ふぞろいな刀
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月27日〜08月01日
リプレイ公開日:2007年08月04日
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●オープニング
神聖暦千と二年と七の月、江戸の一角まだ日の高い時間帯に、一人の少女が物陰からある武器屋を見張っていた。別に特別な武器屋というわけではないが、少女の知人が店番をやっている。最後の客が出て行くのを見計らって少女は店の中へと入っていった。
一方店の方は、客もいなくなり店番であり見習い鍛冶師でもある順次が一息つくためにお茶を入れていた。しかし一服着く前に玄関を開く音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ」
言った途端、鍛冶屋の顔は引きつった。知っている顔だったからだ。
「相変わらず辛気臭い店ね。アタクシが来てあげなきゃ、誰も寄り付かないんじゃなくって?」
客は女、いや厳密には客じゃなく只の冷やかしなのだろう。女の名前はおせん、順次の幼馴染だ。家が金持ちらしく、いつもお嬢様風を吹かせる順次の天敵だった。
「お前に売る商品なんて無い。さっさと帰りやがれ」
「あらー客一人いないところにわざわざ来てあげたワタクシ様を追い出そうっていうの?」
順次が辺りを見渡すと確かに今客はいない、順次とおせんの二人だけだ。順次が睨むとおせんは妖艶に笑い、近くにあった刀を手にとって鞘から取り出した。
「この刀なんかなまくらじゃない」
外から入る光におせんは刀を透かしてみると、多少の刃こぼれが見られる。なまくらといわれても仕方の無い代物だ。
「それは俺の作ったモンだ。売りもんじゃねぇ」
「じゃアタクシ様が貰ってあげますわ。ありがたく感謝しなさい」
「勝手に人のモン取るんじゃねぇよ」
順次が刀に手を伸ばすと、自然とおせんと手が触れ合う。小さな悲鳴を漏らしておせんは刀を取り落とした。
「あぶないじゃないか」
おせんの落とした刀は順次の目の前の床に突き刺さる。下手をすれば順次に突き刺さったかもしれない。おせんは素直に謝った。
「ごめん」
「ごめんで済むなら奉行所も役人もいらないだろうが」
「・・本当にごめん」
おせんはその場でひざまずき、うな垂れていた。わずかだかうめき声も聞こえてくる。
「ごめん、俺も言いすぎた」
順次が手拭を取り出しおせんに差し出す。しかし照れがあるのか目は逸らしたままだ。
「ふん、本当に言いすぎよ」
おせんは手拭を受け取って涙を拭うと、立ち上がって突き刺さったままになっている刀を引き抜いた。
「この刀は慰謝料として受け取っておくわね」
「おい、それは・・」
少女は行く手を塞ぐように手拭を投げつけると、手拭は順次の顔に張り付き目隠しの代わりになった。
「じゃあね。またよろしく」
手拭を剥がした時には、少女はすでに店から立ち去っていた。
「ちっ」
店番を任されている以上、店を開けるわけにはいかない。順次はおせんをおいかけることができなかった。
後日、順次が視察を込めて武器屋周りをしていると見慣れた刀を一振り見つけた。手に取り鞘から取り出してみると、多少の刃こぼれが見つかった。疑問に感じた順次は店主に尋ねてみた。
「店主、この刀は?」
「あぁそれは何日か前冒険者が売りに来たんだ。何でも熊鬼闘士が装備してたらしいぞ。物騒なもんだ」
「熊鬼闘士?」
多少知識のあるものなら知っている、それなりに強いモンスターだ。しかしそれなら違和感が残る、順次が再び刀を眺めるとその違和感の原因が分かった。
「血糊がついていないが?」
刃こぼれはある、しかし血糊や脂は全く付いていなかったのだ。
「あぁ新米の冒険者がろくな装備もせずに強敵に挑んだってわけだろ。敵に傷一つ負わせる事ができないから血糊がない、刃こぼれは元々出来損ないの刀だったからだろ。ん、どうした?」
何故か順次が店の隅で床にのの字を書いている。しかしやがて立ち直って、その刀を購入していった。
「まいどあり。でも無理すんなよ」
店主の声援に順次は苦笑いで応えて店を後にした。
「さて、どうすっかな」
先ほど購入した刀を鞘からわずかに取り出し、順次は刃を確認した。確かに刃こぼれがある。しかしそれ以上に見覚えがある。
「やっぱ俺が作った刀だよな」
数日前おせんに奪われた、いや貢いだ刀に間違いなかった。しかし先ほどの武器屋の親父の話では冒険者が売りに来たという。しかしそれが何故こんなところにあるのか。
「単純に考えれば、おせんが変装して売りに来たってところか」
しかし問い詰めるには材料が無い。正面からぶつかっていいものか悩んだ順次は冒険者ギルドに相談することにした。
●リプレイ本文
刀がどのように武器屋の手まで渡ったのか、宿奈芳純(eb5475)はまず最初に武器屋に訪れていた。
「七日以上前ではなければいいのですけどね」
過去視できる魔法パースト、時間さえ指定すれば対象の見たい過去が見られる便利な魔法ではある。しかし欠点は七日前までの過去しか見られないことにあった。宿奈は武器屋に赴き、問題の刀を売りに来たという冒険者の来た日時を確認することから調査を始めた。
武器屋は江戸の外れにあった。それほど大きな店ではなかったが、構えはしっかりしている。宿奈が店の敷居をくぐると、奥から声がかけられた。
「いらっしゃい、探し物はなんだい?」
客商売とは思えないほどぶっきらぼうな物言いではあったが、不思議に怒りを感じさせなかった。カマをかけるつもりで宿奈は店主に問いかけてみた。
「何を探しているように見えますか?」
店主はしばらく宿奈を見つめ、やがて口の端をわずかに緩めて答えた。
「武器を使うにしては手が綺麗過ぎる、かといって防具を着込むようにも見えねぇな。常連客絡みかこの辺りで事件があったかのどちらかと見るが、どうだ?」
「御明察」
宿奈が答えると、店主は嬉しそうに目を細めた。
その頃、菊川響(ea0639)とリフィーティア・レリス(ea4927)は依頼人である順次の下を訪れていた。幼馴染であるおせんの人柄と今回の問題になっている刀を見せてもらうためだった。
「さてまずは刀の方ですが・・」
刀を取りに行こうとする順次を菊川が呼び止めた。
「先におせん殿について尋ねてもよろしいか?」
「え?あぁ、まぁ構いませんが・・面白いものじゃないですよ」
何かの参考になればと思い尋ねた菊川だったが、順次の口から出るのはおせんとの悲惨な日々だった。
「昔ままごとと称して泥団子食べさせられたことがありましたね。食べた振りだけしようとすると何故かばれるんです。女の勘というやつでしょうか」
苦笑いをしながらおせんとの思い出を語る順次。他にも冬に寒中水泳させられた話や夏山で断食修行させられた話等どことなく悲惨な空気を持つ話ばかりだった。
「でも最後はごめんといって謝りに来てくれるんですよ」
レフィーティアは順次の話を頭を抑えながら聞いていた。
「お惚気話を聞きに来たわけではないのだが?」
しかし当人はいたって真面目、何が悪いのか分かっていない様子であった。必死にこめかみを押さえつつレフィーティアは再度聞き返した。
「えっと、ではおせんさんの知人に冒険者がいたとか話を聞いたことは無いだろうか?」
考え込む順次、見かねた菊川が助け船を出すことにした。
「別におせんさん本人が冒険者と知り合いである必要は無いんだ。例えば親や兄弟の中で冒険者と知り合いがいそうな人はいないか?」
しばらく考え込む様子を見せた順次だったが、やがて手を叩いた。
「そういえば、おせんの親父さんは病で伏せていますね。何か関係あるのかわかりませんけど」
それは菊川、レフィーティアにとっても分からないことだった。
同じ頃、冒険者ギルドには眞薙京一朗(eb2408)、設楽兵兵衛(ec1064)の両名が熊鬼闘士が出た依頼が無いか探しているところだった。しかしそのような依頼書は存在しない、念のため二人は受付に聞いてみることにした。
「最近熊鬼闘士が出没したという話はなかっただろうか?」
「依頼書を確認させてもらったところ、それらしきものは無かったのですが」
尋ねる二人に受付は確認してくると言葉を残し、同僚に話を聞きに行く。しばらくして受付は戻ってきたが、何故か沈痛な表情だった。
「熊鬼闘士かどうかは分からないのですか、新米冒険者の護衛任務というのがありましてね。多少力をつけてきたから強い敵と戦いたい、でも心配だから護衛はお願いしたいという我侭な依頼があったそうです」
遠い目をする眞薙と設楽、頭を抱えながら受付に一つの疑問をぶつけてみた。
「その依頼は成立したのか?」
「していないみたいですね。依頼人と会って話をした人はいるようですが参加者は零だったみたいです」
「でしょうね」
そこまで言って、設楽は一つおかしいところに気付いた。
「それでその新米さんはどうしたんです?護衛がいないからといって強敵と挑戦するのをあきらめたのでしょうか?」
設楽が言うと受付は堰を切ったかのように話し始めた。
「それが問題なんですよ。不成立になった後に聞いたのですが、どうやらその冒険者の人、実はどうしても必要なものがあったらしいんです。それなら腕試しなんて書かなければいいのに、物の頼み方を知らなかったんですかね?」
翌日、冒険者達は情報交換の後に強敵挑戦の依頼を出した冒険者に会うことにした。目的の一つはもちろん熊鬼闘士についてだが、宿奈にはもう一つ目的があった。
「パーストの結果ですが、今から七日前に男性が売りに来たようですね。刀の方は順次殿にも確認してもらいましたので間違いはないはずですが・・」
宿奈が言うには例の刀を売りに来た人物は根暗な優男、端的に言えば冒険者に見えないということだった。そこに眞薙と設楽が聞いてきた依頼の仕方も知らない冒険者、何となく関係があるような気がしたのだった。
「同一人物なら楽だけどな」
「そんなに楽な訳が無いだろう?」
道中そんな会話を繰り広げる菊川とレフィーティア、しかし四半刻も経たないうちに二人は考えを改めさせられた。
「それでなんで刀を奪おうと思った?」
問題の冒険者紛いはいつの間にか手足を縛られ冒険者達の前に正座させられていた。期待を裏切れた菊川とレフィーティアがやり場の無い怒りを冒険者紛いにぶつけていると、怖くなったのか彼は話し始めた。
「おせんさんが大事にしているものだったから、つい・・」
「何が『つい』だ!その上売るとはけしからんぞ」
「え?売るって何ですか。僕が売るわけ無いじゃないですか!」
二人の怒号に押されながらも冒険者紛いは刀を売ったことだけは断固否定した。
「だったら何故武器屋で売られているんだ?」
「今も持っているのならさっさと出すんだ」
当然出せるはずが無い、冒険者紛いは少しずつ本音を話し始めた。
「売ってはいないんです。ただ、その、思いと一緒に預けてきたというか、何と言うか・・」
「どこに?」
「その、あの・・熊鬼闘士の巣です」
話しを要約すると、冒険者紛いはおせんの家に侵入して刀を強奪、その後熊鬼闘士の巣に向かったところ逃げて帰り、すべてを諦めるために刀も手放したということだった。
「それで何故熊鬼闘士の巣に向かおうと思ったんだ?」
「そこに、おせんさんのお父上の病気を治す薬があると聞いたんです」
冒険者達は一度順次の店に戻ることにした。急激に変わった状況を整理するためだった。
「一度おせんさんの所言った方がいいと思うが?」
「そうですね、不確定情報が多すぎます」
刀の件におせんの父親の病気の件にその病気の薬の件、又聞きになっている情報が多いのは事実だった。そこでレフィーティアがおせんの家に行くことを提案した。
「事情を話さなければ話を聞きに行ってもだろう。それにこのままでは埒が明かない」
「確かにな。しかし全員で行くと不審がられる気もするが?」
たかが話を聞きに行くだけに五人でいくというのは仰々しすぎる。そこでレフィーティアが正面から、隠密技能をもつ設楽が天井裏から監視するという方法を採った。
「では私達は念のため熊鬼闘士の巣の場所を聞いてくるとしましょう」
菊川、眞薙、宿奈の三人は今一度冒険者紛いの元に戻り、攻め込む可能性のある熊鬼闘士の巣の場所を確認することにした。
おせんの家に着いたレフィーティアは刀のことを一旦置いて、冒険者紛いの事から聞き出してみた。
「最近この辺りで不審者が現れると聞いたが見た覚えは無いか?」
その問いにおせんはうんざりした表情で軽く手を振りながら答えた。
「あぁあの根暗君ね。何だか私の周りをうろつきまわっているわよ」
隠れて話を聞いている設楽は冒険者紛いの顔を思い出してしばらく同情してしまっていた。
「一回あたしの方がおいまわしてやったんだけど、どっかに逃げ込んだみたいだしね」
おせんの話しが一旦終わったのを見計らってレフィーティアが本題を切り出した。
「その根暗から実害は?」
「あったわよ。大事にしてる・・って別に他意はないんだけどね、とにかく私の刀を奪いやがったの。今度見つけたら半殺しにしてやるんだから」
顔を真っ赤にして抗議するおせん、天井裏ではそんなおせんの様子を設楽が生温かく見つめていたが、レフィーティアは淡々と任務をこなしていく。
「どうして刀なんか必要なんだ?見たところ武道の心得があるようには見えないが」
「私の祖父がね、元冒険者らしいんだけど、なんでも死ぬ前にもういちど刀を振りたいって言うから知り合いから借りて・・きたのよ」
「借りて?」
レフィーティアが聞き返すと、おせんは早口でまくし立てる。
「そう、借りてきたのよ。何か文句ある?まぁいいわ、そして借りてきた刀を祖父に見せたらいきなり振り回し始めてね。ぎっくり腰再発させちゃってるの」
「ぎっくり腰?」
「そう、ぎっくり腰。昔は一人で熊鬼闘士倒したとか布団の上で言ってたけど、事実かどうかは怪しいところね。大体刀握ったときも『これがワシの特効薬じゃ』とか言って結局寝込む羽目になったし」
何となく事情を察したレフィーティアは礼を述べておせんの家を後にした。
二人はそのまま冒険者紛いの家に立ち寄り状況を説明、その後冒険者は順次の店に戻って調査結果を報告した。
「結局はおせん殿に付きまとう男の空騒ぎといったところだったな」
菊川は今回の一件をそうまとめた。
「しかし事の発端はその刀にある。世間も物騒なのは分かるが、だからこそ鍛冶師の方には武器を渡す相手は見定めていただきたいよ」