禿鷹の舞う日
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2007年08月18日
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●オープニング
神聖暦千と二年と八の月、江戸郊外のある村では不吉な噂が流れていた。隣村が滅んだのではないかという冗談にしても笑えない噂だった。事態を重く見た村長は噂の出所を調査、やがて菊一という狩人に行き当たり呼び出すことにした。
「何故そなたは隣村が滅んだなどと不吉な噂を流す?」
村長の問いに菊一ははっきりと答えた。
「隣村の方向に禿鷹が飛んでいくのが見えました。奴らは死肉を喰らう鳥、滅んだというのは言い過ぎかもしれませんが何か異変が起こったとしか考えられません」
「禿鷹とな?」
村長の目が見開いた。本来禿鷹は乾燥地帯に生息する鳥であり、めったに現れることは無い。そのため現れると不幸の前触れと忌み嫌われていた。また隣村とは距離が近いこともあり、それなりに交流がある。当然知人も多く、中には親しく付き合っているものもいた。村長は体力に自信のあるもので調査隊を結成、禿鷹を見たと言う菊一を筆頭に隣村の様子を確かめてもらうことにした。
隣村まで距離は徒歩で一刻程、しかし上空に禿鷹が飛んでいるという話もあるため念のため森の中を通っていくことになった。村を出発して半刻程、木々の隙間から禿鷹が飛んでいくのが確認できた。
「本当に飛んでますな。不気味なもんです」
全長は五尺ほどあるだろうか、大きな巨体を自在に操り禿鷹が空を駆けていた。白い頭部に漆黒の羽、そして巨体ににつかわないほど細い足は鷹という名を冠しながらも見るものに醜悪ささえ感じさせた。
「急いだ方がいいかもしれんぞ」
「だな」
調査隊は警戒しつつも歩を進めることにした。
それから一刻後、村の入り口が見えてきた。しかし家々の屋根には禿鷹が群れ、まるで次の餌を待っているようだった。
「迂闊には入れませんな」
「夜になるまで待つか」
既に日は傾き始めている、日が暮れるまではそれほど時間はかからないだろう。一旦森に戻って身を隠そうとしたところ、調査隊の一人が村の外れで煙が上がっているのを見つけた。
「避難した村人かも知れん、行くぞ」
かくして調査隊は夜が更けるのを待つ間、煙の上がる場所を探すことにした。
煙の上がる場所には簡素な造りの家が立っていた。菊一が代表して呼びかけてみると、中からは年の頃二十代半ばほどの男が現れた。菊一の顔を認めると、思わず泣きそうな表情で握手を求めてきた。
「菊一じゃないか、良く来てくれた。俺は嬉しいぞ、お前こそ俺の心の友であり心友だ」
「相変わらず暑苦しいな、お前は」
現れたのは菊一の狩仲間である梅太郎という男だった。大物を仕留めるときに手伝ってもらったことがきっかけで、菊一とは何度か酒を酌み交わしたことのある仲だった。
「元気そうでなにより・・」
菊一は言いかけて、そのまま言葉を飲み込んだ。梅太郎は性格こそ泣き上戸だが、狩人としての腕は一流。女の心を射抜く腕も一流だった。数年前嫁をもらい、子宝にもめぐまれたと酒の席で泣きながら喜んでいたはずである。しかし今、嫁も子供も姿は無かった。
「ちょうど今飲んでいたんだ。どうだお前も一杯飲んでいかないか?」
村の調査もしたい菊一だったが、梅太郎からある程度話しが聞ける可能性もある。それに何より梅太郎を放っておけなかったため他の調査隊にも断りを入れた上で酒に付き合うことにした。
呑み始めて四半刻、頃合を見計らって菊一が本来の目的である村の現状について切り出した。
「そういえば最近禿鷹を見かけるが、何かあったのか?」
覚悟はしていた菊一だったが、予想通り梅太郎は泣きついてきた。そして愚痴をこぼし始めた。
「家のちびがなぁ・・やっと飯喰えるようになったのに・・井戸の水飲んだら倒れちまったんだよ」
言い終わるや否や号泣する梅太郎。菊一としては梅太郎の嫁の安否も気になったが、今はそっとしておくことにした。
翌朝、調査に出かける菊一に梅太郎が声をかけた。
「村の異変の原因はおそらく井戸の水だと思う、はっきりはしていないけど。そこで新しい水源を探して何人かの村人がこの辺りをうろうろしているかも知れん。気が向いたら助けてやってくれ」
そう言って、何か巻物のようなものを投げて寄越した。
「それは何でも水源を見つけられる巻物らしいんだが、生憎俺には使えないもののようだ。もし使える奴がいるのなら渡してやってくれ」
とはいえ菊一にとって今回の任務はあくまで調査。一旦村に戻り村長に報告すると、尊重は一つの条件の下、隣村救援を了解してくれた。
「隣村を救いたい気持ちも分かるが、我々は我々で村を守らねばならん。ここは素直に冒険者に依頼するがよかろう」
そこで菊一は村を代表して冒険者ギルドに向かうことになった。
●リプレイ本文
依頼人の菊一から話を聞いた後、幾つか補足の質問をした乱雪華(eb5818)は、筆記用具を取り出して村の周囲を地図に描いた。
「うまいもんだな」
「簡単なものですが、位置関係を覚えておくだけでも違いますから」
彼女の作った地図を元に、白井鈴(ea4026)は柴犬の龍丸・獅子丸を連れて村人の捜索に当たった。
「そんなに遠くに行ってないといいけど」
菊一と梅太郎の話は白井にとって大きな収穫でもあった。村人が行う水源探しの方法の一つには植物の種類を読むというものもあったからだった。
「多くの植物は真水が必要らしく、植物の根を見ればどの程度の距離に水源があるか予想はつくんだ。加えて植物の種類によっても水源との距離を測る方法もあるんだ」
思わず唸る白井、確かに毒草にしても似たような話はある。地図、ペットの鼻、知識をもとに白井は水源候補地を一つ一つを回っていった。
一方、残る五人は村へと近付いていった。目新しさとて無いジャパンのどこにでもありそうな寒村。入り口近くの家の屋根から睨む禿鷹の群れを除けば、という条件はあるが。
「あいつが禿鷹ってやつか。鳥の割にはでかいが所詮は鳥ってとこか」
虎魔慶牙(ea7767)は手で日差しを隠しながら村の様子を確認する。数は十強、五尺あまりの大型の猛禽が我がもの顔に動き回っている。
「あなたに比べれば何でも小さく見えるでしょう?」
村の周りを見廻った乱が戻ってきて言う。
「嬉しい事を言ってくれるが、俺よりデカい奴は吐いて捨てるほどいるぜ」
「謙遜かね〜、らしくない。君は戦えれば何でもいいのだろう? けひゃひゃひゃ」
村に入る方法を考えていたトマス・ウェスト(ea8714)がけだるげな笑みを見せた。乱はトマス(以下ドクター)を睨むが、ドクターは知らん顔だ。
「ちげえねえ。強い奴なら、だが」
虎魔は苦笑いを浮かべる。その人間たちの様子を、入口近くに止まった禿鷹が大きな瞳で一部始終を見つめていた。
「あれ?」
禿鷲は焼き払ってやろうと突入の準備をしていた鷹城空魔(ea0276)は、村の鳥達に動きがあるのを驚いて眺める。鷹城の目はまさしく鷹のそれで、蠢く禿鷲の意図に気づいて舌打ちする。
「死肉喰らいは滅多に狩りはしないんじゃねーの?」
来る途中で、諸々の怪物に詳しいドクターがそんな事を話していた。
「たまには生肉を食いたくなったのかも」
カイ・ローン(ea3054)はピグウィギンの槍を掴み、仲間達に警告する。
禿鷹との間合いが徐々に狭くなり、やがて敵の姿がはっきりしてきた。乱は臨戦態勢に入り、ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗る。その時、鷹城は不思議な感覚を覚えていた。
「あの禿鷹、どっか変じゃねーか?」
しかしその声に反応する者はいなかった。乱はすでに禿鷹の群れの中に突入し、虎魔は斬馬刀を振るっている。鷹城も火遁の術の詠唱に入った。
群れに入った乱は感情を刺激する不快な匂いに耐えて戦っていた。禿鷹からは強烈な死臭がしていたからだった。
「こいつら、人間食べているんじゃないですか?」
死肉を喰らう禿鷹から死臭がするのはおかしな話ではない、それに村には禿鷹の餌もあるのだ。しかし今死臭がしているということは、今食べてまもないということなのだろう。乱の目前に禿鷹が突進してくる、嘴で襲うつもりなのだろう。乱は身体を翻し回避を試みる、禿鷹の口の中に髪の毛を見てしまった。
十を超える禿鷹を全滅させるのに、時間は四半刻もかからなかった。乱が縦横無尽に駆け回り、虎魔の斬馬刀は何体もの禿鷹を屠った。ドクターのコアギュレイトが時に乱の背中を守り、カイのスピアが留めを刺した。しかし鷹城だけは違和感を拭えなかった。
「禿鷹ってこんなもんなのか?」
菊一の話によると、禿鷹は集団行動をとるらしい。ドクターもそんな事を言っていたが、しかし今の襲撃はバラバラで、単調といわざるを得なかった。
「足と嘴の二種類の攻撃手段、それに集団行動、それなりに強敵のはずじゃねーのかな」
「そうかもしれないね〜」
鷹城の言葉に最初に反応したのはドクターだった。禿鷹の死体に近寄ると、そこにはどす黒い内臓が確認できた。
「彼らも毒に犯されちゃってるね〜」
ドクターは鷹城と乱に禿鷹の焼却を頼んで村の中心に向かおうとした。そして反論したのは乱だった。
「何で私も焼却係なんでしょう?」
「君がハーフエルフだからだよ〜」
「納得できないですよ?」
「狂化されたくないんだよね〜」
言われたくない事を言われて乱は口を噤む。乱の狂化の特徴は無感動化。何ものにも心を動かさないと聞けば不動心と喜ぶ者もいるが、そうではない。狂化している間、乱の心は動かない。その間は自分も仲間も敵も信念も、すべてが路傍の石ころに変わる。敵を倒すべきと頭で分かっていてもそこに価値を感じず、自分の命は大事と理解しているのに無駄に感じる。ぞっとしない狂気だ。
「‥‥‥」
結局、乱は鷹城とカイに説得される形で焼却役に回った。カイと乱は今後燃やす量が多くなりそうな気配もあることから火種の確保に走った。そして村の中心では予想通りというべきか大量の血が飛び散っていた。
「喰われたということか」
「そういうことだろうね〜」
当初、村の中心では激戦が予想されたが、禿鷹はほとんどいなかった。厳密にはいなかったわけではない、地面に墜ちてしまっていた。
「そして禿鷹の方も喰われちまったんだな」
その後、ドクターが死体の検分に入った。虎魔としてはあまり気分のいいものではなかったが、仕方が無いと目をつぶっていた。
それから二日が経過した。サーチウォーターは活かしきれなかったが、白井は無事村人を探し出していた。地図である程度予想がつけられたこともあったが、始めの一人以降は毒草知識が役立ったのだ。
「毒に生える毒草もあるってことなんだろうね」
水が毒なら、植生も変わる。毒に強い植物は、毒を持つ植物が多かった。
「毒を持って毒を制すってことなんだろうけど、不思議な気持ちだったよ」
無事村人を救出した白井は一旦村に戻る事を考えたが、村人達と水源探しに行くことにした。
そしてその夜、村では火柱が上がった。禿鷹の死体と既に亡くなった人達の創生の儀式だった。
「村人触るのは冒険者達に限定するべきだ」
毒性の強さははっきりしないものの、死体に触れれば感染の危険がある。そんな作業を村人にさせるわけにはいかなかった。汚い仕事をやるのも冒険者の仕事ということで、村人には一切触らせないことにした。そこで白井に村人の誘導を任せ、五人で死体の焼却を行う事になった。
「俺達、誰かを救えたのかな?」
「少なくとも過去を断ち切ることはできるさ。立ち直れるかは本人達次第だが」
「これだけ高く火が上がれば村人達も分かってくれると思うよ〜」
火が消える頃に白井に続く形で梅太郎を始めとする村人が戻ってきた。当初取り乱すことも心配されたが、炎のせいでみな納得しているようだった。
全てを終え、冒険者達は依頼人に説明をすることにした。
「まずはありがとうございました」
菊一は冒険者達に素直に礼を言う。しかし冒険者達の表情は複雑だった。
「ドクターとして説明させてもらうよ〜。まず毒は鉱山系の毒物だったよ〜」
薄々気付いてはいたが、いざ聞くと菊一の表情は暗かった。鉱山系となると地面に問題があることになる。きっちりとした原因がつかめない限り、菊一のいる村もいつか危険に晒されるということになる。
「とりあえず今の井戸は解毒しておいたから問題はないよ〜。でも原因は何かは特定できなかったからね〜」
そこまでドクターが説明した上で、冒険者達はそれぞれ意見を述べた。
「鉱山系の毒だから、長年かけて毒が地面に寝食したんじゃねーの?」
「誰かが毒をもたらした可能性も否定は出来ないけどな」
「再び井戸が毒になる可能性もあるようだ」
「一番安全なのは地面を徹底的に調べるべきかもしれませんね」
白井は預かっていたサーチウォーターの巻物を菊一に返した。
「幸か不幸か私達には不要の品物だったよ。だれかが使えるようになるまで修行したほうがいいかもしれないね」