと主人に言葉をかけて外へと出かけていきました。

 反物屋大杉のそばの茶屋で冒険者3人は依頼人の到着を待っていました。
「娘さんが誘拐されて仕事に精を出すってどういう神経?」
 陽小娘(eb2975)(以下シャオヤン)は思わず言葉を漏らします。
「子供がいなくなった寂しさを紛らわそうとしているんだと思う。感心はできないけどね」
 トゥ(ec2719)の意見にシャオヤンは納得できない表情を浮かべています。そこへ白翼寺親子のおかげで抜け出してきた店員がやってきました。
「遅くなって申し訳ありません」
 まだ20いくかいかないかくらいの若い男が丁寧に頭を下げます。変装しつつ様子を伺っていた原田新八(ec2892)は店員の態度に感心しつつ茶を口に運びました。
「事情は聞いてるよ。主人の娘さんの特徴をお願い」
「あ、はい」
 促されて店員は手短に特徴を話し始めます。
「目が大きく、その分鼻と目が小さく見えると思います。髪をよくいじっていた気がします」
「何を着ていたかとか覚えてないかな?」
「多分赤だったかと。あまり確証はありませんが」
「赤か」
 原田は思わず呟いてしまいました。赤は目立つ色です。冒険者が見つける方としては最高の色でしょうが、賊が見つける方としても最高の色だといえるでしょう。
「赤が好きなのかな?」
「どうなんでしょう?」
 店員は一拍置いた上で続けます。
「赤以外見たこと無いんです。だから赤が好きというより赤以外着た事が無いという感じで・・」
 言葉を濁す店員にトゥは静かに頭を振りました。
「大体わかったわ」
 その言葉を自分の話せることは理解してもらえたと判断した店員は、よろしくおねがいしますと丁寧に挨拶して場を辞しました。その様子を原田は特に感慨もなく見つめていましたが、シャオヤンは軽い溜め息をつきトゥは微妙な表情で首を傾げていました。
「店員の躾は出来ているのにね」
 小さくなっていく店員の背中をシャオヤンとトゥは何と無しに見つめていました。

 翌日、冒険者3人は裏路地を中心にお宮の捜索に入りました。
「目がぱっちりしてて髪をいじっている女の子を知らない?」
「ここが女子供の来るところだと思うのかよ?」
 ぎゃはははは、話を聞いた者達の多くは嘲笑しました。中には興味をもった者もいましたが、そのような者は大抵腹に一物抱えていました。
「もっと特徴教えてくれよ。俺が捕まえてやるからさ」
 原田は鳩尾に肘鉄を入れながらさらに情報収集に務めていきます。

「何故そんな女を捜す?」
 ごろつきではなく路上生活者は自分の生き方を知っているのか、お金を要求する前に情報を求めてきました。
「私と同じパラでね、迷子になったみたいなの」
 トゥの言葉に路上生活者の男は、しばらく彼女を値踏みをするような目で見つめていました。男に嘗め回されるように見られながらも笑顔でいると、やがて男は口を開きました。
「パラと言っても人間の子供と変わらないんだな」
 何か知っている、そう踏んだトゥはお金を出そうとしましたが男は手で制しました。
「金はいらん。あんたの言っているパラは赤い服の女だろう?」
「ええ」
 考えたトゥでしたが、正直に答えました。
「ならばおそらく誰も場所を知らんよ」
「誰も?」
 そんなはずはない、思わずそう言おうとしてトゥはかろうじて止めました。
「彼女はこの辺りでは有名人だよ。捕まえようとしても誰も捕まえられない、子供の勘なのか亡霊なのかと噂していたところだ。パラには何か特殊な能力があるのかもな」
 男は肩をすくめ、それ以上は何も語りませんでした。

 トゥが聞いた情報をもとに冒険者3人は頭をつきあわせて今後の作戦を検討することにしました。
「つもり書状は両方とも偽物ということか?」
「微妙。両方とも本物だけど両方とも偽物なのかな」
「その前に、その路上生活者の言葉は信じられるのか?」
 路上生活者の話が正しいと仮定すると、娘は今も彷徨っていて誘拐されてはいないということになります。
「裏を取るべきかな」
「最悪の事態もありえる。自分は取引現場を確認してこよう」
「あたいも取引現場行くよ。いろいろと準備したいし」
「それじゃあたしは反物屋さん見てくるー知り合いとも情報交換したいしね」
 3人は散開、翌日再び集合することにしました。

 一方、反物屋大杉そばの曲がり角、建物の陰に隠れて店を様子を伺う気配にシャオヤンは気付きました。相手に気付かれないように後ろから近寄っていくと、赤い着物を着た女の子です。
「んー帰るべきなんだろうけど帰りたくないんだよね」
「それじゃ一緒に帰ろう?」
 女の子の背後からシャオヤンが声をかけると、女の子は肩を震わせゆっくりと後ろを振り向きました。
「おば・・おねえさん、誰?」
「私はシャオヤン、お宮さんだよね?」
「うん、そうだけど・・シャオヤンはなんであたしの事知ってるの?」
「味方だからかな」
「味方なんだ。じゃあ家以外の場所に連れてって」
 しばらく悩んだ末に一度他の冒険者とも相談しようとその場を去ることにしました。

  シャオヤンがお宮を連れてきたことにトゥも原田も驚きを隠せませんでした。
「どこにいたの?」
「反物屋さんのそばに隠れてたよ。どうしたらいいのか迷っているみたい」
「そうなの?」
 トゥがお宮の顔を覗き込むと、お宮は恥ずかしそうに視線を逸らしました。
「明日あたり、あたしも大杉さんとこ様子見てくるつもり。今日知り合いに見てきてもらったんだけど、平然を装いつつも同じ年ぐらいの女の子見ると思うところがあるみたい。でも奥さんとの関係はまだ分かんない」
「その状況次第では狂言誘拐っていうのもありかな?」
 トゥはお宮の耳を押さえながら怖いことを言ってのけます。
「その前に本物の誘拐の件だが・・」
 原田が話題を戻して説明に入りました。
「1通目の書状の引渡し場所ではごろつきが迷子捜索をやっていましたよ。赤い服を目印に探していたみたいだから間違いないと思う」
「あたいの見てきたところも似たようなものね、兄貴分みたいな男が子分を叱っていたよ。念のために尖った石を撒いて足止めしといたけど、嫌がらせくらいにはなったかな?」
 どうやら状況は冒険者の方に向いているようです。

 一通目取引日時でもある2日目、反物屋大杉は臨時休業になっていました。
「探しているみたいよ?」
 シャオヤンとトゥに手を引かれてお宮は店の前まで来ていました。原田は裏手に回って確認し、合図を送りました。
 まず始めにトゥが1人で入っていきます。
「すみませんが今日は休業で・・」
「客で来たんじゃないの。娘さんのことで話があるんだけど」
 空気が張りつきました。
「娘を御存知で」
「死体が確認されたの」
 空気が凍りつきました。
「というのは冗談で、おいで」
 とぼとぼとお宮が姿を現します。
「あの、ごめんなさい」
 父親は片手を上げました。危険を感じたシャオヤンが間に入ります。
「お願い!お嬢さんを責めないで!」
 父親は上げた片手をお宮の頭に置き、なで始めました。
「お帰り」
 母親も急いで現れます。掃除をしていたのか服が多少汚れていますが、全く気にした様子もなくお宮に抱きつきました。
「待ってたよ」
 

「これでいいんだよね」
 シャオヤンは自分の娘用に反物を買おうとすると、主人はおまけといって長めにしてくれました。
「年の離れた妹さんなら成長期でしょう?余裕をもって作れるようにしておきますね」
「もともといい人なんだろうね。でもすれ違いがあっただけだと思う」
 冒険者が振り返ると、お宮は母親におんぶされながら店の中に入っていくところでした。

「誘拐犯どうする?」
「赤い服の女の子にはもう手を出さないだろ」
「それもそうね」