殺人鬼、宮本武蔵

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月18日〜06月23日

リプレイ公開日:2007年06月27日

●オープニング

 梅雨の雨続く水無月の夜、二天一流の剣道道場師範草薙宗一郎は仲間2人と傘を片手に夜の街を歩いていた。多少酔いが回っているのか3人は雨の中を千鳥足で歩いていると目の前に人影を見つけた。
「何奴!」
 その問いかけに影は答えない。酔って気が大きくなっていた仲間の1人が不用心にも影に近寄ると、影はわずかに動きを見せた。鍔鳴り音、斬撃音、そして遅れて重いものが落ちる音が周囲に響いた。
「草薙宗一郎殿とお見受けする」
 雨音の中に影の声、続いて足音が混じる。草薙は今にも飛び出そうとするもう1人の仲間を制し、半歩足を前に出し刀に手をやった。
「いかにも。しかし闇討ちとは卑怯の極みだな」
「卑怯で結構、平常心を保てぬよりよほどマシだ」
 草薙は軽い挑発のつもりだったのだが、倍返しされると軽く眉をひそめた。無意識ではあったが、刀を握る手に力が篭った。
「・・私に何用だ」
「私怨は無いが死んでもらう」
 草薙に影が迫る、長髪の男だった。世が世なら美男子ともてはやされていただろう。しかし返り血を浴びている今の姿はただの殺人鬼に過ぎなかった。
 草薙が右手で抜刀、それに合わせる様に影がディザームを繰り出す。回避不能と判断した草薙は左手で脇差を抜こうとしたが、傘が仇となった。草薙の抜刀より早く影の刃が草薙の首を斬りつける。
「御免」
 京の街に血の雨が降った。遅れて傘が舞い降りてきた。
「我が名は宮本武蔵、剣の行く末を憂うものよ」
 1人助かった仲間、陸は冒険者ギルド目指して走っていた。

 冒険者ギルドに着くと、陸は宮本武蔵と名乗る者の殺人が複数あることを知ることになった。
「剣の達人、それも二天一流の剣の達人のみを狙っています」
「闇討ちで?」
 陸の問いに手代は静かに頷きました。
「平常心を保てないものは死あるのみ、そう言っているようです。巌流島の事を言っているのでしょうか」
 返事を聞くことなく手代は依頼書をしたためました。殺人鬼、宮本武蔵の捜索と。

●今回の参加者

 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

梅林寺 愛(ea0927)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

 深夜の京都に出没するという殺人鬼『宮本武蔵』、本人が開いたと言われる二天一流の使い手のみを闇討ちという卑怯な手で襲い掛かることに神田雄司(ea6476)は疑問を感じていました。
「剣の達人が闇討ちしますか?」
 主人を失った剣術道場で神田の他、レディス・フォレストロード(ea5794)とシェリル・オレアリス(eb4803)は陸に犯人の手がかりになるようなものが無いか尋ねていました。犯行が闇討ちという手段のため、やはり何かあると考えてのことです。神田は誰かに尋ねると言うわけでもなく呟きましたが、二天一流の使い手として陸が答えます。
「御存知かと思いますが、宮本武蔵は巌流島での決闘で遅れて行くという作戦を採っています。闇討ちは決闘の手段としては卑怯でしょうが、殺害を目的とすれば非常に有効な手段なのです・・」
 発言する陸の言葉はどこか影を引きずっていました。
「しかし一般的にはやはり卑怯だと思いますよ」
 レディスが陸の心中を思い図って合いの手を差し入れます。しかし陸は静かに首を振り、道場の上座に掲げられた掛け軸を指差しました。そこには『侍は常に侍たれ』と書かれています。
「今の戦乱の世の中、敵はどこに潜んでいるのか分からないのです。まして二天一流は対多数を得意とする剣術、どんな状況どんな敵に襲われようと死んではいけないのです」
 唇を噛み締めながら語る陸、その姿はどこか鬼気迫るものさえ感じさせました。シェリルはしばし考え、まずは本職の僧侶の務めを果たすことにしました。
「あなたは何に責任を感じているのかしら。師を見殺しにしたこと?それとも剣の道の重さ?」
「・・両方です」
 陸の答えにシェリルは軽く頷き、言葉を続けました。
「あなたは責任を感じている。でも今は感じることより前に進むことが重要じゃないかしら?」
 シェリルの言わんとすることを感じ取ったのか、陸は事件当夜のことを語り始めました。

 とくとくと語りだす陸、しかし有力な情報は得られませんでした。
「宮本武蔵と名乗ったことは間違いありません、二天一流の開祖の名前ですから。しかし相手の顔は一切分かりません。雨も降っていましたし、相手は笠を被っていました。おそらく匂いも足跡も残ってはいないでしょう」
 しかしおぼろげながらも事件の前に飲んでいた酒場やその酒場で主人と二、三言葉を交わしたことを何となく覚えていました。
「酒場にいたのは半刻程だという話です。店に入る時には雨は降っていなかったから、その辺りからある程度時間が絞り込めるはずです」
「それだけ分かれば十分です」
 三人は他の冒険者とも情報交換するために昼下がりの京都の街に出かけていきました。

 陸の話を元にベアータ・レジーネス(eb1422)が陸の行ったと言う酒場へ向かい、裏を確認します。
「間違いはなさそうですね」
 酉の刻に陸ら三人が入店。その四半刻後に雨が降り出し、さらに四半刻後に三人は退店。何か祝い事があったらしく始めから熱燗三本を注文、最終的には三升とつまみに枝豆などを胃に納めたそうです。
「そしてその後犯行、と」
 ベアータは前もって作っておいた地図に三人の動きを書き込んでいきます。
「特におかしいところはないよーですね」 
 井伊貴政(ea8384)と山本佳澄(eb1528)は情報収集を兼ねて少しずつ宮本武蔵出没の噂を広めていきました。その際に聞いた情報を少しずつ書き込んでいきます。シェリルもパーストの巻物を使用して、犯行の状況を確認しました。
「事件の日、確かに雨が降ったようですね。場所によって多少時間は前後するようですが大体酉の刻で間違いないようですね」
「それにしても不可解なのは何故二天一流を目の敵にするのでしょう」
 今まで話を聞いていた神田は思っていたことを口にしました。
「今回の一件もそう、前の二件も二天一流の達人が狙われたのでしょう?」
「二天一流に恨みでもあるんじゃねーか」
 コンバットオプションディザーム、ジャパンの剣術の中ではそれほど珍しくは無く、当然二天一流にも含まれています。しかしそれほど特徴的というわけではなく、対多数を得意とする二天一流ではどちらかと言えば不得手とするはずです。
「別の流派の人が決闘などで二天一流に恨みをもった可能性は?」
「ないとは言えないでしょうが、だからと言って犯罪に結びつけるのは早計ではありませんか?」 
 そこにシェリルの援護に入った梅林寺愛(ea0927)が姿を現しました。
「すべては犯人に聞いてみるしか無いでしょう」
 梅林寺が調べてきた情報では一件目の犯行が十日前、二件目が七日前、そして三件目である陸の事件が昨日。
「ということは明後日が一番可能性が高いってことか」
 冒険者達はそこで一度解散しました。 

 一日あけて任務三日目、ベアータのダウジング・ペンデュラムに反応がありました。
「左京区申の方向です。どうやら噂を聞きつけてくれたようですね」
 それを聞いて囮役である井伊がゆっくりと立ち上がりました。
「行くとしますかね」
 緊張を感じさせない、まるで散歩に行くかのような物言いでしたが、背中には汗をかいていました。無意識に先日切り落とされた左手に右手が伸びます。囮役に陸を使うという案も出ましたが、捕獲では済ませる自信が無いという本人の意見を受け入れる形で井伊が囮役に抜擢されました。
「現状犯人を特定する確たる証拠はありません。せいぜい陸さんに声を確認してもらえる程度、相手が名乗りを上げるまでは下手な手出しは出来ません」
 確認するように語る神田に皆が頷き、作成した地図で自分の待機場所を決めていきます。
「・・では最終的にこの袋小路に誘い込むということで」
 六人はヴェントリラキュイの射程距離である3丈強の範囲内で相手を包囲する方法を採りました。そして早速実行へと移ります。


 時期的なものもあるのか、その夜も京都は雨が降っていました。しとしとと降り続く雨はなぜか涙を連想させます。
「・・今宵も誰か泣いているのか」
 目深に被った笠から漏れる視線。しかし発した言葉は雨音に消され、笠に付いていた血だけが雨の中の男の存在を示していました。
「これもより良きジャパンのため」
 男の視線の先には身の丈六尺五寸の大男、酒が回っているのか千鳥足で歩いています。
「あいつか」
 最近二天一流を嗅ぎ回っている連中がいる、そんな話を仲間から聞いたのは今朝のことでした。
「まぁそろそろ時期か」
 ゆっくりと腰に手を回し、刀の柄に手をかけます。
「俺の覇道のために死んでもらう」

 一方、井伊も殺気を感じていました。
「来たか」
 ベアータに目配せをし合図を送ります。ブレスセンサーで確認した後、ヴェントリラキュイで皆に連絡します。
「来たのですね」
「来ましたか」
 山本はライトニングソード、ライトニングアーマーを詠唱し、戦闘準備を整えます。レディス、神田も抜刀し、『宮本武蔵』の出方を伺います。
「そろそろですか」
 シェリルの呟き通り、井伊と『武蔵』の距離が一丈程にまで詰まります。当然井伊も気付いていますが、念のためまだ千鳥足を続けています。しかし『武蔵』の抜刀とともに立ち止まりました。
「『宮本武蔵』の名を知っているな」
「・・?」
 聞いた話とは違う問いに違和感を覚えましたが、一度自分の刀の位置を確認し返事をすることにしました。
「二天一流の開祖、じゃなかったか」
「さすが調べているだけあるな。では・・」
 『武蔵』が抜刀しました。白く美しい刀身に雨が落ち、脂がわずかに浮き上がります。
「あの男の名の元、死んでもらおうか」
「今だ」 
 飛び出す瞬間を図っていたレディス、神田、山本の三名が一斉に『武蔵』に飛び掛ります。しかし『武蔵』は慌てる様子も無く、神田の太刀を回避し、回避ついでに懐から短刀を取り出し山本に投げ、レディスの短刀を受け流しました。
「二天一流は対多数を得意とする、知らないはずがあるまい」
 おもむろに小太刀を鞘から抜き、二刀流の構えを取ります。そして軽く後ろに下がり、間合いを取りました。
「まだ何か隠しもってそーだね」
「とはいえ、やるしかないでしょう」
 山本がライトニングサンダーボルトを詠唱開始、井伊はバーストアタックを使える状況を模索しつつ『武蔵』に接近し、神田は『武蔵』の足を狙って太刀を打ち込みます。そこにレディスが上空から『武蔵』の背後に回って攻め立てました。
「バックアタックの弱点も知ってましたか」
 さすがに三者からの攻撃を捌ききれるはずも無く、時折飛んでくるライトニングサンダーボルトに被弾し弱った『武蔵』をシェリルのチャームが捕らえました。
  
「俺の目的は剣術の排斥、それだけだ」
「二天一流のみを狙う理由は?」
「俺が二天一流の使い手、長所も短所もよく知っている。それだけだ」
 チャームにかかった『武蔵』はシェリルの質問に澱みなく答えていきます。
「強いて言えば・・」
 『武蔵』が初めて戸惑いを見せたかと思うと、少し唇を歪ませました。
「こんな状況になっても現れない開祖様への意趣返し、というのも有りだがな」
「開祖?本物の宮本武蔵を知っているのですか」
 冒険者一同の目が『武蔵』に集中します。
「どこの国にも属さず、どこの部隊にも属さず、どこかに身を潜めているらしい。この戦乱のジャパンの中で、どこでくつろいでいるのやら」
 そこに奉行所の役人が駆けつけました。ベアータはアイスコフィンの詠唱に入りました。
「最後に言い残したことは?」
「『宮本武蔵』は個人名に有らず。志を同じくした者達の組織名だ」
「ちょ、どーゆーことだよ」
 返答する間もなく『武蔵』の身体が凍り付いていきます。次の瞬間には唇を歪ませた男の氷の棺が完成しています。
「・・剣術の排斥ということでしょうか」
「でしょうね」
 冒険者一同は役人に運ばれていく氷の棺を様々な思惑の中、見つめていました。