●リプレイ本文
「下柳雄一様とお見受けしますが、お手合わせ願えますか?」
土守玲雅(ea8830)は正義から聞いた雄一の家を訪れていました。
「確かにいきなりの申し出だな、どなたの差し金だ?」
「どなたでもありません。あなたの噂を聞きつけてやってきた限りです」
雄一はしばし考えて同意しました。
「しかしここでは周りに迷惑をかける。私が日頃素振りの練習をしている場所で相手をしよう」
家の中に誰かいるのだろうか、雄一は「行って来ます」と声をかけ出て行きました。
玲雅は雄一の後を追います。
茉莉花緋雨(eb3226)は近所で一番の名医がいるという診療所を訪れていました。しかし診療所は休診日でした。
茉莉花が診療所を後にしようとした時、一人の男性が中から出てきました。茉莉花が声をかけます。
「この診療所の関係者の方だろうか?」
「そうですが、今日は休診日ですよ」
「病気ではなく、人探しだ。下柳雄一殿を御存知か?」
男の表情が曇りました。
「理由を聞かせてもらえますか?我々にも守秘義務がありますので」
「雄一殿が何かの陰謀に関わっている可能性がある。それを確認したい」
「騎士とお見受けしますが、その言葉、あなたの胸の勲章と騎士の誇りにかけて誓えますか?」
男の問いに茉莉花はおもむろに頷きました。
間宮美香(eb9572)と天津風美砂樹(eb5363)は川上剣術道場へと赴いていました。正義に頼み、出稽古ということにしてもらいました。2人は木刀を借り受け練習を励みます。
この道場には雄一もよく出稽古に来るらしく、指南の川上裕次郎とその娘であり門下生でもあるお静と知り合ったようです。
門下生の数も多く、活気があります。間宮はお静に接近を試みました。
「お手合わせ願えますか?」
「私でよければお相手しましょう」
「ではいざ尋常に」
「勝負」
間宮は刀に関しては素人です。日頃の経験と勘で身体を動かしますが、刀の玄人にはかなう訳がありません。数度の打ち合いの末、懐にもぐりこまれました。間宮は素直に自分の敗北を認めます。
「強いですね」
間宮は称えましたが、お静は首を横に振ります。
「あなたが本来の武器をお使いになられましたら私が負けていたでしょう」
「雄一さんとならどちらが強いですか?」
雄一の名にお静は頬を染め、門下生は怪訝な顔をしました。
椋木亮祐(eb8882)は問題の庄屋、本庄屋に向かいました。
正義は川上道場の門下生から雄一が頻繁に出入りしていることを聞いたようです。
「頼もう、御主人はいらっしゃるか?」
「私が主人ですが、どんな御用でしょう?」
奥から恰幅のいい男が出てきました。
「この辺でごろつきの集まりそうな場所に心当たりは無いか?」
椋木の問いに主人は怪訝な顔を浮かべます。
「2,3心当たりはあります。前の用心棒もごろつきあがりでしたが何か問題でも?」
「知り合いが襲撃を受けた。数人がかりで一人を襲ったらしい」
「それは物騒なことで。しかし家には新しく雇った用心棒がいますので大丈夫ですよ」
「それは雄一殿のことか?」
亮祐は主人の顔をしばらく見つめていました。
ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は雄一が出て行くのを確認して聞き込みに入りました。
あえて雄一が去っていくのを見た人に声をかけて見ました。雄一がいない方が口が多少軽くなると考えてのことでした。しかし実際は賞賛と同情がほとんどでした。
「寝たきりのお母さんをよく世話しているみたいですよ」
「世話の一方で剣の練習は怠っていないみたいで関心ですよね」
しかしいくつか貴重な意見も聞けました。
「診療代、薬代も馬鹿にならないだろうにどうしているんだろう」
「最近本庄屋さんのところで用心棒始めたらしい」
ヴァンアーブルに嫌な予感が走りました。
神島屋七之助(eb7816)とフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は雄一の家近くの酒場に来ていました。
2人が主人と世間話をしていると、一人の男が店に入ってきました。
「いらっしゃい、なんにします?」
男はそれなりに常連の客のようです。熱燗とつまみを適当に頼みました。
「よく来る客なのか?」
神島屋は主人に尋ねます。
「幸三さん?最近たまに来てもらってますけど知り合いか何か?」
「いや、腕っ節が強そうだなと思ってね」
「腕の方は確かだろうよ、本庄屋とかいうところで昔用心棒やってたらしいよ」
神島屋は男の方を様子見ます。
「今でも現役でやれそうだけどな」
「怪我でもしたんじゃないの。それとも本人呼ぶか?」
主人が男を呼びに行きました。そして男の第一声は雄一襲撃の勧誘でした。
朝霧霞(eb5862)とリスティア・ノレン(eb9226)は正義の護衛ができるよう正義の家の近くに宿を取っていました。
2人は襲撃に備え戦闘態勢を整えています。そして感覚を鋭くしていると1頭の馬の足音を捕らえました。
「襲撃でしょうか?」
リスティアは尋ねますが、声に疑問が混じっています。
「襲撃にしては騒々しいですね」
朝霧もあいまいな返答しか出来ませんでした。
「様子を見てきましょうか?」
どちらからともなく2人が提案したとき、部屋の扉が開きます。入ってきたのはヴァンアーブルでした。
「雄一さんが襲撃を受けます。2人とも加勢をお願いします」
ヴァンアーブルはフィーナから雄一襲撃の話を聞いたとのことでした。
「しかし私達の任務は正義さんの護衛・・」
リスティアが言いかけたところに調査を終えた茉莉花、椋木、間宮が入ってきました。
「正義殿の護衛は私達がやろう。そちらは雄一殿を頼む」
茉莉花が言うと、朝霧、リスティア、ヴァンアーブルの3人は雄一のもとへと向かいました。
雄一が帰路に着いたのはもう夕方近い時間でした。
土守との戦闘の中で自分の中にある迷いがはっきりしてきた。1つはお静と婚約しても門下生が付いて来てくれるのかという心配、もう1つは本庄屋の娘さんにきちんと別れを告げられるかという疑問でした。
「土守殿、今日はありがとうございました」
雄一は素直に感謝の意を述べました。
「私は私が出来ることをしたまでです」
やがて雄一の家が見えてきました。雄一が一安心したところを一人の男が襲い掛かってきました。
とっさのことに雄一も土守も反応できませんでした。
やられる
覚悟を決めると、襲ってきた男は眠っていました。スリープをかけられたようです。
物陰から神島屋が現れました。土守に目配せをし、雄一に話しかけます。
「事情によりあなたを援護する。土守の仲間だ」
それだけの言葉で雄一は事情を察しました。即興で陣形を組みます。
襲撃側も奇襲が失敗したと見て男達が姿を現します。数にして十人前後。
男達の一人が眠っていた男を起こします。
「神島屋、俺達を裏切るか」
「裏切ったつもりは無いですよ、もともと私は護衛を頼まれていたのですから」
ちっ、幸三は舌打ちをすると同時に襲い掛かってきました。幸三に続いて周りの男達も襲い掛かってきます。
「少し数が多いな」
雄一は襲い来る男の一人に木刀を打ち込み悪態づきました。
「しかし諦めるわけにはいきませんよ。雄一殿には待っている人がいるのでしょう」
土守は正義から借りた木刀を捨て小太刀二刀流で対応しています。
「土守家が嫡子、土守玲雅!押して参るっ!」
土守は自分を鼓舞し、男達の剣をさばきます。
「その意気や良し、手伝わせていただきますよ」
朝霧が姿を現します。それに続いて吹雪が巻き起こりました。
「今のは威嚇、次は本気で行きます」
リスティア、ヴァンアーブルが姿を現しました。
吹雪に恐れをなしてか一人また一人と逃走を始めます。しかし幸三は逆に歩を進めました。
「吹雪程度に恐れてたまるか」
幸三の刀を朝霧の小太刀が受け止めます。続いて朝霧の大脇差が飛びますが幸三はこれを回避。
2人は再び距離をとります。そこにヴァンアーブルと神島屋のスリープが炸裂。
幸三は冒険者達に捕らえられたのでした。
河川敷で冒険者と正義は雄一と雄一の立会人、川上親娘を待っていました。
「結局今回の事件は川上道場門下生の一部と本庄屋の前の用心棒が仕組んだってことよね」
雄一が河川敷に現れました。雄一の他2名いますが、他にはいないようです。
「門下生の話からお静さん目当てで入門した人も大勢いるようです。雄一さんとの婚約を素直に受け止められなかったんでしょうね」
雄一がゆっくりと木刀を構えます。正義もそれに倣います。
「それに気付いた師範は雄一さんに条件を出しました。それが道場の中で一番強いこと」
雄一が一歩一歩と間合いを詰めていきます。正義も同じく間合いを詰めます。
「一方、雄一殿は母の医療費と薬代の工面に困っていた。医者はツケでいいと言ったが、雄一殿は許せなかったのだろうな」
正義と雄一はあと半歩という間合いまで詰め、対峙しています。
「そこで本庄屋で用心棒を始めた。そこで主人の娘に見初められたのだろう」
先に仕掛けたのは正義、間合いに踏み込み上段から振りかぶります。
「しかし仕事を奪われた前の用心棒は雄一にいい感情を持っていなかった。見せしめとして正義さんを襲ったようです」
正義の一の太刀を雄一は紙一重で回避しました。続いて雄一が攻撃に転じます。
「それでも用心棒業を辞めなかった雄一に今度は直接襲撃をかけることにしたのですね。そしてどこから聞いたのか川上道場門下と結託したのでしょう」
雄一の袈裟斬りを正義は木刀で受け止めました。
「しかし襲撃は私達の活躍で失敗。そして川上師範の出した条件を満たすために今、正義さんと雄一さんが一騎打ちと行っているのでしょう」
まだ傷の癒えていない正義は雄一の勢いを支えきれず転倒。師範が雄一の勝利を宣言しました。
「結局雄一には勝てなかったよ。愛は強し、ということかな」
正義が冒険者達のもとにやってきました。負けはしたものの晴れ晴れとした表情でした。